【投稿日】 2023年5月7日 【最終更新日】 2023年5月31日

「債権回収」を進める上で、裁判に発展することが少なからずあります。

しかしながら、裁判で勝訴したとしても、債権回収ができないパターンも見受けられます。

債権回収に至らない理由として、相手の資産がなく、債権回収が困難であることがまずひとつです。

さらに、多くのケースでは相手に資産があるにもかかわらず債権回収に至らないこともあるのです。

このような状況の時に効果的な行為が「財産開示手続き」になります。

本制度は昔から存在していましたが、改正を経て、より利用しやすくなりました。

今回は、財産開示手続きの内容や流れ、必要な要件などについて解説していきます。

財産開示手続きとは?

債権回収のために裁判を起こしても、相手が弁済しなければ債権の回収はできません。

訴訟を始めると同時に裁判所に申し立てを行い、相手の財産を強制的に差し押さえ、債権回収を行うことを「強制執行」といいます。

この強制執行を行うにあたり、相手の財産がどの程度あり、どの財産を差し押さえる必要があるのかを特定する必要があります。

銀行口座を差し押さえる場合、「どの銀行にどのような口座があるのかを特定することになります。

しかし、弁済を拒む相手がそういった財産情報を開示してくれることはありません。

つまり、差し押さえが実行できずに債権回収に至らないという問題が発生します。

こういった問題を解決するために存在する制度が「財産開示手続き」です。

財産開示手続きでは、裁判所に申し立てを行い、相手を裁判所に呼び出します。

予備浅れた者は、裁判所で自身の財産について述べ、差し押さえに必要になる情報を明かすことになります。

「強制執行の対象となる財産」を特定するために「財産開示手続き」が効果を発揮するのです。

財産開示手続きに必要な要件5つ!

財産開示手続きを行うためには、必要な要件が5つあります。

  • 開始要件を備えていること
  • 強制執行の開始が可能であること
  • 一般の先取特権が実施できる状態であること
  • 強制執行できなかったことを主張すること
  • 3年以内に財産開示を行っていないこと

それぞれについて以下から細かく解説します。

開始要件を備えていること

財産開示手続きを利用することができる立場の者は、以下のように法令で詳しく定められています。

  • 執行力のある債務名義の正本を有する債権者(民事執行法197条1項)
  • 一般の先取特権を有する債権者(民事執行法197条2項)

財産開示手続きを行う者は、このどちらかに該当することが必要です。

債務名義とは、民事執行法22条各号において「債務名義とは、強制執行をする債権の存在・範囲を公的に証明する文書」と定義されています。

例えば、裁判をして勝訴が確定している場合には、「確定判決」が債務名義に該当します。

強制執行を可能にする公正証書は「執行証書」といわれるものです。

また、民法306条以下に規定されている「一般の先取特権を有する債権者」も、財産開示手続きを行うことができます。

これら債権者が財産開示手続きを行うにあたっては、執行開始要件をそろえている必要があります。

執行開始要件とは、以下の3点です。

  • 債務者に債務名義の正本又は謄本が送達されている(民事執行法29条前段)
  • 条件成就執行文又は承継執行文が付与されたときには、その執行文の謄本及び証明文書の謄本が送達されている(民事執行法29条後段)
  • 確定期限の到来が必要である場合には確定期限が到来していること(民事執行法30条1項)

これらを備えていなければ、財産開示手続きを開始できません。

強制執行の開始が可能であること

財産開示手続きは、強制執行を執り行うために必要な行為です。

そのため、手続きを執り行う要件として「強制執行が開始できる状態」である必要があります。

強制執行ができない状態とは、以下の通りです。

  • 破産手続開始決定
  • 会社更生手続開始決定
  • 民事再生手続開始決定
  • 特別清算手続開始決定

これらに当てはまらなければ、強制執行および財産開示手続きを行うことができます。

一般の先取特権が実施できる状態であること

一般の先取特権を行使して財産開示手続きを行う場合には、一般の先取特権が実施できる状態である必要があります。

一般の先取特権が行使できないケースは以下の2点です。

  • 被担保債権が履行期の前である場合
  • 破産手続開始決定・会社更生手続開始決定・民事再生手続開始決定後に裁判所が一般の先取特権の実行の中止又は取消を命じた場合

このケースに当てはまる場合、一般の先取特権を使った財産開示手続きを行うことができません。

強制執行できなかったことを主張すること

財産開示手続きを行うためには、強制執行を行うことができなかったという主張をする必要があります。

ほとんどの場合は、以下のように「執行申し立てを行った」と表明するだけで問題ありません。

  • 強制執行をして配当等の手続きをしても金銭債権の完全な弁済を受けることができなかったこと(民事執行法197条1項1号および2項1号)
  • 知られている財産に対する強制執行を行っても金銭債権の完全な弁済を得られないこと(民事執行法197条1項2号および2項2号)

執行申し立てをすでに行ったことを主張する際には、資料として「配当表又は弁済金交付計算書の写し」を提出しなければならず、場合によっては「開始決定正本写し又は差押命令正本写し」「配当期日呼出状写し」等が必要なことがあります。

3年以内に財産開示を行っていないこと

財産開示手続きを行うには、民事執行法197条3項に基づき、開示させる相手が過去3年以内に財産開示した者ではないことも要件のひとつになります。

もし、相手が過去3年以内に財産開示を行っていた場合には、以下3点を立証することで財産開示を行うことができるようになります。

  • 非公開の財産があること
  • 新たに財産を得ていること
  • 雇用関係が終了していること

財産開示手続きの大まかな流れ

財産開示手続きを行うための手順は5つあります。

以下からは段落ごとに、各手順について詳しく説明します。

手順1:申立て要件の確認

財産開示手続きを行うにあたり、まず初めに行うのは申し立て要件の確認です。

以下の5つの申し立て要件を満たしていない場合には申し立てが行えません。

  • 開始要件を備えていること
  • 強制執行の開始が可能であること
  • 一般の先取特権が実施できる状態であること
  • 強制執行できなかったことを主張すること
  • 3年以内に財産開示を行っていないこと

事前に5つの要件を押さえられているかどうか、確認しましょう。

手順2:書類の作成

要件の確認ができたら、申し立ての為の書類を作成しましょう。

裁判所に財産開示手続きを申し立てする際は、以下の書類を準備しなければなりません。

  • 財産開示手続き申立書
  • 当事者目録
  • 請求債権目録
  • 財産調査結果報告書
  • 証拠書類
  • 添付書類

※各書類は裁判所のホームページで入手できます。

東京地方裁判所を利用する場合には、このリンクから書類をダウンロードしてください。

ただし、地方に住んでいる場合には相手の住所の管轄都道府県でないといけません。

裁判所ごとにテンプレートや手数料に違いがありますので注意して下さい。

手順3:申立て

財産開示手続きのために必要な書類を入手し、完成したら申請を行います。

裁判所によって申し立てが認められた場合、1〜2か月ほどを目安に、「財産開示期日」が設定されます。

手順4:財産開示期日確認

裁判所により設定された「財産開示期日」の約10日前になると、相手から財産目録の提出があるはずです。

この際、裁判所にあらかじめ「質問書」を提出しておくことで、質問書をもとに裁判所が相手に質問を行うことになります。

手順5:財産開示期日後の強制執行

財産開示期日を過ぎた場合、財産開示手続きによって得た相手の財産の記録を閲覧することができます。

閲覧可能になった情報をもとに、強制執行を執り行いましょう。

相手が不出頭、または虚偽の陳述をしていた場合には告訴を検討するのが良いでしょう。

財産開示手続きに必要な書類は?

財産開示手続きに必要な書類は多く、ひとつでも見落としがあると受理されないため注意が必要です。

以下からは財産開示手続きのために必要な書類についての詳細を解説します。

【1】財産開示手続き申立書

財産開示手続きに必要な書類として重要なのが財産開示手続き申立書です。

財産開示手続き申立書は、基本的に裁判所のホームページでダウンロードすることが可能です。

申立書は、執行力のある債務名義の正本を有する債権者(民事執行法197条1項)か、一般の先取特権を有する債権者(民事執行法197条2項)かによって利用すべき書類が異なるため、気を付けましょう。

【2】当事者目録

財産開示手続きのためには当事者目録という書類の作成を行い、提出することが必要です。

当事者目録の書類も、裁判所のホームページからダウンロードすることができます。

【3】請求債権目録または担保権・被担保債権・請求債権目録

執行力のある債務名義の正本を有する債権者が財産開示手続きの申し立てを行う場合には「請求債券目録」を作成することになります。

一般の先取特権を有する債権者が財産開示手続きの申し立てを行う場合には、「担保権・被担保債権・請求債権目録」を提出する必要があります。

いずれも、裁判所のホームページでダウンロード可能です。

【4】財産調査結果報告書

財産開示手続きを行うには、財産調査結果報告書を作成し、提出する必要があります。

【5】添付書類

財産開示手続きにおける添付書類は、以下のように立場によって異なります。

すべての申立てに共通するもの

当事者が法人の場合に必要な添付書類は以下です。

  • 商業登記事項証明書
  • 代表者事項証明書等(申立人は2箇月以内、債務者は1箇月以内に発行されたもの)

代理人による申立てが行われる場合に必要な添付書類は、代理人の立場により異なっており以下の通りとなります。

  • 弁護士:委任状
  • 許可代理人:代理人許可申立書、委任状、代理人と本人との関係を証する書面(社員証明書等)

債務名義上の氏名又は名称及び住所について変更又は移転がある場合に必要な添付書類は以下のとおりです。

  • 住民票
  • 戸籍謄本
  • 戸籍の附票
  • 履歴事項証明書
  • 閉鎖商業登記事項証明書

執行力のある債務名義の正本を有する債権者の場合

財産開示手続きを行う方が、執行力のある債務名義の正本を有する債権者である場合に必要な添付書類は以下のとおりです。

  • 執行力のある債務名義の正本
  • 執行力のある債務名義の正本の送達証明書
  • 債務名義が更正されている場合はその決定正本
  • 債務名義が更正されている場合はその決定正本の送達証明書
  • 債務名義が家事審判の場合はその確定証明書
  • その他執行開始要件を備えたことの証明を要する場合は、その証明文書
  • 債務名義等還付申請書
  • 上記書類の写しを各1通(原本を提出する場合)

一般の先取特権を有する債権者の場合

財産開示手続きを行う方が、一般の先取特権を有する債権者である場合には、以下の添付書類が必要です。

  • 一般の先取特権を有することの証明文書

【6】証拠書類

財産開示手続きを行うには、必要な要件を満たしていることを証明する証拠書類を提出します。

【7】申立手数料・予納郵券

財産開示手続きを行うには、申立手数料が必要です。

民事訴訟費用等に関する法律3条別表第1の11の2イに基づき、申立手数料は2,000円とされています。

複数の債務名義に申立てを行う場合も、1個の申立てという扱いになります。

申立手数料の払い込みに合わせて、予納郵券も納付しなければなりません。

予納郵券の額は裁判所によって異なり、相場は約6000円ほどです。

例えば東京地方裁判所の場合、6,000円分(500円×8枚・100円×10枚・84円×5枚・50円×4枚・20円×10枚・10円×10枚・5円×10枚・2円×10枚・1円×10枚)が必要となります。

財産開示手続きを弁護士に頼んだ方がいい3つの理由

財産開示手続きは自分で行わず、専門家である弁護士に依頼することが推奨されます。

以下からは、財産開示手続きを専門家である弁護士に頼むべき理由を3つ説明します。

理由1:強制執行の手続きも併せて行ってくれるから

財産開示手続きは、強制執行を進めるための制度です。

財産開示手続きを行う前に、まずは強制執行のための手続きを行わなければなりません。

そのための書類は自分で集めることも可能ですが、弁護士に相談して代理を依頼すれば抜けもれなく確実です。

理由2:そもそも財産開示手続きの申立てが難しいから

強制執行のための準備を自力で進めていた場合、財産調査結果報告書等の準備は自力では行うことが困難です。

自力で報告書等を用意できたとしても、裁判所が認める書類として仕上がるかどうかは難しくなります。

そこで弁護士に書類の作成を依頼することで、裁判所に正式な書類であると認められる内容のものが確実に用意できるのです。

理由3:質問書の作成も可能だから

弁護士は、裁判所に提出するための質問書も代理で作成可能です。

財産開示手続きでは、情報開示を行いたい相手に質問したい内容をまとめ、裁判所に提出する必要があります。

しかしながら内容が正確でないと、裁判官が採用してくれない可能性があります。

質問方式はケースによって異なるため、弁護士に作成依頼し当日も代理で出席してもらうのが良いでしょう。

財産開示手続きをするなら弁護士に依頼しよう!

債権回収をするためには強制執行という手段がとられます。

しかし、相手の財産実態がわからなければ強制執行はできません。

そのため、財産開示手続きを利用し、必要な情報を得る必要があります。

財産開示手続きを行うためには必要な書類が多く、裁判所の手続きに慣れていない人にとっては、債権回収どころかその直前の手続き自体が難易度の高い内容となります。

債権回収上で展開する裁判をより有利に進めていくためにも、財産開示手続きに関する進行は弁護士に依頼するのがおすすめです。

財産開示手続きと並行して、探偵による資産調査も行おう!

もし、相手が意図的に財産を隠していた場合、財産開示手続きでは本当の資産状況が分からなくなってしまいます。

一方で、探偵であれば、そういった隠し財産なども含めた資産調査が可能です。

探偵事務所SATでは、これまでの豊富な資産調査経験と、情報ネットワークにより、相手側の隠し財産も含めた資産調査が可能です。

債権回収前の財産開示手続きの際に、並行して探偵事務所SATによる資産調査も併せて検討してみてはいかがでしょうか。

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