ある社員の退職の前後、あるいは退職と同時に次のような出来事があり、社内に特に問題がない場合は、元社員による競業や情報漏洩行為を疑うべきです。

  • 元社員の退職と同時、あるいは退職後に自社の顧客が他社に流れる。(退職した元社員による競業や顧客の囲い込み)
  • 自社で機密扱いの技術情報や営業秘密、顧客情報などのリークが疑われる。(退職時の社内機密情報や顧客情報の持ち出し)
  • ある時から自社の優秀な社員の引き抜きが多発する。(元社員による自社人材のヘッドハンティング・引き抜き)
  • 自社データベースや社内システムに、外部ネットワークからのアクセス履歴がある。(元社員による不正アクセス)

今回は、これらの疑惑や事実が認められた時に、企業が元社員を告訴あるいは提訴するうえで知っておきたい法的根拠や、裁判を有利に進めやすい証拠固めの手法としての探偵事務所の素行調査について、徹底的に解説します。

元社員による競業行為や情報漏洩はどうやって罰することができるか

冒頭でご紹介した元社員による競業行為や機密情報・顧客情報の漏洩が発覚したら、企業は自社が被った不利益の対価として損害賠償を請求するか、元社員の行為如何で刑事告訴することが可能です。

ここでは、社員の競業を制限あるいは禁止する「競業避止義務」違反と、競業避止義務以外で元社員を訴追する場合の刑事・民事責任をご紹介します。

「競業避止義務」違反に基づく元社員への損害賠償請求

「競業避止義務」とは、競合する事業の運営や競合他社への転職など、会社の不利益となる競業行為を禁止する義務です。

就業規則に競業避止義務を明記するか、入社時に誓約書や合意書を取り交わすことで、在職中の社員と個別契約を締結するのが一般的です。競業避止義務を社員の退職後にも課す会社も多数存在します。

では、競業避止義務によって退職後の社員の競業行為を禁止・制限さえすれば良いかというと、そうでもありません。ここで注意すべきは、競業避止義務の法的効力です。

在職中の社員であれば、労働契約上の「誠実義務」(労働契約法第3条4項)によって競業避止義務が有効であると判断することができます。

ところが、退職した元社員に競業避止義務を負わせる場合、退職後の「職業選択の自由(憲法第22条1項)」の剥奪や、「公序良俗」(民法第90条)違反と見なされる可能性があります。過去の判例でも、退職後の競業避止義務の効力が争点となり、裁判所が競業避止義務を無効と判断した事例もあります。

法的効力の有無のポイントとなるのは、「競業避止義務の合理性」です。元社員に対して競業避止義務を課す際は、これらの条件をクリアしている必要があります。

1. 元社員と会社との間に、競業を禁止する契約上の合意や就業規則上の規定があるか?

2. 競業禁止の合意がある場合、下記内容が定義されているか?

  • 制限の範囲
  • 制限の地理的範囲
  • 制限の対象となる職種
  • 競合禁止の代償として退職金などの割り増しなどの手当の有無

元社員の競業や情報漏洩に対して適用可能な刑事責任

競業避止義務は、元社員に対する法的効力が取り沙汰されることが多く、これだけで元社員の競業を禁止して自社の利益を保護するのは困難かもしれません。そこで、競業避止義務に頼らず、元社員の行動の違法性からアプローチする方法をおすすめします。

具体的には、元社員が自社の機密情報・顧客情報などを不正取得あるいは利用している事実を立証して、刑事告訴します。

その際の法的根拠は以下のとおりです。

●不正アクセス禁止法違反(第11条、第12条1号~4号)
例:退職後に社内システムや社内データベースなどに不正に侵入する。

  • →3年以下の懲役または100万円以下の罰金




※上記に加えて、以下の不法行為に及んだ場合:
●不正アクセス目的で、他人のパスワードを入手する。(第4条違反)
●業務など正当な理由なく、アクセス権限を持たない人物にパスワードを伝達する。(第5条違反)
●不正アクセス目的で入手したパスワードを保管する。(第6条違反)
●不正にパスワードの入力を要求する。(なりすましなど)(第7条違反)

  • →1年以下の懲役または50万円以下の罰金(不正アクセス禁止法第12条第1~4号)
●個人情報の保護に関する法律(通称:個人情報保護法)違反(第83条)
※ただし、規制対象は「個人情報取扱事業者」に限られる。(個人情報保護法 第2条5号)
例:退職後に社内データベースに侵入して顧客情報を不正取得し、顧客情報を名簿業者に転売する。

  • →1年以下の懲役または50万円以下の罰金
●窃盗罪(刑法235条)
例:他人の個人情報あるいは個人情報に紐付く情報を不正に入手する。

  • →10年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法235条)
●名誉毀損罪(刑法第230条)
例:入手した顧客情報の第三者への開示により、顧客の権利侵害や名誉損害などの不利益が生じる。

  • →3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金
機密情報の不正入手・不正利用目的の盗聴に関する刑事罰
●住居侵入罪(刑法第130条)
・情報の不正入手目的で立ち入りが制限された場所へ侵入する。
・盗聴器や隠しカメラの設置目的で会社の建造物に侵入する。

  • →3年以下の懲役または10万円以下の罰金


●器物損壊罪(刑法第261条)
・盗聴器や隠しカメラを設置するために、会社所有の建造物に傷をつける。

  • →3年以下の懲役または30万円以下の罰金、もしくは科料(1000円以上1万円未満の財産刑)


●有線電気通信法違反(同法第9条・第14条)
・社内に設置された電話機に盗聴器を設置して、会話を傍受する。

  • →1年以下の懲役または20万円以下の罰金


●電波法違反(第109条第2項)
・盗聴によって得られた情報を第三者に漏らす。
・盗聴の録音音源を他人に販売する。

  • →1年以下の懲役または50万円以下の罰金(同法第109条第1項)※盗聴した者が無線通信業務に就いている場合
  • →2年以下の懲役または100万円以下の罰金

元社員の競業や情報漏洩に対して適用可能な民事責任

先ほどは元社員の不正行為に対して適用できる刑事罰を解説しました。刑事罰以外にも、自社が不利益を被ったとして、元社員に対して事業の差し止め要求や損害賠償を請求することができます。

元社員が退職した会社の顧客情報や機密情報を不正に取得・利用した場合、以下に挙げる法令への違反行為と見なされ、損害賠償請求の対象となります。

●不正競争防止法の「営業秘密の不正取得行為および不正利用行為」(第2条 第4号~10号、第4条)

  • 退職の際、会社の技術情報や営業ノウハウなどを許可なく持ち出し、起業時に転用する。
  • 同様に退職時に不正に機密情報を持ち出し、転職先企業に売却する。
●知的財産権の侵害(第2条2項「知的財産権の保護」違反、日本国憲法第29条「財産権の侵害」違反)

  • 退職の際に機密情報を許可なく撮影する。

元社員による競業が違法行為に当たる可能性がある時や、機密情報の漏洩に元社員が関与していると疑われる時は、すみやかに専門家に相談すべきです。そのうえで、事実確認や全容解明のために、証拠を押さえる必要があります。

探偵の素行調査で元社員の競業や機密情報の持ち出しを立証するために証拠を固める

元社員の競業避止義務違反や機密情報の漏洩行為などは、立証できなければ捜査機関への告訴は受理されにくく、民事訴訟を有利に進めることも難しくなります。そのため、元社員の不正行為の証拠を固めることが何より重要です。

証拠収集において大変有効な手段として利用したいのが、探偵の「素行調査」です。

素行調査は個人でも実施できないことはありませんが、調査方法や調査技術などの面でリスクやデメリットが多く、専門家に依頼した方が効率的かつ効果的なのです。

そこで、ここからは探偵が行う素行調査の手法や調査内容を徹底解説します。

素行調査とは

素行調査とは、特定の人物の日頃の行動を徹底的に調査する手法です。

素行調査の基本は、尾行・張り込みや関係者などへの聞き込みによって、その人物が「いつ・どこで・誰と・何をしていたか」を記録することです。また、調査対象者の競業や情報漏洩行為の決定的瞬間があれば、それらを写真や映像に残します。

尾行はターゲット、つまり元社員が自宅を出てから、勤務先あるいは外出先から帰宅するまでのすべての行程を追跡します。調査範囲をターゲットの勤務時間に限定する場合は、ターゲットの出勤後の外出から帰社までを追尾します。

張り込みは、ターゲットの自宅・勤務先・外出先などの近辺で待機して、ターゲットを見張ります。張り込みの目的は大きく分けて以下の2つがあります。

  • 尾行に移るまでの間、待機するための張り込み
  • 決定的瞬間となる証拠を撮影するための張り込み

聞き込みでは、ターゲットの関係者など元社員に直接接触する人物以外にも、近隣住民、立ち寄り先の関係者などから、ターゲットに関する情報収集を行います。

素行調査の調査内容

探偵が行う素行調査では、元社員の普段の行動や不審な動きはもちろん、交友関係や生活状況などのプライベートな内容まで、あらゆる情報が証拠として収集されます。

素行調査で元社員に関してどのような情報が得られるかは、以下に挙げた調査内容例をご覧ください。

  • 退職理由
  • 退職後の勤務先
  • 現在の勤務先での役職
  • 退職者が接触している人物の特定
  • 接触中の会話(録音)
  • 自社の機密情報・顧客情報などの持ち出し有無
  • 自社の人材の引き抜き有無
  • 自社社員との内通の有無
  • 自社の社会的信用を損ないかねない噂の流布の有無
  • 自社への不法侵入の有無
  • 自社の社内システムへの不正アクセスの有無
  • 退職前後の資産状況や収入の変動
  • 現在の生活状況

探偵は上記の内容を尾行・張り込み・聞き込みによって情報収集し、調査終了後は記録や写真・映像・音声を調査報告書として依頼人、つまり自社に提出します。

素行調査の調査報告書は、元社員による競業行為や機密情報の漏洩の全容解明に役立つだけでなく、告訴や訴訟時は大変有力な証拠となるのです。

退職した元社員の素行調査を探偵に依頼すべき理由

ここまで、元社員の競業や不正行為を暴き責任を追及するうえで、探偵の素行調査が有効であることをご紹介しました。ところが、探偵事務所に依頼すると費用がかさむというイメージがあるためか、コストをできる限り抑えたい企業では、素行調査を探偵に依頼せず自社で実施する、というケースも考えられます。

そこで、いわゆる素人が行う素行調査のリスクやデメリットをご紹介することで、なぜ探偵事務所に依頼すべきかを改めて解説します。

素人による素行調査で知らないうちに法令違反を犯す

素人が素行調査を実行した場合、最も危険性の高いリスクが法令違反です。元社員の不正を暴くための調査で、逆に自社が告訴・提訴されてしまっては、まさに「ミイラ取りがミイラになる」のです。結果として、自社の社会的信用が損なわれる可能性があります。

プライバシーの侵害や名誉毀損で提訴される

そもそも退職した元社員は自社との雇用関係もないため、自社で素行調査を行うことは、元社員のプライベートの詮索とも言えます。万が一、ターゲット本人が調査に気づいた場合、プライバシーの侵害として逆に訴えられかねないということを理解しておくべきです。

また、元社員だけでなく、元社員の関係者にも調査の実施が知られてしまった場合は、元社員が名誉毀損で訴訟を起こす可能性があります。

一方で、素行調査を探偵に任せた場合はどうなのでしょうか。

「探偵業の業務の適正化に関する法律」(通称「探偵業法」)では、探偵業務として行う尾行・張り込み・聞き込みなどの調査を合法と見なしています。また、探偵には調査によって得た情報に関する秘密保持義務や、「個人情報保護法」などの法令遵守義務もあります。これらの理由から、素行調査は探偵に任せるべきでしょう。

尾行や張り込みストーカー規制法違反になり兼ねない

探偵ではない個人による尾行や張り込みが元社員に気づかれてしまった時、つきまとい行為として「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(通称「ストーカー規制法」)違反で告訴される可能性が大いにあります。

探偵事務所が法令遵守して行う素行調査であれば、尾行や張り込みが元社員に気づかれてしまっても、ストーカー規制法違反は適用されません。なぜなら探偵が行う尾行・張り込みは、前述の「探偵業法」に基づき正当性が認められているからです。

素人では対応しきれない調査の難易度

素行調査を素人が行うと、せっかく苦労して集めた証拠も告訴・提訴の際に証拠能力が不十分と見なされることがあります。また、調査自体が失敗に終わることもあり、それまでに費やした時間と労力がすべて無駄になってしまうのです。

調査に気づかれない専門技術と経験が要求される

素行調査の大前提は、「ターゲットに気づかれないこと」です。もしも元社員が調査に気づいてしまった時にまず考えられるのが、元社員が警戒することで行動が慎重になり、証拠が集めにくくなる事態です。証拠が集まらなければ、調査の継続も難しくなります。

とは言え、特に尾行や張り込みの技術や経験をもたない素人が元社員の素行調査を行うと、ターゲットとの距離を詰めすぎたり、せっかく変装しても外見上の雰囲気などから身元が判明してしまったり、と失敗しやすいのです。

一方、探偵は「ターゲットに気づかれにくい」尾行や張り込みに必要な技術と経験を有しており、これらの問題もクリアしています。

尾行中にターゲットを見失うと、探し出すのが困難

素人が尾行を行って一番陥りやすい失敗が「ターゲットを見失う」ことです。相手に気づかれないことを意識するあまり、その人物と距離を置き過ぎてしまい、交通機関の利用時や人混みで相手を見失う、ということがよくあります。

尾行中にターゲットを見失ってしまったら、素人では探し出すことは困難です。元社員の捜索を諦め、その日は調査を途中で打ち切らざるを得ない、といったこともあります。

尾行のプロである探偵であっても、追尾中にターゲットを見失ってしまうことはあります。ですが、探偵は複数人のチームでの尾行、事前調査データや長年の経験に基づいてターゲットの行動や次の立ち寄り先を予測して、ターゲットを再び探し出すことが可能なのです。

長時間に渡る調査時間の確保

素行調査では、元社員が出勤のために自宅を出てから帰宅するまでの全行程を追跡することが多く、調査期間も1日で終わることはほぼないため、素人が調査時間を確保することは大変困難です。また、張り込み中は交代要員がいない限り、その場を離れることができません。

探偵の主業務は調査であり、また素行調査は通常2人以上のチームで行われるため、調査時間の確保という問題もクリアしているのです。

まとめ

今回ご紹介した退職した元社員の素行調査は、元社員によって会社が被った損害を元社員に償わせることを目的としています。

刑事告訴や損害賠償請求の際は、元社員が競業行為や機密情報の不正取得・利用をしたという事実を証拠として提示する必要があります。より確実に証拠能力のある客観的事実を得るために、素行調査はプロである探偵事務所に任せましょう。