【投稿日】 2022年6月1日 【最終更新日】 2022年6月21日

日本企業は長年「副業」を禁止してきましたが、「働き方改革」などによって副業を解禁・促進する動きが広がってきています。

この記事では、今まで副業を禁止してきた企業が副業を解禁する際に、どのような検討が必要なのかという視点から、副業解禁による企業側のメリット・デメリット、昨今の副業解禁の事例、副業解禁をする際に企業が注意しておきたいポイントなどについて解説します。

副業解禁の動きは加速!

日本企業の多くが禁止してきた副業ですが、オープンイノベーションや起業の手段となること、本業では得られないスキルが身につくこと、第二の人生の準備としても有効であることなどが認知されて、働き方改革においても今後の普及を目指すとの方針が示されています。

さらに、2018年1月に厚生労働省が示した「モデル就業規則」では、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という副業禁止規定が削除されました。

実際に、日産自動車、みずほファイナンシャルグループ、パナソニック、花王、ロート製薬、ソフトバンク、サイボウズなどの企業では、すでに副業を解禁しており、その他の企業においても今後副業解禁の動きが加速していくと考えられます。

ここで、この副業解禁加速の動きを表しているアンケート・データを2つ紹介しましょう。

東京都が都内の中小企業、大企業2,852社を対象に行った令和3年4月の「都内企業における兼業・副業に関する実態調査」によれば、「従業員の兼業・副業を全面的に認めている企業」「条件付きで認めている企業」は、大企業で39.9%、中小企業で34.7%と、中小企業よりも大企業において兼業や副業を解禁する動きが進んでいることが分かります。

また、「全面的に従業員の兼業や副業を認めている企業」のみに焦点を当てると、大企業は1.7%なのに対し、中小企業は6.7%と、全面的に認めている企業は中小企業が多いということが分かります。

参考元:東京都TOKYOはたらくネット「都内企業における兼業・副業に関する実態調査」

一方で、副業をしたいと考えている従業員はどれぐらい増加傾向にあるのでしょうか。

厚生労働省の資料「副業・兼業の現状」によると、「副業を希望している雇用者数」と「副業を希望している雇用者数が雇用者全体に占める割合」が、次のように増加していることがわかりました。

参考元:厚生労働省「副業・兼業の現状」

1992年 2017年
副業を希望している雇用者数 235万人 385万人
副業を希望している雇用者数が雇用者全体に占める割合 4.5% 6.5%

また、「実際に副業をしている雇用者数」と「実際に副業をしている雇用者数が雇用者全体に占める割合」が、次のように増加していることがわかりました。

1992年 2017年
実際に副業をしている雇用者数 76万人 129万人
実際に副業をしている雇用者数が雇用者全体に占める割合 1.4% 2.2%

これらのアンケートやデータからも、「副業に興味があり副業を希望している雇用者」も「実際に副業をしている雇用者」も年々増加しているということが分かります。

従って、このような副業に対する世の中の動きや雇用者の意識の変化に対して、企業としての対応を考えておく必要があるということになります。

また、企業にとってどのようなメリットやデメリットがあるのかについても、あらかじめ知っておく必要があります。

副業解禁はあくまで企業の任意!副業禁止は違法ではない!ただし業務時間外の禁止は違法に当たる可能性がある!

企業としての対応を考える際に、副業が法的にどういう位置づけにあるのかを説明します。

まず、最初に確認しておきたいのは、法律には「副業」という言葉はなく、一般的にも決まった定義がないということです。

一方、憲法22条1項では「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と規定されており、職業を選択できる自由が保障されています。

このことから、法律的な観点からは、企業が従業員の副業を禁止することはできないということが大原則だと考えられます。

従来の日本企業は就業規則などで副業を禁止していましたが、前述のように副業を解禁する企業が増えてきています。

副業解禁の方法は企業それぞれであり、全面解禁・届出制・許可制などがありますし、いまだに副業を解禁していない企業もあります。

つまり、副業解禁は企業の任意であり、副業禁止が違法とは言えないということです。

なお、副業に関する裁判例などから、次のような場合には従業員の副業を禁止することができるとされており、2018年の厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも就業規則に明記することを推奨しています。

  • 労務提供上の支障がある場合
  • 業務上の秘密が漏洩する場合
  • 競業により自社の利益が害される場合
  • 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

公務員は原則副業禁止

民間企業の会社員とは異なり、公務員は法律で一定の副業が制限されています。

これは、公務員には国民全体への奉仕者であることが求められており、特定の企業等に利益を与えていると取られかねない行為は望ましくないからです。

例えば、国家公務員法103条では、報酬の有無を問わず人事院の承認がない場合は次の副業は禁止されています。

  • 営利企業の役員等の兼業
  • 営利企業の自営の兼業

また、国家公務員法104条では、営利企業以外で「労働の対価として報酬を得る」および「事業又は事務に継続的又は定期的に従事する」場合には、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可が必要とされています。

地方公務員にも国家公務員と同様の副業制限があり、原則として任命権者の許可がなければ次の副業が禁止されています。

  • 営利企業の役員等の兼業
  • 営利企業の自営の兼業
  • 報酬を得て事業又は事務に従事すること

副業解禁による企業のメリットは?

次に、副業を解禁することによる企業側のメリットを5つ紹介します。

メリット1:従業員の定着率向上・離職率の減少

従業員が本業の給与や待遇などに満足していない場合もあるかと思われますが、副業によって収入が得られることや自分のスキルを副業で活かすことができることなどによって、従業員の不満を解消することができます。

つまり、副業解禁によって定着率が向上したり離職を思いとどまらせるきっかけになる可能性があります。

メリット2:従業員が副業で得た学びや人脈を本業に活かし、事業成長につながる

副業をすることによって、本業では関われない仕事や経験をすることができ、多様なスキルや知識が身につくことが期待できます。

従業員のスキルや知識、人脈が広がることによって、本業の事業成長やイノベーションにつながる可能性があります。

メリット3:新しい人材確保がしやすくなる

働き方改革の中でも象徴的な施策である副業解禁をしている企業であることは、新卒者や求職者に対する強いアピールとなります。

つまり、副業解禁しているということから、働き方改革に積極的に取り組んでおり従業員のことをきちんと考えている懐の深い企業だということが認知されて、新しい人材確保の機会につながるでしょう。

なお、副業を希望する人は、自分のスキルアップに積極的で主体的に行動をする人材が多いと考えられます。

メリット4:従業員のモチベーションアップ

従業員が必ずしも現在の業務内容に満足しているとは限らず、収入を得るために我慢して仕事をしていることもあり得ます。

しかし、副業をすることによって自分のやりたい仕事ができるなど、本業でかなえられないことが副業で実現できることによってモチベーションをアップさせることができます。

また、前項でも説明したように、副業を希望する人はスキルアップやキャリアアップに積極的な人が多いため、副業解禁によってその期待に応えることができ、その従業員のモチベーションアップになると考えられます。

メリット5:研修費用をかけずに従業員をスキルアップさせることができる

副業を解禁することによって、本業では取り組めないような業務やテーマを担当してスキルアップすることが期待できますし、副業で得られた知識や知見を本業に活かすようなことも可能となります。

本業と副業が類似した業務である場合には、シナジー効果による業務効率の向上などにもつながります。

副業解禁による企業のデメリットは?

さらに、副業を解禁することによる企業側のデメリットを5つ紹介します。

デメリット1:副業が大変で、本業に影響が出る

副業を解禁すると、一般的には副業をしている従業員の総労働時間は長くなります。

なかには副業の方が大変になって疲労したり睡眠不足になるなどして、本業のパフォーマンスが落ちるなどの影響が出てくることが考えられ、さらには健康を害して体調不良や離職に繋がる可能性もあります。

デメリット2:副業が本業になり、従業員が離職してしまう可能性がある

これは、「メリット1:従業員の定着率向上・離職率の減少」に反した内容ですが、副業を解禁することによって従業員が離職してしまう可能性もあります。

副業先で仕事をすることによって、副業先の良いところが魅力となって転職したり、自社の悪いところを知って離職してしまう可能性があります。

デメリット3:情報漏洩のリスク

副業を解禁すると、企業が保有する情報が漏洩してしまうリスクがあります。

ここで言う企業が保有する情報には、社員情報や顧客情報、取引先情報だけではなく業務ノウハウ、副業をしている従業員が保有する知識や技術なども含まれます。

これは特に、本業で得た知識や技術をもとに副業を行う従業員から流出する可能性があります。

また、単なる情報ではなく事業戦略や新商品などの機密情報が漏洩することも考えておく必要があります。

デメリット4:就業時間管理が複雑になる

副業を解禁することによって、従業員の就業時間管理が複雑になります。

後述しますが、本業の就業時間と副業の就業時間は通算する必要があり、合計で1日8時間、週40時間の法定労働時間を管理しなければならなくなりますし、それを超える場合は割増賃金(残業代)を支払う必要があります。

自社での就業時間だけではなく、副業先での就業時間、シフト時間なども含めて把握しなければならなくなりますので、管理が複雑になります。

デメリット5:税金や、社会保険、労災保険に関する管理が複雑になる

副業を解禁することによって、従業員の税金や、社会保険、労災保険に関する管理が複雑になります。

後述するように、副業先からの収入が年間20万円を超えると確定申告が必要になります。

確定申告自体はその従業員が行うべきものですが、副業解禁によって発生することですので、自社としても指導できるようにしておく必要があります。

また、社会保険や労災保険、雇用保険の取り扱いについても、双方で加入すべきものやどちらか一方にしか加入できないものがあります。

それぞれの従業員について、これらのすべてについて把握しておく必要があると考えられますので、管理が複雑になります。

【事例紹介】他社に学ぶ!上手い副業解禁の方法

前述のように、すでに多くの企業によって副業解禁が行われていますが、その中から「上手い副業解禁の方法」を5例紹介します。

事例1:株式会社DeNA

株式会社DeNAは、「AI事業・研究開発」「ゲーム事業」から「Eコマース事業」「ベンチャー投資」までの多様な事業を行っています。

DeNAでは、2017年「本業に支障をきたさない」「会社に迷惑を掛けない」「健康管理時間を遵守する」という条件をみたす場合に、事前申請により副業を認めることにしました。

特徴としては、社内でも副業を行える制度があることで、業務時間の3割までを他部署の仕事ができるようになっています。

もちろん社外の副業であっても問題なく行えますが、実際に行っている副業としては、塾・大学講師、アプリ開発、スポーツジムトレーナー、Webデザイナー、株式投資、翻訳などがあり、いずれもお金のために副業を行っていないということが特徴となっています。

事例2:株式会社クラウドワークス

日本最大のクラウドソーシングサービスを提供しているクラウドワークスでは、2016年7月に「働き方革命」の実現に向けて副業禁止の規定を撤廃し副業を解禁しました。

狙いは、多様な働き方を従業員自ら実践できる環境を作り、社外業務に携わることによってスキルや経験の幅を拡大することです。

副業をしている従業員に対する調査で「本業での働き方がフルフレックス・フルリモートなどで柔軟だから副業が続けられる」という回答を約70%から得て、この知見をもとに、2020年から企業向け副業導入プログラムの提供を開始し、コンサルティングや副業導入セミナーなどを提供する事業創出につなげました。

事例3:ヤフー株式会社

ヤフーでは、1996年の創業以来競業避止義務などに抵触しなければ社員の副業を認めており、2012 年にはフレックスタイム制やどこでもオフィス制度を導入して時間と場所にとらわれない働き方を推進してきました。

その後コロナ禍に伴う在宅勤務によっても、満足度が高く生産性が落ちていないことが分かったため「出社を必要としない人事制度」に移行しました。

また、ヤフーでは「ギグパートナー」という副業勤務者の受け入れを行っていることも大きな特徴で、自社の働き方の先進性を大きくアピールしています。

事例4:ロート製薬株式会社

ロート製薬では、2016年に社員の自己研鑽を目的として副業を解禁しました。

社外副業と社内副業の両方を認めており、社内副業は複数の部署の業務を担当できるというものです。

事例5:丸紅株式会社

2018年4月の日経新聞で「丸紅が勤務時間の15%を副業に充てることを義務づける」と報道されましたが、正しくは「勤務時間の15%を新規事業創出のための時間に充てることを可能とする」人事制度を始めたということで義務化ではありません。

社外副業が認められたわけではなく、勤務時間の15%までは本業以外の社内業務をしても構わないというものです。

企業が副業解禁をする際に、絶対注意しておきたい5つのポイント

今後さらに企業の副業解禁の動きが活発になってくることが予想されますが、企業が副業解禁をする際に絶対に注意しておきたい5つのポイントがありますので、順に説明します。

ポイント1:労働時間の把握と管理

副業解禁の際に特に注意しなければならないのは、労働時間の把握と管理についてです。

労働基準法第38条には、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されています。

つまり、本業と副業の労働時間を通算した結果、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える場合には、時間外労働として割増賃金を支払わなければならないということです。

この場合、原則としてその労働者と雇用契約を後からした企業(一般的に副業先)に割増賃金を支払う義務がありますが、1日の中で本業と副業を行った場合には自社に支払い義務が生じることもあります。

つまり、割増賃金を支払う義務については、ケースバイケースで判断しなくてはなりませんので、企業としては従業員が自社での労働時間はもちろん副業先での勤務シフトや労働時間を把握しておく必要が出てきます。

ポイント2:社会保険や労災保険

社会保険(厚生年金保険や健康保険)については、勤務している事業所ごとに適用要件が判断されますので、副業先でも適用要件を満たす場合は加入しなければなりません。

つまり、本業先も副業先も社会保険料を支払う必要があり、従業員も同様です。

この場合でも、従業員が持つ健康保険証は1枚となりますので、従業員がどちらをメインにするかを決めて、健康保険組合に届け出る必要があります。

労災保険については、本業先、副業先の両方で加入しなければならず、2020年9月の労災保険法の改正により、労災保険の給付は本業と副業の合算が可能になりました。

雇用保険については、主たる賃金を受けている事業者において加入することになっていますので自社で加入する必要があります。

ポイント3:税金額

自社の従業員が副業をして収入を得ている場合、副業の収入が年間20万円を超えると確定申告をしなければなりません。

また、年末調整は1つの勤務先でしか受けることができませんので、給与所得が多い自社で年末調整をして、副業先の給与所得については確定申告をすることになります。

また、住民税は副業も含めた所得金額に応じて税額が決まり、市区町村から特別徴収義務者である自社に住民税の通知が行われますので、給与から天引きしなければなりません。

このことから、副業を解禁するのであれば、少なくとも確定申告のやり方などについては社内で指導できるような体制を整えておく必要があります。

ポイント4:本業への影響

副業を解禁する場合は、本業への影響がないことが大前提となります。

厚生労働省の「モデル就業規則」では、企業が副業や兼業を制限できるのは次のような場合としていますが、これに加えて、本業に影響がない範囲で行うことや健康面に影響が出ないことなどを考慮したルール化が必要でしょう。

  • 労務提供上の支障がある場合
  • 企業秘密が漏えいする場合
  • 会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
  • 競業により、企業の利益を害する場合

ポイント5:情報漏洩のリスク

副業解禁によって情報漏洩のリスクがあることは前述のとおりですが、外部に漏洩した情報の内容や規模によっては、大きな損失や損害に発展することもあります。

そのため、副業を解禁する場合は、企業の機密情報などの取り扱いに関するルールを定めたり、競業企業など副業を禁止する業種・職種を定めることなどが必要となります。

また、副業を許可する条件として、副業を希望する従業員との間で「秘密保持契約」を結ぶことも必要となります。

副業は全面解禁ではなくしっかり制約などを決めた上で解禁するのがおすすめ!

この記事では、副業解禁による企業側のメリット・デメリットや副業解禁に際して企業が注意しておきたいポイントなどについて説明してきました。

副業解禁の流れは今後も続いていくことが予想されますが、いきなり副業を全面解禁するのではなく少しずつ準備を進めておくことが大切です。

特に、企業側には情報漏えいのリスク、従業員クオリティ低下、副業解禁に伴う社内業務の増加などのデメリットも存在するわけですから、しっかりとしたルールや制約を決めて、社内体制も整えたうえで解禁することをおすすめします。

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