【投稿日】 2021年10月21日 【最終更新日】 2022年10月27日

M&Aを行う上で重要な調査であるデューデリジェンス(DD)。

デューデリジェンスには様々な分野があり、弁護士や公認会計士、弁理士など各分野の専門家が連携しながら行います。

専門家業の中でも探偵は調査を専門としていますが、デューデリジェンスを依頼することは可能なのでしょうか。

今回は、探偵に依頼できるデューデリジェンスについてや、探偵に依頼するメリットについて解説いたします。

デューデリジェンス(DD)は探偵に依頼できる?

デューデリジェンス(DD)を行う際は、補助的に探偵に委託することでより詳細な調査結果を得ることが可能になります。

デューデリジェンスには財務、法務、事業など様々な分野があり、委託すべき専門家が異なります。

いくつかの種類があるデューデリジェンスの中でも探偵が得意としているのは、以下のような調査です。

  • 反社会的勢力との繋がりに関する調査
  • 信用調査
  • 代表者・役員などのバックグラウンド調査
  • 債務者に関する調査

探偵は、上記の内容を聞き込みや覆面調査などによって調べていきます。

探偵が行うことができる調査の中で、M&Aにおいて特に重要視されるのが反社会的勢力との繋がりや代表者・役員などのバックグラウンド調査などの「人物調査」です。

人物調査では、対象人物の勤怠状況や職場での評判、素行について調査し、信頼できる人物であることを確認します。

特に海外企業を買収する場合は、実質的に海外企業の代表者が新規事業を進めていくことになるため、新規事業の進退は海外企業の代表者にかかっていると言っても過言ではありません。

人物のバックグラウンドや反社会的勢力との繋がりは今後の企業経営に直接関わるため、人物調査は非常に重要なのです。

デューデリジェンス(DD)を探偵に依頼するメリットは?

デューデリジェンス(DD)を探偵に依頼するメリットは、より詳細な情報をピンポイントで入手できる点です。

デューデリジェンスでは、各分野の専門家や買い主側の担当部門が調査を行うのが一般的ですが、役員やキーマンの身辺調査までは手が行き届かない場合が多くあります。

もし素行やバックグラウンドが疑わしい人物がいても、弁護士や弁理士、社労士などの職種では調査することは不可能です。

その理由は、身辺調査に必要な尾行や聞き込み、張り込みは警察と探偵のみ許可されているからです。

もし人的な部分で懸念点がある場合は探偵に依頼し、身辺調査を行うのがよいでしょう。

そもそもデューデリジェンス(DD)とは?

デューデリジェンスとは、M&Aを行う際に買い主側が買収予定の企業や事業所の実態を把握し、買収後に見込める売り上げなどの効果や買収する際の価格について適切に判断するための調査です。

「デューデリ」「DD」などと省略して呼ばれることがあり、日本語では「買収監査」と呼ばれています。

M&Aを行う際、売主側からの一方的な情報だけで実態を把握しようとしてしまうと、売り主側が重大なリスクを隠していた時にM&A後の事業継続が困難になります。

また、故意にリスクを隠していたわけではなく、売り主側さえ気づかなかったようなリスクがあることもあり得ます。

隠れたリスクを把握するために外部の専門家に依頼して調査や評価を行うのがデューデリジェンスという調査の役割です。

デューデリジェンス(DD)を行う目的

デューデリジェンス(DD)には主に以下の4つの目的があります。

  • 買収する企業や事業所が抱えるリスクを把握する
  • 買収する企業や事業所の企業価値や実態を把握し、適切な価格設定を行う
  • ステークホルダーに説明するための情報を集める
  • 買収後の経営に関する情報収集を行う
  • 買収後のリターンを把握する

デューデリジェンスの最大の目的は買収する企業や事業所が抱えるリスクを把握することです。

売り主側が自分たちでも把握できていないようなリスクや障害が買収後に見つかれば、買い主側が損害を被ることとなります。

そのため、リスクを調査した上で企業価値や実態を把握し、適切な価格設定をしていくことが重要です。

また、デューデリジェンスには買収後の経営に関する見通しを立てたり、リスクへの対策を行ったりする目的もあります。

デューデリジェンスにおいていい加減な調査をしてしまうと、適切にリスクを把握できないため、M&A後のリターンについても予想することができません。

つまり、デューデリジェンスM&Aを成功させ、買収後の経営を軌道に乗せるためになくてはならないプロセスなのです。

デューデリジェンスの委託先は調査内容によって異なる

デューデリジェンスには様々種類があり、「財務デューデリジェンス」「事業デューデリジェンス」など8つの分野に分けられます。

調査内容は分野によって大きく変わるため、公認会計士、弁護士、探偵、税理士などいくつかの分野の専門家に依頼するのが一般的です。

ただ、デューデリジェンスについてあまり知識がない専門家に依頼してしまうと、リスクを見抜けなかったり、余計なコストがかかったりしまうことがあります。

そのため、委託先を選ぶ際はデューデリジェンスの経験が豊富で今後の事業に関するアドバイスやリスクへの対処法について助言を求められるような専門家に依頼する必要があります。

デューデリジェンス(DD)の8つの分野と適切な委託先

デューデリジェンスには様々な分野があります。

すべてのデューデリジェンスを行うに越したことはありませんが、実際のところ資金や時間が足りず、いくつかの分野に絞って行われることがほとんどです。

デューデリジェンスを行う時に主要人物となるのは、買い主側のM&A担当者はもちろん、分野に精通した専門家たちです。

買い主側のM&A担当者は、デューデリジェンスの各プロセスにおいて外部の専門家をどのように関与させるべきか、専門家を導入する目的などについても考慮することが大切になります。

【1】財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスとは、その名の通り、買い主が買収対象の企業や事業所の財務・会計についての調査です。

財務デューデリジェンスは、デューデリジェンス(DD)を行う際に真っ先に行われます。

財務デューデリジェンスでは、主に過去と現在の財務状況、損益状況の推移、今後の損益などの見通しを調査します。

決算状況を良く見せるために財務諸表が細工されている可能性も否定できないため、売り主側から提供された財務諸表を鵜呑みにしてしまうとM&A後に買い主が損害を被ってしまう可能性があります。

そのため、調査した実態を反映した財務諸表を作成し実際の財務状況を把握していくという作業が必要になます。

このような調査には財務に関する専門的な知識が必要となるため、公認会計士や税理士などに委託するのが一般的です。

【2】事業(ビジネス)デューデリジェンス

事業(ビジネス)デューデリジェンスは、対象企業の市場におけるポジションや、経営実態の把握、事業の将来性を見極めるために行われます。

事業デューデリジェンスは「外部環境分析」と「内部環境分析」に分けられ、以下のようなフレームワークを用いて分析していくのが一般的です。

中でも事業(ビジネス)デューデリジェンスの基盤となるフレームワークはSWOT分析です。

強み(strengths)、弱み(weaknesses)、機会(opportunities)、脅威(threats)の4つの要素を特定し、現在の状況を整理していきます。

事業(ビジネス)デューデリジェンスには、M&Aに関する豊富な知識が必要です。

外部に委託する際は経験豊富なコンサルタントやM&Aアドバイザーなどに依頼するのがよいでしょう。

【3】税務デューデリジェンス

税務デューデリジェンスとは、買い主が買収対象企業の税務状況を調査し、買収対象企業の持つ税務リスクを把握するために行われるものです。

税務申告漏れや納税書の誤りがある企業を買収してしまうと、買い手側が追加徴税を支払う義務が発生する可能性があります。

買い主側が被害を被ることがないよう、税務デューデリジェンスでは売り手側が申告した書類の調査だけではなく、他企業との取引の内容など様々な観点から調査し、リスクを把握していきます。

税務デューデリジェンスでは、税理士や税務に関する専門家に委託するケースがほとんどです。

必ずM&Aやデューデリジェンスに精通した専門家に依頼しましょう。

【4】法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスは、買収対象企業に法的なリスクがないかどうかを調査するものです。

法務デューデリジェンスで調査されるものには、売買契約や取引基本契約などの契約に関する事項や債券・負債に関する事項、株主の状況、労務に関する事項などがあります。

買い主側がM&Aに慣れている場合は買い主側の社員が行う場合がありますが、ほとんどの場合、法務デューデリジェンスに関する経験や知識が豊富な弁護士に相談するのが一般的です。

逆に言えば、M&Aにおける法務デューデリジェンスは専門性が高い分野なので、M&Aを専門としている弁護士でなければ対応するのが難しいと言えます。

法務デューデリジェンスの結果を元に法的な観点からアドバイスを受けられるような弁護士を選びましょう。

【5】人事デューデリジェンス

人事デューデリジェンスは、組織や人材面のリスクを洗い出し、買収後の経営やマネジメントについて対策するための調査です。

現状の組織や人員の構成、労務関係の問題点について調査し、M&A後もスムーズに経営することや、買い主側の人事制度や組織にスムーズに統合することを目指して行われます。

人事デューデリジェンスには「定量的要素」「定性的要素」の2つの視点が必要とされています。

定量的要素
  • 人員数
  • 報酬水準
  • 人件費の推移
  • 退職金
定性的要素
  • 人事マネジメントへ取り組み方
  • 人事制度の仕組み
  • 人事制度の運用実態
  • 組織風土

一般的には、人員数や報酬水準など、定量的要素の調査に偏りがちですが、人事マネジメントへの取り組み方や人事制度の仕組みなどについてのリスクも把握し、対策を練ることが重要になります。

人事デューデリジェンスは財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンスと重複する部分があるため、連携して行われるのが一般的です。

人事デューデリジェンスは買い主側の人事部員または社労士が行います。

【6】ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスとは、買収対象企業のIT状況を調査し、M&A後に想定外のIT投資やコストが発生するリスクや、IT統合の可能性について把握するための調査です。

例えば、買収後にITシステムの脆弱性が認められると膨大な追加費用がかかってしまいます。

また、ITシステムには脆弱性が認められなくても、買い主側が運用するITシステムと相性が悪い場合も考えられます。

このようなリスクを把握するためにITデューデリジェンスを行い、結果を踏まえてシステム改修やシステム統合の計画が立てられるのです。

ITデューデリジェンスは主に情報システムが企業経営上の要になっているケースや、買収対象企業のシステムが買収前の親会社と一体となっているケース、ITシステムが時代遅れとなっている場合などに実施されます。

近年はITを活用する企業が増加しているため、買収後にITシステムが複雑化しないように買収前に買収対象企業のITシステム状況を把握しておくことが重視されています。

ITデューデリジェンスは買収企業のシステム部門に所属する社員やM&AやITデューデリジェンスの知識を持つITの専門家が行います。

【7】不動産デューデリジェンス

M&Aにおける不動産デューデリジェンスとは、買収対象企業が保有する不動産についてのリスクや現状を把握するための調査です。

もし、買収対象会社に取引予定の不動産を所有・貸借する権限がない場合や、不動産を賃貸する権限がない者から貸借していた場合、実際に不動産の所有権を持つ権利者から損害賠償を求められる可能性があります。

不動産デューデリジェンスはM&A後にこのような事態が発覚し買い主側が大きな損害を受けてしまうことを防ぐために行われます。

また、M&A後も継続して利用することが可能なのか、修繕するとしたらどれくらいの費用がかかるのかなど、現状把握のための調査も同時に行われるのが一般的です。

不動産デューデリジェンスは、弁護士の他建築士や不動産鑑定士に委託して行います。

不動産の権利関係に関するデューデリジェンスについては弁護士が専門ですが、不動産の価値や老朽化に関する部分は建築士や不動産鑑定士に依頼し、連携して実施するのがよいでしょう。

【8】環境デューデリジェンス

環境デューデリジェンスとは、買収対象会社が工場や研究開発施設などを保有している場合に土壌汚染や地下水汚染、大気汚染など、環境にどの程度影響を及ぼしているのかを把握するために実施されます。

環境デューデリジェンスで特に重視されるのは、土壌汚染や地下水汚染などの項目です。

その理由は、土壌汚染や地下水汚染の問題が発覚すると、浄化に必要な費用が高額になることが多いからです。

環境デューデリジェンスは、法務デューデリジェンスや不動産デューデリジェンスと調査内容が重複することがあるため、調査の際は各デューデリジェンス担当者と連携しながら行います。

環境デューデリジェンスは土壌汚染や地下水汚染、大気汚染などの環境問題に関する高度な知識を持った専門家に依頼する必要があります。

【9】知的財産デューデリジェンス

知的財産デューデリジェンスとは、買収対象企業が保有する知的財産権や知的財産活動に関して、財務、法務、技術など側面から調査を行うことを指します。

近年、自社以外の企業が生み出した技術や知識を取り込むオープンイノベーションが活発になっていることから、知的財産が重要視されるようになりました。

そのため、知的デューデリジェンスを通して買収対象企業が保有する知的財産にどのような価値があるのか、どのようなリスクがあるのかを把握し、取引の契約内容を検討する必要があるのです。

知的財産デューデリジェンスは、知的財産に関する法令や判例の知識を持った弁理士が行うのが一般的です。

弁理士を選ぶ際はM&Aに関する知識や経験が豊富な弁理士事務所に依頼しましょう。

デューデリジェンスを委託する際の注意点

デューデリジェンスを委託する際は、M&Aやデューデリジェンスに関する知識や経験が豊富な委託先を選ぶことが大切です。

M&Aやデューデリジェンスの知識や経験が乏しい専門家に依頼してしまうと、リスクを見抜くことができなかったり、通常よりも時間や人件費がかかり、費用がかさんでしまったりすることがあります。

顧問弁護士などを雇っている企業でも、M&Aやデューデリジェンスに精通した外部の専門家に依頼するのがよいでしょう。

身辺調査についてのデューデリジェンスは探偵に依頼しよう

探偵は、買い主側の企業がデューデリジェンス(DD)を行う中で、一部の人物をより詳しく調査したいという場面で力を発揮します。

デューデリジェンス自体をすべて探偵に依頼するということはできないため、探偵のみでデューデリジェンスが完結するわけではありません。

しかし、ピンポイントで調査したい項目があるという場合は探偵に依頼すると、画像などの証拠と共に正確な情報を得ることが可能です。

適切な場面で探偵に調査を依頼できるかどうかがデューデリジェンスの人物調査におけるカギとなります。

デューデリジェンスの経験がある探偵に依頼して、リスクを事前に把握しましょう。