【投稿日】 2022年10月17日 【最終更新日】 2022年10月25日

見当識障害を起こしてしまった人は、徘徊してしまう可能性があります。

徘徊は非常に危険な行為であり、本人の危険だけでなく周囲の人たちの心身的負担が非常に高くなる可能性があります。

そこで今回は見当識障害について解説します。

さらに、いざ実際に徘徊が起きてしまった場合にはどうすべきかについても見識を深めておきましょう。

見当識障害とは何だろう?

本章では見当識障害について解説します。

見当識障害を起こしてしまった人は、徘徊など危険性の高い行動をしてしまう可能性があります。

まず見当識とは周囲について把握・認識する機能を指します。周囲とは、周りにいる人や状況、今が何時か、今どこにいるかといった基本的なことを始めとし、あらゆる環境を意味します。

上記内容が把握できなくなってしまうことが見当識障害です。

起こりうる障害は、今話している人が誰なのかがわからない、今何時なのかわからない、現在どこにいるかがわからない、といったことです。

徘徊について知ろう!

見当識障害が引き起こす徘徊の対策をするために、まずは徘徊がどのようなものか知識をつけておきましょう。

徘徊とは認知症における周辺症状や見当識障害・記憶障害における中核症状により起こります。

主な徘徊で見られる行動とは、家の中、外、問わずにあてもなく目的もなく歩きまわってしまうというものです。

徘徊って危険なの?歩き回るだけだから危険じゃないなんてことはない

では、徘徊という行動において危険性はあるのでしょうか?

前段階で徘徊という行為のメカニズムについて示したとおり、理由や目的がなくさまよってしまうため、徘徊している本人は自分がどこにいるか、または帰り道を把握することなどできません。

このため、家に戻れず行方不明となり、怪我や事故に巻き込まれる可能性や、知らない場所・これまで保証されていた最低限のセーフティがない場所で寝食できずに弱りきってしまう可能性があります。

特に夏場、冬場はそれぞれ熱中症や低体温症などを引き起こすことに直結し、徘徊者を見つけるのが遅れれば本当に手遅れな状態となることも考えられます。

つまり徘徊によって生命に重大な影響が及ぶ可能性があるため、危険性は非常に高いといえます。

一方、徘徊は徘徊する本人を探さねばならない保護者・介護者にとっても絶大な負担になります。徘徊者がどこにいったかという見当もつかなければ、専門家に依頼するのも時間・金銭的コストがつきまとい、精神・体力・金銭的に疲弊してしまうためです。

このように徘徊は、当人だけでなく周囲にいる関係者ほぼすべてを巻き込み、良からぬ影響を与えてしまう可能性がある行動といえます。

見当識障害が原因の徘徊実例

特に見当識障害を原因とした徘徊の実例を紹介します。

  • 家の中で、今まで普通に利用していたトイレに行こうとしても、トイレがどこにあるかわからない
  • 自分でしまった自分の持ち物がどこにあるのか思い出せない、わからない
  • 上記のように何かを探し始めたものの、その「何かを探している」という目的自体を忘れてしまい、ただ歩き回るだけになる

徘徊が起こる原因とは?見当識障害も一因

本章では、徘徊が起こる原因について解説します。

見当識障害や記憶障害、認知症を引き起こした人が徘徊する

「徘徊について知ろう!」の章でも示したとおり、認知症や見当識障害、記憶障害の進行、前頭側頭型認知症(前頭葉や側頭葉が縮んでしまう)にともなう症状として徘徊が表面化します。

ほか、急激な環境変化などによるストレスや不安が大きくなるにつれて、徘徊を伴う行動を喚起してしまうリスクが高まります。

不安やストレスが原因の場合、新しい環境から逃げるために徘徊したり、その場所における恐怖や一人でいることへの不安から徘徊が起きることがあります。

また前頭側頭型認知症の場合は、同じ行動を繰り返すという種類の徘徊をしてしまうという特徴が見られます。

いずれの場合も本人がどこでどのような目に遭うか、どんな怪我や事故に巻き込まれるか予測できないため、非常に危険なことに変わりありません。

徘徊の防止・対策方法

本章では、「徘徊を防ぐためにはどうすべきか」など、徘徊の対策方法について解説します。

防止・対策方法1:安全な時間に、夜が来る前に当人に運動させ、疲れさせる

徘徊の可能性がある本人の疾患などの状態との相談にはなりますが、徘徊の可能性を限りなく下げる手段として、昼間にある程度の運動をさせてみることも対策方法のひとつです。

例えば、以下のような行動をとってもらってはいかがでしょうか。

  • 庭の手入れ、草むしり
  • 洗濯物の取り込み、干し、畳み
  • 工具を使った簡単な日曜大工(怪我などアクシデントに要注意)

単純に疲れることで遅い時間などの徘徊をためらわせられ、家事として家庭に貢献してくれるというメリットがあるだけではなく、日中に太陽のもとで15分~30分ほど日光を浴び続ければ、体内でセロトニンが生産されます。

セロトニンは脳で分泌される神経伝達物質で、うつ病を防ぐ効果があります。逆に、冬場や日照時間の少ない地域では、体内におけるセロトニン分泌がうまく働かないせいで季節性情動障害といううつ病を発症してしまうこともあります。

またセロトニンはメラトニンという質の高い睡眠を促すホルモンの生産にも役立ちます。一般的にメラトニンは、起きて14時間後ぐらいから分泌され始めるとされるため、日中の運動は非常に合理的です。

脳における松果体においてメラトニンの発生が多ければ多いほど寝付きが良くなるとされています。つまり質の高い睡眠を安定して継続できるようになり、深夜の徘徊リスクが起こる可能性を限りなく下げつつ、またメラトニンは分泌の多さによりアンチエイジングの効果も見込めるという説があるため、認知症の悪化を遅らせられる可能性もあります。

メラトニンの発生量はセロトニンの量にも影響されます。このため、日中に太陽の下で何らかの活動をしていれば、徘徊の症状を持つ人でも夜にしっかり寝てくれるというわけです。

徘徊を防ぐためには、7~8時間ぐらいしっかり寝てもらうことも必要です。日中における活動は、上記のようにあらゆるポジティブな効果をもたらします。

防止・対策方法2:家屋内で目的の場所がわかりやすくなるようにする

もし家の中でトイレやお風呂の場所がわからない場合、わかりやすく大きな字で張り紙をしてあげることで理解できるようになる可能性があります。

トイレの場合、適度に声掛けしてあげて付き添ってあげることも対策のひとつです。

防止・対策方法3:徘徊者が玄関から出れないようにする

徘徊してしまう人を、家族や保護者あるいは後述のデイサービス先で介護員などが見守ることが徘徊を防ぐ代表的な方法ではありますが、24時間続けることは不可能です。

特に深夜は、見守る側も寝なければならないため、自ずと徘徊者から目を離さざるを得ない状況が発生します。

このため、徘徊者がいる家屋内から、当人を一歩も外に出さない構造を一時的にでもキープするべきだと言えるでしょう。

具体的には以下のような方法をとりましょう。

  • 玄関のドア鍵を新設し、内側からは簡単に開けられない構造にする
  • 外に出るための鍵を物理的に届かない位置に新設する
  • ドア鍵を開場されてもでていけないような重しを内側や外側に設置する
  • 見守りがされていない当該時刻内にドア鍵を開けられたら家人がわかるようなセンサーや警報機を設置する
  • 窓の施錠も同様に簡単に開けられず、出られないように工夫する

防止・対策方法4:いっそ徘徊を止めないで続けさせてあげる・ビーコンに頼る

もし周囲の人が徘徊を検知できた場合、本人が望むのであればそのまま徘徊させ続けて上げることもひとつの「解決策」です。

なぜなら、徘徊は目的や理由こそ失っても続けてしまう行動ではあるものの、前段落同様ある程度歩くことで「疲れ」が喚起でき、一番本人が納得する方法で徘徊をやめさせることにつながる可能性があるためです。

本人が望むなら歩かせてあげれば、トラブルなどが生じることは考えにくくなります。ただ、左記メリットと同時に「付き添い」の人手が必ず必要となるというデメリットは存在します。【徘徊って危険なの?】の章でも解説したとおり、徘徊にはかなりの危険が伴うためです。

また近年では、徘徊してしまった人の居場所を追跡(通知)してくれる自動販売機が普及し始めています。

これは、ビーコンと呼ばれる硬貨大の追跡機を徘徊の当事者本人の身に付けさせることで、その居場所が追えるようになるものです。

ビーコンを所持した人がセンサーつき自動販売機に近づくと、自動販売機から保護者のLINEへ徘徊者がどの辺りにいるのかが通知されます。

このように、少しずつではありますが徘徊の被害を少しでも抑えるための社会的インフラも整いつつあります。

防止・対策方法5:GPSシステムを利用する

GPSとは、前述のビーコンとも類似性が感じられますがより居場所を追跡しやすくなるシステムです。

GPSはGlobal Positioning Systemの略です。人工衛星の情報を用いることで、全世界、地球上のどこにいても、自分が今どこにいるかがわかるようになります。

徘徊の可能性がある人に、GPS機能が利用できる携帯電話などのツールをもたせておくことで、いざ徘徊してしまった場合でもすぐに追跡できるようになるでしょう。

ただ、GPS機能のあるツールを常に持たせるには工夫が必要です。持ち歩いてくれと頼んでも、それ自体を忘れてしまう可能性が高い上に、癇癪を起こして持ちたがらないケースもあるためです。

そこで以下のようにしてGPSを持たせるようにすると良いでしょう。

  • GPS機能のある衣服、靴を調達して着させる、それ以外の服を捨ててしまう
  • 常に持ち歩く物がはっきりしている場合、縫い付けたり貼り付けるなどして無理やり持たせる
  • 当人が気づいて捨ててしまう可能性がある場合は複数箇所に上記の工夫を施してみる

防止・対策方法6:服や持ち物に名札をつける(GPSなどデジタル機器導入が難しい場合)

前段落のようにデジタルな徘徊対策方法が利用できない時、もしくはデジタルな対策とのあわせ技として採用したい対策方法が「持ち物に片っ端から名札をつける」です。

これは例えば、当人の所有する衣服その他あらゆる物に名前や住所などを書いたワッペンなどを縫い付けるという方法です。

デジタルに対してアナログな方法であるため、実現可能性が高いと言えるでしょう。

もし万が一徘徊して知らない土地に行ってしまった場合でも、保護した人が何らかの方法で名札が縫い付けられているのを見つけてくれる可能性が高くなります。

絶対になくしてしまわないのであれば方法は「縫い付ける」でも接着剤などを使うなど何でもいいため、最善の方法を考えてみてください。

見つかりやすくするために、明るい服や蛍光色の服を与えることも検討しましょう。

防止・対策方法7:あらかじめ、近所の人、交番など公共機関に徘徊する人がいる旨を伝達しておく

徘徊する人が公共交通機関などを利用してしまい、ひどく離れた場所に行ってしまう可能性はありますが、徘徊の初期段階では間違いなく近所を通ります。

そこで近所の人などにあらかじめ身内に徘徊してしまう可能性がある家人がいることを伝えておくことで、被害を最小限に留められる可能性が高まります。

徘徊した当人を見つけ、近所の方が直接送り届けてくれたり、自宅に連絡してくれたり、左記のいずれの方法も取れない場合は警察等に通報して保護を依頼してくれるかも知れません。

ほか警察や、民生委員、自治会など考えられうる公共機関には伝えておけば、いざという時における保護の可能性はより高まります。

いずれの場合も本人の名前や年齢など可能な限りの個人情報、見た目などの特徴をあわせて伝えておくことが重要です。◯デイサービス利用

徘徊行為が手に負えない場合、必ずしも自分だけの力でなんとかしようとは思わないことも大事です。

例えばデイサービスは、自分に変わって資格を持ったプロが徘徊の可能性がある人の面倒を見てくれます。

単純に見守りをするだけでなく、ともに運動したり、楽しめるようなレクリエーションをプランニングしてくれたりと、介護の専門家にしかできない施策を実施してくれます。

デイサービスから帰宅した本人は、家では非常に落ち着いて過ごしてくれる可能性が高まります。家計と相談して、こうした専門施設の利用を検討してみてはいかがでしょうか。

徘徊の事後対応方法

徘徊が起きてしまい手の打ちようがなければ、まず警察の通報窓口を使います。

徘徊してしまう当人と、周りの介護者・保護者など関係者におけるリスクや不安要素を最小限にするためには、起きてしまった徘徊に対してうまく対応していく必要があります。

そこで本章では、徘徊に対する対応方法について解説します。

事後対応方法1:水分補給

見当識障害を原因とする徘徊では、まず保護してすぐに何か飲ませてみてください。環境把握ができないため、自身が脱水症状となっても水を飲むという選択肢を失ったままあるき続けた可能性があるためです。

事後対応方法2:徘徊した本人に対して怒らない

前段落までの解説を見てもわかるように、とにかく徘徊させたくない一心であらゆる対策を立てたのに、いざ徘徊されてしまえばショックや怒り、悲しみや呆れなど様々な感情に飲み込まれてしまうことでしょう。

しかしながらそこで当人を厳しく叱ってしまうのでは、当人がより不安を抱え、もっと別の場所に行きたがるなど徘徊の進行、ひいては原因となる認知症などの進行がより進んでしまう可能性を生みます。

そこで、徘徊を一度止めることができ、本人を保護した際には「怒らない」ことを第一に考えることが得策です。これは、見当識障害を持つ人と対峙する際に有効的な方法です。

特に障害を患ってしまっている場合は、怒られた記憶は残るものの「何をしてはいけないから怒られたのか」といった記憶が抜け落ちてしまい、ただ「この人と会うことで嫌な気分になったことがある」という記憶しか残らないことがあるとされています。

大切な関係だった相手から、自分のことを忘れ去られたり見当違いのことを言われることは非常にショックなものです。しかしながら、怒ってしまうと自分が疲れるだけという結果が待っているため、最初のうちは無理でも少しずつ慣れましょう。

このためまず「怒らない」上で、さらに以下の項目の内容を実行してみてください。

事後対応方法3:理由を聞き、できれば本人の気持ちによりそう

徘徊してしまった当人が目の前にいる場合、まずどうして徘徊してしまったのかを聞いてみてはいかがでしょうか。

当人の気持ちを聞くことは、どこに何の原因・理由があるのかといった内容の判明により病気の傾向がわかることにもつながります。

理由や目的も持てないのに徘徊していることが多いはずではありますが、何らかの理由は当人の口から出てくるはずです。もし医師など専門家に聞かせられた場合、次はどのようなことに気をつければいいかなど方針が定まるかも知れません。

例えば、既に家の中にいるにも関わらず、家に帰りたいなどと言うのであれば、現在の環境に対する不安、恐れがあり何らかのストレスを抱えているのかも知れません。

あるいは自分に危害を加える存在がいるなどと話すのであれば、妄想やせん妄の症状が出てしまっていることがわかります。

例えその原因が取り除けなかったとしても、心理学的に共感が得られれば人はいくらか安心するとされているため、ひとまずは話を聞き、共感してみてあげてください。

事後対応方法4:徘徊に対して気をそらす

せっかく当人を徘徊から保護したにもかかわらず、また徘徊しようとしている場合、さらに上記の方法も効かない場合、なんとかして徘徊から気をそらす方法が有効的です。

すでに家にいるのに、家に帰るなどと頑なな場合は、たとえ脈絡がなくても「帰るなら服を着替えないといけないね」とか「じゃあ手を洗ったり、トイレにいかないといけないね」、「さっきまでこのテレビ見たがってたのに、始まったばかりなのに帰っちゃうの?」などと気をそらしてみましょう。

このように気をそらせられれば、別な行動をとっている間に、徘徊という目的を忘れさせることもできるかも知れません。本人がどんなことに興味を持つのかにより、様々な手段を試してみてはいかがでしょうか。

徘徊に対する前後策はある!本人も周囲も疲弊しない対応を

見当識障害における徘徊について解説しました。

見当識障害を引き起こした本人は、自分が置かれた環境についての一切が把握できなくなってしまうことがあります。そして目的や理由もなく徘徊へと行動がつながってしまいます。

とはいえ、なんとかして徘徊を起こさせないために取れる方法は「徹底的に疲れさせる」など様々あります。

いざ徘徊を起こしてしまった場合でも、GPS設置や近所への通達など事前対応が完璧に済ませられていたのであれば、線路に立ち入ってしまうなど最悪のことが起こる可能性を限りなく減らせます。

また、無事に徘徊から保護できた場合でも、保護者として落ち着いて行動することで次の自体を防げる方法があります。徘徊する人は、記憶を持続させることが不可能な可能性が高いため、当人の不安につながる行動、特に怒ってしまうことは一番避けたいところです。

上記のように持てる手段を可能な限り選択し、まず保護者・介護者自身が疲弊して潰れてしまわない意識を持って対応してみてはいかがでしょう。

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