【投稿日】 2021年12月12日 【最終更新日】 2022年1月10日
M&Aにはさまざまな作業を経て最終的な合意に至りますが、その中でも重要性が高い調査として知られるのが「デューデリジェンス」です。
しかし、M&A自体が初めての方、主体的に進行した経験がない担当者・経営者にとっては、デューデリジェンスの基本的な進め方がわからないという悩みもよく聞かれます。
そこで、デューデリジェンスの流れや注意点、定義や種類など基礎的な事まで詳しく解説します。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
デューデリジェンスとは?
M&Aをする際に買い手が行う調査を「デューデリジェンス」と呼びます。
英語では“Due Diligence”と表記し、日本語では「買収監査」や「適正評価手続き」です。“Due”が「正当な」「当然の」「適正な」「相当な」を意味し、“Diligence”が「勤勉」「努力」「精勤」を意味します。つまり、合わせて“Due Diligence”は、適切な形で企業の評価をすることです。
一般的に、フルで「デューデリジェンス」と呼ぶのは長いため、「デューデリ」や「DD(ディー・ディー)」と省略します。
デューデリジェンスのM&Aにおける定義は、専門家やアドバイザーによる買収前の事前調査であり、資料分析や聞き取りを通じてリスクや資産状況の把握をすることです。結婚前のお見合いに例えると「相手の人が誠実で信頼できる人か」、「借金がないか」、「資産はどのくらいか」、「家族・親族関係はどうなっているか」、などを身辺調査することに該当します。お見合い相手が好条件な場合には優良物件と不動産用語で例えるように、デューデリジェンスは経営や不動産などでも専門用語として使われるのです。
ところで、デューデリジェンスを実際に買収する際に誰が行うのかといえば、アドバイザリーとなる専門資格を持った人たちです。例えば、弁護士や公認会計士・税理士、社会保険労務士、経営コンサルタントなどです。それぞれに得意ジャンルがあり、調査項目の種類によって選任されます。
ただし、絶対にすべての調査を専門家に依頼しなければならないわけではなく、経営側が自社のみで直接調査を行う場合もあるのです。ちなみに、M&Aでは公的な調査ではないため、警察のような強制力を持っておらず、買い手側の調査として行われるデューデリジェンスを譲渡企業は拒否することもできますが、その場合は重大なリスク調査などをできなくなるため、取引が継続できず手続きがブレイクします。
デューデリジェンスを行う目的と重要性
デューデリジェンスは費用や時間がかかるにもかかわらず、調査するだけの価値があります。
それはリスクヘッジやシナジー効果などに関連しており、デューデリジェンスの目的からも必須です。そもそもデューデリジェンスを実施する目的は以下の2つです。
1.買収する企業や事業の実態調査を行う
デューデリジェンスの最大の目的は、リスクヘッジや買収予算の交渉をすることです。それにはデューデリジェンスで企業の実態調査を確実に行う必要があります。
まず、デューデリジェンスを企業が受け入れるのかどうかです。受け入れない企業はそもそも後ろめたいことや隠したいことがあるといっているようなものであり、買収するにはリスクが高いといわざるを得ません。つまり、デューデリジェンスをスムーズに行えて、企業側の反応がよいことが大きなポイントとなっているのです。
次に、調査の過程で複数の項目を分野に分けてそれぞれチェックすることです。財務や法務などかなり細かい点までチェック項目に入れます。その際に資料準備の送付を希望したり、質問項目となるQ&Aシートをやり取りするなどして、実態を正確に判断します。
もし、この調査で見逃しがあり、大きな損失を被るような事があること困るため、簿外債務や競業禁止義務のある契約は必ずチェック項目に入れるのです。
例えば、未払い残業代が見つかると紛争や訴訟になる可能性があり、その責任やリスクを負担することになります。中小のブラック企業などにはよくあることで、もちろん大手だからといって確実に経営実態が問題ないといえるところは少なく、デューデリジェンスが重要です。
もしディール・ブレイカー(M&A取引中断の重大な障害)が発生した場合は、これを総合的に判断して最終的な結論を出します。そして、買収先企業や事業の価値を図ることもデューデリジェンスの大きな目的の一つです。
想定していた価格よりも買収効果が少ないことが判明したり、システム統合に費用がかかる場合に売却額に影響するため、買い手側はデューデリジェンスの結果次第で予算交渉ができます。ようするに、投資するだけの価値があればそれだけ費用も出せますが、なければ値切り交渉が可能になるわけです。
2.PMIなど統合シナジーによる事前準備をする
リスクの判断や交渉を有利にするためという重要性がある一方、PMIのように統合シナジー効果を実現するためのプロセスにデューデリジェンスが欠かせません。
例えば、企業風土や経営方針、人事の体制、労働条件、教育環境などです。買収すれば当然ながら企業の事情も変わってしまうため、問題を把握して対処することを前提としておかなければ思わぬ落とし穴にはまってM&Aの失敗になることも珍しくありません。
具体的には、費用をかけて買収したにもかかわらず、それほど業績が伸びない、無理な統合で優秀な人材が退職するなどして会社を離れるなどです。例えば、買収をきっかけに事業を支えていたであろう買い手側の求めていた人材が退職し、実質的に統合シナジーに必要な品質が技術的に維持できなくなるといったケースです。
単純なシナジー効果が出にくいケースとはまた別の人材に関連した問題であることは容易に想像できるでしょう。
なぜ退職してしまうのかは買収時に起きた変化が関係することも多く、経営上のプラス・マイナスの帳尻だけで現場に適用すると起こる場合があるのです。
それを防ぐためにはデューデリジェンスで統合にかかる問題を細かく把握し、入念な準備をすることが求められるのです。
デューデリジェンスはどんな場面で必要?M&Aや不動産売買などの際に必要不可欠!
デューデリジェンスは、リスクを抑えて適正な評価を下すためには不可欠ですが、費用と時間のかかるという点はM&Aでなくても同じです。そのため、できる範囲でデューデリジェンスをすることが基本です。
例えば、金融機関から10万円を借りるために借り手がデューデリジェンスをして調べることはまずありません。事業の譲渡や不動産の購入など大きな費用がかかり、買い手の潜在的リスクが高くなる場面にて行われます。それがM&Aや不動産売買などです。
M&Aは上記に示した通りのリスクが存在し、不動産では取引対象となる土地や建物に瑕疵がある場合などに大きなリスクとなります。
例えば、一般の不動産取引例としてタワーマンションを入手した場合、欠陥などの違法建築が判明した場合に、著しく価値が下がり、大きな損失を受けます。
他にも、土地にごみが埋まっており、その撤去費用が発生するといった場合などです。
先にわかっていれば買収先企業に解決を求めるか、費用交渉で価格基準となっている価値を下げることが出来ます。したがって、デューデリジェンスが必要となる場面は、より大きな損失やリスクを避けるために必要不可欠です。
デューデリジェンスにはジャンルによって多くの種類がある!
デューデリジェンスには以下のさまざまなジャンルがあり、それぞれ調査する項目や必要とする資料が異なります。
【1】事業デューデリジェンス
デューデリジェンスの代表的な種類の一つが「事業デューデリジェンス」です。
M&A分野では、「ビジネスデューデリジェンス」と呼ばれることもあります。事業デューデリジェンスの特徴は、事業実態を把握することを中心に、事業の将来性を評価することです。
統合シナジー効果を判断するために必要となり、将来性から事業価値を概算して交渉する場合などにも事業デューデリジェンスが重要となります。
さらに、SWOT分析やビジネスモデルの把握、市場の収益性などを調査する対象でも知られ、それらを考慮して最終判断を下すためにも事業デューデリジェンスは不可欠です。資料の読み解き・分析自体は難しくなく、事業デューデリジェンスだけは経営側が外部依頼せずにデューデリジェンスを行うケースもあります。
必要となる主な資料は以下です。
必要となる主な資料 |
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※年次ごとに変わる資料は直近3年分 |
【2】財務デューデリジェンス
デューデリジェンスの種類の中でも重要な一つに数えられるのが「財務デューデリジェンス」です。
財務リスクを判断するために必要な買収先企業の財務状況を調べて、財政の健全性などを確かめます。基本的には財務諸表による表に出ている財務状況を調査しますが、必ずしもそれだけではわからない財務処理が存在するケースもあるのです。その場合に潜在債務(将来的な債務の可能性がある保証や賠償など)や簿外債務などがないかを確認します。
例えば、中小企業が買収先の場合、大手企業と決算書が異なるため、「賞与引当金」・「退職給付引当金」などが簿外債務として存在します。企業がステークホルダー(利害関係者)に付けている正式な帳簿とは別に会計を処理した社内帳簿などを調べるのです。調べる数字は、中小や大手に関係なく、連結ベースや会社単位など財務の専門家が独自に決定します。
たいていは過去の帳簿の数字から判断しますが、将来狭でも判断したい場合には、四半期決算の数字や計画書の数字などを踏まえた結果を調査対象にすることもあるのです。
必要となる主な資料 |
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※年次ごとに変わる資料は直近3年分 |
【3】法務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスに並んで重要とされる種類が「法務(リーガル)デューデリジェンス」です。
法務デューデリジェンスでは、訴訟リスクの洗い出しや許認可の引き継ぎ等について調査します。
法務と関連の深い訴訟では、特に表面に出てきてはいない訴訟リスクを判断することが重要です。例えば、知的財産権(著作権や商標権)の侵害、環境法違反、労働法、会社法・金融商品取引法違反などです。 買い手側にとって、コンプライアンスの低い会社や過去に法令違反で行政指導などを受けている企業などは特に注意が必要といえます。また、許認可の継承を確認することも大切です。
事業はいくつもの許認可によって成立しているケースも多く、許認可が下りなければ買収しても事業を継続できないという問題に直面してします。そういったトラブルを事前に避けて法務的なアプローチから調査する重要な役割があります。
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【4】税務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスに関連して重要な種類の一つが「税務デューデリジェンス」です。
税務デューデリジェンスは名前の通り、税務を調査するものであり、税務申告書などを中心に税務リスクを洗い出します。追徴課税や行政指導などで起こる負担リスクを最小限にするためには不可欠です。
例としては、税務上のポジションで不明確な部分をチェックしたり、課税による負担部分を把握したりするのが一般的といえます。税務として対象となるのが法人税や消費税です。
特に買い手の手法が株式譲渡の場合、財務リスクを一身に背負うため、十分な税務デューデリジェンスを実施し、スキームが複雑な場合には定量的に税務リスクの額を算出するなどして判断材料とします。
スキームによって法人税法上の取り扱いが変わってくるため、税理士などの専門家に任せる種類でしょう。
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【5】人事デューデリジェンス
人事に関連したデューデリジェンスの種類が「人事デューデリジェンス」です。M&Aでは社内環境の変化で人事に問題が起こりやすく、新たな評価制度への移行や待遇などに不満を持った従業員が辞めてしまうことがあります。
人事デューデリジェンスではそういった元の会社の従業員と新たな体制の不一致が起こりにくいように、人事構成や労働協約・協定、労働組合、人件費などを調査します。
これらは大きく分けて「財務面」と「非財務面」の2つがあり、人事と財務の関係性を調査する、人事制度や適用条件などを確認するのです。この情報をもとに統合後のシナジー効果の程度を計測し、人事の側面から判断します。以上、人事デューデリジェンスにおける経営の統合シナジー化を人事PMIと呼びます。
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【6】環境デューデリジェンス
企業や事業そのものではなく、買収先企業が保有する土地や建物の環境を調査するのが「環境デューデリジェンス」です。その会社の不動産が多くの割合を占める場合には、よく行われます。調べるのは主に土壌や大気、騒音・振動であり、一定レベル以上の土壌汚染や地下水汚染、大気汚染がないかです。
環境デューデリジェンスが大切な理由としては、従業員の健康を守り、訴訟リスクを下げることにあります。ようするに環境リスクを減らし、損失を避けるのです。例えば、保有する土地の土壌汚染が問題となり、周辺住民との訴訟になった場合など、訴訟リスクがあります。アスベストやポリ塩化ビフェニルなど従業員の労働環境に害を及ぼすような環境は行政指導の対象となる可能性があるなど、環境デューデリジェンスで先々のリスクを知っておくのです。土壌汚染の場合、撤去・除去費用が費用負担のリスクにもなります。
近年は土地評価の重要性が高まっており、M&Aだけでなく、不動産売買でも環境デューデリジェンスを行いリスクを評価します。調査方法は基本的に現地調査や法務調査ですが、土壌汚染対策法の区域や土地利用履歴などを確認することがあります。
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【7】ITデューデリジェンス
デューデリジェンスが対象とするのは財務や法務以外にもITシステムが挙げられます。それを調査するのが「ITデューデリジェンス」です。主に基幹システムやシステム担当の人材、情報セキュリティといったものを対象に調べます。海外では、特にサイバー攻撃から守る情報セキュリティが重要とされており、日本企業はサイバー上のリスクに晒されています。
また、基幹システムではDX化の推進やシステム統合など、調査を経てかかる費用や期間などを把握することが必要です。IT投資に対して、セキュリティの問題で損失が発生すれば、投資コストがパーとなり、事業計画にも大きな影響を与えてしまいます。そのようなリスクを避けるためにも重要なのがITデューデリジェンスです。
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【8】不動産デューデリジェンス
買収先企業が所有する土地や建物などの不動産を調べるのが「不動産デューデリジェンス」です。一般的には投資リスクや立地・耐震性、登記・権利関係などを調べます。
単純な建物調査とは違い、多角的なアプローチから物理的(修繕や劣化、地震リスク)・法務的(所有権、抵当権、建築基準法、境界問題)・経済的(テナント、賃料)に調査するため、大きな案件では不動産に精通している不動産鑑定士や弁護士などのアドバイザーや専門家を必要とします。
例えば、修繕が不十分な建物や近い将来改修や取り壊しが必要な場合に、不動産投資のリスクが高く、シナジー効果が買収額に見合わない可能性があります。そうしたリスクを避けるための不動産デューデリジェンスです。
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【9】知的財産デューデリジェンス
技術系の企業を買収する場合や知的財産(知財)の利権関係が発生する事業では、「知的財産デューデリジェンス」が必要です。知的財産デューデリジェンスは、技術関連の投資に対して統合シナジー効果が見合うかどうかの価値を判断するために行われます。それから事業継続においてリスクがないかなどを調べます。
知的財産デューデリジェンスが注目されている背景としては、多少のリスクがあっても大きなリターンが得られる可能性があるためです。法務やビジネスの側面を調査して判断し、リスクを最小限に抑えます。
通常は弁理士の資格を持つスペシャリストが知的財産デューデリジェンスを行うことになっており、知的財産部門だった方に依頼することで調査の精度を高めることができます。買収する企業や事業によっては、知的財産デューデリジェンスが必要ないケースもあるため、この種類を調査するか事前の見極めが大切です。
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【10】顧客デューデリジェンス
買収先企業の顧客に関連した調査が「顧客デューデリジェンス」です。これまでのデューデリジェンスとの大きな違いは、調査対象が顧客となっており、取引相手の顧客がどのような人物や組織かを確認します。
さらに、顧客にかかるキャッシュフローや基本情報などを精査します。顧客の属性によっては、取引の潜在的リスクがあるため、買収先として適切かどうかを判断可能です。
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【11】技術デューデリジェンス
買収先企業や事業の中核を担う製品やその技術、共同開発などの技術的な取り扱いなどを判断するのが「技術(テクニカル)デューデリジェンス」です。技術的なアプローチから調査を通じて中核技術の抽出、競合と比べたときの優劣、技術が与える影響や統合シナジー効果、開発過程の解析などをチェックします。
企業にはさまざまな製品の開発や製造を行う事業があり、投資効率や安全性などの評価が重要となります。知的財産デューデリジェンスにも関連しており、その中でも製品や技術に特化しているのが技術デューデリジェンスというわけです。
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【12】人権デューデリジェンス
買収する企業が人権を守っているかどうかを調査するのが「人権デューデリジェンス」です。日本の企業は、急速に外国人労働者の雇用を進めており、人権問題が注目されています。
途上国など海外に工場を持ってそこから製品を輸入しているケースも少なくありません。そのサプライチェーンの中で、違法就労やハラスメント、差別、強制労働などが行われていれば人権デューデリジェンスでそれを明らかにします。
人権侵害によって起こる問題は、売上の低下や企業価値の損失など、事実が発覚することにより経営リスクともなるため、買収する側は人権に対する姿勢や実態を確認してから判断する必要があります。
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【13】その他のデューデリジェンス
上記に取り上げたデューデリジェンスの他にも種類には区分されていない、あるいは他の種類の中で合わせて調査されるデューデリジェンスが存在します。例えば、簿外会計や会社役員の経歴や行動・犯歴など、反社との繋がりの有無(反社チェック)、隠し財産など契約書類上には出てきづらい項目のデューデリジェンスです。
表面的な資料だけでは十分な判断が行えない場合に、必要となる項目といえます。特にM&Aの失敗の多くは、こういった契約書類上では問題ないと買収した後で問題のある項目が出てくることによって起こるケースです。
そのため、表面的な資料では判断の難しい項目こそデューデリジェンスが必要といえます。また、法務や財務分野の専門家では担当するのが難しい場合、士業などよりもむしろ探偵事務所など調査分野の専門家に依頼することも一つの手段です。
デューデリジェンスを行うメリット
デューデリジェンスを実施することにはさまざまなメリットがあります。まず、デューデリジェンスを行うと契約締結の際に有利に交渉を進められます。「買収費用は適切か」、「法務的・財務的・税務的な問題がないか」、「シナジー効果がどの程度か」、それらがあらかじめわかっていれば、交渉がしやすいのです。
同時に、買収額が高すぎる場合には、金額を下げるなどして、買収が難しい場合には取引を中断することも視野に入れられます。
一方、デューデリジェンスを行わなければ、そうした問題の発見やリスク・リターンの計算が正確にできません。後から思わぬトラブルが発覚して、コストと見合わない、訴訟リスクや損失の被害を被るなどの失敗の可能性を減らすことも大きなメリットです。
特に簿外債務などは表面的な資料を見ただけではわからないため、デューデリジェンスを行わなかればわからないでしょう。このようにM&Aで生じるリスクを低減し、コストパフォーマンスを高めるために上記メリットを最大化するのがデューデリジェンスです。
デューデリジェンスが必要となるタイミングは?
M&Aにおけるデューデリジェンスのタイミングはいつでもよいわけではなく、いくつかの条件がそろった買収審査の過程で行われます。
まず大前提として、基本合意と最終譲渡契約書の間に行うことが通例です。ようするに、仮契約を結んだ後に、本当に買収を決めてよいかの本契約までの間にデューデリジェンスを実施し、最終的な決断を下すという流れです。最終交渉が最終譲渡契約書までにするため、そのタイミングに間に合うようにします。
なぜ、仮契約前の最初から調査を行わないのかといえば、調査費用は結構な額になることもあり、契約すら決まっていない段階で無理に調査しようとしても費用の無駄になる可能性が高くなるからです。何より、相手企業が買収を決めていない段階でデューデリジェンスの資料提供や情報開示は容易に行われないため、そもそも難しいというのも理由としてあるのです。
早すぎても無駄になる可能性があり、遅すぎると時間的に最終交渉に間に合わなくなるため、適切なタイミングを見極めて、調査期間を前提とした逆算から十分な取り組みの開始日程を決める必要があるでしょう。
もちろん、次に説明するデューデリジェンスにかかる期間を予想し、開始日を特定することも重要です。
デューデリジェンスにかかる期間はどれぐらい?
デューデリジェンスにかける時間は調査項目の数に比例するため、正確な時間はその企業次第です。
実際の目安としては約1~2ヶ月といわれています。まず、資料の収集や準備に2週間ほどを要します。その後の調査やヒアリングなどに数日から2週間、分析の中間レポート作成に1~2週間、最終レポートや分析に1~2週間の全体で1~2ヶ月です。
あくまで標準的な調査期間であり、案件ごとにその差は大きいのが現状です。例えば、早い場合は全体を2週間で終わらせることもありますし、大規模案件では調査項目も多くなるため3ヶ月以上かかるケースも珍しくありません。
また、デューデリジェンスにかかる期間は案件規模でも左右されますが、企業毎に早い・遅いがあります。なぜなら、デューデリジェンスは企業の協力によって成り立っており、もし企業が出したくない情報があるために出し渋ったり、遅らせたりするような事があった場合、期間が通常よりも長くなる可能性があるのです。
もちろん、ただ作業的に遅れただけでなく意図的な遅らせを行う譲渡企業は信頼性や誠実性に問題があるとして、契約のブレイクを判断をすることもあるでしょう。
デューデリジェンスにかかる費用相場はどれぐらい?
デューデリジェンスは先程費用がかかると述べましたが、その費用相場は調査項目や専門性などによって左右されます。M&Aの大きな金額が動く案件では、全体で億単位の費用がかかることもあるでしょう。
例えば、財務・税務では200~300項目、法務でも同じくらいの項目が調査されますが、1種類ごとに30万~500万円程度の費用がかかります。そのため、それらの調査項目の種類が多いほど、費用がかさむというわけです。結果的に大手の調査に数千万円から規模によっては1億円かかってしまう理由もこれでわかるでしょう。
以上の相場に加えて、費用で最も高くなる可能性があるのが財務デューデリジェンスです。
その下に事業デューデリジェンス、法務デューデリジェンスなどが続きます。費用相場は単純に分野や項目数だけで決まるのではなく、実働部隊のような役割がある專門家の公認会計士や弁護士の支払い契約によっても変わってきます。
制度として「固定」や「変動」、それらを組み合わせた両取りの方式などを利用していることもあり、1日で大体2~5万円が相場です。財務デューデリジェンスは1日10~40万円かかるため、全体の種類と比べても費用が高めなのが明確です。
ただし、上記は大きな案件の大手を対象としたもので、買収が1,000万円以下の中小企業案件もあります。その場合、M&Aだからといって同じ規模の調査をしてしまうとリターンに合わない大きな損失が発生します。
そのため、価格の低い案件では、デューデリジェンスに費用をかけられないということが起こるのです。方法としては、自分である程度種類・項目を絞れれば予算削減になり、必要最小限の種類と項目に調査を集中することで費用を抑えます。
デューデリジェンスの一般的な流れ
ここでは、デューデリジェンスの手順を0~10のステップに分割して説明します。
STEP0:基本合意契約
デューデリジェンスを開始する目安としてまずは「基本合意契約」を結ぶことです。基本合意契約には、必要な取引条件や意思確認をする意味があります。この場合、法的拘束力を限定するか法的拘束力のない場合がほとんどです。
売り手側のためというより、買い手側のために行われるものといえます。売り手がM&Aの取引交渉に応じざるを得ないことを確認する合意書ということです。
また、株式譲渡の制限やデューデリジェンスに協力させるための独占交渉権なども含んでいる場合があり、デューデリジェンスの費用負担や時間をかけることへのリスクを減らす意味でも締結されます。
STEP1:調査チームの編成
基本合意契約を結んだら、次に調査チームを編成します。ここからようやくデューデリジェンスの開始です。調査チームには各分野の専門家を入れるのが一般的となっており、特に財務や法務、税務に詳しい人材を充てる必要があります。
例えば、弁護士や公認会計士、税理士、弁理士、不動産鑑定士、経営コンサルタントなどです。社内にこれらの人材がいない場合には外部に協力の打診をします。調
査チームは分野ごとに個別に調査する場合やまとめて一つのチームとして全体を調査する場合もあります。調査チームを編成したら、ミーティングなどを開き、調査についての方針や事前の決め事、買収に関する情報を共有します。
STEP2:秘密保持契約
デューデリジェンスに欠かせない契約が「秘密保持契約」です。
M&Aやデューデリジェンスを通して得られる情報を外部に漏らさないことを約束し、売り手の企業から資料閲覧できるだけでなく、従業員の個人情報などまで見ることができます。
秘密保持契約なしでは実質的にデューデリジェンスを進めることはできないといえるほどです。通常は、基本合意契約の中に秘密保持契約を組み込みます。
STEP3:デューデリジェンス実施方針の策定
社内でミーティングなどを開く際に決定するのが、デューデリジェンス実施方針の策定です。予定される資料リストなどを参考に調査の期間や重点などを決めます。
これを決めないことには漠然とした調査になってしまい、終わりが見えなくなります。予算と時間の限られるデューデリジェンスでは特に、実施方針の策定を何よりも先に決めることです。その際にスケジューリングや調査内容を具体的にすることも忘れないようにしましょう。
STEP4:M&A先の企業から受け取った書類や情報をチェック
デューデリジェンスが始まると必要となる資料一覧を買収企業側に提示し、その資料送付を求めます。
M&Aで必要となるリストを先に決めておき、それをスムーズに相手側に提示することで書類や情報のチェックを効率的に行えるのです。
デューデリジェンスが調査を前提にしているからといって、必ずしも相手の会社に行くわけではなく、郵送やデジタルな資料提出で済ませることもよくあります。
STEP5:専門家を入れたミーティングの開催
入手した資料や情報などを踏まえて、調査に関わる専門家を含めたミーティングを開催します。
種類によって行われるデューデリジェンスの単位でミーティングを行い、調査内容やスケジュールの細かな部分を決めましょう。
項目の少ない種類のデューデリジェンスは調査期間が短くなりますし、逆に項目が多ければ調査期間もある程度長くなります。それらを踏まえたスケジュールを決めるのにミーティングが必要です。
STEP6:追加で必要な書類や資料の請求リストを作成
提出された資料では不十分なことがデューデリジェンスではよくあるため、そこで追加したい必要書類や資料の請求リストを作成します。
種類のところで挙げた必要な資料を専門家などが確認し、足りない情報などはその追加資料を活用して情報を入手します。また、調査の過程で追加が必要となる場合もあるため、適宜追加することもあり得るでしょう。
STEP7:STEP5で請求した資料の確認
請求した資料が届くとその確認作業をします。項目が多いほど資料の数も多くなり、足りなければ早めに請求しないといけないため、厳密に確認します。改ざん等がされずに正しい資料かどうかをまずは確認することも重要です。
後で求めたのとは違う資料だと判明しないためにも確実にチェックしましょう。
STEP8:M&A先の企業へのヒアリング調査・質疑応答
経営者や関係者に資料からだけではわからない部分や深く調査のメスを入れたい場合に行われるのがヒアリング調査や質疑応答です。
ヒアリング調査はインタビュー形式や直接の対面などがあり、質疑応答ではQ&Aシートなどを使った項目ごとの回答をした資料に該当します。
あくまでも、調査の一環として資料の補足やプラスアルファを求める内容となり、別の新たな調査を始めるというわけではありません。資料よりも直接聞いたことがわかりやすいこともあるため、形式だけ変えた方法といえます。
STEP9:専門家からの調査結果の報告
専門家が実施した資料の分析やヒアリング調査・質疑応答は調査結果としてレポートなどで報告されます。
たいていはプレゼンテーションの形で経営側に対しての報告となっていり統合シナジー効果やリスクなど把握したことについて、全体での話し合いの場ともなるのです。
この時点で調査が不十分という場合には、追加の調査を依頼します。また、問題として表面化した項目は、改善策や解決策の提示を求める場合もあります。
STEP10:M&A最終判断
専門家の報告や資料の分析結果などを踏まえて最終的に買収の可否を決定します。
M&Aの取引における最終判断のフェーズとなっており、この決定ですべてが決まるといっても過言ではありません。さらなる価格交渉に挑むのか、それとも同条件で買収を決定するのか、買収と譲渡の両企業にとっての山場です。
シナジー効果が薄いと判断すれば中止となりますし、リスクを差し引いてもシナジー効果が高いと判断すればそのまま進行を決定し、取引の成立となります。
デューデリジェンスを行う際に注意したいポイント!
デューデリジェンスを行う流れの中で注意したいポイントを以下に4つ取り上げます。
ポイント1:M&Aの規模に合った最適なデューデリジェンスを行う!
デューデリジェンスで注意したいのがM&Aの規模に最適なデューデリジェンスを実施することです。それには、M&Aがどれくらいの規模でどういったデューデリジェンスを行うのかを理解しており、話し合いなどで適正なデューデリジェンスを計画することです。
例えば、規模が大きい大手の案件でデューデリジェンスを行う際、費用を縮小して十分な調査をしなかったら大きな損失やシナジー効果減少のリスクを抱えることになります。規模に見合わない予算でデューデリジェンスを始めても調査が足りないということが起こるからです。
特に法務や財務はリスクが大きければ大きいほどしっかりとした調査が必要となり、費用もそれなりに掛かることを前提にM&Aをしなければなりません。コスト削減や予算の縮小ばかりに意識がいき、利益を出すつもりが逆に損失を大きくしてしまうということに注意が必要です。
例えば、5,000万円の案件でリターンの価値が1億だとして、万が一、訴訟や余分な費用の発生で8,000万円の損失が出れば、1.3億円のコストと1億のリターンで0.3億円(=3,000万円)のマイナスといえます。500万円を出してでも調査を進めて先に解決できていればその損失は防げたことになるわけです。
デューデリジェンスの予算を無限に増やすことはできないものの、考えられる損失額を考慮して調査のコスト負担を拡大していれば防げることもあるため、費用とリスクを天秤にかけて規模に見合った最適なデューデリジェンスを検討することです。逆に、小さい規模の案件に多額の費用を払ってデューデリジェンスを行えば、そのコストを上回る利益を出さない以上、ただの損失となります。
小さい規模に大きなデューデリジェンスのコストを掛けることは、M&Aそのものをする意味がなくなってしまい、コストを払って損失を引き受けたことになるのです。それでも将来的な価値を信じて買収が成功することもありますが、費用のかかり過ぎた事実は残り、最適なデューデリジェンスとはいえません。以上を踏まえた規模の確認と予算の判断が重要でしょう。
ポイント2:デューデリジェンスチェックリストの作成する!
デューデリジェンスでは数百項目にも及ぶチェック作業を1ヶ月以上かけて行うため、抜けや漏れがないようにデューデリジェンスチェックリストを作成します。その際に優先順位を決めて、必要なものを確実にこなせるようにすることです。期間内に終わらないものがあれば事前に話し合って決めます。
専門家は種類ごとに必要な資料が異なり、項目にも差があるためそれぞれでチェックリストを作成することが基本です。チェックリストをしっかり管理することによってリストの進行状況を共有すれば、買収側の企業はスケジュール管理などを安心して行うことができます。
ポイント3:情報の外部流出に注意!
デューデリジェンスはM&Aを成功させるための重要工程です。デューデリジェンスそのものがM&Aの足を引っ張ることは絶対に避けねばなりません。そのためには情報の外部流出に対して細心の注意を払うことが求められます。万が一、外部に情報が漏れて、企業機密が漏洩した結果、M&Aで得られたはずの利益や優位性を失ってしまうということがあります。
それだけでなく、漏洩したのが重大情報の場合は譲渡企業から損害賠償の請求を受けることも考えられるのです。また、外部漏えい等で管理職社員や経営陣が処分されてしまえば、M&Aの進行に少なからず影響を与えてしまいます。最悪のケースは流出した情報を悪用されて、譲渡企業や買収企業の両方が損失を受けることです。
専門家の調査チームを含めて管理をしっかりするなど、情報の外部流出には十分に気をつけましょう。
ポイント4:表には出にくい情報のデューデリジェンスも必要に応じてしっかりと行う!
書面の資料にはさまざまな情報が記載してあり、多くの項目を調査完了にするだけの情報量があります。しかし、既存の資料として提出される表面的な情報だけでは、デューデリジェンスとして不十分といえます。
特に表には出てこないようなリスクや統合シナジー効果に影響するような情報を見逃さないように調査することです。
簿外会計に出てくる未払い残業代や反社との関係性など、訴訟リスクや企業・事業の価値を下げてしまうような情報などがないか調査し、最終判断に必要な情報をしっかりと集めておきます。
後から判明することでM&Aの失敗に繋がるリスクはデューデリジェンスの段階で潰しておくことが大切です。
M&Aや不動産売買の成否はデューデリジェンスにかかっているといっても過言ではない!
今回は、デューデリジェンスの概要や種類ごとの特徴、メリット、期間、タイミング、費用相場、調査の流れ、注意点などを取り上げました。デューデリジェンスには、潜在的なリスクを洗い出し、統合のシナジー効果を明らかにする目的があり、M&Aや不動産売買の成否に大きく関わります。
デューデリジェンスが十分ではない場合、訴訟リスクや損害リスク、コストに見合わないリターンといったさまざまなリスクを抱えることになり、失敗の原因ともなります。以上を踏まえて、適切な予算や調査内容、専門家への依頼などを行い、規模にあった適切なデューデリジェンスを実施しましょう。
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