【投稿日】 2022年4月3日 【最終更新日】 2022年4月4日

この記事では、M&Aの手法の一つであるLBOに関して、LBOとは何か、MBOやEBOとの違い、LBOのメリットとデメリットにはどのようなものがあるのか、LBOを実施する際の流れ、過去に行われたLBOの成功事例と失敗事例などについて詳しく解説します。

LBOって何?どういうものなの?

LBOとはM&Aの手法の一つで、「Leveraged Buyout(レバレッジド・バイアウト)」の略称です。

意味は「てこを利用した買収」で、買収対象企業の保有資産や今後期待されるキャッシュフローを担保として、買い手企業が設立した「SPC(特別目的会社)」が金融機関や投資ファンドなどから買収資金を調達して買収する方法です。

ここで、SPCとは「Special Purpose Company」の略語で、ある特定の目的を果たすためだけに設立される会社のことであり、通常の事業を行うための会社とは異なります。

最大の特徴は買い手企業の信用力ではなく、買収対象企業の信用力(保有資産や今後期待されるキャッシュフローなど)を担保にして買収資金を調達するところにあります。

また、融資の返済は買い手企業が行うのではなく、買収対象企業の持つ資産や将来の収益を返済の原資とするところも特徴です。

つまり、LBOを用いることによって、少ない自己資金で大きな資本を持った企業を買収できるようになるのです。

MBOやEBOとの違い

LBOは、前述のように買収対象企業の信用力を利用して買収資金を調達するM&Aのことで、意欲のある少数の株主に会社の所有権を集中させて企業価値を高めることを目的に行われます。

これに対して、MBOは買い手が買収対象企業の経営陣であるM&Aのことであり、EBOは買い手が買収対象企業の従業員であるM&Aのことです。

MBOやEBOは、主に経営権の移動による経営の効率化を目的として行われます。

また、MBOやEBOは中小企業における事業承継や事業譲渡などに活用されることもあります。

LBOを行うメリット・デメリット

次に、LBOを行うメリットとデメリットについて紹介します。

LBOを行うメリット

LBOを行うメリットは、買い手企業だけでなく買収対象企業にもあります。

ここでは、代表的なメリットについて紹介します。

メリット1:少ない自己資金で買収することができる

LBOは、買い手企業が少ない自己資金で企業を買収することができる点が最大のメリットです。

LBOは、買収対象企業の資産や収益力を担保に、金融機関や投資ファンドなどから買収資金の借入ができる仕組みですので、買い手企業は買収金額よりも少ない自己資金で買収ができるようになります。

少ない自己資金で買収ができるということは、買収後に買収された企業の企業価値が向上した際の利益率が高くなるということでもあります。

メリット2:返済リスクが少ない

LBOを行う際に、買い手企業は買収を実施するための受け皿となるSPCを設立します。

買収資金の調達はSPCが行いますが、買い手企業はSPCの出資者となるため調達資金の返済義務を負いません。

つまり、金融機関や投資ファンドなどからの借入金の返済は買収された企業が行いますので、買い手企業のリスクは自己資金である出資金の範囲内にとどまるというメリットがあるのです。

ただし、買収された企業が返済できなくなり民事再生法の適用会社となると、買い手企業も責任を問われる場合があります。

メリット3:買収金額が高い

LBOにおいては、一般的に通常の株価にプレミアムを上乗せした価格で株式の買取りが行われます。

つまり、買収対象企業やその株主は、通常の株取引で得ることができる以上の株式の売却益を得ることができるというメリットがあります。

ただし、LBOによって買収された企業の経営者は、実質的に経営権を失うことになり、短期間での急成長を求められるなど厳しい事業運営を求められることになります。

LBOを行うデメリット

買い手企業にも買収対象企業にも、LBOを行うことによるデメリットが考えられますので、代表的なものをご紹介します。

デメリット1:借入の金利が高い

LBOを行うデメリットの1つ目は、借入の金利が高いという点です。

LBOを行うにあたり、買い手企業はSPCを設立して金融機関や投資ファンドなどから借り入れを行いますが、LBOのために融資する際の金利は高く設定されます。

前述のようにLBOでは、借入金の返済は買収された企業が行いますので、これは買収対象企業にとってのデメリットになります。

金融機関や投資ファンドなどは融資が返済されなければ大損害を被ることになるリスクはありますが、通常よりも高い金利で融資をすることができますので、この点ではメリットとも言えます。

デメリット2:有利子負債が増加する

LBOを行うデメリットの2つ目は、有利子負債が増加するという点です。

少ない自己資金で大きな利益を得られるという点がLBOの特徴ですが、買収された企業が損失を出すと、買い手企業に実際以上の損失が生じることになります。

損失の金額が大きいため、さらに多額の有利子負債も返済していかなければならなくなります。

デメリット3:損失が出るとダメージが大きい

LBOを行うデメリットの3つ目は、損失が出るとダメージが大きいという点です。

前項の有利子負債の増加に伴って、損益としては税引き後の金利分の負担が増加しますし、キャッシュフローとしては返済額分の負担が増加することになります。

このように、損失が出るとそのダメージが大きく、企業の安全性や健全性に支障が出ることがあります。

LBOを実施する際の流れ

LBOを実施する際の一般的な手順は次のとおりとなっています。

手順1:SPC(特別目的会社)を設立する

まず、LBOの買い手企業はSPC(特別目的会社)を設立します。

金融機関や投資ファンドなどからの買収資金の調達はこのSPCが行い、買い手企業はSPCに出資する形を取ります。

手順2:SPCが投資ファンドや金融機関から資金を調達する

次に、設立されたSPCは、金融機関や投資ファンドなどから買収資金を資金調達します。

この際、SPCは返済に充てられる資産を保有していないため、買い手企業の資産や将来のキャッシュフローなどを担保とします。

LBOのための融資の金利は高めに設定されることが多いのですが、金融機関や投資ファンドなどとしては融資が返済されなければ大損失を被りますので、買収対象企業の資産や収益力について詳しく調査します。

PEファンドとは?

LBOにおいて、SPCの資金調達先としてPEファンドが利用されることがあります。

このPEファンドとは、「プライベート・エクイティ・ファンド(Private Equity Fund)」のことで、「未公開株式(プライベート・エクイティ)」を運用して利益を得るファンドのことです。

PEファンドの目的は、未公開株式を出資の形で取得して資金提供や経営参画などによって企業価値、即ち株式の価値を高めたうえで、取得費よりも高く売却してキャピタルゲインを得ることです。

PEファンドには、「ベンチャーキャピタル」「バイアウトファンド」「事業再生ファンド」「ディストレスファンド」などの種類がありますが、LBOに関与するのは「バイアウトファンド」です。

バイアウトファンドは、投資家から集めた資金をもとにある程度軌道に乗って十分なキャッシュフローを生み出している未公開企業の過半数以上の株式を取得し、積極的に経営に関与して企業価値の向上を図ります。

手順3:SPCが対象企業を買収する

買収資金が調達できたら、SPCが買収対象企業を買収しますが、一般的には100%の株式取得を目指します。

100%の株式取得が完了すると、SPCが親会社、買収された企業は完全子会社となり、この時点では、SPCは多額の債務と買収された企業の株式を保有していることになります。

SPCは100%の株式取得を目指しますが、その際に株式の売却に応じない少数株主に対して「スクイーズアウト(強制取得手続き)」を行うことがあります。

スクイーズアウトの方法としては、「株式等売渡請求を用いた手法」「株式併合」「全部取得条項付種類株式」「株式交換の応用」が考えられます。

手順4:SPCと対象企業を合併する

最後に、SPCと買収された企業が合併しますが、このときにSPCは消滅会社、買収された企業は存続会社となります。

これによって、多額の債務は買収された企業に移り、金融機関や投資ファンドなどへの返済は買収された企業が行うことになります。

過去に行われたLBO事例

ここでは、過去に行われたLBOの事例を紹介します。

LBOの成功事例

まず、LBOの成功事例を2件紹介します。

ソフトバンクがボーダフォン日本法人を買収した事例

LBOの成功事例として有名なのは、2006年3月の「ソフトバンク株式会社」による「Vodafone Group Plc(ボーダフォン・グループ)」の日本法人「ボーダフォン株式会社」の買収です。

当時ソフトバンクは、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)やFTTH(Fiber To The Home)事業で一定の成果を挙げていた時期で、携帯電話市場への参入を狙っていました。

この買収によって、ソフトバンクは、全国に1,800店舗あるボーダフォンショップ、携帯電話のインフラ設備、携帯電話に精通した人材、携帯電話1,500万回線、ブランドなどを手に入れることができ、携帯電話市場への進出を果たし、NTTグループやKDDIと並ぶ総合通信事業者になりました。

買収金額1兆7,500億円の内訳は、ソフトバンクの出資が2000億円、ヤフーの出資が1200億円、残りはボーダフォン株式会社の受け皿となる子会社がLBOで金融機関などから借入れた1兆1000-2000億円でした。

アルベマール・ペーパー・マニュファクチャリング・カンパニーがエチルコーポレーションを買収した事例

米国におけるLBOの成功事例としては、1962年に「アルベマール・ペーパー・マニュファクチャリング・カンパニー」が「エチルコーポレーション」を買収した事例があります。

アルベマール・ペーパー・マニュファクチャリング・カンパニーが調達した買収資金は2億米ドルにのぼり、これは当時としては過去最大のLBO案件でした。

燃料添加剤メーカーのエチルコーポレーションは、アルベマールの約13倍もの規模の会社でしたが、買収は成功しました。

LBOの失敗事例

LBOには失敗事例もありますので、その中から2件紹介します。

ダイセンビルディングがさとうべネックを買収した事例

2006年8月、大分市の建設会社「株式会社さとうべネック」は金融機関に債務免除を要請し、整理回収機構である投資ファンド「ネクスト・キャピタル・パートナーズ」傘下で経営再建を進めることになりました。

その後、2011月6月期には売上高103億円、経常利益2億円、現預金20億円を保有する状態まで経営回復していました。

しかし、2012年福岡市の「ダイセンビルディング株式会社」が「ダイセンホールディングス株式会社」を設立して「SBIキャピタル株式会社」から買収資金を借入れてさとうべネックに対するLBOを行いました。

さとうベネックの資産を担保にして13億円の買収資金を調達したもので、さとうベネックはダイセンホールディングスの100%子会社となりました。

このLBOにより、ネクスト・キャピタル・パートナーズは売却益を得ましたが、さとうべネックは急激な資金繰りの悪化により借入金を返済することができず8か月後に倒産しました。

企業再生の見本とも言われたさとうべネックでしたが、負債(借入金)が買収された企業に移転するというLBOのリスクが表面化した事例の一つと言われています。

TRGキャピタルとLGPがJ.クルーを買収した事例

2010年11月、米国カジュアル衣料大手の「Jクルー・グループ」は、米国投資ファンドの「TPGキャピタル」と「LGP(Leonard Green & Partners)」によってLBOによって買収されました。

買収額は約30億ドル(約2500億円)、1株当たりの株価は前日比16%のプレミアムを上乗せした43.50ドルでした。

その後、2020年に新型コロナウイルスの流行により約500店が閉店となり、2020年5月に米連邦倒産法第11条(日本の民事再生法に該当する)の適用を申請して経営破綻しました。

しかし、背景にはLBOによる約30億ドルの負債を抱えることになったため累積負債が膨らんだことやデジタル戦略の遅れなどがあり、これにコロナウィルスの影響がさらなる拍車をかけたものと言われています。

LBOは一見リスクが小さい手法だがデメリットも多い!様々な観点から慎重に検討することが大切!

この記事では、M&A手法の一つのLBOについて詳しく解説しました。

LBOの仕組みでは、買い手企業は買収の受け皿となるSPCを利用して、買収資金を調達するため返済義務を負いません。

つまり、金融機関などからの融資は自社としては負わない「ノンリコースローン(非遡及型融資)」となりますので、買い手企業のリスクは一見小さいように見えます。 しかし、本文中で紹介したようなデメリットや失敗事例などもありますので、実際にLBOを行う際には様々な観点から慎重に検討することが重要だと考えられます。

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