【投稿日】 2022年7月29日 【最終更新日】 2022年8月26日
M&Aにおいて人事・労務デューデリジェンスは、他の法務デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンスとともに、重要な役割を担っています。
なぜなら、買収後に、未払賃金や助成金の不正受給などの見えない負債が見つかると、会社は大変な損害を被ることになり、取締役はその責任を問われるからです。
このようなリスクを軽減するためにも、人事・労務デューデリジェンスは、M&Aを実施する上で、大変重要な役割を果たすのです。
また、M&Aを実施すると、どうしても従業員の退職リスクが発生するため、経営統合後の企業価値を維持・向上するためには、事前の人事・労務デューデリジェンスが欠かせないことになります。
M&Aにおけるトラブルの85%以上は、人事・労務分野のトラブルと言われています。
人事・労務の問題は数字に表れにくいので、発見が遅れるのです。
したがって、M&Aにおいては、人事・労務デューデリジェンスを徹底することが、M&A成功のカギとも言えるでしょう。
この人事・労務デューデリジェンスを担当するのが、社会保険労務士です。
本記事では、人事・労務デューデリジェンスを社会保険労務士に依頼する必要性と、その報酬相場、そして、M&Aに精通した社会保険労務士の選び方についてお伝えしていきます。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
人事・労務デューデリジェンスの内容
この項では、人事・労務デューデリジェンスの内容を、人事を労務に分けてお伝えします。
人事デューデリジェンスの内容
人事デューデリジェンスの内容は、以下のような人に係る定性的な項目の評価です。
- 労働規制の遵守度合
- 人事制度・就業規則
- 労働保険・社会保険
- 労働時間・休暇制度
- 人事制度
- 賃金制度・退職金制度
- 等級制度・評価制度
- 賃金規定
- 人件費・昇給金額・人件費推移
- 社内人事契約書
- 労使協定
- 雇用
- 年齢構成
- 組織風土
- 採用活動
- 退職事由
- 退職率
- ハラスメント
- 懲戒処分
- 法定外福利厚生制度
- リテンション
- 安全衛生管理
労務デューデリジェンスの内容
労務デューデリジェンスの内容は、以下のような人に係る定量的な項目の評価です。
- 就業規則や労使協定などの整備・運用状況
- 残業手当などの未払い賃金や未払い退職金の有無
- 年次有給休暇の取得状況
- 社会保険の未加入等の労働関係に由来する潜在債務の存否
- 簿外債務の存否
- 想定外の出来事が生じることに伴い顕在化する偶発債務の存否
- 労使間でのトラブルの有無
- 労働災害の有無
- 労働安全衛生管理体制
- 労働基準監督署からの是正勧告及び指導の有無、対応状況
人事・労務デューデリジェンスにおける社会保険労務士の必要性
前項で見たように、人事・労務デューデリジェンスの項目は非常に多くなっています。
そのため、人事・労務デューデリジェンスには、会社の人事担当だけでなく、外部の専門家の手が必要です。
人事・労務デューデリジェンスにおける専門家とは、社会保険労務士です。
この項では、人事・労務デューデリジェンスにおける社会保険労務士の必要性をお伝えします。
リスクの正確な調査の必要性
人事・労務デューデリジェンスでは、売却側企業のリスクの正確な調査が必要です。
売却側企業のリスクとは、主に以下の二つです。
簿外債務 | ・未払い賃金・残業代は発生していないか ・最低賃金は下回っていないか ・退職金制度の内容や支給基準において退職金給付債務はないか、積立金はあるか ・変形労働の運用は適法か ・社会保険・労働保険関係の社会保険事務にミスはないか ・未払いの社会保険料はないか、社会保険に未加入の社員はいないか ・障害者雇用の納付金は正しいか ・買収前に助成金を不正受給していないか |
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偶発債務 | ・労働時間の記録は適正か(違法な切り捨て実態、サービス残業・過重労働はないか) 管理監督者の該当性はどうか(名ばかりでないか、選択にリスクはないか) ・取締役の労働者性はどうか(経営に参与しているか) ・「解雇」係争化しそうな事案はないか ・労災事故のトラブルはないか ・実質無期雇用化している契約社員やパートタイマーはいないか ・高年齢雇用安定措置は適正か ・契約社員の同一労働同一賃金でのリスクはあるか |
こういったリスクをあらかじめ正確に把握していないと、買収後に多大な損害を被ることも考えられます。
特に、現在では、労務トラブルが社会問題化する傾向があり、その影響は企業ブランドや企業価値にとって無視できない状況となってきました。
したがって、社会保険労務士の専門的な観点から、リスクを正確に把握することが重要と言えるでしょう。
専門的な知識の必要性
こういったリスクの洗い出しや把握には、たくさんの法律に関する知識や、社会保険に関する知識が必要となります。
企業の人事担当者は、なかなかそこまでの知識を持ち合わせていないでしょう。
また、社会保険労務士事務所によっては、独自の査定システムを有しているところもあり、その専門的な知識による調査・査定がM&Aの成功の可否を決めると言っても過言ではありません。
したがって、専門的な知識を持った社会保険労務士に相談することは、M&Aにおける人事・労務デューデリジェンスでは必須と言えるでしょう。
業務量の多さ
先に挙げたように、人事・労務デューデリジェンスにおける調査項目は、非常に多岐にわたり、業務量の多さとそれにかかる時間の多さは筆舌に尽くしがたいものがあります。
これを、会社の人事担当者がやろうと思ったら、時間がいくらあっても足りません。
したがって、この業務を、普段からこうした業務に慣れている外部の専門家=社会保険労務士にアウトソーシングすることで、会社の人事担当者の業務量は飛躍的に改善します。
社会保険労務士の報酬相場
前項で、M&Aにおける人事・労務デューデリジェンスにおいて、社会保険労務士に依頼することの必要性を見てきました。
それでは、実際に人事・労務デューデリジェンスを社会保険労務士に依頼すると、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。
ここでは、デューデリジェンスの費用の決め方から社会保険労務士費用の内訳、そして費用相場について見ていきます。
人事デューデリジェンスの費用の決め方
人事デューデリジェンスの費用の決め方は様々な方法がありますが、一般的には、以下の3つの方法が多いです。
タイムチャージ式
1時間あたりの単価を設定し、そこに実際にかかった時間を乗じることで、報酬を算定します。
見積もりの段階で、大まかな時間を提示することで、見積額が出されますが、場合によっては、時間を超過することで、見積額より高くなることがあります。
逆に、見積時間に到達しないことで、見積額より安くなることもあるでしょう。
日数計算
期間にかかる日数を算出するし、その日数をベースに報酬を決める方法です。
デューデリジェンスは、対象企業の規模にもよりますが、2週間から2ヶ月ほどかかることが多いので、その範囲内で日数を算出し、見積額が提示されます。
一定時間(または日数)までは固定報酬で、その後はチャージ式
タイムチャージと日数計算のハイブリッド形式です。
一定時間や日数までは固定としており、もし追加で作業が必要な状況が生じた場合は、追加でチャージすることを定めています。
社会保険労務士費用の3つの内訳
社会保険労務士に依頼した際の費用は、その社労士や事務所によってかなり異なります。
その理由は、社労士事務所が自由に料金体系を設定できるためです。
金額は、主に次の3つの要因によって変動します。
- 従業員の人数
- 調査の範囲
- 対応にかかった手間・時間
従業員の人数が増えれば、対応に手間がかかるため、その分費用がかかります。
また、人事・労務デューデリジェンスの調査範囲をどれくらいにするかでも、かなりの額が変動します。
そのため、人事・労務デューデリジェンスを社会保険労務士に依頼する際には、何をどこまで調査してほしいかを明確にしておくといいでしょう。
人事・労務デューデリジェンスにおける社労士の費用相場
M&Aにおける人事・労務デューデリジェンスにおいての社会保険労務士の費用相場は、80万円~300万円程度とされています。
これは、タイムチャージ式でいくと、1人1時間あたり2万円~10万円となります。
日数計算でいくと、1人1日あたり12万円~50万円くらいとなるでしょう。
費用の幅は、社労士事務所の規模や社労士の専門性、売却側企業の規模・従業員の人数、調査の範囲や業務量によるものです。
また、基本報酬33万円+(調査対象人数×3,300円×調査月数)としている事務所もありました。
ただし、デューデリジェンスにかかる社会保険労務士の費用は高くなる傾向にあります。
これは、単発の仕事で、かつ短納期が多いためです。
顧問契約等の長期的な仕事であれば、クライアントのキャッチアップの時間も長めにとれます。
また、専門家としてリスクに対して対応を取ることが可能なことも増えるでしょう。
しかし、デューデリジェンスの場合は、短時間でインプットをして、報告書のアウトプットまで仕上げる必要があります。
また、リスクも高くなるために、単価が高くなる傾向があるのです。
M&Aに精通した社会保険労務士の選び方
せっかく人事・労務デューデリジェンスを社会保険労務士に依頼するなら、M&Aに精通した社会保険労務士を選びたいものです。
この項では、M&Aに精通した社会保険労務士の選び方をお伝えしていきます。
M&Aの経験を積んでいるか
一つには、当たり前のことですが、その社会保険労務士や、社労士事務所がM&Aの経験を積んでいるかどうかです。
M&Aのデューデリジェンスは、専門的な知識ばかりでなく、経験が豊富でないとできないものです。
単発で短納期の仕事でもあるので、顧問契約やその他の仕事よりも難易度が高く、そういった業務に慣れていない社労士だと、時間ばかりかかってしまいます。
したがって、M&Aの経験が豊富で、人事・労務デューデリジェンスの業務に慣れている社会保険労務士や、社労士事務所に任せるようにしましょう。
社労士事務所がM&Aを強みにしているか
もう一つは、その社労士の所属する事務所自体が、M&Aを強みにしているかどうかです。
社労士事務所自体がM&Aを強みにしているということは、その事務所に、M&Aの経験が豊富な社労士が複数所属しているということです。
社労士事務所によっては、複数の社労士がチームになって業務にあたってくれるところもあるため、ここは重要です。
複数で業務にあたってくれると、人件費はかかりますが、日数は圧倒的に少なくなるため、特に急ぎのデューデリジェンスを必要としている会社にとっては有り難いでしょう。
担当社労士との相性の良さはどうか
最後に、意外と重要なのが、会社の人事担当者と担当社労士との相性です。
社労士はたくさんいますが、人事・労務デューデリジェンスは、会社の人事担当者と社労士との連携が必須な業務です。
したがって、会社の人事担当者との相性が悪いと、連携が上手くいきません。
M&Aに精通した社会保険労務士であれば、会社の人事担当者とのやり取りにも慣れているので、その辺のコミュニケーションも上手く取ってくれるでしょう。
ただ、もし前項の条件を満たした社労士事務所を探して、面談に行っても、会社の人事担当者が「どうしてもここは嫌だ」といった場合には、他をあたった方がいいでしょう。
人事・労務デューデリジェンスには個別の専門調査が必要な場合もある
M&Aに精通した社会保険労務士の報酬相場や選び方をお伝えしてきました。
人事・労務デューデリジェンスは、基本的には社会保険労務士と会社の人事担当者との連携で行われますが、稀に、他の専門家の手を借りなければいけない場合があります。
それは、売却側企業の役員や社員の個別の履歴を調べたい場合などです。
例えば、犯罪歴や債務履歴、自己破産歴、反社会的勢力との繋がりなどを調べたい場合は、社会保険労務士では調べられません。
そういった場合は、企業調査や個人調査実績を多数持っている探偵事務所に依頼することをお勧めします。
探偵事務所であれば、そのような個人情報にアクセスすることができ、かつ内密に調査することが可能だからです。
買収後に反社会的勢力との繋がりが露見したりすれば、会社のブランドに傷がつくばかりか、取引先や融資先を失うことになりかねません。
したがって、人事・労務デューデリジェンスを行う際には、こういった個人情報も押さえておくのが賢明と言えるでしょう。
探偵事務所SATでは、こういったM&Aにおける人事・労務デューデリジェンスにおいて、役員や社員の過去の経歴や、反社会的勢力との繋がりなどに関する調査案件も承っております。
まずは、お気軽にご相談ください。
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