【投稿日】 2022年5月25日 【最終更新日】 2022年6月7日
投資目的などで不動産を購入する際には、対象不動産の状態やリスクを把握して購入可否を判断するための「不動産デューデリジェンス」を行います。
不動産デューデリジェンスの中で行う物理的調査の報告書のことを「エンジニアリングレポート(ER)」と言いますが、この記事ではこのエンジニアリングレポートについて詳しく解説するとともに、その作成依頼先や作成費用の相場についても説明します。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
エンジニアリングレポートとは?
不動産デューデリジェンスでは、「経済的調査」「物理的調査(技術的調査)」「法的調査」の3つの調査を行いますが、この中の「物理的調査」に関する調査報告書が「エンジニアリングレポート」です。
不動産の収益性は、立地条件や周辺環境の利便性だけではなく、不動産の物理的状況や不動産としての敷地や建物の性能、管理運営能力によるところも大きいため、物理的状況や物理的性能を技術的に評価したエンジニアリングレポートが重要となります。
エンジニアリングレポートは、一般的に「建物状況調査報告書」「建物環境リスク評価報告書」「土壌汚染リスク評価報告書」「地震リスク評価報告書」の4つの報告書から構成されています。
なお、「建物状況調査」を細分化すると「建物本体状況調査」「建物設備状況調査」「建物遵法性調査」「短期・長期修繕更新費用」「建物再調達価格」に分けることができますので、これらの報告書が分かれていることもあります。
それぞれの報告書の内容や調査事項については、次項にて詳しく解説します。
エンジニアリングレポートには、対象不動産の性能を評価して収益性に影響を及ぼす様々なリスクを明らかにしリスクを定量化するという役割がありますので、技術的見地から第三者の立場で調査を行い、エンジニアリングレポートを作成する必要があります。
対象不動産の収益性に影響を及ぼすリスクとしては、物理的な品質や性能の低下に伴う費用の発生、建築基準関係規定に関する遵法性、土壌汚染リスク、環境リスク、地震等の自然災害によるリスクなどがありますので、これらを調査して把握しリスクを定量化して報告することがエンジニアリングレポートの目的となります。
エンジニアリングレポートの内容、具体的な調査事項とは?
エンジニアリングレポートの内容としては、「建物本体状況調査」「建物設備状況調査」「建物遵法性調査」「短期・長期修繕更新費用算定」「建物再調達価格算定」「建物環境リスク調査」「土壌汚染リスク調査」「地震リスク調査」があります。
また、それぞれの具体的調査事項については、以下に順に説明します。
【1】建物本体の状況調査
建物本体の状況調査は、建物本体の重要な部位の利用状況や劣化状況、使用上の安全性に対するリスクの有無などについて、書類調査と現地調査により確認するもので、必要に応じて日常の保守状況や管理状況を管理者にヒアリングする場合もあります。
建物本体状況調査の主な調査箇所は次の通りで、建物の経過年数、修繕等の履歴の確認、危険個所の有無や状態、日常保守管理状況などについて目視調査を行います。
外構 | 通路、植栽、雨水排水、擁壁、門扉、屋外駐車場など |
---|---|
屋上 | 防水被覆、金物、ルーフドレーンなど |
外装 | シーリング、仕上げ、外部金物、鉄部など |
内装 | エントランス、廊下、エレベーター、WC、階段など |
躯体 | 柱、梁、床、壁、階段、機械室、EVシャフトなど |
【2】建物設備の状況調査
建物設備の状況調査は、建物本体と同様に建物設備の利用状況や劣化状況、使用上の安全性に対するリスクの有無などについて、書類調査と現地調査により確認するもので、必要に応じて設備管理者へのヒアリングも行います。
設備の経過年数、修理履歴の確認、故障個所の有無や状態、危険個所の有無や状態、日常保守管理状況などについて目視調査を行いますが、場合によっては実際に稼働させて正常に動作することを確認する場合もあります。
建物設備状況調査の主な調査箇所は次の通りです。
電気設備 | 受変電装置、照明、中央監視盤、空調屋外機器など |
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給排水設備 | 受水槽、高架水槽、ポンプ類、配管、厨房機器など |
空調設備 | 熱源機器、ポンプ類、空調機器、ダクトなど |
防災設備 | 避雷針、非常照明誘導灯、火災報知器、消火ポンプ、排煙設備、防煙カーテンなど |
搬送設備 | エレベーター籠、エレベーターシャフト、機械室、制御盤など |
【3】建物遵法性の調査
建物遵法性の調査は、書類調査と現地調査から建物の現状を把握し、建築確認検査の完了時点との相違、建築基準法や消防法・都市計画法などの建築基準関係規定に関する法違反・不適合の可能性の有無、法的に必要な手続きや届出が行われているかなどの遵法性を調査するものです。
調査に必要な書類としては、登記簿や公図、建物図面、建築確認通知書、検査済証、竣工図面、都市計画図、建築指導要綱などがあります。
特に、竣工後に増改築や大規模修繕、用途変更などを行った履歴がある場合は、現行法令に適合していないことが想定されるため慎重な調査が必要となります。
また、特殊建築物、エレベーター、電気・消防設備等に関する定期調査報告書は、見過ごされるケースが多いため注意が必要です。
関係法令についてはできる限り把握し調査することが望ましいのですが、どうしても不明な部分については忠実に事実記載を行うことを基本とします。
なお、2006年12月に施行されたバリアフリー新法に関しては、現状ではほとんどの調査対象建物が「既存不適格建築物」となってしまうため、将来の改装費が多額となる場合もあるので注意が必要です。
【4】短期・長期修繕更新費用の算定
短期・長期修繕更新費用の算定では、【1】~【3】の「建物本体状況調査」「建物設備状況調査」「建物遵法性調査」の調査結果から、建物・設備の劣化度、遵法状況を把握して、重要性や緊急度の観点から評価を行い、緊急に処置が必要な修繕項目と通常の修繕更新項目とに分けて費用の算定を行います。
エンジニアリングレポートにおける修繕更新費用は、対象不動産が一般的な機能を維持して安全に利用されることを前提として算出するもので、改修を目的とした費用ではありません。
修繕更新費用は、次のように「緊急を要する修繕更新費用」「短期修繕更新費用」と「長期修繕更新費用」に区分されます。
区分 | 内容 |
---|---|
緊急を要する修繕更新費用 | 主に、人命や安全に関わる事項、遵法性において明らかな違反事項など、直ちに修繕更新が必要な費用 |
短期修繕更新費用(1年以内) | 主に、日常的保守よりも優先的に修繕や部品交換が必要な不具合など、1年以内に修繕更新が必要な費用 |
長期修繕更新費用 | 経年劣化に対する修繕など、建物の適切な機能維持・安全のために修繕更新が必要な費用 |
なお、建物の修繕更新費用は、竣工後10年間程度は当初の性能が保持されるため大きな費用が生じない傾向がありますが、10年後以降は経年による大規模修繕等が想定されるため修繕更新費用が高額となることがあります。
【5】建物再調達価格の算定
建物再調達価格は、対象不動産と同一仕様・同一グレードの建築物を調査時点において建築するとどれだけのコストがかかるかという一般的な費用の総額で、主に地震リスク評価における予想最大損失額や長期修繕更新費用の算出に利用されます。
算定方法は坪当り価格のような概算ではなく、仮設、建築、電気、給排水、空調、EV、外構の各工事の直接工事費、間接工事費に一般管理費を加えて積算して算出します。
建物再調達価格の算定には、工事請負契約書(工事代金内訳書)、改修工事等の見積書、設計図書(竣工図書・改修図・現況図)、物価指数、資産区分に関する情報等が必要となります。
区分所有建物や複合施設等の場合は対象範囲を明確にする必要があり、外構や駐車場施設等についても対象かどうかを明確にする必要があります。
なお、建物再調達価格には、設計費、解体撤去費、移転引越費、近隣補償費などは含まれません。
【6】建物環境リスクの調査
建物環境リスクの調査は、建物を原因とする環境面のリスクや環境面の遵法性に関するリスクを調査するものです。
建物環境リスク調査の対象物質としては、アスベスト、PCB、仕上塗料、ラドン、オゾン層破壊物質(フロン・ハロンガス)、大気汚染(ばい煙等排出ガス)、危険物・特殊薬液貯蔵施設、空気環境、飲料水質、空気調和設備用水質(冷却塔、加湿機、空調機の衛生状況)、雑用水質、害虫・害獣防除、排水関係(雑排水槽、浄化槽等からの排水)、産業廃棄物、ラムサール条約で指定された湿地の15項目ですが、この中で主要な物質はアスベストとPCBです。
アスベストは、1975年以前の鉄骨造建物の耐火被覆として大量に使用された経緯があり、建物の劣化とともに飛散するリスクがあるため調査をします。
フェーズ1評価では、アスベストが含有しているか含有の可能性のある吹付材が人体へ与える影響の有無を、資料調査・現地調査・ヒアリング調査により把握し、フェーズ2評価では、アスベストが含有しているか含有の可能性のある吹付材のサンプリング・分析を行い、含有状況を確認し対策の要否を評価します。
PCBについては、1972年以前の建物の変圧器やコンデンサの絶縁油に使用されているため受変電装置内の機器を調査しますが、その後は代替物質に切り替えられています。
フェーズ1評価では、PCBが含有しているか含有の可能性のある建築仕上げ・建築設備などの使用・保管に伴うリスクの有無を、資料調査・現地調査・ヒアリング調査により把握します。
オゾン層破壊ガス(フロン・ハロンガス)、大気汚染(ばい煙等排出ガス)、危険物・特殊薬液等貯蔵施設、排水関係(雑排水槽、浄化槽等からの排水)については、建物内または建物外へ排出する危険物や有害物質の有無を把握し、その使用・保管・点検状況によって、建物使用者への健康影響の可能性や周辺への拡散防止、危険性などについて評価します。
空気環境、飲料水質、空気調和設備用水質(冷却塔、加湿機、空調機の衛生状況) 、雑用水質、害虫・害獣防除については、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法)」で定められた測定・点検・清掃の記録を、関連する規準と照合して衛生的な環境の確保が図られているかを評価します。
産業廃棄物については、建物からの廃棄物の有無を把握し、廃棄物の保管状況とマニフェストによって、排出されるまで適正に保管されて処分場で適正に処分されているかを評価します。
建物環境リスク調査は、フェーズ1~3に分かれていますが、エンジニアリングレポートでは一般的にフェーズ1を実施します。
【7】土壌汚染リスクの調査
土壌汚染リスクの調査は、対象不動産の敷地について、過去から現在までの土地利用の状況を調べて土壌や地下水の汚染の有無について調査するものです。
地歴調査では、過去少なくとも40~50年以前に遡って利用履歴を調査して、汚染物質を取り扱う施設があった形跡の有無を調査します。
フェーズ1評価では、土地利用履歴、現在の土地利用状況、地形・地質・地下水に関する情報、周辺環境情報及び環境に関わる規制情報などについて、既存情報(文献や資料など)の確認、現地調査、ヒアリング調査、各種管理文書・記録の調査などによって確認し、土壌汚染の可能性を評価します。
フェーズ2評価では、フェーズ1評価で認められた結果に対して、土壌汚染の有無を確認するために、現地で土壌ガス調査、表層土壌調査、ボーリング調査などを行います。
もし、汚染が確認された場合は、汚染箇所のサンプリング頻度を増やして、その汚染の水平方向や深度方向の分布状況を確認します。
土壌汚染リスク調査は、フェーズ1~3に分かれていますが、エンジニアリングレポートでは一般的にフェーズ1を実施します。
【8】地震リスクの評価
地震リスクの評価は、地震による対象不動産の経済的な損失をPML(Probable Maximum Loss)で評価します。
不動産関係で利用されているPMLとは「今後50年間に超過確率が10%となる地震動が発生し、その場合の90%非超過確率に相当する物的損害額の再調達価格に対する割合」のことです。
簡単に言うと「今後発生すると予想される地震による最大の物的損失額の再調達価格に対する割合」ということになります。
一般的に、1981年以降の新耐震設計法に基づく建物のPMLは10~20%程度ですが、1981年以前の旧建築基準法による建物のPMLは20%以上の値となることが多いようです。
PMLについては、一般社団法人日本建築学会では3つの定義があるとされており、エンジニアリングレポートではどの定義に基づく評価であるかをレポートに明記することとなっています。
なお、地震リスク評価は地震による経済的損失を予測することを目的とする評価ですので、対象とする建物の構造設計が建築基準法などの耐震規定に適合しているかどうかを判断するものではありません。
エンジニアリングレポートの作成はどこに依頼できる?
これまでの説明からもわかるように、エンジニアリングレポートの作成には、不動産に関する知識はもちろん環境リスクや地震リスクに関する高度な技術的専門性が必要となります。
したがって、不動産鑑定士や不動産鑑定士が在籍してエンジニアリングレポートの作成を請け負っている法人などに依頼する必要があります。
ただし、エンジニアリングレポートを作成するために必要とされる資格はありませんので、エンジニアリングレポート作成自体は誰でも可能だということになりますが、エンジニアリングレポートは不動産取引における重要な判断資料となるわけですから、実績のある信頼のおける不動産鑑定士などに依頼することが必要です。
エンジニアリングレポートの費用相場
エンジニアリングレポートの作成費用は、対象不動産の築年数・規模・用途あるいは立地場所等の条件により大きく異なりケースバイケースとなりますので、依頼先に見積もりを取ることが必要です。
しかしながら、一般的な目安としては数10万~100万円程度で、平均的には50万円程度となるようです。
なお、不動産の規模が大きくなったり、調査事項が多くなるような場合は100万円以上になることもあります。
エンジニアリングレポートはあくまで指標の1つであり、100%のリスクヘッジにはならない!
これまでに、不動産デューデリジェンスにおいて非常に重要な位置づけを占めるエンジニアリングレポートの詳細な内容や作成依頼先、作成費用の相場について説明してきました。
エンジニアリングレポートは、第三者による物理的調査に基づいていますので、将来の修繕更新費用や環境リスク、土壌汚染リスク、地震リスクなどを客観的に把握することができ、これによって対象不動産の収益性を判断することができるようになります。
しかしながら、不動産の収益性に影響を与える要因として、建物の心理的瑕疵の有無や内容、反社会的勢力の事務所が過去にあったなどという入居者やテナントの履歴、周辺環境にかかわる問題の有無や内容などがあることが分かっており、現にトラブルが発生している事例もあります。
つまり、エンジニアリングレポートだけでは、不動産購入に対する100%のリスクヘッジにはならないということなのです。
エンジニアリングレポート以外の建物の実態調査は探偵事務所SATに!
前述のような、建物の心理的瑕疵の有無や内容、過去の入居者やテナントの履歴、周辺環境にかかわる問題の有無や内容など、エンジニアリングレポートには出てこない建物の実態調査は、探偵事務所で依頼することが可能です。
エンジニアリングレポート以外の建物の実態調査は探偵事務所SATに依頼してはいかがでしょうか!
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