【投稿日】 2021年12月22日 【最終更新日】 2022年1月10日

少子高齢化による人口の減少により、国内の企業の成長が停滞している状況が続いている日本では、企業の買収が毎年増加して行っています。

日本国内の企業は国内に依存している企業が多く、これからの時代を生き抜くには企業のグローバル化が必要不可欠です。

企業のグローバル化を迅速に行うには企業の買収も選択肢の一つになってきます。

中小企業では後継者の不足が深刻になっていて、企業のサービスを残すために企業の買収をする場合も多くなってきています。

また、2021年現在は新型コロナウイルスが原因で企業の経営を続けられず、別の企業に買収される場合も多くなってきています。

今回は企業買収について基本的な知識から、メリット、デメリット、全体の流れなどについて詳しく解説していきます。

そもそも企業買収とはM&A手法の1つ!

企業の買収とは、買収した企業のサービスなどの経営権を取得することです。

企業の買収を行うことで、企業の拡大や新たなサービスの展開などをスピーディーに行えます。

また、企業を買収するだけではなく合併することで、企業の拡大や新たなサービスの展開などをすることでスピーディーに行えます。

このような企業の買収や合併のことをM&Aといいます。

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略で「Mergers」が合併で「Acquisitions」が買収を意味しており、M&Aは「会社の合併と買収のこと」です。

日本の企業ではM&Aが2017年頃から増加傾向にあります。

「M&Aでの企業の買収と合併は何が違うの?」と思う方も多いと思いますので、買収と合併の違いについて詳しく解説して行きます。

買収と合併の違い

まずは、「買収」から解説します。

買収とは、他社から株式や経営権、サービスの一部を買取り自社企業のものにするM&Aの手法の一つです。

このM&A手法の買収は細かく分けることができ、他社の経営権を買収することを「企業買収」と呼び、他社のサービスの一部を買収することを「事業買収」と呼びます。

買収と似ている意味を持つ「合併」は、複数の企業を一つの企業にまとめるM&Aの手法で、買収とは異なります。

合併というM&A手法も細かく分けることができ、「吸収合併」と「新設合併」に分けられます。

この2つの合併について詳しく解説して行きます。

まずは、「吸収合併」から解説します。

吸収合併

吸収合併は会社法第2条27号にて、吸収合併 会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるもの」と定義されています。

つまり吸収合併とは、吸収される一方の企業の法人としての権利能力を残し、もう一方の企業の法人としての権利能力を消滅させ、その企業の資産や権利義務の全てを存続する企業が一括して承継する合併方法です。

一般的には資本が大きい大企業が資本の小さい中小企業を吸収合併したり、親会社が子会社を吸収合併していますが、まれに逆の場合もあります。

吸収合併とはかんたんに言うと、存続する企業が存続しない企業を取り込むということになります。

また、吸収合併の恐ろしいところは、吸収された企業の社員がリストラされる可能性が高いことです。

なぜかというと、吸収合併をした企業はあくまでも「吸収した企業の製品やサービス」が目的なので、能力が低いと判断された場合は人件費を払えないのでリストラされてしまいます。

新設合併

もう一つの合併の方法が新設合併です。

新設合併は会社法第2条28号にて、新設合併を「2つ以上の会社が行う合併であり、合併によって消滅する会社の権利義務のすべてを合併に際して設立する会社に承継させるもの」と定義されています。

つまり新設合併とは、新たな会社を設立した上で行われ、新たに設立された会社に合併される企業の持っていた資本や法人としての権利義務を全て承継する方法です。

新設合併をかんたんに言うと、いろいろな会社のノウハウなどを新しく設立した会社に取り入れることです。

これを見て「新設合併って何であるの?」と思っている方もいると思います。

新設合併は組織の再編を目的としており、今までの組織を見直すことでコストの削減や仕事の効率化をはかり企業の生産性を上げるために行われます。

企業買収は2つのケースに分けられる!

先ほどは企業買収がM&Aの手法であり、企業合併というものも存在し、企業合併には「吸収合併」と「新設合併」の2種類があることを解説しました。

ここでは、企業買収の2つのケースについて解説します。

企業買収は「敵対的買収」と「友好的買収」の2種類のケースに分けられます。

それぞれがM&Aの戦略の一つであり、特徴があるので解説して行きます。

まずは、「敵対的買収」から解説します。

敵対的買収

敵対的買収とは、買収をする企業が買収をされる企業の合意がない状態で、企業買収をすることを言います。

なぜ、「敵対的」という言葉が用いられるのかというと、買収される企業は交渉などが何もない状態で一方的に買収されるからです。

このように敵対的買収はネガティブな印象が強く、買収された企業は「実質的に支配される」状態になってしまいます。

敵対的買収は基本的に「TOB」と呼ばれる方法で行われます。

TOBとは「Take Over Bit」の略で金商法27条の2第6項によると、TOBとは「不特定かつ多数の者に対して、公告により株式の買付けまたは売付け等の申し込みに関する勧誘を行い、市場の外で株式の買い付け等を行うことをいう」となっています。

つまり、株式公開買付という、買収する企業が買収される企業の株式を証券取引所を通さずに不特定多数の株主から買い集め発行済み株式総数を50%越をする方法で、買収した企業を実質的に支配します。

敵対的買収は買収した企業を支配するので、必要がないと判断された従業員はリストラをされる場合が多いです。

友好的買収

友好的買収とは、買収をする企業が買収をされる企業の合意を得た状態で、企業買収をする方法です。

友好的買収の場合は先ほど紹介した敵対的買収とは違い、買収される企業が合意をした状態なのでポジティブな印象が強く、「シナジー効果」見込める場合が多いです。

シナジー効果はこの後の企業買収のメリットで解説しています。

また、友好的買収で企業買収を行った場合は、買収される企業の従業員の雇用やサービスなどが守られるのでリストラなどの心配が少ないです。

日本での企業買収は敵対的買収よりも友好的買収のほうが多いといわれています。

企業買収をする主な目的とは?

ここまで企業買収について解説してきましたが「企業買収する目的って何?」と思う方もいると思います。

そこでここでは、企業買収をする主な目的を3種類紹介します。

  • 経営資源の獲得
  • 組織の再編
  • 節税

まずは、「経営資源の獲得」から紹介します。

<1>経営資源の獲得

企業買収の最も多い目的が「経営資源の獲得」です。

企業買収で買収した企業から経営権やサービスを買収すれば、サービスを提供するための設備などの目に見える資源と優秀な人材やサービスを提供するノウハウなどの目に見えない資源を含めたあらゆる経営資源を獲得できます。

また、経営資源は新規サービスの立ち上げや今あるサービスの拡大などには不可欠なものです。

その経営資源を一から作り上げるには多大な時間や費用がかかります。

ですが、企業買収をすることで多大な時間や費用を購入することに繋がるので、サービスを大きく広げたい大企業などは企業買収を行って「経営資源の獲得」をしています。

<2>組織の再編

2つ目の目的は「組織の再編」です。

企業買収で買収した企業の優秀な人材を雇うことで生産性が向上し、企業の興行収入も比例し向上します。

そのため企業買収をした後、優秀な人材を組み合わせて組織を再編成することで企業の成長に繋がります。

<3>節税

企業買収の3つ目の目的は株式譲渡の際にかかる税金の「節税」です。

通常、株式譲渡をすると合計金額の20%が所得税と住民税で差し引かれてしまいますが、対価の一部を「役員退職金」として受け取る場合、節税をすることができます。

役員退職金の場合は、退職所得控除を利用できることに加え、所得を半分にして計算する制度も利用できます。

株式譲渡の合計金額によっては数十万から数百万円の節税に繋がります。

企業買収のメリット

先ほどは企業買収の目的を紹介しました。

ここでは、企業買収のメリットを紹介します。

企業買収のメリットは大きく分けて5つあります。

  • 既存事業の拡充
  • 新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ
  • シナジー効果
  • コスト削減
  • 競合他社の排除

一つずつ紹介します。

メリット1:既存事業の拡充

企業買収を行うことで企業の「既存事業の拡充」に繋がります。

企業の一番の目的は利益をどれだけ出せるかです。

そのため利益を上げるためには事業を拡充して行く必要があります。

しかし、通常の方法で事業を拡充しようとすると莫大な時間と費用がかかりますが、企業買収では時間をかけずに事業の拡充ができます。

このことから、企業買収によって時間と費用をかけずに既存事業の拡充ができることが分かります。

「既存事業の拡充」を狙った企業買収事例を見てみましょう。

既存事業の拡充を狙った企業買収事例1:マツモトキヨシによるココカラファインの買収

2021年10月1日にドラッグストア業界6位のマツモトキヨシホールディングスが同業界7位のココカラファインを企業買収し、マツキヨココカラ&カンパニーが発足しました。

マツモトキヨシのココカラファインの企業買収によって発足した、マツキヨココカラ&カンパニーの売上高は9200億円を超えました。

マツモトキヨシのココカラファインの企業買収によって同業界1位のウエルシアホールディングスに次ぐ2位の売り上げになりました。

マツモトキヨシのココカラファインの企業買収によって発足したマツキヨココカラ&カンパニーは2026年に売上高1兆5000億円という高い目標を掲げています。

ドラッグストア業界は企業買収が活発で企業再編が激しい業界のひとつです。

なぜ、かつてドラッグストア業界の売り上げがトップだったマツモトキヨシは、ココカラファインの企業買収を行ったのかというと、ドラッグストア業界は8兆円を超える有望な市場の一つだからです。

日本チェーンドラッグストア協会による2020年のドラッグストア業界の市場規模の売り上げは前年に比べ4.6%増えて8兆363億円となりました。

ドラッグストア業界の市場の売り上げは年を重ねるごとに増加しており、2020年にはドラッグストア業界の市場規模の売り上げが8兆円を超えました。

売り上げをカテゴリー別にみるとマスクなどのホームケア部門が前年に比らべ7.9%増えて1兆7454億円の売り上げでした。

これは、新型コロナウイルスの影響でマスクなどの感染対策用品の売り上げが上がったことの恩恵を受けています。

また、調剤やヘルスケアの商品の売り上げは前年に比らべて5.7%増えて2兆5338億円となりました。

一方、化粧品などの売り上げは前年に比らべ0.4%減り1兆5603億円の売り上げになりました。

これは、新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言で外出制限がだされたことにより化粧品などの需要が縮小したことが原因の一つです。

マツモトキヨシのココカラファインの企業買収は、3つの要因が影響しています。

1つ目の要因は、ドラッグストア業界の市場が拡大していること。

2つ目はドラッグストア業界の規模拡大において企業買収が有効であること。

3つ目は新型コロナウイルスの影響で化粧品の需要が減り、売り上げが落ち込んだことです。

ドラッグストア業界のトップを走るウエルシアは2021年2月期の売り上げが9496億5200万円です。

マツモトキヨシの2021年3月期の売り上げが5569億700万円で、ウエルシアとマツモトキヨシで売上の差が1.7倍になりました。

これによりマツモトキヨシはココカラファインの企業買収を行い「既存事業の拡充」を狙い、ドラッグストア業界の売り上げ2位にのぼりつめました。

マツモトキヨシは同じ業界の企業買収をして「既存事業の拡充」を成功させています。

メリット2:新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ

企業買収の2つ目のメリットは「新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ」です。

先ほど紹介した既存事業の拡充には限界があります。

そこで企業が利益を向上させるためには「新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ」が必要不可欠になってきます。

一から新規事業、新商品・新サービスの立ち上げをするには、先ほど紹介した既存事業の拡充よりもさらに多くの時間と費用がかかってしまいます。

ですが、企業買収を行うことで無駄な時間と費用をかけずに「新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ」をすることができます。

なぜかというと、企業買収で買収した企業の事業や商品・サービスのノウハウや営業基盤などを一瞬で手に入れることができるので、「新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ」に繋げることができます。

「新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ」を狙った企業買収事例を見ていきましょう。

新規事業立ち上げを狙った企業買収事例1:マネックスグループによるコインチェックの買収

マネックスは「新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ」を狙いコインチェックを企業買収しました。

マネックスグループの社長によれば、コインチェックを買収した理由は5つあるとのこと。

  • 仮想通貨は世界中でトレードされており、ボラティリティーも高いためトレーディング対象として魅力的だった
  • 仮想通貨の時価総額は40~50兆円ほどあるため、新たな資産として良いため
  • 国際間送金などペイメントの手段になるため
  • ビジネスとして収益性が高いので利益が上げられると考えた
  • ①仮想通貨は世界中でトレードされており、ボラティリティーも高いためトレーディング対象として魅力的だった ②仮想通貨の時価総額は40~50兆円ほどあるため、新たな資産として良いため ③国際間送金などペイメントの手段になるため ④ビジネスとして収益性が高いので利益が上げられると考えた ⑤仮想通貨の分野はこれからイノベーション起きるから

マネックスがコインチェックを買収した理由の中でも最後の「これからイノベーションが起きる」が

最も大切だとマネックスの社長は言っていました。

実際に現在2021年は暗号資産などのブームが急激に盛んになり、マネックスの社長が言っていたようにイノベーションが起きています。

しかし、仮想通貨が暗号資産と呼ばれる前はさまざまな規制があり、まともに取引ができない国もありました。

ですが、仮想通貨の取引をする世界中の優秀なプレイヤーたちのアイデアがまとまることで、イノベーションが起き、最終的には規制自体を変えることにもつながりました。

マネックスの社長は「仮想通貨の世界は、完全にグローバルなマーケット。優秀な学者や欲深いトレーダー、あるいは悪い人も含めて世界中からそういう人たちが集まってくる。そういった人たちがギリギリの競い合いをすることでイノベーションが生まれる」と、言っており「そのイノベーションが起きるのは、先ほど言ったトレーディングや資産クラス、決済手段とは違うところかもしれない」と予測しきれない部分もあると言っていました。

また、それを知っている上で、「仮想通貨に関わっていなければその果実を手にすることもできない。(そんなイノベーションが起こりうる)グローバルかつ最先端な事業だから、仮想通貨は最もエキサイティングだと考えている」と仮想通貨事業への期待をしていました。

そして、2021年現在では日本で暗号資産などの取引をするのに1番おすすめはと聞くとほとんどがコインチェックと答えます。

まだ暗号資産のブームが来ていなかった時に「新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ」を狙ってマネックスはコインチェックを企業買収していました。

結果、このようにマネックスは「新規事業、新商品・新サービスの立ち上げ」を成功させています。

メリット3:シナジー効果

企業買収の3つ目のメリットは「シナジー効果」が生じることです。

「シナジー効果」とは、異なった事業の間で発生する相乗効果のことで、一つの企業で統合的に事業を行った場合にさまざまなメリットが得られます。

このシナジー効果は、経済学では範囲の経済「エコノミー・オブ・スコープ」といわれていてさまざまな種類に分けられています。

異なったものを製造したり、開発したりすることで得られる「技術シナジー」。

異なったものを同一の販売ルートで販売することで得られる「マーケティング・シナジー」。

異なった事業を同一の管理で経営することで得られる「経営管理シナジー」などがあります。

このように「シナジー効果」には、さまざまなメリットがあり企業買収により統合された企業の価値が、1+1=2ではなく、3や4になる相乗効果です。

「シナジー効果」を狙った企業買収事例を見ていきましょう。

シナジー効果を狙った企業買収事例1:ZホールディングスによるLINEの買収

Zホールディングスは「シナジー効果」を狙いLINEを企業買収しました。

Zホールディングスの根幹領域である「検索・ポータル」・「広告」・「メッセンジャー」に加え、

「コマース」「ローカル・バーティカル」「フィンテック」「社会」の4領域に集中し、5年間で5,000億円を投資し、2023年度に売上収益2兆円、営業利益2,250億円を目指しています。

ZホールディングスとLINEは、2019年11月の経営統合に関する基本合意書を交わし、同年12月には経営統合契約書かわしました。

そして2020年8月に業務提携に関する基本合意書を締結しました。

これらの契約書に基づき、両社及びそれぞれの親会社であるソフトバンク株式会社及びNAVER Corporationを含む4社にて、経営統合を実現するための一連の取引を進めました。

この企業買収後の早期シナジー公開の発現を目的として、両社が営んでいる事業に関しての協議を進めていきました。

その結果、早期でシナジー効果が発現し、Zホールディングスグループは、国内で200を超えるサービスを提供し、国内総利用者数は3億超、国内総クライアント数は約1,500万、自治体との総連携案件数は3,000超となり、グループ従業員2.3万人を擁する国内最大規模のインターネットサービス企業グループとなりました。

また、企業買収により情報、決済、「コミュニケーションという日常生活に欠かせない3つの起点を持つ企業グループにも成長しました。

Zホールディングスグループは、さまざまな課題の解決に取り組むことで新たな価値をみいだし、その国や地域に住む一人ひとりの課題解決に寄り添い、より豊かで便利な暮らしの実現に貢献しています。

また、インターネットで「できるを、もっと。」届けることを目指しています。

このようにZホールディングスは企業買収をして「シナジー効果」を発現させ相乗効果を発生させています。

メリット4:コスト削減

企業買収の4つ目のメリットは「コスト削減」ができることです。

企業買収による企業の拡大により、仕入れなどの交渉ができる企業が増え販売コストを削減することができます。

その他にも、製造コストや物流コストなどさまざまなコストを削減することができます。

また、企業買収した企業に優秀な社員がいた場合、新商品・新サービスの開発などが合理的になりコストの削減に繋がります。

「コスト削減」を狙った企業買収事例を見ていきましょう。

コスト削減を狙った企業買収事例1:ソフトバンクによる日本テレコムの買収

ソフトバンクは「コスト削減」を狙い日本テレコムを3400億円で企業買収しました。

ソフトバンクはリップルウッド・ホールディングス傘下の固定通信事業者である日本テレコムを買収すると発表した。

買収価格は約3400億円です。

ソフトバンクが日本テレコムの株式100%を1433億円で買い取り、純有利子負債1640億円、優先株325億円を引き継ぎます。

ソフトバンクはこれまで、同社子会社で通信事業会社のソフトバンクBBを通じて、主に個人向けADSLサービスやIP電話サービスを提供していました。

ソフトバンクの日本テレコム買収により、ソフトバンクは同グループにとって初となる固定通信事業を手がけるとともに、法人向けビジネスの拡張を図りました。

ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏は、「個人向けのサービスは個人が納得すれば導入に結びつくが、法人向けのサービスは、取引先の問題や社内での調整など難しい場合が多い。ソフトバンクでは、法人向けサービスを行うためのテクノロジーは十分にそろっていたが、実績と顧客が欠けていた。法人事業で日本テレコムの実績とブランドを生かしていきたい」といっていました。

ソフトバンクは、日本テレコムを買収することで日本テレコムの保有する約1万2000kmにもおよぶ光ネットワークインフラも手に入れました。

これをソフトバンクグループのIPネットワークと統合することで、ネットワークの強化や効率化を狙いました。

買収後の日本テレコムは、ソフトバンクの100%子会社となり、位置づけとしてはソフトバンクBBと同じなりました。

当時の日本テレコムの取締役代表執行役社長 倉重英樹氏をはじめ、経営陣や同社の体制はそのまま継続するという形で企業買収をしました。

日本テレコムの買収で、ソフトバンクグループとしての連結売上高は1兆円規模となり、「連結収益力も大幅に強化される」と孫氏は当時言っていました。

マージンの高い法人売り上げの増加が見込めるため、個人・法人向けの売上高の比率はおよそ50%ずつとなる見込みでした。

両社の個人、法人向けの音声およびデータサービスの回線数の合計は、若干重複部分はあるものの、約1000万となりました。

当時、将来的に両社で重複する一部のサービスやブランドが統合される可能性はあるものの、「当面はソフトバンクの個人市場の強みと日本テレコムの法人市場での強みを生かしつつ事業を進める」としていました。

当時の日本テレコム社長の倉重氏は、「日本テレコムは携帯電話事業を持っていないため、ブロードバンド事業を拡大することが賢明だと考えた。そのためどこかと組みたかったが、日本でもトップクラスのブロードバンド企業で、常に革新的なサービスを提供し続けるソフトバンクとまさにビジョンが一致した」と、買収の経緯について説明し、「両社のシナジーを働かせ、社会貢献できる企業となりたい」と抱負を述べていました。

ソフトバンクの日本テレコムの企業買収により、ソフトバンクは「コスト削減」をしながら自社の事業を拡大することに成功しています。

メリット5:競合他社の排除

企業買収の5つ目のメリットは「競合他社の排除」ができることです。

企業買収を受けて買収される企業は「競業避止義務」という企業買収を行った企業が不利益になることをしてはいけないという義務があります。

この義務により、企業買収で競合他社を買収した場合、不利益な行為をすることができなくなるので、競合他社の排除ができます。

「競合他社の排除」を狙った企業買収事例を見ていきましょう。

競合他社の排除を狙った企業買収事例1:フェイスブックによるインスタグラムの買収

フェイスブックは「競合他社の排除」のためインスタグラムの企業買収をしました。

この時インスタグラムはフェイスブックに10億ドルで買収されます。

SNSのインスタグラムはリリース後わずか2年もたたずに、ユーザ数が3000万人を超えていきました。

その頃、ツイッターからの企業買収提案がインスタグラムに舞い込んできました。

ツイッターからの買収金額は5億ドルから7億ドルだったそうです。

創業間もないスタートアップ企業には破格の金額提示でした。

また、インスタグラムは同時期に著名な投資家から5000万ドルの投資を受けます。

そして、インスタグラムはフェイスブックの創業者のザッカーバーグからその資金調達ラウンドの評価額の倍を出して買収したいという連絡を受けました。

インスタグラムの企業買収に背中を押したのは、フェイスブックという潜在的な競合がなくなり、その強大なインフラを使えることに加え、インスタグラムの独立性が保証されていることだったそうです。

当時、インスタグラムの社員はわずか社員13人で小さな企業でしたが、約10億ドルという破格の金額で買収されるという歴史的な合意でした。

このように、フェイスブックはのちに自社の競合になり得るインスタグラムを企業買収することで「競合他社の排除」に成功しています。

また、インスタグラムを企業買収することでフェイスブック自体の興行収入も向上させています。

企業買収はさまざまなメリットがあり、企業経営の一つの手段です。

上手く利用することで大きな利益を上げることができます。

企業買収のデメリット・リスク

企業買収にはメリットもありますが、デメリットやリスクもあります。

ここでは企業買収のデメリットとリスクを5つ紹介します。

  • 簿外債務・偶発債務の継承
  • PMIの負担
  • 買収元企業からの人材流失
  • のれんの減損リスク
  • 高値掴み

デメリット・リスク1:簿外債務・偶発債務の継承

企業買収のデメリット・リスクの1つ目は「簿外債務・偶発債務の継承」です。

簿外債務とは、企業の貸借対照表に表示されていない債務のことです。

偶発債務とは、現在は発生しないけど一定の条件が揃うと将来発生してしまう債務のことです。

この簿外債務と偶発債務が企業買収後に発見されると、本来の販売価格より高くなってしまい、企業買収をした側が思っていない損を負ってしまいます。

なので、企業買収の引き続きの際は「簿外債務・偶発債務」に注意しましょう。

デメリット・リスク2:PMIの負担

企業買収のデメリット・リスクの2つ目は「PMIの負担」です。

PMIとは「Post Merger lntegration」の略で買収後の経営統合作業のことです。

企業買収はこのPMIが上手くいくかで利益に大きく差が出てしまいます。

PMIが上手くいかなかった場合は「PMIの負担」を受けてしまい、企業買収のメリットを受けることができず損をしてしまいます。

企業買収をする際は「PMIのプロセス」をしっかり決めましょう。

デメリット・リスク3:買収元企業からの人材流失

企業買収のデメリット・リスクの3つ目は「買収元企業からの人材流失」です。

企業買収をする際に買収された企業の従業員は、リストラなどの不安やベテラン従業員の処遇などが保証され、優秀な若手社員などが失望し離職するケースが多くなっています。

なので、企業買収の際、「買収企業からの人材流失」を避けるのなら仕事の評価や将来に期待していることなどをメッセージとして発信することが重要です。

デメリット・リスク4:のれんの減損リスク

企業買収のデメリット・リスクの4つ目は「のれんの減損リスク」です。

「のれん」とは国際財務報告基準で「企業結合で取得した、個別に識別されず独立して認識されない他の資産から生じる将来の経済的便益を表す資産(IFRS第3号「企業結合」)」と定義されています。

なので、のれんは企業買収の会計上、買収対価と被買収企業の時価純資産の差額として間接的に計算されます。

「のれんの減損」とはのれん代が回収できないことをいい企業買収の際、のれん代が回収できないと損をしてしまいます。

「のれんの減損リスク」は先ほど紹介したPMIプロセスをしっかり決めていなかったり、この後紹介する高値掴みが原因の場合が多いですので注意しましょう。

デメリット・リスク5:高値掴み

企業買収のデメリット・リスクの5つ目は「高値掴み」です。

「高値掴み」とは株式投資などでよく使われる言葉で、株価が上昇すると思っていたらすでに天井でその後、株価が下落してしまう動きのことを言います。

企業買収の場合の「高値掴み」とは買収しようとしている企業の相場が上がると思い買ったら、その直後に下がってしまい結果的に高い値段で買収してしまい損をしてしまうことです。

損をしないためにも「高値掴み」を回避することが重要です。

企業買収の手法は主に5種類

ここでは企業買収の主な手法を5つ紹介します。

  • 株式譲渡
  • 株式交換・移転
  • 第三者割当増資
  • 事業譲渡
  • 会社分割

【1】株式譲渡

株式譲渡とは、企業買収で買収される企業の株式を所有する株主の全てまたは一部を取得して買収される企業の支配権を取得することです。

企業買収のほとんどがこの「株式譲渡」で行われていています。

株式譲渡のメリットは企業買収先の企業の支配権を100%取得することができることです。

支配権を100%取得することで、企業買収先のサービスや優秀な従業員なども自由に確保できますし、これからの経営方針も自社を中心に決められます。

また、企業買収の手続きがスムーズに行えるので、無駄な時間や労力を割かなくて済みます。

株式譲渡のデメリットは、企業買収先に負債が合った場合、その負債を引き継いでしまうことです。

株式譲渡とは企業買収先の支配権を100%と取得できますが、支配権を100%取得できるということは財産の一部である負債も取得してしまうことになりますので、株式譲渡で企業買収をする際は企業買収先の負債などを調べたうえで行うことがベストです。

また、株式譲渡で企業買収をした際、買収した企業がそのまま存続するので、企業の文化の違いや、新たな経営陣の関係性によっては十分な「シナジー効果」を得ることができず、損をしてしまうこともありますので、株式譲渡で企業買収をする際は、企業買収先との相性も重要です。

【2】株式交換・移転

株式交換とは、企業買収で買収される企業の株主が所有する株式を全て企業買収する企業の株式に交換することです。

株式移転の場合は買収される企業の法人としての権利は維持され、企業買収する企業は権利義務を引き継ぐことなく、人事制度の統一がすぐに必要になりません。

株式交換・移転のメリットは少数株主を強制的に排除できることです。

企業買収の際に反対をする株主もいますが、株式交換・移転では特別決議によりそのような反対をする少数株主を排除できます。

特別決議は会社法第309条第2項で原則、次の2つを満たしていれば成立します。

  • 株主総会に出席した株主の議決権が、議決権全体の半数を超える
  • 出席した株主の有する議決権の3分の2以上が賛成に投じられる

また、株式交換・移転は対価を企業買収する企業の新株または会社が保有する自社株とすれば、買収資金が不要になります。

なので、企業買収の際に手元資金が不足している場合や負債による調達を避けたい場合でも選択しやすい手法です。

株式交換・移転のデメリットは1株の価値が低下して株価が下がってしまう場合があることです。

なぜかというと、新しく株を発行してそれを対価とする場合は企業買収を行う企業の株式の数が増えるため、各株主の全株式・議決権のうちで自分が保有している割合が下がります。

そのことにより、株式総会での影響力が下がってしまい、自社のやりたいことができなくなってしまうこともあります。

【3】第三者割当増資

第三者割当増資とは、買収される企業が新たに株式を発行し、企業買収する企業に引き受けてもらう方法で、企業の資金が増えるため財務基盤の強化に繋がります。

第三者割当増資のメリットは企業に直接資金を調達できるところです。

また、資金調達によって企業の資金が増えるので、企業の信用性が上がり、資金も増えているので既存事業の拡充や新商品・新サービスなどの事業を拡大することができます。

第三者割当増資のデメリットは100%の株式を取得できないので、企業買収先の支配権を取得できないところです。

第三者割当増資をした場合は必ず既存の株主が持つ株式が残ってしまうため、100%の株式が取得できず支配権も取得できないので、企業買収後に自社の進めたい事業が進められない場合があります。

【4】事業譲渡

事業譲渡とは、企業の一部または全部を第三者に売却する方法です。

事業譲渡のメリットは企業買収先の欲しいサービスだけを狙って買収できるところです。

企業買収の際に魅力的なサービスや優秀な人材のみを指定して買収ができるので、無駄な労力などを割かずに済みます。

また、事業譲渡の場合は企業買収先の債務などを引き継ぐ義務がないため、無駄な損益を出さずに済みます。

事業譲渡のデメリットは企業買収の完了までの期間がかかってしまうことです。

株式譲渡などではスピーディーに企業買収が完了しますが、事業譲渡だとさまざまな契約を交わさなくてはならないので手間がかかります。

また、企業買収の際の譲渡代金に消費税がかかってしまいます。

【5】会社分割

会社分割とは、会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に総合的に承継させる方法です。

会社分割のメリットは現金がなくても株式を対価にするので資金調達を考えなくて済みます。

また、企業買収先の契約をそのまま承継できるため、事業譲渡のような面倒な契約が少なく手間がかかりにくいです。

会社分割のデメリットは企業買収をする際、株主の3分の2の同意が必要なところです。

どれだけ企業買収をしたくても株主の3分の2が同意しなければ、企業買収を行えません。

また、会社分割は時間がとてもかかります。

会社分割は株式を対価として行う方法なので株式評価をしなくてはなりません。

この株式評価は国税庁が発表する類似業種から計算するので、株式評価だけでも時間がかかります。

その後、さまざまな手続きをして企業買収が完了するので会社分割は時間がかかってしまいます。

企業買収の一般的な流れ

ここでは企業買収の一般的な流れを紹介します。

STEP1:企業買収戦略の策定

まずは、企業買収の戦略の策定をします。

この作業が利益に大きく関わってくるのでしっかりと戦略を策定しましょう。

戦略の策定の際のポイントは以下の6つです。

  • 自社の分析
  • 企業買収の目的を決める
  • 市場を調査する
  • 戦略の具体化
  • 企業買収を考えている企業のリストを作成
  • 企業買収候補の企業へのアプローチ方法を考える

STEP2:M&Aアドバイザー契約・M&Aプラットフォームへの登録

次に、M&Aアドバイザーと契約し、M&Aプラットフォームへ登録します。

M&Aアドバイザーとは面談をし納得が双方が納得したら契約します。

その後、M&Aプラットフォームへ登録します。

STEP3:買収先企業の選定

次に企業買収をする買収先企業の選定を行います。

これは、企業買収戦略を実行に移した際に、実際に買収対象として想定可能なターゲット候補を特定するためのプロセスです。

STEP4:交渉

次に交渉をします。

ここでは条件や譲渡価格、時期などを決めます。

STEP5:基本合意書の締結

次に基本合意書の締結をします。

企業買収で買収される企業が買収候補から買収の基本条件について提示を受け、特定の買収手候補に絞って交渉を継続することを決定したタイミングで締結されます。

基本合意書の締結で、買収される企業と買収候補の合意事項を確認することを目的としています。

STEP6:デューデリジェンス

次にデューデリジェンスを行います。

「デューデリジェンス」とは、企業買収をする企業と買収される企業の両社にとって、企業買収の成否や譲渡価格を決めるのに需要なプロセスなので慎重に行いましょう。

STEP7:バリエーション

次にバリエーションを行います。

「バリエーション」とは、企業価値評価のことで企業買収の際の買収価格を査定するのでとても重要です。

STEP8:最終交渉

次に最終交渉を行います。

この場面で条件や買収価格、時期を決めます。

STEP9:最終合意・最終契約書締結

次に最終合意・最終契約書締結を行います。

最終合意・最終契約書締結は基本合意書とは違い法的拘束力があるので慎重に扱いましょう。

STEP10:クロージング

最後にクロージングを行います。

「クロージング」とは株式等の引き渡しと買収価格の支払いをすることです。

クロージングは法的に企業買収の有効性を証明するために必要なのでとても重要です。

企業買収に失敗する主な理由の1つが、表に出て来づらい項目のデューデリジェンス不足

「デューデリジェンス」とは先ほど紹介したように、企業買収をする企業と買収される企業の両社にとって、企業買収の成否や譲渡価格を決めるのに需要なプロセスです。

企業買収の価格の正当性や、リスクなどを公的資料、または請求して相手側から出てきた資料などをベースに、専門家を多数入れて行うデューデリジェンスですが、「書面上に出てきづらい項目」というのも多数存在します。

例えば、簿外債務や隠し財産、会社の役員の犯罪歴や行動などです。

こういった書面上に出てきづらい項目に関するデューデリジェンスができていなかったせいで、企業買収後にこういった問題が発覚し、「書面上では全く問題なかったのに・・・」と企業買収が失敗に終わってしまうというのも、よくある企業買収の失敗理由の1つです。

そういった貧乏くじを引かないためにも、事前に書面上だけではなく、書面上に出てきづらい項目などもしっかりと事前にデューデリジェンスを行うことが重要です。

表に出てきづらいデューデリジェンスなら探偵事務所SATにお任せ!

一般のデューデリジェンスで普通は問題ありませんが、稀に「書面上では問題ないが、後々簿外債務や役員の犯歴などが発覚する!」というリスクについても十分に対策しておく必要があります。

書面上には出てこないような項目のデューデリジェンスには、探偵に依頼するのが一般的です。

探偵事務所SATでは、企業の信用調査や与信調査を始め、企業買収時のデューデリジェンスなど、調査の幅の広さ、調査能力の高さを強みとしています。

書面には出てきづらい項目のデューデリジェンスであれば、探偵事務所SATにぜひご相談ください。

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