【投稿日】 2021年12月24日 【最終更新日】 2022年1月10日

M&Aは、成功すれば大きな利益をもたらしますが、逆に失敗すると多大な損失を招きます。

特にバイサイドの方は、失敗した時の損失が計り知れません。

そこでこの記事では、なぜM&Aが失敗するのかの要因を大きく2つ挙げ、成功させるための7つのポイントについて解説していきます。

M&Aが失敗する2つの要因

M&Aが失敗する要因は、大きく分けて2つあります。
1つは「不適正な価格での買収」、もう1つは「PMIの失敗」です。

この章では、この2つの要因それぞれについて、詳しく見ていきます。

【1】不適正な価格での買収

買収価格が適正でなければ、投資対効果が悪くなり、回収できずに減損を計上し、最悪の場合には破産といった事態まで招くことがあります。

実際よりも高い買収価格でM&Aを進めてしまう原因としては、「M&Aのゴールが不明確であること」「企業価値評価を過信すること」「損益の見通しが甘いこと」「デューデリジェンス不足」などが挙げられます。

ゴールや戦略がなく、「いい企業があれば適正価格で買収したい」といった受け身の姿勢や、「余剰資金の範囲で買収したい」といった買収価格ありきの発想、またM&Aそのものが目的になっているケースなどは、失敗に終わることが多いと言えます。

デューデリジェンス(買収監査)を徹底せず、M&A仲介会社やファイナンシャルアドバイザーの試算を鵜呑みにして企業価値評価を過信してしまうと、不都合な情報に目を向けにくくなったり、競合の存在を甘く見る恐れもあり、買収後のシナジー効果を正しく想定できなくなってしまうのです。

【2】PMIの失敗

PMI(Post Merger Integration)とは、買収後の経営統合プロセスのことです。

M&Aでは、経営や制度、業務、事業、従業員の意識など、様々な側面で企業同士の統合が必要になります。

そのため、買収後は組織内外での混乱が予想され、企業文化の違いから従業員が大量離職したり、取引先との関係が悪化したりという事態が起こり、シナジー効果が薄くなることが予想されるのです。

こうしたPMIの失敗を招く原因には、事前に入念な準備をしていないこと、デューデリジェンス不足、PMIを実行する人員の不足などが挙げられます。

バイサイドがM&A時に失敗しないための7つのポイント

では、前章のような失敗をしないようにするためには、どのような対策を立てればいいのでしょうか。

この章では、M&A時に失敗しないための7つの重要なポイントを解説していきます。

ポイント①目的に応じた戦略の策定と統合ビジョンの明確化

M&Aでは、企業買収によりどのようにして事業を成長させるのかという「成長戦略」を明確化しておく必要があります。

一概に「M&Aにより自社を成長させる」といっても、様々な戦略パターンがありますので、3つの目的別に戦略類型を見ていきましょう。

既存事業分野での戦略類型

1.事業規模拡大戦略 水平統合型のM&A戦略で、同業者を買収、若しくは統合することで事業規模を拡大し、規模の経済性を働かせ、経営効率を高める戦略。
エリア拡大戦略 新たなエリアの支持を獲得するために、他地域の同業者を買収する戦略。海外M&Aなども含まれる。
ロールアップ戦略 比較的規模の小さな同業者を買収する戦略。事業規模拡大とともに、経営資源の共有化を推進し、短期間での収益性改善を図る。

関連事業分野での戦略類型

バリューチェーン拡大戦略 垂直統合型のM&A戦略で、昇竜の川上若しくは川下にある企業を買収する戦略。保有技術・顧客の取り込みを行い、開発力の向上や収益の拡大などを目指す。
製品ラインナップ拡充戦略 機能・価格・用途・対象顧客が異なる製品を取り扱う企業を買収する戦略。自社取扱製品のラインナップを拡充するために用いられる。

新規事業分野での戦略類型

コングロマリット化戦略 自社の既存の製品や事業との関連性の薄い企業を買収し、新規事業への進出を目指す戦略。
事業ポートフォリオ転換戦略 複数の事業を抱える企業が、M&Aを活用して事業構成を組み替える戦略。 グループの柱となっていた事業が成熟を迎えた際に、新たに業績を成長させるために有効となる手段。

このように、目的に応じて自社の目指す成長戦略を明確にし、自社の強みと弱みを正しく理解し必要な経営資源を分析して、成長戦略に適った相手企業を慎重に検討する必要があります。

また、統合後にどのようなシナジー効果が発揮されるのか、販売シナジー、コストシナジー、財務シナジーなどが発揮される要因を1つずつ評価し、具体的なビジョンを描いておくことも重要です。

ポイント②適切なターゲット企業の選定

M&Aにおいては、ある程度買収対象企業の候補を絞った後、それぞれを評価し、実際に買収するターゲット企業を選定します。

ターゲット企業の選定にあたっては、「売却ニーズ」「事業上のシナジー」「財務の健全性」「買収の実現可能性」の4点から評価を行うのが一般的です。

売却ニーズの評価

売却ニーズは、オーナー企業の場合、後継者が存在するかどうかが重要な要素となります。

売り手企業の経営者が高齢だったり、別事業を考えてはいるが後継者がいないなどということで、事業承継先を探している場合には、相手の売却ニーズが高いと言えます。

また、買収対象企業が大手企業の子会社である場合は、「親会社と子会社との関係性」「子会社の業績」も売却ニーズの判定基準となるでしょう。

親会社・子会社ともに業績が悪い場合は、売却ニーズが高いと判断することが可能です。

それ以外にも、企業グループの中で非中核の子会社や事業は、売却ニーズが高いと言えます。

事業上シナジーの評価

事業上シナジーとは、買い手企業と売り手企業が持つビジネスのリソースが上手く化学反応を起こして相乗効果を生み、2社の単純合算した以上の業績を達成することです。

買収対象企業の事業分野が、買い手企業が今後強化したいと考えている分野であり、その市場において強い存在感を示している場合、事業上シナジーは高く評価できると言えます。

事業上シナジーには、販売シナジー、コストシナジー、財務シナジーなどがあり、シナジー効果が発揮されれば、売上高の大幅な増加やコスト削減、技術力・開発力の向上といった恩恵を受けられるでしょう。

また、事業上シナジーについて考える場合、買い手企業側のノウハウや経営資源を買収対象企業の事業に投入した際のシナジーについても考慮する必要があります。

多額の買収資金を投入する以上、なるべくシナジー効果が見込める会社や事業を買収し、買収資金を大幅に上回るメリットを得るのがベストです。

逆に、「買収後に新たな設備投資が必要になる」「買収対象企業の既存の顧客を失ってしまう」などの事態が想定された場合、事業上シナジーについてマイナス評価を加えなければなりません。

買い手と売り手の経営戦略が合致しているかどうかの試金石になる観点でもあります。

財務の健全性の評価

財務の健全性を評価する場合、「買収後、買い手企業の支援がなくても自立して経営できる財務状態であるかどうか」に着目することが重要です。

売り手企業の財務状態が悪ければ、想定外の追加出資や負債を抱える可能性があります。

買収対象企業の財務データが手に入ったら、収益性・安全性を丁寧に分析しましょう。

収益性の分析においては「売上総利益率と営業利益率の推移」「正味運転資本回転率の推移」などに、安全性の分析では「流動比率」「自己資本利益率の水準」などに着目します。

買収対象企業の財務データ入手方法は、上場企業の場合は有価証券報告書の入手、非上場企業の場合は信用調査会社からの購入、官報からの決算公告の入手などです。

買収実現可能性の評価

買収の実現可能性の評価方法については、株主構成の想定買収価格から判断しましょう。

M&Aにおいては、買収対象企業株主の過半数から賛同が得られない限り、買収が実現できません。

そのため、少なくとも買収対象企業の株主の顔ぶれから、買収が実現できそうか否かの判断をする必要があります。

買収価格に関しては、買収対象企業が上場企業であれば「市場株価平均法」「類似会社非核法」「DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法」などを用いれば、ある程度の相場を算出できるでしょう。

非上場企業の買収価格を算出したい場合は、詳細の財務データを入手できないことが一般的であるため、正確な価値算定はできません。

しかし、信用情報から得られるデータをもとに、大まかな価格は予想可能でしょう。

ポイント③企業価値算定(バリュエーション)の実施

M&Aの実現可能性の要素として、「買収価格目線」の観点があります。

M&Aにおける買収価格目線は、企業価値評価によって定めることが一般的です。

企業価値の算定方法は、「マーケット・アプローチ」「インカム・アプローチ」「コスト・アプローチ」の3種類があります。

M&Aにおいては、どれか1つの評価方法を選択するのではなく、複数の手法を組み合わせることが重要です。

それぞれのアプローチの特徴を踏まえ、企業価値の算定を行うようにしましょう。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、株式市場での市場価格をベースに、買収対象企業を評価する方法です。

対象企業が上場企業の場合、市場株価をベースに評価します。

非上場企業の場合は、類似上場企業の株価と業績(営業利益やEBITDAなど)の倍率と、買収対象企業の業績の数値を掛け合わせて、想定株式価値総額を計算します。

株価をベースにした評価方法は、客観的且つ公平であるため、買収対象企業が上場企業の場合、若しくは非上場企業であっても類似上場企業が存在する場合、最も重要視されるアプローチであり、非上場企業のM&Aにおいては、最もよく用いられる手法です。

ただし、市場株価は一時的に価格が変動することが多々あるため、一定期間の平均値を算出するなど、短期の価格変動で評価が歪まないようにしましょう。

インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、ファイナンス理論に基づき、買収対象企業の収益力をベースに企業価値を評価する方法です。

代表的な評価方法として、将来期待される一連のキャッシュフロー(期待収益)を、各種リスクを反映した割引率で、現在価値に割り引く株価を算定するDCF法があります。

DCF法は、評価対象会社の詳細なキャッシュフローに基づいて行われるため、複数のシミュレーションを実施することが可能です。

そのため、柔軟な評価ができる手法である一方、主観が混じった恣意的な評価を下してしまうリスクもあります。

M&Aの交渉において説得力を持たせるためには、合理的なロジックを用いてインカム・アプローチを実施しましょう。

コスト・アプローチ

コスト・アプローチは、評価対象会社の純資産額をベースに価値を算定する手法です。

具体的な方法としては、貸借対照表上の資産や負債の時価を評価して、企業価値を割り出し、売却価格の基準にします。

貸借対照表には、過去から現在までの収益の蓄積が反映されたデータが記載されていますが、現在の資産と負債のみによって企業価値が測られるので、将来期待される収益やキャッシュフローの価値に関しては考慮されていません。

そのため、コスト・アプローチを単独でバリュエーションに使用するのは、合理的ではないと言えるでしょう。

ただし、直観的でわかりやすいため、小規模M&Aではよく使われる手法です。

ポイント④デューデリジェンスの徹底

デューデリジェンス(買収監査)とは、買い手企業による書類及び実地の調査であり、M&Aにおいて極めて重要なプロセスです。

デューデリジェンスは、財務、法務、税務、労務、人事、IT、ビジネス、不動産など多岐にわたりますが、目的は主に以下の3つです。

  • 1.買収先の企業価値評価を適正に行うための判断材料を得る。
  • 2.買収後において経営リスクとなる簿外債務などが潜んでいないか調べる。
  • 3.PMI計画策定に向けて必要情報を収集する。

企業価値評価に必要な情報を得ていないと、必要以上の高値で買収してしまう可能性があります。

デューデリジェンスで経営リスクを発見できれば、買収中止の判断も可能ですし、PMIの成功は、買収の成功に直結します。

つまり、買収の成功は、徹底したデューデリジェンスにかかっていると言えるでしょう。

デューデリジェンスは、実務上は買い手企業の責任者と、買い手企業が依頼した専門家(専門家の費用は買い手企業負担)が連携して実施することが一般的であり、税理士や公認会計士など、各分野に精通する専門家にそれぞれ依頼することになります。

こうした専門家によるデューデリジェンスは、時間もコストもかかりますが、先ほど述べたように、如何にデューデリジェンスを徹底できるかが、M&Aの成功にかかっているので、ここは必要経費と割り切って、時間もコストもしっかりと費やすようにしましょう。

 ◉2-5.ポイント⑤PMIの入念な準備と実施

買収成立後は、買い手企業と売り手企業のどちらも、PMI(経営統合)に積極的に取り組む必要があります。

PMIでは、M&Aを手段とする経営戦略の実現のために行われる各種施策を実行しなければなりません。

PMIは、買収成立後1年が勝負と言われ、買い手企業が上場企業の場合、株式市場からもM&Aの成果について厳しく監視されます。

したがって、早期にM&Aのメリットが感じられるような施策を打つ必要があるのです。

また、PMIを徹底して実施することで、シナジー効果の発揮による売上増加などのメリットを得られると同時に、優秀な人材の離職などのリスクも確実に排除することができます。

PMIをスムーズに進めるために取り組むべきことは、主に以下のようなものがあります。

  • 1.意思決定プロセスと伝達方法の統合
  • 2.適切な人員配置、情報伝達・共有のための仕組みの統合
  • 3.人事評価制度、報酬制度、退職金制度の統合
  • 4.オペレーション、ITシステムの統合
  • 5.類似品を製造販売している場合、製品・サービスの統廃合

これらは、後述する100日プランにも含まれるものです。

もちろん、これ以外にも取り組むべきことは非常に多く、売り手企業と買い手企業双方の綿密なコミュニケーションと協力関係が重要です。

M&A後のPMIは、一般的に3ヶ月を1つの区切りとして行われることが多く、この期間を通して、経営改善プランやシナジーを見込んだ中期的経営計画を立てます。

PMIのプロセスは、以下の4段階で進めるのが一般的です。

統合方針の決定プロセスでは、統合に費やす時間や統合の具体的な方法を検討します。

デューデリジェンスで検出したリスクや業界の競争状況はもちろん、買い手と売り手双方が抱える従業員の感情も考慮した上で、方針を決定しましょう。

方針を決定した後は、ランディングプラン(買収後3~6か月以内に実施すべき作業を計画したもの)を策定します。

その後、買収した企業の100日プランを策定し、中期的な経営課題を整理して、課題解決に向けて実行していきます。

PMIの中でも、100日プランは特に重要な項目で、2社の経営者やキーパーソンなど優秀な人材を確保してプロジェクトチームを組成し、実務担当者を巻き込んで進めることが大切です。

100日プランで実施されやすい計画は、以下の通りです。

  • 経営体制・組織構造における統合
  • 人事評価制度、報酬制度、退職金制度など制度面の統合
  • 業務オペレーション、管理部門、ITシステムなどの業務システムの統合
  • スケールメリットを発揮させるための事業や取引先の見直し
  • 業績評価制度の見直し

そして、これらのランディングプランや100日プランに従って、本格的にPMIを遂行していきます。

PMIの遂行にあたっては、定量的な目標(KPI)を用いて進捗状況を管理することが重要です。

また、PMIを実施する際には、少なからず問題に直面するため、随時PMIの見直しを行う必要があります。

そしてシナジー効果が得られているか丁寧に検証し、PDCAサイクルを回していくことも重要となってくるでしょう。

ポイント⑥相手先企業との良好な人間関係の構築

特に相手先が中小企業の場合、最も価値のある財産は人、つまり従業員です。

知識やスキル、ノウハウはもちろん、取引先との関係や、見えない部分での会社の取り回しなどは、全て人についていると言っても過言ではありません。

売り手企業の経営者の人間性に惹かれて長年頑張ってきたキーパーソンとなる従業員が、M&Aをきっかけに離職してしまったり、その結果、主要な取引先との関係性が壊れてしまったりすると、企業としての価値が大幅に低下してしまいます。

このような事態に陥らないためには、売り手側の経営者と協力することが重要なので、企業を買収するのではなく「引き継ぐ」という姿勢で、まず経営者と良好な関係を構築する必要があります。

その上で、従業員の中でも、他の従業員から信頼の厚いキーパーソンとは、早い段階から信頼関係を構築できるよう、積極的にコミュニケーションを取ることがポイントです。

このキーパーソンがリーダーシップを発揮してくれれば、売り手側の従業員の不満を軽減でき、何かトラブルがあった場合でも、すぐに相談してもらえるようになります。

また、M&Aの成約を幹部社員に開示するタイミングも重要です。

このタイミングを間違うと、幹部社員から反感を買う可能性もあるからです。

どのタイミングでどのように開示するかは、個々のケースにより事情が異なるので、事前に売り手側の経営者と充分に相談する必要があります。

売り手側の経営者や従業員との関係が良好であればあるほど、PMIもスムーズに進むので、これは欠かせないポイントと言えるでしょう。

ポイント⑦専門家のサポート

M&Aにおいては、デューデリジェンスやバリュエーションを始め、相手先企業の選定からPMIの実施まで、多様で専門的な知識を要するプロセスがたくさんあります。

また、発生する業務量も非常に多いため、自社内で完璧に全てを完結させるのは非常に困難であると言えるでしょう。

したがって、買収実施の初期段階から、外部のM&AアドバイザーやM&A仲介会社など、M&Aの専門家によるサポートを最大限に活用することが、買収成功への有効な手段となります。

特に、M&Aアドバイザーは、M&Aを総合的にサポート・コンサルティングする存在です。

M&Aの知識はもちろん、業界知識もあるので、最適な相手先を紹介したり、交渉のアドバイスを行ったりできます。

ただし、M&Aアドバイザーによって成功・失敗が左右されることもあるため、実績の多いアドバイザーを選ぶことが重要です。

また、複数のアドバイザーに相談し、一番誠実な対応をする人を選ぶことで、より成功に近づけるでしょう。

ポイントを掴んでM&Aを成功させよう!

以上、M&Aを成功させるための7つのポイントを解説してきました。

M&Aにおいては、何よりも自社企業と相手企業のことを良く知り、経営方針や経営戦略、M&Aの目的などを共有・統合することが重要です。

これらのポイントをきっちり掴んで、ぜひM&Aを成功させましょう。

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