【投稿日】 2021年10月21日 【最終更新日】 2022年10月27日
M&Aは異なる企業同士が統合することで足し算以上の相乗効果を見込めることがメリットですが、中にはM&A詐欺によって損失が生じてしまうケースがあります。
そもそもM&A詐欺とは、M&Aに関連して行われる詐欺全般のことを指します。
つまり、買い主企業、売り主企業、仲介会社など、M&Aに関わるすべての媒体が加害者となりうるということです。
今回は、M&A詐欺の手口や実態、被害に遭ってしまった時の対処法や予防法をご紹介します。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
M&A詐欺の実態
中小企業庁が発表した2021年版「中小企業白書」によると、M&A件数は増加傾向にあり、2019年には4000件を超えて過去最高件数を記録しました。※1
国内企業のM&A件数が増加傾向となっていることを背景に、M&A詐欺を行う企業や業者が増えていることが問題視されています。
M&A詐欺に遭う企業の多くは、専門家を挟まずに当事者同士で話を進めたり、十分なデューデリジェンス(DD)を行わなかったりと、M&Aに必要なプロセスを経ていないことがほとんどです。
このような企業は、買い主企業や売り主企業が行うM&A詐欺の他、仲介会社を語る業者に騙されやすくなっています。
M&A詐欺は買い手や売り手以外も加害者になりうる
M&A詐欺を行うのは買い主企業や売り主企業だけではありません。
近年ではM&Aが活発になるにつれて仲介会社を語る人物がM&A詐欺を行うケースが増加傾向にあります。
仲介会社を語る業者の中には、知識の豊富さを利用して詐欺を働く業者や、知識は全くない素人なのに知識があるように見せかけ、高額な料金を搾取する業者が見られます。
M&Aを行う際はM&Aの担当者が最低限の知識や詐欺に対する意識を持って仲介会社を選ぶことが大切です。
M&A詐欺の手口
M&A詐欺の加害者となるのは買い主企業、売り主企業、仲介会社の3つです。
加害者となる媒体によって様々な手口があるため、M&Aを行う際は様々な観点から相手方の企業や仲介会社を精査する必要があります。
買い主企業、売り主企業、仲介会社が行うM&A詐欺の主な5つの手口は以下の5つです。
- 手口1:架空の会社を買収させる
- 手口2:財務諸表やKPIデータを偽装して買収させる
- 手口3:M&Aを謳って近づき、技術を盗む
- 手口4:売却したのにお金が振り込まれない
- 手口5:出資を持ちかけお金を騙し取る
手口1:架空の会社を買収させる
1つ目の手口は、M&A仲介会社が買い主側の企業に株式譲渡による買収を勧め、実態のないペーパーカンパニーを買収させるという手口です。
この手口に騙されると買収前に想定していた利益が得られないだけでなく、巨額の資金を失ってしまうことになります。
また、買収対象企業は実在したものの、買収対象企業の取引先が実態のない企業だったというケースもあります。
このようなケースでも見込める利益が変化するため、買い主企業は一から経営に関する計画を立て直す必要が出てきてしまうのです。
手口2:財務諸表やKPIデータを偽装して買収させる
M&Aを行う際は最終契約前に「デューデリジェンス(DD)」という調査を行う必要があります。
デューデリジェンスは買い主側が買収対象企業の状況やリスクを把握するためのものです。
もちろん、売り主企業は正確なデータを開示する必要がありますが、中には財務諸表やKPIデータなどの情報を偽装して買い主企業に開示するケースがあります。
デューデリジェンスでは、提出されたものに間違いがある場合を想定してさらに詳細な情報を調査しますが、デューデリジェンスを行う専門家の経験や知識が浅い場合は見逃してしまうこともあり得ます。
偽装の事実を見逃したままM&Aに踏み切ってしまうと、デューデリジェンスで想定した利益が出なかったり、リスクが表面化し損失が出てしまったりと、この後の経営に支障が出てしまうことになります。
手口3:M&Aを謳って近づき、技術を盗む
3つ目は、海外企業からM&Aを持ちかけられ、デューデリジェンスに応じて最終契約に進むと、買い主側の海外企業が突然態度を変えてM&Aを中止し、買収せずに機密情報だけを持ち出すという手口です。
買い主の海外企業は初めから日本企業の技術やノウハウを盗むことが目的であり、買収する気はありません。
結果的に売り手は今後の経営に関わる重大な情報を流出させてしまっただけで、何の利益も得られないという状態になります。
手口4:売却したのにお金が振り込まれない
買い主企業にそもそも売却代金を支払う気がないというケースはM&A詐欺に該当します。
このような手口では、分割払いの1回目は支払うものの、2回目以降は一方的に売り主企業にクレームを入れたり、支払わないための言い訳を作ったりして支払おうとしません。
買い主企業は売り主企業よりも強い立場にいるケースが多いため、売り主側は買い主側とトラブルになったとしても争うことを避ける傾向にあります。
この手口を行う買い主企業は売り主企業がトラブルを避ける傾向にあることを知っているため、平気で支払いを踏み倒してしまうのです。
手口5:出資を持ちかけお金を騙し取る
実在する企業の名前を使用して「買収したいからお金を貸して欲しい」と出資を持ちかけお金を騙し取る手口です。
実際に、2007年には犯人側が「年利15%出すから4500万円貸して欲しい」と被害者側の男性社長に持ちかけお金を騙し取られた事例があります。
M&A詐欺は、M&Aに直接関わる買い主企業や売り主企業が行うものであると思われがちです。
しかし実際はこの手口のように、M&Aを行うつもりがない人間がM&Aを行うと偽って犯行に及ぶケースがあります。
詐欺被害を事前に防ぐ!M&A詐欺の見抜き方
M&A詐欺を行うのは主に買い主企業、売り主企業、仲介会社の3つです。
現在の立場が売り主企業である場合、M&A前に買い主企業の詐欺を見抜くのは難しい傾向にあります。
なぜなら、買い主企業が行う主なM&A詐欺は売却代金の不払いであり、契約を締結するまでは何の問題もなく話が進んでいくからです。
ただ、もしM&A仲介会社に依頼している場合は、買い主企業が仲介会社と結託して売却代金を下げようとしているケースがあるため、仲介会社の素性や買い主企業との関係性を探偵に依頼して調査するというのも1つの方法です。
現在の立場が買い主企業である場合は売り主企業や仲介会社が行うM&A詐欺に注意する必要があります。
現在の立場が買い主側である場合は、デューデリジェンスをきちんと行うことでM&A詐欺を見抜くことが可能です。
デューデリジェンスは分野ごとに弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に依頼し、調査を行います。
売り主側から開示された情報を鵜呑みにしてしまうとM&A詐欺に騙される可能性が高くなるため、注意が必要です。
また、M&Aを行うために仲介会社に依頼する場合は、依頼しようとしている仲介会社の調査を行いましょう。
M&Aが活発化していることからM&A仲介へ参入する企業が増加傾向にあり、知識や経験が浅い業者や、詐欺を働く業者が次々と参入しています。
詐欺を働くM&A仲介会社に騙されないためには、実績や経験について調査したり、実際に事務所まで相談に出向いたりして精査することが大切です。
M&A詐欺に遭ってしまった時の対処法
M&A詐欺の被害に遭ってしまった時は信頼できる第三者機関に相談しましょう。
M&A詐欺に対応している第三者機関には警察や探偵、弁護士が挙げられます。
依頼主の目的に応じて依頼先が異なるため、以下の対処法を参考にして適切な依頼先を選びましょう。
【1】警察に相談する
M&A詐欺に遭ってしまった場合は、まず警察に相談しましょう。
警察に相談する際は、証拠となる録音データがあると警察が動く可能性が高まります。
買い主企業や売り主企業の対応について不審な点がある場合は、やりとりを録音しておくとよいでしょう。
ただし、警察は刑事事件として立件できないと判断した場合は動きません。
その理由は、警察には「民事不介入」の原則があるからです。
つまり、当事者同士で解決できるようなトラブルには警察は介入しないということです。
警察に動いてもらうためには録音データなど、M&A詐欺被害に遭ったことを証明できるような証拠が必要となります。
被害に遭った場合はまず警察に相談することは被害を解決する上で重要ですが、警察に動いてもらえない場合は第三者機関に相談することを検討しましょう。
【2】探偵に相談する
証拠が不十分であるという理由で警察に動いてもらえない場合は探偵に依頼するのがよいでしょう。
警察は民事事件に介入することができませんが、探偵は民事事件であっても対応することが可能です。
また、探偵は警察と同様に、聞き込みや張り込み、尾行を行うことが許可されていたり、探偵独自の調査ルートを持っていたりするため、より詳しい情報を集めることができます。
そのため、証拠が不十分で警察が動かない場合、証拠を集めて弁護士に相談したい場合は、探偵に依頼するとよいでしょう。
【3】弁護士に相談する
依頼主の目的が、騙し取られたお金を返してもらうことである場合や、民事不介入を理由に警察が動かない場合は弁護士に依頼しましょう。
そもそも警察は加害者を逮捕・起訴することができるものの、お金の返還請求を行うことはできません。
お金の返還請求を行うことができるのは、法律行為を行うことができる弁護士のみです。
また弁護士は法的手続きを行う際の代理人を務めたり、本人に代わって相手方と交渉を行ったりすることができます。
そのため、お金を取り戻すことが目的である場合は探偵に依頼して証拠を集めた上で弁護士に相談するのが一番の近道です。
M&A詐欺に遭わないための予防法
M&A詐欺に遭わないためには、M&A詐欺に遭う可能性があるという意識をしっかりと持って話を進めていくことが大切です。
買い主企業であっても売り主企業であっても、相手企業や仲介会社が開示する情報を鵜呑みにせず、きちんと精査しましょう。
売り主企業は買い主企業よりも規模が小さいことや、買収される立場であることから、買い主企業に不審な点があっても泣き寝入りしてしまうケースがあります。
大事な交渉や契約の場面では音声を録音しておくと認識の相違や詐欺被害を防ぐことが可能です。
M&A詐欺被害に気づいたらまずは証拠を集めよう!
M&A詐欺被害に遭ってしまった場合は証拠集めがとても大切です。
その理由は警察に相談する場合だけでなく弁護士に相談する場合も証拠が必要になるからです。
証拠は自分で集めることができるものもありますが、自力で集めるのは難しい証拠もあります。
自力で集めることが難しい証拠は探偵に依頼し、警察や弁護士に相談する際に持参しましょう。