【投稿日】 2022年3月18日 【最終更新日】 2022年3月18日

M&Aの際には、弁護士や税理士をはじめ、実にさまざまな専門家に協力を要請します。

また、M&Aの規模が大きくなればなるほど、さまざまなリスクを想定していく必要があり、必要とされる専門家の種類も多くなります。

本記事では、そんなM&A時に協力を要請する専門家の中でも、特に弁護士について、M&Aにおいて担う役割や業務の内容、依頼する際の報酬相場などについて詳しく解説します。

M&A時に弁護士が担う役割

企業の活動は実にさまざまな法律によって規定されています。

弁護士は、デューデリジェンスの中でも主要な法務デューデリジェンス(DD)において、法的リスクの洗い出しや、法的な視点から問題がないかについての確認を行うのが主な役割です。

具体的には、M&Aにおいて発生する各種契約書の作成や確認など法的書類や手続きにおけるサポートや、M&A後に事業継続が法的に困難となるような法律的な問題はないかどうか、「許認可」、「様々な契約」、「法令違反」などのチェック、M&A後の企業活動継続によって、収益性に影響が及ばないかどうかなどの確認や助言、M&Aにおける条件交渉などを行います。

M&Aの検討段階から最終的な経営統合の段階までのすべてのプロセスに法律の専門家として深く関わることができるのが弁護士であり、あらゆるM&Aのデューデリジェンスにおいて必須となる専門家の1人です。

M&A時に弁護士が担う6つの業務

M&Aにおいて弁護士が担う6つの具体的な業務について説明していきます。

その1:M&Aスキームの立案

M&Aにおいて弁護士が担う業務の1つ目は、M&Aスキームの立案です。

M&Aには様々なケースがありますので、法務デューデリジェンスを行って売り手企業が抱える法的リスクを評価した上で、そのリスクを可能な限り最小化し、かつM&Aの効果を最大化するためのスキームを立案します。

主なスキームとしては、「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」「合併」があります。

「株式譲渡」は、官報公告や債権者保護手続が不要なため比較的スピーディーに実行することができるほか、株式会社の法人格が変わりませんので取得済の許認可への影響が少ないというメリットがあります。

全株式を譲渡するのか一部だけなのかにより、株主割合がどう変化するのかなども大きなポイントとなります。

「事業譲渡」は、会社が複数の事業を行っている場合に事業単位で売買するものです。

事業譲渡は資産の売買と位置付けられますので、負債や従業員の雇用関係は引き継がれないため、従業員や取引先との関係についての検討が不可欠になります。

「会社分割」は、会社法上の組織再編行為に該当し、「すでに実在している会社に事業を承継させる吸収分割」と「新たに設立する会社に承継させる新設分割」という2つの方法があります。

事業譲渡との違いは、負債や従業員との関係が引き継がれるという点です。

「合併」は、会社法上の組織再編行為に該当し、「すでに実在している会社に合併させる吸収合併」と「新たに設立する会社と合併させる新設合併」という2つの方法があります。

弁護士は、M&Aスキームを立案するに際しては、売り主側にも買い主側もメリットがある方法を提案していく必要があります。

その2:各種書面作成のサポートやチェック

M&Aにおいて弁護士が担う業務の2つ目は、各種書面作成のサポートやチェックです。

M&Aでは、契約書や合意書などの法的な書面を適切なタイミングで作成する必要があります。

またその内容についても、法的拘束力を持たせる条項とそうでない条項の切り分けや、M&Aがうまくいかなかった場合に違約金が発生しないかなども入念にチェックする必要があります。

弁護士は法律の専門家として、これらの各種法的書面の作成をサポートします。

秘密保持契約(NDA)

M&Aにおいては、非常に多くの秘密情報がやり取りされますので、必要に応じて適切な内容の秘密保持契約(NDA)を締結しておく必要があります。

秘密保持契約(NDA)には一般的な条文構成がありますが、各条文の内容などの細部については実情に即して決める必要があります。

弁護士は、M&A全体の流れや相手との関係などを考慮したうえで秘密保持契約(NDA)の内容についてチェックします。

基本合意書

M&Aの基本合意書は、最終契約の前に基本的な事項について、売り手側と買い手側とで合意した内容について書面で確認するものです。

基本合意書の記載内容は、スキームや譲渡価格、役員・従業員の引継ぎや雇用条件などの基本条件と、今後のデューデリジェンスや最終契約の締結日、クロージング日などのスケジュール、独占交渉権と独占交渉期間、秘密保持義務、善管注意義務などとなっています。

この中で、基本条件やスケジュールは暫定的な共通認識を定めたものですので法的拘束力を持たせないのが一般的ですが、デューデリジェンス、独占交渉権と独占交渉期間、秘密保持義務、善管注意義務などについては法的拘束力を持たせます。

このように、基本合意書の記載内容やどの条項に法的拘束力を持たせるべきかなどについては、専門知識を有する弁護士に関与してもらう必要があります。

最終合意書

M&Aの最終合意書は、最終的に合意した具体的決定事項を記載した契約書です。

最終契約書の名称は、M&Aスキームによって異なり、合併であれば合併契約書、株式譲渡であれば株式譲渡契約書、事業譲渡であれば事業譲渡契約書などとなります。

各スキームごとに一般的な条文構成がありますが、具体的な記載内容についてはケースバイケースで検討する必要があります。

表明保証、誓約事項、補償条項などの各条項の内容やリスクなどについては、法律の専門家である弁護士にレビューしてもらうことが必要です。

その3:各種手続きのサポート

M&Aにおいて弁護士が担う業務の3つ目は、各種手続きのサポートです。

M&Aでは、前項の法的な書面と同様に、各種の法的な手続きを適切なタイミングで行う必要があります。

弁護士は法律の専門家として、これらの各種法的手続きのサポートを行います。

会社法・労働契約承継法に関するサポート

M&Aのスキームの中で「会社分割」を選択した場合は、労働契約承継法の規定に従って、分割される事業にかかわる従業員や労働組合への通知や協議などを行う必要があります。

この労働契約承継法とは、正式には「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」と言い、会社法に関する特例法として制定されたものです。

弁護士は、適正な手続きが適切なタイミングで行われるようにサポートします。

金融商品取引法・独占禁止法など各種業法に関するサポート

金融商品取引法は、企業内容等の開示の制度を整備するとともに、金融商品取引業を行う者に関し必要な事項を定めた法律で、M&Aのスキームの「株式譲渡」における市場買付けや公開買付け(TOB)に関する規制が設けられています。

独占禁止法では、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる企業結合を「実体規制」として禁止しており、株式保有・合併・分割・共同株式移転・事業の譲受を行った場合で一定の制限に該当する場合には届出が必要となり、これを「届出規制」と言います。

また、各種業法の許認可がM&Aで承継できない場合は、買い手企業による許認可取得が必要になることがあります。

弁護士は、これらの業法にかかわる規制、禁止事項、届出事項、許認可申請の要否などについて検討し、当局との交渉、提出書類のチェック・作成、申請代行などを行います。

その4:契約交渉の代理

M&Aにおいて弁護士が担う業務の4つ目は、契約交渉の代理です。

M&Aの条件交渉や債権者などのステークホルダーとの交渉を外部の専門家に代行してもらう場合には、弁護士に依頼する必要があります。

弁護士は依頼者の代理人として相手企業や債権者などと直接交渉を行うことができます。

相手企業との条件交渉

弁護士は、相手企業との条件交渉において直接交渉する役割を担います。

また、M&Aの初期段階において経営トップ同士の面談が行われますが、弁護士が間に入ってアレンジなどを行うことによってスムーズな面談が可能となります。

ステークホルダーとの交渉

M&Aの実施によって影響を受けるステークホルダーとの交渉も弁護士が担当する役割です。

特に、金融機関などの債権者との交渉では弁護士の役割が重要となります。

事業再生スキームにおける交渉やサポート

M&Aは債務超過企業の再生のために利用されるケースがありますが、このような場合も弁護士が交渉を担当します。

弁護士は金融機関などと利害調整のための交渉を行い、債務整理の手続きなどについてサポートします。

また、事業再生スキームの構築など、全般的なアドバイザリーを担当することもあります。

買収対象企業の取引先との交渉

買収対象企業の取引先との交渉も弁護士が担当する役割です。

例えば、対象企業の重要な取引先との契約にチェンジ・オブ・コントロール(Change Of Control)条項が含まれている場合は、事前に取引先から取引継続の同意を得る必要があります。

弁護士は、このような様々なケースにおいて取引継続に向けた交渉を担当するとともに、今後のために契約関係の整備を行います。

紛争解決・ディールブレイクに向けたサポート

M&Aの最終合意の段階になって、重大なリスクが判明したり双方の見解の相違などによる対立が生じたような場合は、ディールブレイク(取引中止)が検討されることがあります。

その際に、基本合意書や最終合意書の解釈についての紛争が生じたり、相手方から契約違反として損害賠償を請求されるケースがあります。

また、M&A成立後に表明保証に反する事実が判明した場合も補償請求をするケースもあります。

こうした場合、弁護士は法律の専門家として紛争を処理し、穏便な形でのディールブレイク(取引中止)や請求取り下げの実現を図ります。

それぞれの契約や法務デューデリジェンスを担当した弁護士が関与することによって、よりスムーズな解決を図ることができるでしょう。

その5:法的リスクの洗い出しと助言

M&Aにおいて弁護士が担う業務の5つ目は、法的リスクの洗い出しと助言(法務デューデリジェンス)です。

法務デューデリジェンスとは、提示された資料や役員との面談などを通じて、売り手企業が抱えている法的リスクを洗い出して対応策を検討する調査活動のことです。

法務デューデリジェンスの検討項目の概要は次の通りで、法律の専門家である弁護士が中心となって行います。

株式 発行済株式の有効性・適法性、現在の正式な所有者と譲渡履歴、譲渡制限の有無など
契約 取引契約書の有効性、M&Aの支障となる契約条項の有無、口頭での約束や業界慣行の概要など
知的財産権 保有する知的財産権の内容と帰属、他者とのライセンス契約の内容、他者の知的財産権に対する侵害行為の有無、職務発明に関する規程や対価の適正さなど
労務 労働組合の有無、労働法関係のコンプライアンス、残業代未払いや労使間紛争の有無など
許認可 事業に必要な許認可の取得・更新状況、M&Aにより必要となる申請・届出の有無など
紛争・訴訟 係属中の訴訟・紛争の有無、過去の訴訟・紛争の内容、将来的に訴訟に発展する可能性のあるトラブルの有無、訴訟になった場合の影響の大きさなど

その6:経営統合作業(PMI)のサポート

M&Aにおいて弁護士が担う業務の6つ目は、経営統合作業(PMI)のサポートです。

前項の法務デューデリジェンスで洗い出された法的リスクの中には、M&A成立後の経営統合作業(PMI)で解消すべき事項が含まれていますので、法務デューデリジェンスを行った弁護士がサポートを行うとスムーズに進めることができるでしょう。

M&Aを弁護士に依頼した場合の報酬の相場

M&Aを弁護士に依頼する場合には、依頼や契約の方法によって、スポット依頼、顧問契約、アドバイザリー契約という大きく3つの形態があります。

以下、それぞれの形態について一般的な報酬相場を紹介しますが、具体的な金額は依頼する弁護士によって異なります。

【1】スポット依頼

M&Aを実施する際に、個別の案件ごとにスポット依頼をする場合があります。

このスポット依頼の報酬は、実際の作業時間に応じて料金が請求される「時間制」と、案件ごとに内容や規模に応じて固定料金が設定されている「固定制」があります。

具体的には、契約書の作成の場合、時間制では「1時間あたり数万円~10万円程度」、固定制では「50万円~数100万円程度」となります。

また、法務デューデリジェンスを依頼する場合は、時間制では「1時間あたり数万円~10万円程度」、固定制ではM&Aの規模や調査対象の範囲により異なります。

一例ですが、買収価格数億円以下で「50万円~数100万円」、買収価格10億円~数10億円で「数1000万円」、買収価格100億円以上で「1億円~」となります。

【2】顧問契約

M&Aを実施する際の一定期間だけ顧問契約を結んで、M&Aで生じる法律問題について随時相談に応じるという場合もあります。

顧問契約の場合の報酬は月額報酬が一般的で、顧問業務の範囲・内容により「月額数万円~数10万円程度」となります。

【3】アドバイザリー契約

M&Aにおいて、弁護士とアドバイザリー契約を結ぶ場合は、相談料・着手金、月額報酬(リテイナーフィー)、中間報酬(基本合意成立時)、成功報酬(最終契約成立時)に分けて費用が発生することが一般的です。

相談料・着手金は「無料~数100万円」、月額報酬は「無料~数100万円」、中間報酬は「成功報酬の10~30%」、成功報酬は「レーマン方式で算出」が相場となっていますが、最近は成功報酬のみというケースも多くなっています。 成功報酬の計算に用いられるレーマン方式では、次のように取引金額に応じて1%~5%の報酬料率を定めて、それぞれの部分毎に計算して足し合わせて報酬を算出します。

取引金額が5億円以下の部分 5%
取引金額が5億円超10億円以下の部分 4%
取引金額が10億円超50億円以下の部分 3%
取引金額が50億円超100億円以下の部分 2%
取引金額が100億円超の部分 1%

例えば、取引金額が12億円の場合は、次のようになります。

  • 5億円×5%=2,500万円
  • 5億円×4%=2,000万円
  • 2億円×3%= 600万円

したがって成功報酬は、2,500万円+2,000万円+600万円=5,100万円となります。

M&Aには弁護士が必要不可欠!自社のニーズに合った強みを持つ弁護士に依頼しよう!

M&Aを行う際には、スキームの検討や法務デューデリジェンスをはじめ様々な契約や合意が行われますので、法律に関する専門知識を有する弁護士の参画が必要不可欠です。 しかしながら、弁護士にもそれぞれ強みや弱みがありますので、自社がM&Aを行う目的や自社のニーズに応じて適切な弁護士を選定して依頼するようにしましょう。

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