【投稿日】 2022年6月30日 【最終更新日】 2022年7月7日
近年「企業価値」が注目されており、多くの企業では「企業価値を上げるための経営努力」が行われています。
また「企業価値」は、M&Aの際の買収金額を決めるためにも使われますが、算定方法にはいくつかの種類があるため、M&Aの目的や評価対象企業の特徴に応じて適切な方法を選ぶ必要があります。
そこで今回は、企業価値の算定方法の一つである「マーケットアプローチ」に注目して、その計算方法やメリット・デメリットについて詳しく解説します。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
マーケットアプローチとは?
「マーケットアプローチ」とは、評価対象企業がマーケット(市場)からどのような評価を得ているのかという視点から企業価値を算定する方法です。
上場企業の場合は、自社の「株価」をもとにして企業価値を算定することができ、この方法を「市場株価法」と言います。
しかし、非上場企業の場合は自社の「株価」がありませんので、類似会社や類似業種などの上場企業の「株価」を参考にして企業価値を算定します。
複数の類似した上場企業を抽出して、それぞれの企業の「利益」「純資産額」「EV(事業価値)」「EBITDA(利払前・税引前・償却前利益)」などの財務指標の「倍率」を求め、評価対象企業の「純資産額」に、この「倍率」の平均値をかけ合わせることによって企業価値を算定します。
この方法を「類似会社比較法」と言い、用いる財務指標の種類によって「PER法」「PBR法」「EV/EBITDA法」に分けることができます。
「マーケットアプローチ」には、この他に「類似業種比較法」「類似取引比較法」などの計算方法もあります。
コストアプローチやインカムアプローチとの違い
「マーケットアプローチ」以外の企業価値の算定方法には、「コストアプローチ」と「インカムアプローチ」があります。
まず、「コストアプローチ」は、評価対象企業の貸借対照表の「純資産額」を基準に企業価値を算定する方法で、「簿価純資産法」「時価純資産法」「清算価値法」「再調達原価法」などがあります。
また、「インカムアプローチ」は、評価対象企業の将来の収益やキャッシュフローを予測して企業価値を算定する手法で、「DCF法」「収益還元法」「配当還元法」などがあります。
「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」「インカムアプローチ」の評価方法の違いについて簡単にまとめると、次のようになります。
マーケットアプローチ | 評価対象企業の「株価」や「類似企業の財務指標の倍率」をもとにして企業価値を算定する方法。 |
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コストアプローチ | 評価対象企業の「現在の純資産額」を基準にで企業価値を算定する方法。 |
インカムアプローチ | 評価対象企業の「将来の収益やキャッシュフロー」を予測して企業価値を算定する方法。 |
マーケットアプローチの種類と計算方法
「マーケットアプローチ」には、「市場株価法」「類似会社比較法(マルチプル法)」「類似業種比較法」「類似取引比較法」などの種類があり、さらに「類似会社比較法(マルチプル法)」は、用いる財務指標の種類によって「PER法」「PBR法」「EV/EBITDA法」に分けることができます。
以下では、それぞれの特徴と計算方法について説明します。
市場株価法
「市場株価法」は、評価対象企業が上場企業である場合に採用できる方法で、株式市場における株価を指標として企業価値を算定します。
株式市場における株価は需要と供給とのバランスによって決まりますので、長期的には評価対象企業の業績などによって決まりますが、短期的には業績とは無関係な要因によって変動することがあります。
例えば、評価対象企業の役員や社員などのスキャンダルや政治情勢、国際情勢、自然災害などによって株価が変動します。
このような短期的な株価の変動の影響を排除するために、前日の終値、1カ月間の終値の平均値、3カ月間の終値の平均値、6カ月間の終値の平均値などを用いて企業価値を算定するのが一般的です。
また、株価の暴落や高騰など明らかに異常値と認められる株価を除いて平均値を求めることもあります。
市場株価法による企業価値の計算式は次の通りです。
また、自己資本比率が100%の企業、即ち「有利子負債=0」の無借金の企業の場合は次のようになります。
この「市場株価法」による企業価値は、現在における評価対象企業単独の企業価値を表わしているものであって、M&Aによる経営改善効果やシナジー効果などが考慮されものではないことには注意が必要です。
類似会社比較法(マルチプル法)
「類似会社比較法」は、評価対象企業に類似した複数の上場企業の「株価」と、「利益」「純資産」「EV」「EBITDA」などの財務指標から算出した「倍率」によって企業価値を算定する手法で、倍数(Multiple:マルチプル)を使用するため「マルチプル法」とも言います。
評価対象企業が非上場企業の場合は株価がありませんので、前項の「市場株価法」の代替手法として利用されます。
「類似会社比較法(マルチプル法)」を採用する場合は、どの企業を「類似会社」とするかによって結果が大きく変わりますので、「類似会社」の選択は慎重に行う必要があります。
「類似会社比較法(マルチプル法)」は、用いる財務指標の種類によって「PER法」「PBR法」「EV/EBITDA倍率法」に分けることができます。
PER法
「PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)」は、財務分析で企業の成長性を分析するときに利用する指標であり、現在の株価がその企業の利益に対して割高か割安かを表すものです。
「PER」が高いほど株価が割高で、低いほど株価が割安ということになります。
「PER」が高いということは人気がある銘柄ということになり、株価が割高ですので投資効率が低いと判断されます。
「PER」は、次の計算式で求められる倍率です。
「PER法」による企業価値は、次の計算式によって求められます。
PBR法
「PBR(Price Book-Value Ratio:株価純資産倍率)」は、財務分析で企業の成長性を分析するための指標で、その企業の純資産に対して株価が適当な水準にあるかを表すものです。
一般的な目安としては、「PBR」が1倍以上なら割高、1倍を割るようであれば割安と考えられます。
「PBR」が1倍ということは、株価と「1株当たりの純資産額(BPS)」が等しいということですので、その時にその会社が解散した場合は、株主に投資額がそのまま戻ってくるということを意味しています。
「PBR」は、次の計算式で求められる倍率です。
「PBR法」による企業価値の計算式は、次の通りです。
EV/EBITDA倍率法
「EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization:利払前・税引前・償却前利益)」は、企業が事業で稼いだキャッシュの額(収益力)を示す指標で、「イービットディーエー」や「イービッダー」などと呼ばれます。
「EBITDA」は減価償却前の利益ですので、会計基準の違いや資本構成の影響を受けにくいという利点があり、国によって異なる金利水準、税率、原価償却費の要素を取り除くことができますので、グローバル企業の収益力を比較するときに利用されます。
「EBITDA」は、次の計算式で求められます。
また、「EV(Enterprise Value:事業価値)」は、企業が将来獲得するキャッシュフローの現在価値のことであり、事業から創出される経済的価値を表しています。
「EV」は、次の計算式で求められます。
「EV/EBITDA倍率法」の一般的な計算手順は、次の通りです。
- 複数の「類似会社」の「EV」と「EBITDA」からそれぞれの「EV/EBITDA」を計算してその平均値を求める。
- 「評価対象企業のEBITDA」に「類似会社のEV/EBITDAの平均値」を掛けて「評価対象企業のEV」を算出する。
- 算出された「評価対象企業のEV」に「非事業用資産」を加算して企業価値を求める。
「EV/EBITDA倍率法」による企業価値の計算式は、次の通りです。
類似業種比較法
「類似業種比較法」は、評価対象企業に類似した業種の中から選定した複数の上場企業の「株価」の平均値に、評価対象企業と類似業種の「1株当たりの配当金額」「1株当たりの年利益金額」「1株あたりの純資産価額」の比準割合を掛けて企業価値を算定する手法です。
国税庁が財産評価のために採用している「類似業種比準方式」は、この「類似業種比較法」の一つですが、税額計算を目的とした公正さを保つための評価方法ですので、M&Aの際に利用する企業価値の評価には適していません。
類似業種比較法の計算式(国税庁が公開している計算式に基づく)は、次の通りです。
b:評価対象企業の1株当たりの年利益金額
c:評価対象企業の1株当たりの純資産価額
A:類似業種の1株当たりの配当金額
B:類似業種の1株当たりの年利益金額
C:類似業種の1株当たりの純資産価額
係数:大会社の場合は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5
類似取引比較法
「類似取引比較法」は、類似したM&A取引で成立した「取引価格」に基づいて企業価値を算定する手法です。
具体的には、「取引価格」と財務指標の関係から算出した「倍率」によって企業価値を算定しますが、一般的にはEBITDA倍率を用いることが多いようで、その場合の企業価値の計算式は次の通りです。
ただし、M&Aの取引条件や財務情報の詳細は開示されていないことが多いため、類似度の判定が難しいという問題があります。
また、評価時期と類似取引の発生時期とが大きく異なる場合は、経営環境や金融環境なども大きく違っていることも考えられるため、この手法を利用する際は注意が必要です。
マーケットアプローチのメリット・デメリット
「マーケットアプローチ」には、「株価」の要素を盛り込んで評価対象企業の企業価値を評価するという大きな特徴があります。
「株価」は株式市場において、企業や業種のプラス要素とマイナス要素が評価されたうえで、需要と供給のバランスの結果として決まるものですので、「マーケットアプローチ」のメリットやデメリットは、「株価」が持っているメリットやデメリットであるということもできるでしょう。
マーケットアプローチのメリット
まず、「マーケットアプローチ」のメリットとしては、次の2点が挙げられます。
- 「株価」や「EBITDA」などの公開された指標を利用して企業価値を評価するため客観性が高い。
- 市場の需要動向などの市場環境を織り込みやすい。
マーケットアプローチのデメリット
逆に、「マーケットアプローチ」のデメリットとしては、次の3点が挙げられます。
- 企業や業種に関する風評やインサイダー取引などによる「株価」の変動の影響を受けることがある。
- 類似企業の選定が妥当かどうかという判断が難しく、ベンチャー企業などで類似企業が見つからない場合は採用が難しい。
- 企業価値の算定に「純利益額」を用いる場合、会計方針や増資、特別損失などの影響を受けやすい。
M&Aにおいては、適切な企業価値の評価方法を選定することが重要!
この記事では、企業価値の評価方法の一つである「マーケットアプローチ」の計算方法やメリット・デメリットなどについて説明しました。
記事中でも触れましたが、企業価値の評価方法としては「マーケットアプローチ」のほかに「コストアプローチ」や「インカムアプローチ」があります。
それぞれのアプローチの中にも複数の手法がありますので、M&Aにおいて企業価値を評価する際には、そのM&Aに合った適切な評価方法を選定することが重要となります。
マーケットアプローチでは見つけることができない企業の実態調査は探偵事務所に!
マーケットアプローチはM&A時に企業価値を評価する上で有効な方法と言えますが、こういった手法では算出できないのが、企業の役員の経歴や反社会的勢力との繋がり、また仕事内容の実態、周囲の評判などです。
こういた実態に基づく企業価値というものもリスクの大きなM&A時には調査すべきと言えます。
しかし、一般的にこういった調査は個人情報保護法などで規制されていることが多く、調査できる範囲は非常に限られています。こういった個人にまでフォーカスした企業の実態調査をすることができるのが探偵事務所です。
探偵事務所は探偵業法の範囲内で、こういった個人にまでフォーカスした企業実態を調査することが可能です。実態に企業や不動産などのM&A時にこういった調査を探偵事務所SATで行っています。
ぜひ、M&A時のデューデリジェンス時にご活用ください。まずは、メールや電話などでの無料相談から!
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