【投稿日】 2022年3月26日 【最終更新日】 2022年4月29日

この記事では、M&Aの手法の一つであるMBOに関して、MBOとは何か、MBOのメリットとデメリット、MBOの具体的な実施手順などについて、近年の代表的なMBO事例を紹介しながら詳しく解説していきます。

MBOとは?どのようなスキームなの?

MBOとは、「Management Buyout(マネジメント・バイアウト)」の略語で、日本語では「経営陣買収」とも言われます。

M&Aの手法の一つで、一般的には企業の経営陣が既存株主から自社の株式を買い取って独立することですが、企業の事業部門統括者が一部の事業部門を買収して独立することもあります。

一般的に、株式会社にはコーポレート・ガバナンスの観点から「所有と経営の分離」という仕組みがあり、株式会社の所有者である株主が、経営のプロである経営陣に経営を委任することによって成り立っています。

しかし、このMBOとは「所有と経営の分離」の仕組みに反して所有と経営を一致させようとするもので、これは所有と経営を一致させる方が株主全体の利益になるときに実行されます。

MBOは、前述のような経営陣による買収の他に、他者からの買収に対する対抗策、事業承継などの多様な場面で用いられます。

例えば、中小企業において、会社のオーナー株主が引退する際に、オーナーではない代表取締役がMBOを行って買収することによって、オーナー兼社長として経営を行うことができるようになります。

また、会社商号や屋号などを継承する「のれん分け」に用いられることもあります。

さらに、企業グループの経営方針により子会社を切り離す際に、第三者に売却せずに経営陣が株式を取得して独立するために用いられることもあります。

なお、経営陣ではなく従業員が株式を買い取る場合を「EBO、Employee Buyout(エンプロイー・バイアウト)、経営陣と従業員が共同で株式を買い取る場合を「MEBO、Management and Employee Buyout)」と言います。

TOBとの違い

一方、TOBは「Take-Over Bid(テイクオーバー・ビッド)」の略語で「株式公開買付」と訳されます。

対象企業の発行済株式を、「買付け期間・買取り株数・価格」を公告して、不特定多数の株主から株式市場外で買い集めることです。

MBOとTOBとの大きな違いは、株式を買い取る者がその会社の経営陣か社外の第三者かという点です。

MBOはあくまでも自社の経営陣が独立することを目的に行いますが、TOBでは第三者が対象企業の経営権を取得して「企業買収」や「子会社化」することを目的に実施します。

また、TOBは対象企業の経営陣の同意を得て行われる「友好的TOB」と、同意を得ずに行われる「敵対的TOB」に分けることができます。

なお、平成17年の証券取引法改正によって、買付け後の株式所有割合が3分の1を超える場合にはTOBを行うことが義務付けられたため、MBOのプロセスとしてTOBが行われることもあります。

近年のMBO事例

次に、近年のMBOの事例を3件紹介します。

事例1:ニチイ学館

2019年9月に医療事務・介護サービス大手のニチイ学館会長で創業者の寺田明彦氏が死去したことに伴い、2020年5月8日にニチイ学館がアメリカの投資ファンドのベインキャピタル(ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン・LLC)と組んでMBOを行うと発表し、2020年8月19日にMBOが成立したと発表しました。

創業者の強力なリーダーシップによって業績が急拡大してきたことから、経営陣は集団経営体制を確立することが急務と判断し、また事業構造の改革と新規事業の立て直しを目的としてMBOを行ったものです。

TOBの期間は3回延長されて、TOB価格も当初の1,500円から1,670円まで引き上げられましたが、最終的に発行済株式総数の82%を取得し、現在は上場廃止されています。

事例2:イグニス

2021年3月、スマートフォンアプリの企画・開発・運営を行っているイグニスの経営陣は、MBOを実施して株式を非公開化すると発表しました。

そして2021年4月、経営陣はベインキャピタル(ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン・LLC)と設立した共同出資会社を通じてTOBを行い、株式を100%取得してMBOが成立しました。

イグニスがMBO目的のTOBに賛同しており、またTOB価格は公表前日の終値1,787円に約68%のプレミアムを加えた1株3,000円だったこともあり、MBOはスムーズに行われました。

MBOの結果、東証マザーズへの上場が廃止となり、株式の非公開化によって株主の意向に左右されることなく機動的かつ柔軟な意思決定が可能となりました。

事例3:ニッパンレンタル

2021年3月、建機レンタルのニッパンレンタルがMBOにより、株式の非公開化を目指すと発表しました。

ニッパンレンタルの石塚春彦社長が設立した赤城が、前日終値の918円に約14%のプレミアムを加えた1,050円のTOB価格で買い付けを行い、議決権ベースで株式の約67%を取得しました。

MBOの成立により、ニッパンレンタルの株式は非公開化され、店舗の統廃合などを実施して事業構造改革を進めることになりました。

このMBOの背景として、店舗の統廃合を行うことによって短期的な収益悪化などが考えられるため、株主への説明が難しかったということがあったようです。

MBOの5つのメリット

MBOを行うことによって多くのメリットが生じますが、ここではその中から代表的な5つのメリットを紹介します。

メリット1:通常のM&Aよりも従業員からの理解や賛同を得やすい

MBOのメリットの1つ目として、通常のM&Aよりも従業員からの理解や賛同を得やすいということがあります。

通常のM&Aによって第三者の企業やファンドなどに買収された場合は、第三者が新経営陣として乗り込んでくる形になりますので、従来から会社に貢献してきた従業員たちから不満や反発が生まれやすくなります。

特に、敵対的買収だった場合には、従業員からの反発の可能性は高く、その後の経営がうまくいかないことになるケースもありますし、事業の再編などによって雇用を失うかもしれないという不安を抱く従業員も出てきます。

しかし、MBOの場合は、現経営陣が株式を取得して株主構成が変化するだけです。

つまり、MBOであれば現経営陣が引き続き経営に携わることになりますので、従業員の納得感も得られ、経営に対する賛同も得やすくなるのです。

さらに、多くの場合は会社組織には変化がなく、事業や人材などの経営資源もそのまま引き継がれますので、従業員の雇用もそのまま継続されることになります。

なお、MBOを行う場合であっても、それを契機に経営や事業の方向転換を行う場合もありますが、同じ経営陣であることから不信感を最小限に抑えることができます。

メリット2:株式が経営陣に集中するため、速やかな意思決定を行うことができる

MBOのメリットの2つ目として、株式が経営陣に集中するため、速やかな意思決定を行うことができるということがあります。

MBOを行うことによって、経営陣が自社の株式を取得することになりますので、経営陣の意思決定権が強化されて迅速な意思決定が可能となります。

前述のイグニスの事例がこれに該当します。

メリット3:短期での成果を求められにくくなる

MBOのメリットの3つ目として、短期での成果を求められにくくなることが挙げられます。

企業が中長期的な成長戦略や経営計画を実行したいときに、短期的な利益を追求する株主から脱却するためにMBOを行う場合があります。

株式を経営陣が独占的に持つことになりますので、短期的な利益や配当を求める株主の意向を気にする必要がなくなり、中長期的な経営計画を実行することが可能となります。

前述の事例の中では、ニッパンレンタルのケースがこれに該当します。

メリット4:事業継承をしやすい

MBOのメリットの4つ目として、事業継承をしやすいことが挙げられます。

MBOは、事業継承のために行われることがあります。

即ち、事業を承継する後継者の取締役が、オーナー株主から株式を買い取ってMBOを行いますので、スムーズに経営権を移転することができるのです。

オーナー株主は、MBOによって株式を買い取ってもらえるため、ムーズに引退することができます。

事業承継のためのMBOは、親族間や知人間での事業承継のために行われます。

メリット5:企業秘密が漏れにくい

MBOのメリットの5つ目として、企業秘密が漏れにくいことが挙げられます。

株式会社の所有者は株主であるため、企業秘密に該当する事項についても株主総会を開いて情報を共有していかなければならないことがあります。

情報を共有する人が増えればそれだけ情報漏洩のリスクが高まってきます。

しかし、MBOを行うことによって経営陣が所有者になりますので、企業秘密などの情報も経営陣などの間で共有するのみとなり、情報漏洩のリスクが低くなります。

MBOの3つのデメリット

一方、MBOを行うことによるデメリットも存在します。

代表的な3つのデメリットについて説明します。

デメリット1:既存株主の賛成が得られない場合がある

MBOのデメリットの1つ目として、既存株主の賛成が得られない場合があることが挙げられます。

MBOを実施する際に、経営陣はなるべく安く株式を買い取りたいと考えますが、既存株主は高値で売却したいと考えますので、ここで対立が起こる可能性があります。

最悪の場合は、既存株主が買い取りに応じないため、MBOが実行できない事態に陥ることも考えられますので、既存株主が納得できる価格で買い取ることが重要となります。

デメリット2:多額の債務を負う可能性がある

MBOのデメリットの2つ目として、多額の債務を負う可能性があることが挙げられます。

MBOを行うほとんどのケースでは、金融機関やファンドなどから資金調達を行うため、多額の債務を抱えることとなります。

この債務は、今後会社の収益を上げて返済をしていかなければなりません。

デメリット3:経営の監視機能が弱まるため健全性を保ちにくくなる

MBOのデメリットの3つ目として、経営の監視機能が弱まるため健全性を保ちにくくなることが挙げられます。

MBOによって経営陣が株式を買い取ると、所有と経営が一致することになります。

つまり、冒頭で説明した「所有と経営の分離」という仕組みがなくなりますので、適切に経営を監視するという機能が弱くなり、健全性を維持できなくなる可能性があるのです。

MBOの具体的な実施手順

MBOの具体的な実施手順について説明します。

手順1:経営陣がSPC(特別目的会社)を設立する

MBOを実施するには、株式を買い取り、事業を受け入れるための受け皿となる新会社が必要です。

この株式と事業の受け皿となる会社のことを、「SPC(Special Purpose Company)」または「特別目的会社」と言います。

SPCは、会社を買い取る経営陣などが新規に設立して、株主から株式を買い取り、MBO対象企業を子会社化するために使われます。

手順2:対象企業の企業価値を評価する

SPC設立後に、対象企業の事業の収益性や将来性、キャッシュフローの安定性などを判断材料として企業価値の評価を行います。

ここでは、外部の各方面の専門家による客観的な評価が必要となります。

この企業価値の評価結果によって、株式の買取価格を決定することになりますので、現在価値だけではなく今後の見込み判断が重要となります。

手順3:SPCが資金を準備する

MBOでは、SPCが株式を買い取るための資金を準備しますが、一般的に多額の資金が必要となります。

そこで、経営陣の自己資本だけでは不足する場合は、金融機関や投資ファンド、日本政策金融公庫などから借入をして資金調達をします。

事例でも紹介しましたが、近年のMBOでは投資ファンドと組んで行うことが多くなっています。

手順4:対象企業はSPCへ株式を売却する

SPCが、調達した資金を使って既存株主から対象企業の株式を買い取ります。

スムーズに株式の買取りをすすめるためには、株価にプレミアムを付けるなどして、納得の行く買取価格を設定することが重要です。

先に紹介したイグニスやニッパンレンタルの事例でも、前日終値に対してプレミアムを加えた買取価格だったためスムーズな交渉が行われました。

手順5:対象企業を子会社化したのち合併する

SPCがすべての株式を取得したら、SPCは対象企業を子会社化し、その後子会社とSPCを合併します。

これによって、対象企業の株式はすべて経営陣のものとなりMBOが成立します。

安定したキャッシュフローと将来性のある事業を有する企業であればMBOを実施することで経営状態を向上させることができる!

少子高齢化や人口減少などの影響から日本の市場規模は減少傾向になると言われており、経営戦略の見直しが急務とも言われています。

そこで、特に中小企業において短期的な利益を追求する既存株主から脱却するための手法として、MBOが注目されています。

MBOの実施により経営陣の意思決定権が強化されますので、将来性のある事業を持ち、安定したキャッシュフローが期待できる企業であれば、将来に向けて経営状態を向上させることができると考えられます。

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