【投稿日】 2022年6月4日 【最終更新日】 2022年6月21日
企業が中途採用を行う際によく聞かれるようになった「リファレンスチェック」と「バックグラウンドチェック」。
本記事では、リファレンスチェックとバックグラウンドチェックの意味や目的をしっかりと理解し、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら、リファレンスチェックとバックグラウンドチェックの違いを解説していきます。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
リファレンスチェックとは?
リファレンスチェック(Reference Check)とは、英語を訳すと「経歴照会」「身元照会」といった意味になり、職務経歴書に書かれている内容に虚偽がないかどうか、求職者の信用を第三者に照会する手法です。
中途採用を行う過程で、求職者の前職での勤務状況や能力、性格などに関して、書類選考や面接を通じて求職者から申告されたものと整合しているかどうかを、前職の上司や同僚にヒアリングして確認します。
リファレンスチェックは、個人情報保護法により、事前に求職者に目的を伝え、了承を得なければ実施できません。
リファレンス先は、求職者からリファレンス先を紹介してもらう場合と、企業の方で調査会社や転職エージェントなどを使って、リファレンス先を探す場合があります。
一般的に、企業の採用担当者が、前職の関係者に直接ヒアリングする場合が多いですが、調査会社などにリファレンス先を探してもらう場合は、そのままリファレンスチェックまで委託することもあり、方法も、従来の電話でのヒアリングから、ビデオチャット、オンラインアンケートなど多岐にわたるようになりました。
リファレンスチェックの実施目的
リファレンスチェックの目的は、主に以下の4点です。
目的1:第三者への事実確認をし、公正な選考をするため
企業は、求職者がアピールした職歴や実績を第三者に事実確認することで、虚偽の申告がないかどうかを確認することができます。
リファレンスチェックによって求職者の情報に虚偽がない事を確認できれば、公正な選考ができるようになるでしょう。
目的2:企業と求職者とのミスマッチを防ぐため
初めて会った求職者との1時間程度の面接では、自社と求職者がマッチしているかを判断するのは難しいものです。
そこで、求職者の前職での実際の人柄や仕事ぶりを知ることで、より詳細な求職者の情報が採用担当者に伝わり、双方のミスマッチを減らすことができます。
リファレンスチェックは、基本的に求職者が自社にどれほどマッチするかを調べるための調査と言えます。
求職者が自社に採用された後、どのような職場環境に置かれれば、そのパフォーマンスを十分に発揮できるかを調べることにより、自社の利益を増やすことになるのです。
目的3:書類・面接でわからない部分を客観的・多角的に判断するため
リファレンスチェックでは、書類に書きにくいことや、面接では話しにくいこと、説明しきれないことなどを確認する目的もあります。
リファレンスチェックにより、過去に金銭トラブルや不祥事を起こしていたことが判明する場合もあるでしょう。
また、マイナス面以外にも、応募者からのアピールだけでは得られない、応募者の価値観や職務能力、人間関係の築き方などについて客観的な情報を得られ、多角的な判断ができる材料にもなります。
目的4:応募者との信頼関係を構築するため
応募者の経歴が正しいことを、第三者の証言によって裏付けることで、企業側は安心できます。
また、応募者の側も、申告内容に嘘がないことを確認してもらえるため、安心して信頼関係を構築しやすくなります。
◉-2、リファレンスチェックの調査内容
リファレンスチェックで調査する内容は、主に以下の3点です。
調査内容1:勤務状況に関するもの
前職の在職期間や勤務時間が書類と整合しているか、残業の有無、職務内容や役職の整合性、休職の有無など
調査内容2:勤務態度やコミュニケーション、人物に関するもの
周囲とのコミュニケーションが活発で良好であったか、上司や同僚・部下との折り合いは悪くなかったか、人に対する態度で感情的になることはなかったか、性格はどうだったか、人望は厚かったか、一言で言うとどんな人物か、など
調査内容3:職務能力に関するもの
スキルや経験、実績の整合性、何かトラブルが起きた時に問題解決能力や意思決定能力はあったか、仕事への適性はどうだったか、リーダーシップは発揮できていたか、職務における長所と短所など
リファレンスチェックの実施者
リファレンスチェックの実施者は、採用する企業の採用担当者が多く、他に、間に入っている転職エージェントや調査会社、Webサービス事業者などの場合もあります。
バックグラウンドチェックとは?
バックグラウンドチェックとは、背景調査、採用調査、雇用調査などと呼ばれるものです。
採用選考時に、求職者の提出した書類に記載されている経歴や内容に虚偽や問題がないかをあらかじめ調査することで、後々の会社の不利益を回避するための調査です。
バックグラウンドチェックでは、応募書類の記載内容を証明できる他の書類の提出を求めたり、事実を知っている関係者に連絡して、直接確認したりします。
また、経歴の虚偽にとどまらず、学歴や犯罪歴なども含めて、その人物についての背景を広く調査するという意味合いで行われる場合もあります。
一般的に、企業から委託された調査会社が、データベースでの照合や、電話での聞き込み調査で実施することが多く、企業が自ら調査をすることは、めったにありません。
バックグラウンドチェックの実施目的
バックグラウンドチェックの目的は、会社に不利益をもたらす可能性のある人物の採用を未然に防ぎ、不祥事を起こすことなく利益をもたらしてくれる人を採用することです。
過去に犯罪や大きなトラブルを起こしたことがないかどうか、採用前に確認することで、採用後に社内の混乱や業務上の損害が発生することを防ぎます。
また、求職者が自分で記入する履歴書・職務経歴書では、経歴詐称も可能ですし、面接で不都合なことを言わずに隠すこともできるでしょう。
そのため、一部の求職者による詐称や隠蔽、誇張によって採用の公平性を失われないよう情報の正確性を担保することも目的の一つです。
したがって、バックグラウンドチェックはリファレンスチェックと違い、マイナス面の要素がないか確認するネガティブチェックの意味合いが強くなります。
バックグラウンドチェックの調査内容
バックグラウンドチェックで調査する内容は、主に以下の9点です。
調査内容1:学歴や職歴など経歴の相違
まず学歴ですが、応募書類に記載されている学校へ実際に通っていたのかどうか、入学や卒業の年度、専攻や学位に誤りがないかどうかを確認するために、卒業証書の提示を求めて照合したり、学校へ連絡して在籍の事実を確認したりします。
職歴については、応募書類に記載されている、過去に勤務した企業の入退社日、雇用形態、職務内容などに虚偽がないかどうか、過去の勤務先に電話やメールなどで確認します。
職種によっては、源泉徴収票や資格証明書などの提出を求める場合もあるようです。
調査内容2:前職の状況・勤務態度
普段の勤務態度や勤怠、実績、人間関係などについて、過去の勤務先の上司や同僚に電話やメール、Webアンケートフォームで確認します。
誰宛に確認をするかを求職者本人が指定できることもあり、これは一般的なリファレンスチェックと同様です。
調査内容3:登記情報・住宅情報
法務局で一般公開されている登記簿で、不動産の所有状況を調べます。
本人所有の不動産が差し押さえられていた場合、登記簿で確認できるためです。
また、本人の居住する住宅の情報を調べる場合もあります。
頻繁に住所が変更されている場合、何か問題を起こしている可能性や、反社会的勢力と繋がっている可能性もあるため、注意が必要です。
調査内容4:インターネット・SNS調査
近年では、気軽にできることもあり、インターネット上での調査も一般的です。
インターネットやSNS上で、過去に大きなトラブルがないか調査します。
インターネット検索やSNSで求職者の名前を検索し、Webニュース記事やブログ、SNSなどをチェックして、逮捕歴や、社会人として不適切な発言・行為を過去にしていないかなどを確認するのです。
SNSでは、プライベートで見せる性格上の問題や、交友関係のリスクがわかることもあります。
例えば、SNS上で公序良俗に反するような投稿が普段から散見されているケースや、社会的なリテラシーの低さが伺える場合などは、社外秘情報を公開してしまうような一面に繋がるかもしれません。
もしこのようなことが確認できた場合には、その求職者は自社に多くのリスクや不利益を与える恐れがあります。
調査内容5:近隣調査
求職者本人の自宅周辺で、居住の実態や、普段の生活状況を確認したり、近隣住民に本人の評判などを聞き込み調査したりします。
調査内容6:犯罪・軽犯罪歴
日本では犯罪歴は非公開なので、インターネットやSNS、新聞などのメディア情報を調査します。
ネガティブ情報である犯罪歴については、プライバシー保護の観点から、業務上必要な範囲内でのチェックにとどめるべきですが、もし自社の業務を遂行する上で問題となるような犯罪歴がある場合は、採用後に大きなリスクになりかねないので、注意が必要です。
例えば、物流・運転を主業務とする企業で、求職者に酒酔い運転の経歴があったとしたら、その求職者は後々自社に大きな損害を負わせる危険性があります。
調査内容7:民事訴訟歴
バックグラウンドチェックで主に意識すべき民事訴訟歴とは、具体的には財産に関する紛争があったかどうかを確認することが多いです。
例えば、「損害賠償請求をされた」などがそれにあたります。
ただし、民事訴訟歴は公的な機関でデータベース化されていないため、最高裁判所以外の判決記録を調べるのは、仕組み上困難です。
したがって、一般公開されている最高裁判所の判決記録や、新聞などのメディアの情報、調査会社が持っている独自のデータベースをもとに調査します。
調査内容8:破産履歴・金銭トラブルの有無
官報で公開されている情報に、自己破産の情報が載っていないかどうか調査します。
破産歴を調べる理由については、職業制限の対象となる仕事が存在するからです。
例えば、税理士や弁護士、信用金庫の役員や生命保険募集人など、他人の資産や金銭を扱う仕事は、制限がかかりやすくなります。
自社の事業内容によっては、この辺りについても確認することが必要となるでしょう。
また、前職で金銭トラブルがあったかどうかについても調べることがあります。
職場内で金銭トラブルを起こすような人物は、自社においても多大なリスクを背負うと言っていいでしょう。
調査内容9:反社チェック
反社会的勢力と何らかの関係を持っていないか、メディアの情報や反社チェックサービスの独自データベースなどで調査します。
2007年に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が政府の犯罪対策閣僚会議から出され、企業において「反社会的勢力との付き合い」について、より注視する必要が出てきました。
Web検索や新聞記事の検索サービスで、求職者の名前を検索すると、反社会的勢力や関係者であるという情報が出てくることがあります。
過去に事件を起こした組織や人物であれば、無料で利用できるサービスの範囲でヒットすることもありますが、取引の内容によっては、国立国会図書館の新聞記事データベースやG Search(ジー・サーチ)などの有料サービスの活用が必要な場合もあるでしょう。
反社チェックツールを導入する方法や、独自のデータベースを持っている調査会社に委託する方法もあります。
バックグラウンドチェックの実施者
バックグラウンドチェックの実施者は、リファレンスチェックと違い、探偵や調査会社、信用機関などがほとんどで、採用企業によって行われることはめったにありません。
リファレンスチェックのメリット・デメリット
リファレンスチェックのメリット・デメリットは、以下の通りです。
リファレンスチェックのメリット
リファレンスチェックのメリットは、以下の6点です。
メリット1:自社の求める人材像とのミスマッチを防ぎ、採用リスクを減らすことができる
リファレンスチェックでは、自社が求める人材像や実績、働き方や社風と、求職者が求めるそれとがマッチしているかを、より正確に判断することができます。
一緒に働くメンバーとの融和性も重要なため、前職の職場での求職者の人柄や人との関わり方を知ることで、どのような仕事が適任かということや、どのような人と仕事をさせたらその人のパフォーマンスが活かせるのかがわかり、最適配置にも繋がります。
メリット2:入社後のスキルや経験のギャップを未然に防ぐことができる
例えば、企業が日常的に英語でコミュニケーションを取れる人を採用したい場合、求職者が「できる」といっても、実際のところはわからず、前職の業務では、実際には使っていないことも考えられます。
このように、スキルや経験についての求職者情報の細かいギャップを埋めることができます。
メリット3:前職での勤務態度や働き方を知ることで、早期退職を防ぐことができる
リファレンスチェックでは、求職者が以前の職場でどのくらい真面目に勤務していたかがわかります。
勤務態度に問題のあった者を事前に知ることで、早期退職のリスクを減らすことができるのです。
メリット4:自社の魅力を伝え、採用の成功率を上げることができる
前職で、求職者がどのような価値観で仕事をしていたか、どのような仕事にモチベーションを感じていたかを知ることで、自社のどのような部分を魅力として伝えるかが見えてきます。
求職者がそのパフォーマンスを発揮できるポジションや、モチベーションを感じる働き方や業務内容を提示することができれば、内定辞退や早期退職といったリスクを防ぐことができるでしょう。
メリット5:書類や面接で知り得なかった人柄や働き方を知ることができる
書類や面接では得られなかった、残業時間やチームで仕事をしていたかどうかなど、細かい働き方を知ることもできます。
また、前職での人間関係など、マイナス面だけではなく、求職者本人が気づいていない長所や、会社への貢献度に関しても知ることができます。
メリット6:休職など応募者が申告していないマイナス面を発見できる
前職を辞めた際、応募者の能力に問題があったり、トラブルを起こしたりしていたケースもありますが、こうした問題は、面接では話されることはないでしょう。
また、在職中に休職などがあった場合も、応募者側からすると履歴書には書きにくいものですが、採用する企業側としては、休職の有無とその理由は気になります。
リファレンスチェックでは、このように応募者が申告・提供していないマイナス面の情報を確認することも可能なのです。
リファレンスチェックのデメリット
リファレンスチェックのデメリットは、手間や時間がかかること、前職の関係者とのやり取りが気疲れすることなどで、他には特にないと言えるでしょう。
バックグラウンドチェックのメリット・デメリット
バックグラウンドチェックのメリット・デメリットは、以下の通りです。
バックグラウンドチェックのメリット
バックグラウンドチェックのメリットは、以下の3点です。
メリット1:正しい情報を判断基準にすれば安心して採用できる
バックグラウンドチェックを行うと、正しい情報を得られるのが第一のメリットです。
申告した内容に虚偽があったら、業務を行うために必要な能力がない人を採用してしまう危険があります。
面接での反応や発言内容から推測するだけでは不確実な情報を、バックグラウンドチェックで裏付けできれば、安心して採用できるでしょう。
メリット2:求職者が虚偽申告していないかどうか確認することができる
バックグラウンドチェックは、噓をつく求職者を見つけるためにも有効です。
たとえ些細なことだったとしても、偽った申告をする人物を採用したい企業はないでしょう。
選考途中で事実と違う情報を提供しているとわかれば、噓をつく人物を雇うリスクを回避できます。
また、学歴やスキルに関する証明書の添付を義務付けると、学歴や資格を詐称する人はまず応募してこないため、応募者の質が良くなることもメリットです。
メリット3:従業員や自社イメージを守れる
コミュニケーション能力に致命的な欠点がある人物やハラスメントを行う人物、最低限必要なスキルがない人物などを雇ってしまうと、他の従業員が被害を受ける可能性があります。
働きやすさが損なわれると、社員の定着率が悪くなるため、バックグラウンドチェックで危険人物を排除すれば、安心して働ける環境を守れます。
また、従業員が不法行為を行ったり、世間からバッシングを受けるようなトラブルを起こしたりすると、自社のイメージ悪化は避けられないでしょう。
そういった問題社員を雇うリスクを減らせるのも、メリットの一つです。
バックグラウンドチェックのデメリット
バックグラウンドチェックのデメリットは、リファレンスチェックよりも調査のためのコストがかかることが第一です。
バックグラウンドチェックは、自社で行うことがほとんどのリファレンスチェックと違い、専門の調査会社や探偵事務所、信用機関に委託することがほとんどのため、リファレンスチェックよりもかなりコストがかかると思っていいでしょう。
もう一つは、調査方法を間違えると、「プライバシーの侵害」や「就職差別」など、違法行為や不適切な採用活動をしていると判断されることです。
バックグラウンドチェックで調査する内容には、個人情報が多く含まれているため、個人情報保護法や職業安定法、厚生労働省の指針など、複数の法律と関係してきます。
特に、「要配慮個人情報」(個人情報保護法第二条)の取り扱いは注意が必要で、本人の同意がない限り、取得することはできません。
また、職業安定法も考慮し、採用選考に必要な範囲の情報のみを調査するようにしなければなりません。
このため、調査会社や信用機関にバックグラウンドチェックを委託する際には、適切に法令を遵守しているところを選ぶことが重要です。
リファレンスチェックやバックグラウンドチェックを上手く取り入れて、より自社に有益な人材を採用しよう!
ここまで、リファレンスチェックとバックグラウンドチェックについて、それぞれの実施目的、調査内容、実施者、メリット・デメリットについて、比較しながら解説してきました。
リファレンスチェックは近年増加傾向にあり、一方バックグラウンドチェックは減少傾向にあります。
それはなぜかというと、リファレンスチェックは求職者と採用企業とのマッチングを主な目的としているため、中途採用においては非常に有効で、求職者にもリファレンス先にも受け入れられやすいものですが、バックグラウンドチェックは求職者の個人情報に抵触する項目があるため、求職者本人や前職の勤務先などから拒否されたり、個人情報保護のため、情報を提供されなかったりすることがあるからです。
しかし、バックグラウンドチェックも雇用リスクを避けるためには有効な方法であり、従業員や自社を守るためには必要であるとも言えます。
特に、反社チェックに関しては、倒産などの重大なリスクを避けるため、最低限行った方がいいでしょう。
アメリカではリファレンスチェックもバックグラウンドチェックも一般的であり、日本にある外資系企業でも義務付けられていることが多いようです。
終身雇用制度が崩壊し、中途採用が増加していく今後の日本社会では、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックを上手く取り入れて、雇用リスクを避け、より自社にとって有益な人材を確保することが求められているのではないでしょうか。
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