【投稿日】 2022年3月12日 【最終更新日】 2022年4月29日

M&AはMerger and Acquisitions(合併と買収)の略語で、会社もしくは経営権を取得することを意味します。

本記事では、M&Aを行う手法の種類や、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説いたします。

M&Aにおけるスキーム(手法)の種類

M&Aには「買収」「合併」「提携」という3つの手法が存在します。

【1】買収

買収は、会社の経営権や、その会社の事業など一部を取得するM&A手法です。

買収は、さらに「株式取得・資本参加」「事業譲渡・資産買収」「会社分割」という3つの種類に分けられます。

株式取得・資本参加

株式取得・資本参加は、株式売買によって経営権取得や子会社化、増資などを行う手法です。具体的には「株式譲渡」「第三者割当増資」「株式交換」「株式移転」という4つの種類に分けられます。

株式譲渡 対象会社の株式を売買することによって、経営権を移転させる手法のことです。 手続きが簡易で迅速な取引が可能なため、中小企業のM&Aにおいては一般的な手法とされています。
第三者割当増資 特定の第三者に株式を発行し、発行会社に対価の払い込みをおこなってもらう手法のことです。 会社の資金調達方法の一つですが、株式を引き受けた者の議決比率が高まることからM&Aスキームとして用いられています。
株式交換 株式会社がその発行済株式の全部をほかの会社に取得させる手法のことです。 発行済株式の全部を取得された会社は完全子会社、取得した会社は完全親会社となります。 対価を株式とした場合には現金を用いずにM&Aできますが、買い手側の企業が上場企業でない場合、あまり用いられることはありません。
株式移転 1、もしくは2以上の株式会社が、その発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させる手法のことです。 最終的な目的は第三者との事業統合であるものの、一気に合併をした場合の組織の軋轢を避けるために、株式移転を用いゆるやかな統合を目指す、という例で使われることがあります。

事業譲渡・資産買収

「事業譲渡・資産買収」は、その会社の株式ではなく、一部の事業や資産を売買する手法です。具体的には「一部譲渡」と「全部譲渡」という2つのパターンに分けられます。

複数の事業を行っている会社が、特定の事業だけを譲渡したい場合や、対象会社に存在する潜在的な債務を切り離すことを目的として選択される手法です。

例えばニュースなどで「◉◉社が赤字回復のため◉◉事業の売却を検討している」など報道されているのが事業譲渡です。また、「◉◉社が保有していた自社ビルを売却」などと報道されている資産買収になります。

【2】合併

合併とは、複数の会社が法的に1つの会社となることを指すM&A手法です。

「吸収合併」「新設合併」という2つの手法が存在します。

吸収合併

吸収合併は、一方の法人格を残し、他方の法人格を消滅させた上、合併によって消滅する会社の権利義務の全てを、合併後存続する会社に承継させるM&A手法です。

その名前の通り、1つの会社がもう1つの会社を完全に吸収します。

合併のもう一つの手法である「新設合併」と比べると、多くのM&Aにおいて吸収合併が選択されているのが現状です。

新設合併

新設合併は、対象会社の法人格を消滅させたうえで、新たに設立する会社に権利義務を承継させる手法のことです。

新設合併によるM&Aスキームをおこなう主な目的は「グループ内における組織再編」ですが、多くのM&Aの事例において、「吸収合併」が選択されているのが現状です。

【3】提携

提携をすることによる経営面の協力関係を含めたものは、広義のM&Aとされ、一般的なM&Aには含まれない場合があります。

なぜなら、買収・合併とは異なり、会社の経営権を取得する目的がないからであるとされます。

しかし、業務・資本面での協力関係を構築することで買収・合併と同程度の相乗効果を期待する場合、提携ののち、買収・合併に進むという言わば事前段階として利用する場合、提携もM&A手法の1つとして含められることがあります。

提携は、大きく「資本提携」と「業務提携」の2種類に分けられます。

資本提携

資本提携とは、「資本の移動を伴う提携」のことを指します。

2つ以上の会社がお互いに業務面や資金面で協力する提携関係を築くための手法です。

資本提携では、株式資本の取得や譲渡、株式の持ち寄りなどを提携関係構築に用います。

業務提携

一方の業務提携は、「資本の移動を伴わない提携」のことを指します。

この場合は株式資本の移動は発生せず、業務面でのみの提携を行うのです。

2つ以上の会社がお互いの技術や人材、顧客といった経営資産を持ち寄って協力関係を築き、売り上げ増を目指していくのが一般的となります。

近年のM&Aでは「株式譲渡」と「事業譲渡」が8割以上を占める!

2017年11月に、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が中小企業30,000社を対象に行った「成長に向けた企業間連携等に関する調査 」というアンケートによると、用いられたM&Aスキームは、次のような割合になっています。

  • 「事業譲渡」が41.0%
  • 「株式譲渡」が40.8%
  • 「合併」が15.0%
  • その他が3.1%

このアンケート調査は、サービス業では売上高5億円以上、その他業種では売上高10億円以上を対象としているため、比較的規模の大きい企業の調査結果になりますが、「事業譲渡」「株式譲渡」が8割以上を占めていたということになります。

「株式譲渡」はM&A手法の中でも手続きが簡易・迅速なことが、8割以上も占めていた理由の1つに挙げられるでしょう。

またアンケート内の調査における「事業譲渡」を選択した理由として、次のような意見が挙げられており、こうした理由からも、上述の「株式譲渡」「資本譲渡」はM&Aの全手法の中でも選択しやすいM&Aの種類であると言えます。

『取得したい資産や従業員、取引先との契約を選別できた』

『簿外債務の引継ぎや想定外のリスクを回避できた』

『会社法上の手続の煩雑さを避けられた』

M&Aスキーム(手法)の種類ごとのメリット・デメリット

M&Aを行う手法は沢山ありますが、M&Aの手法にはそれぞれ、次のようなメリットとデメリットが存在します。これらのメリット・デメリットを知った上で、慎重に手法を判断することが重要です。

買収のメリット・デメリット

買収のメリットは主に次の4つです。

既存事業の拡大 同業種の会社、事業の買収により、既存事業に役立つ人材やノウハウ、販路などを獲得できます。収益性や生産性の強化による既存事業の拡大が見込めるでしょう。
新たな事業分野への参入 参入していない分野の企業を買収することで、新たな事業分野への参入をすることができます。一から新規参入する場合よりも、リスクを削減しながら会社拡大をおこなっていけるでしょう。
コストの削減 事業拡大の実施による大量仕入れによる原材料価格の低下や、人材、生産性の向上によるコスト削減が見込めます。
スピーディーな目標達成 これまでに挙げてきた優秀な人材登用、ノウハウの取得などによる既存事業拡大や新たな事業への参入、コストの削減など、様々な企業目的を自社のみでおこなうよりも格段にスピーディーに達成していけることです。 これこそが、最も大きなメリットと言っても過言ではないでしょう。

買収のデメリットは主に次の3点になります。

簿外債務や偶発債務を引き継ぐリスク 未払い賃金、退職金などの簿外債務や、訴訟による損害賠償などの偶発債務が引き継がれるリスクがあるでしょう。
PMIの大きな負担 PMI(Post Merger Integration)買収後に売り手・買い手の経営を統合する作業の負担が大きいこともデメリットと言えます。
コストの削減 事業拡大の実施による大量仕入れによる原材料価格の低下や、人材、生産性の向上によるコスト削減が見込めます。
優秀な人材の流出のリスク 獲得を希望していた優秀な人材が移籍を拒否した場合など、人材流出の可能性を100%排除することが難しいです。

メリット・デメリットは対応している箇所も多いので、照らし合わせ確認していくことが重要となります。

株式取得・資本参加のメリット・デメリット

買収の中でも「株式取得・資本参加」を行う場合のメリット・デメリットは次の通りです。

メリット ・比較的手続きが容易 ・様々な戦略、目的で活用が可能 ・許認可を引き継ぎやすい ・株式譲渡の場合、売却の対価を受け取ることが出来る
デメリット ・特定の資産や事業のみを売買できない ・買収先従業員から反感を買うリスクがある ・譲渡や取得取引の交渉が困難になる場合がある ・株式譲渡の場合、購入資金が必要となる

やはり手続きが簡単でスムーズというのが「株式取得・資本参加」を行う大きなメリットです。

しかし特定の資産のみの売買ができないので、会社の存続を希望する場合は慎重に選択する必要があるでしょう。

事業譲渡・資産買収のメリット・デメリット

日本で行われるM&Aの中で、最も多く選択されている「事業譲渡・資産買収」のメリット・デメリットは次の通りです。

メリット ・特定事業を指定して売却できる ・会社に負債があっても譲渡先が見つかりやすい ・会社存続、経営継続ができる
デメリット ・債務の債権者、従業員と個別に承諾を得なければ進められない ・時間がかかる ・同一の市町村区域内で、同業ビジネスができない

「株式取得・資本提携」の場合とは異なり、特定の事業を指定して売却したいとお考えの場合はこの手法が適切と言えるでしょう。

しかし、多くの手続き、そして時間が必要となりますので、早急なM&Aを希望している場合は選択が難しい手法です。

「合併」のメリット・デメリット

M&A手法における、合併のメリットは主に次の4点です。

資金準備なしでのM&A実施 会社法第749条1項2号の規定により、合併では対価として、金銭だけでなく株式などの交付も認められています。 そのため資金準備をすることなくM&Aを実施できることが、合併の最たるメリットと言えるでしょう。
シナジー効果がスムーズな実感 合併では売り手・買い手が1つの会社となるため、スピーディーかつ安全にシナジー効果を実感していける可能性が高いです。
対等な立場でのM&A 社会的な印象として、合併は対等な立場でおこなわれるM&Aという印象を受けやすいです。それ自体がメリットの1つとして数えられます。
資産などの包括的な承継 事業譲渡などと比較したときの合併のメリットとしては、承継する資産などを個別で移転手続きしなくてよいということです。

合併のデメリットは主に次の3点です。

他M&Aと比べた手続の多さ 社内外を問わない多くの手続きを要する点は、合併最大のデメリットと言えるでしょう。
株価下落のリスク 合併に伴い、株価が下落するリスクが高まります。 一概には言えませんが、投資家たちの印象を上手く良くしていく努力が必要となるでしょう。
顧客重複に伴う規模縮小 同業他社との合併である場合、顧客が重複していることによる純粋な顧客数の減少リスクがあります。

買収との重複点、相違点が多く見られるので、そのあたりも慎重に見極めるべきと言えるでしょう。

吸収合併のメリット・デメリット

合併の中でも「吸収合併」の場合のメリット・デメリットは次の通りです。

メリット ・統合効果の早期実感 ・対等なM&Aの印象付け(対等合併の場合) ・存続会社への包括的な権利承継
デメリット ・過剰な現場負担のリスク ・重複した顧客に伴う取引縮小 ・必要手続の多さ

新設合併のメリット・デメリット

新たな会社を設立するタイプの「新設合併」における、メリット・デメリットは次の通りです。

メリット ・統合によるシナジー効果の実感 ・事業規模拡大 ・買収資金不要
デメリット ・対価に現金が利用不可 ・吸収合併と比較して、コストが多い ・統合作業の負担増大

新設合併では対価として現金が利用できない点が大きなデメリットと言えます。しかし、場合によってはそれはメリットにもなるため、検討の大きな指針となりそうです。

「提携」のメリット・デメリット

「買収」と「合併」だけではなく「提携」にも次のようなメリット・デメリットが存在します。

資本提携 業務提携
メリット ・提携企業同士の関係性構築 ・出資を受ける際のリスクが低い ・財務体系の改善 ・技術提携による高いシナジー効果 ・研究開発にかかる期間の短縮 ・生産能力低下状態での自社ブランド強化
メリット ・提携先企業が経営に口出しするリスク ・株式買い取りのリスク ・想定したシナジーの不発 ・経営資源流出リスク ・提携関係の希薄化、自然消滅

「資本提携」においては、自社経営の再生を目的とする場合も多く、前述のM&Aスキームとは気にする点が異なるので注意が必要です。

一方で、資本を伴わない提携関係である「業務提携」は、他のM&Aとは大きくメリット・デメリットが異なってきます。

この手法を用いる場合は、置かれている状況の精査を慎重にすべきと言えるでしょう。

メリット・デメリットの両面から検討して自社の目的に合った種類を選ぶことが重要!

ここまで、M&Aの種類とそのメリット・デメリットを詳しく解説してきました。

日本で行われるM&Aの8割以上が「株式譲渡」だから、それを選ぶという安易な考え方ではなく、それぞれの手法のメリット・デメリットを両面から検討し、自社の目的に一番合った手法を検討することが、M&Aを成功させる上で何より重要です。 動く金額が大きい分、慎重な決断が求められるのがM&A。社内で専門家を含めしっかりと検討し、自社の利益が最大化できるM&A手法を選択するようにしましょう。

警察OBに直接相談できる探偵事務所

受付時間/10:00~20:00 ※LINE相談は友達登録をして送られてくるメッセージに返信することで行えます。