【投稿日】 2022年8月1日 【最終更新日】 2022年8月26日

経営を行っている人なら一度は耳にしたことがあるであろう「資本提携」。

言葉は知っていても実際にはどんなものなのかわからないという人の方が多いでしょう。

資本提携とは、M&A(企業の合併・買収)と何が違うのか、その実態や種類、メリット・デメリットについても解説していきます。

資本提携とは?

資本提携とは、お互いの業務や資金面を協力し合い、提携関係を築くために2社以上の会社が提携することを指します。

資本提携では、一方の会社が提携先の企業の株式を取得するか、お互いに株式を持ち合って経営を進めていくかの2種類の方法があり、経営が不振になっている企業にとって資本提携は、与信の向上につながる可能性があります。

資本提携の種類

資本提携とは、資本(株式)の移動を伴った提携のことを指します。

しかし、資本提携には種類が2種類あり、片方だけが資本移動を行う場合と、株式を持ち合う場合があります。

1:株式を持ち合う

株式は、保有比率が20%を超えると保有している側が支配権を行使できるというルールがあります。

そのため、資本提携の際に支配権に干渉しないように株式の保有比率を調整して持ち合います。

お互いに株式を持ち合うことで株主となるため、互いの利益について考えていく必要があり、それによってシナジー効果を期待することが出来るのです。

2:他方に株式を譲渡する

一方の株式を他方に譲渡し、株主を立てた状態で協業する方法もあります。

大企業とベンチャー企業の間に起こりやすい提携方法です。

ベンチャー企業側は大企業に出資してもらっているという部分で与信が高まりますし、大企業側は、ベンチャーが持つアイデアや技術を得ることが出来るというメリットがあります。

このように、ベンチャー企業のアイデアと大企業の営業力などを合わせることで事業成長できる可能性が高まる事が期待できます。

業務提携と資本提携の違い

資本提携とよく間違われるのが「業務提携」です。

資本提携と業務提携は、企業同士が業務において協力をし合うという点では同じですが、「資本(株式)」の動きが発生するかどうか?という点において大きく違いがあります。

資本提携は株式をお互いに持ち合うか、一方の企業が資本を提供するなど資本の動きが発生しますが、業務提携の場合には、資本の動きは発生せずに、基本的に契約書など書面のみで行います。

資本の動きがない分、業務提携の方が、資本提携よりも手間がかからず、リスクも最小限に行うことができますが、資本の動きが発生しない分、企業間のつながりは薄くなります。

M&Aと資本提携の違い

「M&A(Merger and Acquisitions)」とは企業買収を意味する言葉です。

企業間の買収・合併行為を指し、M&Aと資本提携は似ているようで異なるものだという点には注意が必要です。

資本提携では、提携企業同士の経営権は両者ともに存続します。しかし、M&Aは企業買収となるため、売り手企業から買い手企業の経営権を移転するか、買い手企業と売り手企業を合併して新しく会社を設立するかのいずれかをとります。

M&Aでは、事業譲渡などの方法も取られますが、こちらも売り手企業は存続しますが資金透過や提携関係などは発生しないのが特徴です。

【参考】M&Aの種類

参考までに、M&Aの種類もご紹介します。M&Aは、主に以下の種類に分類されます。

買収

売り手企業のオーナーが株式も売却する方法。

買い手企業が、経営権そのものを買い取る事で、事業拡大が見込め、売り手企業にとっても経営改善や後継者問題などを解決するといったメリットがあります。

M&Aではもっとも一般的な手法であり、日本における事業拡大や承継において大半はこの株式譲渡が使用されています。株式が変わるだけで、従業員や債権、許認可などは変わらないので、手続きも多くないのが特徴です。

合併

2つ以上の会社を1つの法人に統合する方法。複数の会社が組織再編を行い、統合を行うことで会社は消滅することになります。会社の片方が消滅する「吸収合併」と、全ての会社を消滅して新しく会社を作る「新設合併」があります。

各会社の資産や技術、従業員などを包括して継承できるため、会社間の関係性は自然と強くなります。しかし、負債を抱えた会社と合併すると、財務状況が悪化する場合もあるので注意が必要です。

事業譲渡

要となった事業だけを第三者に売却する方法。複数の事業や店舗などを営んでいる会社の中で、必要な者のみを選択して買収することができるため、自社の利益になるものを取捨選択することができます。資産や財産権などをの切り替えが必要になるので、譲渡にかかる作業や費用が多くなる場合もあります。

資本提携のメリット・デメリット

資本提携を行う上でメリット・デメリットを抑えておく必要があります。良い面も悪い面もあるため、それぞれについて詳しく見ていきましょう。

資本提携のメリット

資本提携のメリットは、主に4つに分類できます。

メリット1:提携企業同士の関係性を強められる

資本提携の目的はあくまで提携企業同士の支援となっています。

資本提携を行う企業同士は関係を築きやすく、販売市場や商品生産においても協力関係になれるため、競合他社よりも効率よく営業を行うことが出来ます。開発や営業面でもお互いの協力を仰げるため、より効率的に事業拡大を見込むことが出来ます。

メリット2:出資を受けるためのリスクが低くなる

資本提携に置いて、出資を受ける際に株式比率を調整しておくことで経営面に関するリスクを軽減できます。企業買収を行うと、経営統合がうまくいかなかったり、事業計画が上手く進まない可能性も出てきてしまいます。それに比べると資本提携はリスクが低くなると言えるでしょう。

メリット3:経営状態を立て直せる

経営不振に陥っている企業にとっては、資本提携を活用することで提携企業先に出資してもらうことができ、改善のための資本金が増えるという点のメリットがあります。資本金が増えることで企業の信用回復にもつながり、金融機関からの融資を受けることも可能になります。それによって経営状態を立て直していくことができるでしょう。

メリット4:独立性を維持できる

経営権を譲渡・売買してしまうのと異なり、資本提携は企業同士の独立性を維持できます。あくまでも資本提携を行っているだけなので、企業間での干渉を最小限に抑えることも可能になりす。

資本提携のデメリット

資本提携を行う上で、デメリットもつきものです。どんなデメリットがあるのか把握しておくことも大切になります。

デメリット1:提携先が経営に干渉してくることがある

資本提携を行うことで株式の何割かが提携先企業に渡ると、相手企業も経営権を得ることになります。経営権を得ると言う事は、経営を行うことができ、利益の追求も行う必要があると言う事になります。経営が上手くいかない場合などには、相手企業が経営に干渉してくる場合もあります。

資本提携は、関係性が強固になるものの、経営を自社だけで采配することが出来ず、自由度が下がることもあります。

デメリット2:株式の買い取りが発生する

資本提携において、提携関係を何らかの事情によって解消する場合には、株式の買い戻しを行う必要があります。その際には、資金の調達や価格の交渉などが発生するため、リスクも伴います。

デメリット3:想定していた利益が発生しない

資本提携では企業同士の独立性が保たれますが、その分経営方針が統一しきれない場合もあります。そうなると両社の経営が合致せず、思ったような利益が発生しないというデメリットも発生する可能性があります。

資本提携の実行手法は2種類

資本提携のメリットデメリットを知ったところで、資本提携はどうやって実行していけばよいのでしょうか。

実際の手法は「株式譲渡」と「第三者割当増資」の2種類に分けられます。これらについてご紹介していきます。

資本提携の方法1:株式譲渡

株式譲渡とは、売り手企業の株式を、買い手企業が買い取り、資本提携を行うものになります。

株式譲渡は、相対取引・市場買付・公開買付の3種類に分類できます。

相対取引 相対取引とは、ある程度の株式を保有している大株主などから、株式を直接買い上げる取引になります。売り手企業が上場していない場合には、株式譲渡は相対取引のみ可能になります。上場していない企業の場合、株式が分散していることもあり、株式を追跡するのに時間がかかる可能性もあります。相対取引は株主ごとに株式の価格が変動することもあります。
市場買付 市場買付とは、企業の株式を証券取引場などの市場で購入する株式譲渡の方法になります。取引企業が上場企業の場合のみ実行可能になります。発行済みの株式と、潜在的株式の総数の5%を越えて買取を行った時点で、報告書を財務局へ提出しなければなりません。
株式の大量保有報告書を5営業日以内に管轄の財務局へ提出する義務が発生します。その後も、保有率が変動した場合には報告書を提出しなければなりません。
公開買付(TOB) 公開買付は、企業株式を売り渡し公募の形で募集し、市場の外で買い集めるという方法です。上場企業の株式を大量に買い集める為の手段となり、金融商品取引法に基づき、上場企業の株式の取得について定められた条件を満たした場合、公開買付を必ず行わなければなりません。

それぞれの譲渡方法について詳しく解説します。併せて株式譲渡のメリットデメリットも見ていきましょう。

株式譲渡のメリット

株式譲渡は手続きがシンプルなため、株主総会での承認や、企業内の債権者保護手続きを行わなくても良いとされています。

株式譲渡は株式取引を行う企業間のみで譲渡契約を結び、価格に準じた支払いを済ませた後で株式の所有者を書き換えればいいという流れになります。難しい手続き自体がなくなるため、非常にわかりやすい譲渡になります。

株式譲渡のデメリット

株式譲渡では、株式が分散していると買い戻しに時間がかかる可能性があります。

企業によっては株式名簿などが不明瞭の為、株式の所在が不明となり、どこに分散しているのかもわからないという自体に陥りかねません。

資本提携の方法2:第三者割当増資(新株引き受け)

第三者割当増資とは、新しく発行する株式を打算者に割り当てる方法です。

第三者割当増資では、今まで発行されていた株式はそのまま保有し続ける為、新株を引き受ける第三者は大きな権利を得ることが出来ません。そのため、支配権所有を目的としない資本提携として扱われるものになります。

新株引受は、第三者割当増資のほかにも、会社が発行する予定の株式を予め一定価格で購入できる新株予約権の行使もあります。

第三者割当増資のメリット

第三者割当増資は、株式の売買ではなく増資のため、提携先企業の資金は株主ではなく企業自体に入る為、課税対象にもなりません。

株式の発行や取得に承認が必要ない公開会社であれば、企業内の取り決めで第三者割当株式の発行が可能の為、手系先の企業の承認を得なくて良いのがメリットになります。

第三者割当増資は、株式の取得自体は公開買付の規制を受けないという点でもメリットになります。しかし、第三者割当で株式を買い取る人が3ヶ月以内に別の株式の買い付けなどを行っている場合には規制の対象となることもありますので注意が必要です。

第三者割当増資のデメリット

第三者割当増資を行う際に、新株引き受けを行う人物に対しての振込金額が多くなると「有利発行」と判断され、説明を要求される場合もあります。有利発行とは、株主以外の第三者に対して特に有利な価格の新株を発行する手続きのことを指します。

妥当と考えられる価格(乖離幅10%が目安)よりも安い(無償も含む) 場合、有利発行とみなされてしまいます。有利発行を行う際には、既存株主持分の株式の希薄化が生じることから、株主総会の特別決議も必要となるので、説明の要求をされることもあります。

有利発行を行うにも関わらず株主総会の特別決議を行わない場合には、株主は株式会社に対して発行差止めを請求することが可能となります。

第五款 募集株式の発行等をやめることの請求

第二百十条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。

一 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合

二 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合

第四款 募集新株予約権の発行をやめることの請求

第二百四十七条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第二百三十八条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。

一 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合

二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合

第三者割当増資により、資本金額が増加すると納税額が増える可能性があります。

株式発行により、当初の資本金を越えてしまうと消費税免除がされなくなったり、法人税の軽減税率が適用されなくなってしまいます。

また、手続きも株式譲渡よりも複雑なため、時間がかかる可能性もあります。第三者割当増資を行うと、財務諸表の資本金額が大きくなります。

資本金額が変わった場合には、会社法915条の規定に従って変更手続きを行う必要があります。

(変更の登記)

第九百十五条 会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、第百九十九条第一項第四号の期間を定めた場合における株式の発行による変更の登記は、当該期間の末日現在により、当該末日から二週間以内にすれば足りる。

3 第一項の規定にかかわらず、次に掲げる事由による変更の登記は、毎月末日現在により、当該末日から二週間以内にすれば足りる。

一 新株予約権の行使

二 第百六十六条第一項の規定による請求(株式の内容として第百七条第二項第二号ハ若しくはニ又は第百八条第二項第五号ロに掲げる事項についての定めがある場合に限る。)

変更登記のためには資料作成、実際に法務局へ申請するといった業務が発生してしまい、かなり時間がかかってしまいます。

求める関係性によって提携方法を変えよう!

資本提携とは、利害関係が一致した企業間で株式を交換したり、株式を譲渡したりしてお互いの協力関係を築くものになります。

資本提携を行うことで更なる事業拡大や業績の向上が期待できます。経営戦略として非常に有効な手段となります。業務提携やM&Aに比べて手続きなどが増えますが、協力関係を強固なものと出来るでしょう。

手続きを最小限にとどめたい場合には株式譲渡という方法で資本提携を行い、自己資本比率を高めて企業を拡大したい場合には第三者割当増資を行うのがおすすめです。

いずれも、株式の移動や株式の発行が必要となるため、既存の株主にも配慮しながら慎重に検討していきましょう。

資本提携先との提携が大丈夫かどうか?提携前に相手側の調査もしっかりと!

資本提携は提携先の企業の株式を取得する、もしくはお互いに株式を持ち合うということで行います。また、業務についても協力して行っていくことになるので、提携に際しては、もちろんリスクが発生します。

そのため、提携予定の相手側企業についてはしっかりと事前に「提携して大丈夫かどうか?」のチェックが必要です。

例えば、相手側企業に反社会的勢力との繋がりがあったり、過去に行政処分歴があったり、隠し負債があったり、未払いや不払いなどが頻発していたり、お客様や取引先からの評価が悪かったりなど、資本提携後に大きなトラブルに巻き込まれる可能性がある資本提携は避けるべきです。

しっかりと資本提携の前には、相手側企業の調査を行いましょう。

探偵事務所SATでは、こういった資本提携にあたっての、相手側企業の信用調査および実態調査を承っております。書面や公開情報などではわかりづらい、企業の実態や、企業の社長や役員の経歴、素行などを含むあらゆる可能性を調査することが可能です。

もし、「資本提携を予定しているが、相手をどうも信用しきれない」という方は、ぜひ一度探偵事務所SATにご相談ください。

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