【投稿日】 2022年7月19日 【最終更新日】 2022年8月26日
将来の見通しが不明瞭で、一年前までは大きな収益をあげていたにもかかわらず、翌年には経営赤字に陥ってしまう、という事も散見される現代社会で、新たな経営戦略の模索が命題となっています。
中でも、新規事業立ち上げによる新たな収益の柱の設立や、リスクの分散は、長期存続にかける企業の、重要な命題と言えるでしょう。
しかしながら、ある程度のノウハウが確立された既存事業の発展と異なり、新規事業立ち上げはそれ自体にリスクが伴う事も留意しておかなければなりません。
正しいプロセスと効果的なフレームワークによって、リスクを抑え安全な新規事業立ち上げを目指す為にも、本記事では、新規事業立ち上げによりもたらされるメリット・デメリットや、実際に必要となるプロセスについて解説していきます。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
新規事業立ち上げの意味とは?
まず始めに、新規事業立ち上げを行う事の意味について改めて確認しておきましょう。
「新規事業立ち上げ」とは「新たなビジネスの開始」であり、「事業転換」や「多角化」とも同義です。
また開業届や会社設立を経て一から事業を始める起業、開業とは異なり、既に事業を行っている企業が新たな事業を始めていく事を指しています。
さらに、現代は将来の見通しを予測する事が困難とされる「VUCA(ブーカ)時代」と言われています。人口減少による需要供給の変化、国際競争の激化に伴う外部環境の変化が大きな要因となっており、これまで以上に新たな市場やニーズの見極めが重要となってくるのです。
主に新規事業立ち上げの意味として挙げられるのは、以下のような項目です。
- 本業の業績悪化解消
- 余剰資源の有効活用
- 長期的なリスク分散
詳しくはメリットの項にてご紹介しますが、新規事業立ち上げは主に、これらの目的を目指し実施されるのです。その他企業内の新陳代謝を促進させるといった意味も込められている場合もあります。
新規事業立ち上げのメリット
実際に新規事業立ち上げを行うメリットは、どういったものがあるのでしょうか。
主な区分として「収益面のメリット」「人材面のメリット」「経営面のメリット」の3つに分けられます。
各区分ごとの詳細なメリットについてご紹介していきます。
メリット1:収益面の改善
立ち上げた新規事業が収益化に成功する事で、起業としての収益の柱を新たに増やす事が可能になります。悪化した業績を改善出来るだけでなく、利益の蓄積による更なる投資基盤の増加にも繋がって行くでしょう。
新規事業立ち上げは、多角的な視点から市場ニーズを読み解き、既存事業のノウハウを流用しつつ適格に利益を上げていかなければなりません。全く馴染みのない分野へ参入するのであれば、より多くの時間と人材を割く必要が生じます。
だからこそ、収益面の改善は新規事業立ち上げのメリットであり、達成すべき命題と言っても過言ではありません。
余剰資源を有効活用する事業の流れを作る事で、収益の安定化を加速させていける可能性が高まる他、既存事業とのシナジー効果(相乗効果)が生まれる可能性もあります。
そうした面でも、新規事業の立ち上げは企業にとってメリットの大きな戦略と言えるのです。
メリット2:人材育成の促進
新規事業立ち上げには様々なプロセスがあるため、多くの人材投入が必要となります。その結果、人材育成のチャンスも数多く存在するのです。
社員の新たな得意分野の発見や、技術の習得、その他にも外部企業との関わりの促進にも繋がっていく機会が生まれるでしょう。
そうした新規事業立ち上げに伴う人材育成の促進は、企業成長に大きな影響を与えるのです。
また新規事業立ち上げを行い事業の多角化を目指している企業は、その分志望分野に該当する人材も増加します。1つの事業のみであるよりも、挑戦の機会が多く存在するように外部の目には移りやすくなるでしょう。
それにより優秀な人材が集まりやすくなり、採用面にも相乗効果が生まれ、企業全体の質の向上にも繋がっていく可能性が高いと言えるのです。
メリット3:経営リスクの長期分散
ニーズの変化に伴い、企業がこれまで以上に慎重な市場把握を余儀なくされている現代社会。
単一の事業のみを営んでいる企業は、その市場が衰退した事で事業の収益性が低下した場合、経営悪化、業績赤字といった困難に見舞われる可能性が高いのが実情です。
社会全体の利便化により、多数の事業を複合して営んでいる企業へ利益が集約されやすい傾向もあるため、企業の存続戦略が急がれているとも言えるでしょう。
そこで新規事業立ち上げを行う事は、企業の存続を促進する重要なメリットとなり得ます。
1つの事業の業績が悪化してしまった場合にも、他の事業で収益を得られれば企業全体の業績悪化を防げる確率も上がります。
長期的な経営リスクの分散を見込むために、新規事業立ち上げは試案すべき戦略と言えるでしょう。
新規事業を立ち上げる2つの方法
新規事業を立ち上げるには、大きく以下の2つの方法が存在します。
全くのゼロの状態から新規事業立ち上げを行う場合は、課題の明確化やプロジェクトの形成に際して多くの過程を要しますが、外部からの介入が無いため独自性の高い事業を打ち出す事が出来ます。
一方M&A(企業の合併、買収)によって既存事業を買収し参入する場合は、既存事業が有しているノウハウを活かし、少ないコストでの市場参入が可能です。
しかし、合併買収の過程で人材流出が起こる不安や、協議の兼ね合いによっては独自性の高い事業の打ち出しが難しい可能性もあるでしょう。
今回ご紹介していくのは、自社独自の新規事業立ち上げについてです。
ゼロの状態から進めていくプロセスを理解しておく事で、他の形式で新規事業立ち上げを行う際にもノウハウの流用が可能となります。
新規事業立ち上げの成功のために重要な5つのプロセス
新規事業立ち上げには、多額のコストと時間をかける必要が生じます。
そのため事前準備も非常に重要な過程であり、この段階で現実的に可能な新規事業の見極めを行う必要があるでしょう。
新規事業立ち上げのプロセスとして特に重要なものは、以下の5つです。
プロセス1:顧客や自社にとっての課題の見極め
新規事業立ち上げによって業績改善を目指すのであれば、より需要を増加させていく方法を考えていく事が必要です。
それはつまり、「顧客」の課題が何であるかを把握するという事です。
自社がターゲットとしている顧客層が、どのようなサービス向上を求めているのかどうか。また社会的にどのような事業が受け入れられやすいかを客観的に感じ取らなければ、新規事業を立ち上げたとしても受け入れられず、白紙に戻る可能性も生まれてしまうでしょう。
自社内で挙げられる「参入してみたい事業分野」が必ずしも顧客のニーズと合致しているとは限りません。よりパーソナルな課題について考えていく事で、より正確な課題の見極めを行うことができます。
プロセス2:事業ドメインの決定
課題の見極めを行い顧客層や世間のニーズを理解したら、次に事業ドメインの決定を行っていくと良いでしょう。アイデアベースの見切り発車となる事を避け、より広義で事業計画を立てていきやすくなるからです。
事業ドメインとは、事業を展開する領域の事を指します。
事業ドメインの定義は、「物理的定義」と「機能的定義」の2つに分けられます。
例えば、物理的定義が「遊園地」を作る事だとすると、機能的定義は「人々を楽しませる」となります。
物理的定義は実際に着手していく事業内容、機能的定義はそれによりもたらされるサービス満足度や効果を指しているので、その2点を決定しておけばより多角的な視点から事業決定が出来るでしょう。
物理的定義を前面に押し出せば方針が分かりやすくなりますが、事業内容が既に決められている為事業拡大案が制限される可能性があります。
逆に機能的定義を前面に押し出せば多角的なサービス展開をしやすいですが、方向性にブレが生まれる可能性があるのです。
一面的な事業内容の決定を行うのではなく、この2点から事業ドメインを決定する事で、より慎重な枠組みの決定に繋がります。
プロセス3:理念・ビジョンの明確化
事業ドメインの決定まで進めば、実際の人材確保やメンバーの意識統一を行う段階となってきます。
理念・ビジョンが明確である企業は、優秀な人材が集まりやすい傾向にあります。そのため人材確保の段階で、立ち上げる新規事業のビジョンはしっかりと決定しておくべきポイントです。
その際に重要となるのは「文字として認識出来るビジョン」である事です。
頭の中でどれだけビジョンを組み上げられていても、誰にでも伝わるように発信出来なければ無駄になってしまいます。メンバーが共感しやすく、同じ方針で新規事業立ち上げに向き合っていける環境を整える為にも、「文字」として可視化された理念は重要です。
更に立ち上げ途中で意見の分裂が発生したり、方針に迷いが生じた時にも、明確化された理念が軌道修正に役立ちます。スルーしてはいけない事前準備の1つと考えて良いでしょう。
プロセス4:参入を検討している分野の市場把握
参入を検討している分野の市場を把握出来ているかは、新規事業立ち上げのプロセスを円滑に進めていく重要な要素です。
「市場調査」と「事業調査」を同時進行で行い、プロダクトに必要な事柄を決定づけていきます。
- 市場調査:市場の特徴や構成、将来性とリスクなど
- 事業調査:実際のサービス需要、関係構築の方法、競合他社調査など
立ち上げようとしている新規事業が「どのような人が求めているか」、「どれだけの需要があり、経済効果が生まれるか」を明らかにしておく事で、リスクを回避し競合他社との差別化を図り、安定したプロセスを進めていけます。
プロセス5:ビジネスプランの明確化
調査を終え次第、実際に新規事業立ち上げを進めていく上で必要なビジネスプランの形成に入っていきます。
「5W1H」に沿い、適切な人材を配置し、スケジュールの確定を行いましょう。
またどのような製品を展開していくかによって、それに合わせた環境整備も行っていく必要があります。無駄なコストを削減しつつ効率の良い開発を行うにはどうしていくべきか、事前に確定しておきましょう。
このプロセスにおいて、現状足りていなかった資金や人材、環境があぶりだされる事も予想されます。スムーズな立ち上げを目指し、複数人の視点から確認を行う事が不可欠です。
新規事業立ち上げを助ける2つの成功ポイント
ここまでにご紹介したプロセスを経た後は、参入する専門分野によって過程が細分化されていくでしょう。しかしどのような事業を展開していくにしても共通する、成功を助けるポイントが存在しています。
それは主に、以下の2点を踏まえつつ進める事です。
ポイント1:フレームワークを利用した分析
「フレームワーク」とは事業計画や問題解決において、スピーディーに対応していく為の分析方法です。
複数の種類がありますが、中でも代表的な方法はこれらのようなものがあります。
- 3C分析:顧客(Customer)、自社(Company)、競合他社(Competitor)の3つの観点から、自社や競合他社の強みと弱みを認識し、将来の市場規模を分析していく方法。
- ペルソナ分析:仮想の顧客(ペルソナ)を想定し、その顧客が求めるサービスを考えていく方法。
- ポジショニングマップ:X軸とY軸からなる指標を書き出し、自社と競合他社がどの位置にいるかを分析する事で、新規事業を立ち上げる際のポジションを決める方法。
- VRIO分析:経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣可能性(Imitability)、組織(Organization)の4つの観点から、自社の経営資源の優位性を確認する方法。
この他にも様々なフレームワークが存在し、使用する目的は異なります。
新規事業を立ち上げる際に自社にとって適したフレームワークを選択していく事で、より円滑に立ち上げを成功に導いていける確率が高まります。
ポイント2:事業撤退ラインの決定
成功に向け進めてきた新規事業も、時に想定通りに進まなくなったり、ニーズの減少が発生し継続が難しくなったりと言った困難に直面する場合はあります。
その際には「撤退」も選択肢となる事は、意識しておかなければいけません。
事前に撤退を意識しながらプロセスを進めていく事に対しての不満感や、費やしてきたコストを天秤にかけ強行したいと感じる気持ちが生まれる事も必然的に起こり得ます。
しかし採算が取れない状態のまま突き進んでしまっては、元々の目的であった業績改善や、リスク回避から大きく外れ、最悪の場合企業の倒産に繋がってしまう可能性も考慮しておかねばなりません。
その為に、事前に「事業撤退ライン」を決めておきましょう。
具体的には期限、数値といった明確にデータ化出来る事柄を定めておく事が大切です。
また必要以上に肥大化したチームも、個々の意見を反映しにくく、スムーズな意思疎通を阻害する場合があります。
いかに先走る心をコントロールし冷静な分析に徹するかが、明暗をわけると言っても過言ではありません。
「徹底した分析」で、新規事業立ち上げを成功させよう!
新規事業立ち上げは、企業における長期的な成長と共に、起死回生の一手ともなり得る多くのメリットを有しています。
しかし、性急な進行や分析不足によっては、現状の経営状況を悪化させる可能性も秘めているとも言えるのです。
無事に立ち上げを成功させていくには、様々なフレームワークを駆使しつつ、事前準備からの徹底した分析が非常に重要です。
本記事で解説したようなポイントを抑えながら、新規事業の立ち上げに取り組んでいきましょう。
M&Aを活用した新規事業の立ち上げの際のデューデリジェンスなら探偵事務所SATにおまかせ!
ご自身でゼロから新規事業を立ち上げる場合は問題ありませんが、M&Aによりある程度予算とリスクを取って新規事業の立ち上げをする際には、M&A先のデューデリジェンスが必要不可欠です。
デューデリジェンスは主に専門家を起用して、事業・財務・法務・人事・IT・環境などあらゆる領域で行いますが、昨今重要視されてきているのが、M&A先の企業や業務の実態、社長や役員などの実態(経歴や過去の犯罪歴)、反社会的勢力との繋がりなど、企業とそれに関わる人の実態に踏み込んだデューデリジェンスです。
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