【投稿日】 2022年3月9日 【最終更新日】 2022年4月4日

M&Aとは、Mergers and Acquisitions(合併と買収)の略称で、2つ以上の会社が「合併」して一つの会社になったり、ある会社が他の会社を「買収」することです。

広義のM&Aには、「業務提携」を含める場合もあります。

この記事では、過去に行われたM&Aの中から失敗事例を取り上げて紹介し、そのうえで、M&Aを成功させるための対策について詳しく解説します。

M&Aにおける失敗とは?どのような場合を指すの?

まず、M&Aにおける失敗とはどのような場合を指すのかについて説明します。

【1】買収後に損害が発生した場合

M&Aにおける失敗の1つ目は、買収後に損害が発生した場合です。

これにはいろいろなケースがありますが、買収後に多額の債務が発覚して損害が発生することがあり、この場合はM&Aは失敗となります。

また、買収対象企業の不正や不良資産に気づけずに、買収後に損害が発生したり、最悪の場合は破産にまで追い込まれることもあります。

この失敗例は、事前の債務調査が不十分で、デューデリジェンスを社外の専門家に依頼せずに自社内で行ったような場合に起こりやすいと言われています。

【2】投資対効果が見合わない場合

M&Aにおける失敗の2つ目は、投資対効果が見合わない場合です。

投資対効果が見合わないとは、投資額に比べて得られたリターンが小さいことを指します。

M&Aで買い手候補が複数存在する場合には、他の企業と競っていくうちに実際の企業価値よりも高い金額で買収することになりがちです。

このような場合、買収後の事業がうまくいっていたとしても、初期投資の回収に時間がかかりすぎてしまい、M&Aとしては失敗ということになります。

【3】のれん代の減損損失が生じた場合

M&Aにおける失敗の3つ目は、のれん代の減損損失が生じた場合です。

のれん代とは、企業が保有するブランド力や事業価値、技術力、ノウハウなどの無形固定資産のことです。

企業を買収する際の買収金額と買収対象企業の純資産との差額と言うこともできます。

M&Aの買収金額は、買収対象企業の純資産にのれん代を加算して算出されますが、のれん代の適切な金額を評価することは非常に難しく、あまりにも高額なのれん代を払って買収を強行して、買収後に多額の損失を計上しなければならなくなるケースも多くあります。

日本の会計基準では、買い手企業はM&A実施後にのれん代を最大20年以内に減価償却しなければなりませんが、当初予定した経営統合のシナジーを得られなかったなどの理由により、買収対象企業の評価額が下がることがあります。

この場合、減損損失を計上しなければならず、M&Aは失敗ということになります。

なお、国際財務報告基準(IFRS)では減価償却が認められていませんので、当初の想定より事業が落ち込み、買収した会社の企業価値が減少したと監査法人から指摘されれば、多額の減損損失を計上する必要があります。

【4】M&Aにより企業イメージが悪化した場合

M&Aにおける失敗の4つ目は、M&Aにより企業イメージが悪化した場合です。

M&Aでは財務上の問題だけでなく、買収対象企業のコンプライアンス問題やハラスメント問題、環境汚染、訴訟リスクなどを見落としたり甘く見たために、買収後に買い手企業のイメージが悪化してしまうケースがあり、この場合もM&Aの失敗となります。

【5】情報漏洩が起きて取引が中止された場合

M&Aにおける失敗の5つ目は、情報漏洩が起きて取引が中止された場合です。

この失敗は、買収対象企業側からの情報漏えいによって起こるケースが多いものです。

買収対象企業が、会社や事業の売却や譲渡を検討しているという情報が従業員や取引先、顧客に知られると、関係者に不安を与えることになり、場合によっては従業員の退職や取引先との契約打ち切りにつながることもあります。

また、情報漏洩が起こると、買い手企業から情報管理に対する不信感を抱かれてM&A交渉に影響を与えたり、最悪の場合はM&A自体が中止になってしまうこともあります。

大手企業のM&A失敗事例10選

国内大手企業によって行われたM&Aの中から失敗事例を10例紹介します。

事例1:丸紅

2012年5月、大手総合商社の「丸紅」は、同社の買収額としては過去最大となる約2,800億円で米国の穀物会社「ガビロン」を買収しました。

当時、丸紅は中国向けの大豆の輸出でトップでしたが、さらにガビロン買収による中国での寡占化が進むことが警戒されて、想定通りのシナジー効果が発揮できずに業績不振となりました。

また。ガビロンののれん代が1,000億円と巨額だったため500億円の減損損失を出す結果となりました。

これは、海外進出によるカントリーリスクが関係した失敗事例と言われています。

事例2:キリン

2011年11月、大手飲料メーカー「キリンホールディングス」は、ブラジルでシェア2位のビール会社「スキンカリオール」を3,000億円で買収し完全子会社化しました。

ブラジルは、中国・米国に次ぐ世界第3位のビール市場で、年10%の成長を見込んでいましたが、その後の景気低迷と同業他社との価格競争の激化で赤字になってしまいました。

ついに、2015年12月期決算で「ブラジルキリン」は1,100億円の減損を計上し、最終的に2017年6月、ブラジルキリンはオランダのハイネケングループに770億円で売却されました。

新興国のブラジルへの事業進出を図ったものでしたが、景気の悪化により失敗したもので、失敗要因は市場調査不足と指摘されています。

事例3:LIXIL

2014年1月、住設機器メーカーの「LIXIL」は、独「グローエ・ドーン・ウォーターテック」を約4,000億円で買収し完全子会社化しました。

この買収によって、グローエの子会社だった中国企業の「ジョウユウ」はLIXILの孫会社になりましたが、2015年4月にジョウユウで不正会計が発覚しました。

ジョウユウは債務超過で破綻し、LIXILは608億円の損失を計上して、M&Aは失敗に終わりました。

グローエは、2009年にジョウユウに一部出資した時点から主要な財務情報に十分にアクセスできなかったことをLIXILに報告しておらず、事前調査が不十分であったこと、多国籍企業を買収するリスクについて認識が甘かったことが指摘されています。

事例4:東芝

2006年2月、「東芝」は、米国の原子力発電大手「ウエスチングハウス」を6,600億円で買収しました。

しかし、2011年の東日本大震災時の福島第一原発事故により世界的に原発の安全性に対する懸念が強まり、さらにウエスチングハウスの不正会計や巨額損失が発覚しました。

このM&Aで、のれん代3,300億円のうち2,600億円の減損損失が生じ、最終的には2016年度の連結決算で最大7,000億円もの巨額の損失を計上しました。

このM&Aの失敗理由は、事前調査の不十分さと買収対象企業の収益悪化と考えられます。

事例5:第一三共

2008年6月、大手製薬会社の「第一三共」は、4,900億円でインドの後発医薬品メーカー「ランバクシー・ラボラトリーズ」を買収しました。

買収過程でランバクシーの2工場で品質問題が発覚し、米食品医薬品局(FDA)から米国への製品輸出禁止措置を受けましたが、買収は強行されました。

売上高の30%の米国市場を失ったランバクシーの株価は大暴落し、第一三共にも3595億円の評価損が発生し、2009年3月期連結決算では2,154億円の最終赤字を計上しています。

最終的には、2014年に4,500億円の損失を計上してランバクシーは売却されました。

デューデリジェンスが不十分で買収を強行したこと、買収後の企業統治が不十分だったことが原因と言われています。

事例6:パナソニック

2008年12月、大手家電メーカー「パナソニック」は、「三洋電機」と資本・業務提携契約を締結し、2009年12月に三洋電機の議決権株式の過半数を取得し子会社化しました。

6,600億円とも言われる買収価格のうち5,180億円はのれん代だったということですが、その後2年で三洋電機の企業価値は半分近くまで下落し、2012年3月期の個別決算でのれん代の内2,500億円を減損処理しました。

太陽電池とリチウムイオン充電池でのシナジー効果を狙っての買収でしたが、韓国企業や中国企業との競争が激化して収益が悪化しM&Aは失敗に終わりました。

事例7:富士通

1990年11月、総合エレクトロニクスメーカーの「富士通」は、イギリスのIT事業「ICL」の株式の80%を1,890億円で取得し、1998年には完全子会社化しました。

このM&Aの結果、電算機で世界2位となったことから成功したと思われていましたが、業績は徐々に悪化し、2007年3月期の個別決算で2,900億円の評価損を計上しました。

事例8:三菱地所

1989年10月、「三菱地所」は約2,200億円で米国マンハッタンの「ロックフェラーセンター」を買収しましたが、バブル崩壊による不動産市場の冷え込みによって不動産価値が暴落し莫大な負債を抱えることになりました。

最終的に、物件のほとんどを米国に売り戻し、1,500億円の特別損失を計上して失敗に終わりました。

事例9:HOYA

2006年12月、最大手の光学ガラスメーカー「HOYA」が「ペンタックス」を吸収合併し、2007年10月に「HOYAペンタックスHD株式会社」になることが発表されましたが、ペンタックスの過半数の取締役が合併に反対し白紙撤回しました。

これに対して、2007年8月、HOYAはTOBにより発行済株式の90.5%を取得し1,000億円で買収しました。

その後、2008年3月に合併しましたが業績が低迷し、2009年3月の連結決算では304億円の減損損失を計上し、2011年にデジカメ事業はリコーに売却されました。

事例10:日本郵政

2015年5月、「日本郵政」はオーストラリアの物流会社「トール・ホールディングス」を6,200億円で買収しました。

しかし、買収後に経営陣を送り込むようなことはなく放置状態が続き、2016年度の連結決算では4,000億円以上の減損損失を計上することになりました。

これについては、日本郵政が上場前に成長戦略を立てる必要がありデューデリジェンスに甘さがあったという指摘があります。

失敗事例から学ぶ!M&Aを成功させるための5つの対策

国内の大手企業のM&A失敗事例を10例紹介しましたが、これらからM&Aを成功させるための5つの対策を導き出すことができます。

以下、順に説明していきます。

対策1:適切な対象企業を選定する

M&Aを成功させるための1つ目の対策は、適切な企業を選定することです。

吸収や合併によって2つの会社が1つになるわけですから、単純に合計したよりも高い業績が達成できるようなシナジー効果が発揮できる企業を選定すべきです。

そのためには、自社のM&A戦略を明確にしておく必要があります。

M&Aを行うことが目的ではなく、自社の目標を達成するための手段としてM&Aを利用するという考え方で、M&A戦略を立案する必要があります。

そのうえで、M&A仲介会社やM&Aアドバイザーから買収企業候補の紹介を受けると、買収企業の選択を間違うことがなくなります。

先に紹介したシナジー効果のほかに、経営の健全性、実現可能性などの条件を検討する必要があります。

経営状態の健全性は後述するデューデリジェンスによって調査を行いますが、実現可能性については相手企業やその株主の意向が強く関係します。

例えば、売り手企業が考えている売却価格があまりにも高すぎる場合は実現不可能ということになるでしょうし、売り手企業のオーナー経営者が高齢で事業承継先を探しているという場合には実現可能性は高いと言えるでしょう。

対策2:M&Aの目的を明確にして従業員と共有する

M&Aを成功させるための2つ目の対策は、M&Aの目的を明確にして従業員と共有することです。

これは、買収対象企業が特に注意すべき対策で、従業員への説明時期や説明内容を間違えると取り返しのつかない失敗を招くことになります。

自分が働いている企業がM&Aで売却されることが分かると、買収後に自分の雇用が継続されるのか、給与や待遇に変化はないのか、仕事内容が変わるのではないか、など様々な不安や不信感を抱くことになります。

そして、従業員の士気が低下したり、高い技術やノウハウを持った従業員の離職を招く可能性もあります。

このようなことを避けるためにも、適切なタイミングで従業員にM&Aの目的を説明して、共有することが大切です。

従業員への説明のタイミングとしては、最終合意契約の直前または直後が一般的と言われており、又聞きによる誤解などを避けるためにも全従業員に対して一斉に行うことが望ましいでしょう。

対策3:自社ではなく専門家にデューデリジェンスを依頼する

M&Aを成功させるための3つ目の対策は、自社ではなく専門家にデューデリジェンスを依頼することです。

デューデリジェンスは、買い手企業が買収対象企業のリスクについて事前に調べる調査活動であり、買収対象企業から提供された資料などをもとに調査します。

M&Aにおける手続きの中でも、極めて重要なプロセスです。

デューデリジェンスの種類は、財務・法務・税務・労務・ビジネス・不動産など多岐に渡りますので、一般的にそれぞれの分野の専門家(弁護士や税理士、公認会計士など)に依頼して行います。

デューデリジェンスを行うと必ず何らかの公表されていなかった事実が発覚しますので、それをどう処理すべきかを適切に判断することが大切です。

デューデリジェンスにかかる費用を節約するために自社内のスタッフだけで行う例もありますが、リスクを見落としたり発覚した事実の対処を間違えたりして、M&Aの失敗につながる恐れがあります。

対策4:企業価値評価(バリュエーション)を元に買収価格をすりあわせる

M&Aを成功させるための4つ目の対策は、企業価値評価(バリュエーション)を元に買収価格をすりあわせることです。

買収価格については、買い手企業側は「安くみる傾向」がありますし、買収対象企業側は「高くみる傾向」があります。

このように、買収価格についてのイメージの違いがあることはある意味仕方のないことですが、買収価格で合意できなければM&A交渉は進展しません。

一般的には、M&Aにおける買収価格は「企業価値評価」を元にして決めることが多いようです。

企業価値評価の方法には、「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つがありますので、それぞれの特徴をきちんと理解して実際に計算をしてみて、相手方とのすり合わせ交渉に臨むようにしましょう。

なお、企業価値評価は、税理士や公認会計士、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談することをおすすめします。

対策5:組織の現状を見極めた上で経営統合(PMI)に取り組む

M&Aを成功させるための5つ目の対策は、組織の現状を見極めた上で経営統合(PMI)に取り組むことです。

買収成立後に、買い手企業と買収対象企業は経営統合(PMI)に取り組み、新経営陣はシナジー効果を見込んだ中期経営計画を作成します。

そのためには、新しい社内体制の構築、業務オペレーションやITシステムの統合、経理や財務の統合などをスムーズに進める必要があります。

また、社風や企業文化、社内規則、人事・労務のすり合わせなどの人に関する問題も重要で、現場の社員がついていけなくなるようなことにならないように注意する必要があります。

いずれにしても、経営トップや経営幹部の強力なリーダーシップとマネジメントが重要となりますので、組織の現状をきちんと見極めたうえで取り組むことが求められます。

M&Aはどこまで徹底的に情報を集められるかが成功への分かれ道!

この記事では、過去の失敗事例の紹介とともに、M&Aを成功させるための対策について解説しました。

「目標達成率が80%以上を成功」と定義した場合、国内のM&Aで成功した企業は30%台にとどまるという調査結果があります。

つまり、明らかな失敗とは言えなくても、当初の目標を達成できていないケースが非常に多いということがわかります。

本記事で紹介したM&Aの失敗事例にも、事前調査が不十分だったというケースが多く見受けられますので、デューデリジェンスにおいては、どこまで徹底的に情報を集められるか、そしてその情報からいかにリスクを抽出することができるかが成功への分かれ道になることが分かります。

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