【投稿日】 2022年10月23日 【最終更新日】 2022年10月27日
日本国内における行方不明者の数は、毎年だいたい8万件を推移しています。
「行方不明者」とは、単に「どこにいるのかわからない」というだけでなく、「警察に行方不明の届け出が提出された者」を指します。
したがって、「日本国内における行方不明者」は、警察庁のデータで見ることができるのです。
この記事では、主に警察庁のデータを基にして、日本国内における行方不明者数の全体(男女別)の推移と、年齢層別、原因・動機別の推移、それらのデータから読み取れる近年の傾向を解説していきます。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
日本の行方不明者数の推移
警察庁では、毎年、日本国内における行方不明者の状況を発表しています。
それによれば、日本国内の行方不明者数は、過去10年間、約8万件の横ばい状態で推移しているようです。
引用元:警察庁「令和2年度行方不明者図表」
令和2年の行方不明者数は77,022人で、ここ10年間で初めて8万人を切り、統計の残る昭和31年以降、最少でした。
ただし、令和3年の行方不明者数は79,218人で、前年比2,196人増加しています。
それでも、前年に次いで統計史上2番目に少ない人数でした。
男女別では、男性が50,289人(構成比63.5%)、女性が28,929人(構成比36.5%)と、男性の割合が高くなっています。
これは、ここ数年で同じような傾向を示しており、総じて男性の方が、行方不明者数が多いと言えるでしょう。
日本の行方不明者数の年齢層別推移
次に、日本国内の行方不明者数の年齢層別推移を見てみましょう。
※上記どちらの図も、警察庁統計資料からの引用ですが、最初の図は令和2年のもの、2つ目の図は令和3年のものです。令和2年の図の方が古いデータですが、平成28年から記載されており、グラフがわかりやすいので引用しています。
引用元:警察庁「令和2年度行方不明者図表」
引用元:警察庁生活安全局人身安全・少年課「令和3年における行方不明者の状況」
これらの図から読み取れることを、以下に分析していきます。
10歳代、20歳代が最も多い
上図を見ると、行方不明者数が最も多いのは、10歳代、20歳代であることがわかります。
平成28年から令和元年までは、毎年どちらも15,000人を超えています。
過去5年間で、毎年人口10万人当たり100人を超えているのは、10歳代、20歳代だけです。
10万人当たり100人というのは、1,000人に1人ということです。
毎年日本国内の10歳代、20歳代の若者が、1,000人に1人行方不明になっているというのは、驚くべき数字ではないでしょうか。
また、令和3年は、10歳代から30歳代の若年層で行方不明者数が増加し、前年比2,664人の増加となっています。
近年80歳以上が増加傾向にある
近年になって、増加傾向にあるのが、80歳以上の方々です。
人数だけで見ると、平成28年からずっと、右肩上がりに増えています。
平成28年と令和3年を比べると、2,588人の増加となっています。
これは、次項で述べますが、認知症の方の行方不明者が増加していることとの関係が大きいようです。
こちらも人口10万人当たり100人を超えてきていますので、大きな問題と言えるでしょう。
9歳以下の子どもが毎年1,000人超行方不明になっている
そして、人口10万人当たり10人強ではありますが、9歳以下の行方不明者が、毎年1,000人を超えていることにも、注目したいところです。
9歳以下の行方不明者は、自分の意思で行方不明になったとは考えにくいため、何らかの犯罪に巻き込まれた可能性が大いにあります。
一般的に多いとされるのは、離婚して親権を取れなかった方の親が連れ去るケースです。
跡取りが欲しいために、祖父母や親せきによって連れ去られることが普通な地域も、未だにあるようです。
また、育てられずに親が遺棄(置き去り)する場合や、外出先ではぐれてしまうというケースもあります。
しかし、幼女誘拐などの犯罪も増えており、これも大きな問題と言えるでしょう。
9歳以下の行方不明者は、令和元年をピークに、ここ2年は減少していますが、中には何年経っても見つかっていない子どももいます。
1990年に当時9歳だった女児が行方不明になり、中年男性によって9年以上監禁されたという事件や、2014年に当時13歳だった少女が、大学生によって誘拐され、2年間監禁された事件などもあり、子どもの行方不明は、その多くが犯罪と結びつけて考えられるため、注視しておきたいところです。
日本の行方不明者数の原因・動機別推移
以下の表と図は、警察庁の統計情報からの引用です。
※表だけでは推移がわかりにくく、また図だけでは構成比などがわからないため、両方引用しています。
引用元:警察庁生活安全局人身安全・少年課「令和3年における行方不明者の状況」
引用元:警察庁生活安全局人身安全・少年課「令和3年における行方不明者の状況」
また、平成24年から令和2年までの原因・動機別推移の図は、疾病関係、特に認知症の増加割合がわかりやすいため、こちらも引用します。
引用元:警察庁「令和2年度行方不明者図表」
これらの表と図から分析できることを、以下に述べていきます。
認知症が平成24年以降、年々増加している
表を見るとわかる通り、原因・動機別で最も多い疾病関係の中でも、認知症の割合が年々増加しており、平成29年と令和3年を比べると、1,773人、3.6%も増加しています。
ただし、図の平成24年のデータと令和2年のデータを比べると、疾病関係が人口10万人当たり10.0人から18.8人へ、うち認知症が7.5人から14.0人に増加しており、ほぼ2倍になっています。
これは、大きな推移であり、年齢層別で80歳以上が増加傾向にあるのと関連しているものと言えるでしょう。
認知症の症状として、「徘徊」というものがあり、自分が今どこにいるのかわからずに、歩き続けてしまうということがあります。
最近、ポスターやSNSなどでも、認知症で徘徊して行方不明になった方の情報を求めるものが多くなっています。
特に、歳をとってから引っ越しなどをした場合、元々の自分の家に帰ろうとして、徘徊してしまうケースが多いようです。
こうしたことから、認知症の方への早期の対応が求められます。
年齢層に応じて原因・動機別の割合が変化する
行方不明者の原因・動機は、年齢層に応じて変化することも認められます。
以下の図では、年齢層別の原因・動機を示しています。
引用元:警察庁「令和2年度行方不明者図表」
これは令和2年のものですが、これを見ると、年齢層によって原因・動機が変化しているのがわかります。
0歳~19歳までは家庭関係が半数以上を占め、20歳代、30歳代では事業・職業関係が多数、40歳を超えると疾病関係が増加してきます。
70歳代以上は、認知症が大半です。
認知症以外の疾病関係とは、精神障害や、病気を苦にしての家出などが挙げられます。
精神障害では、妄想や幻覚などにより、自分が今いるところがわからなくなってしまったり、妄想や幻覚に取りつかれて、衝動的に家を出てしまったりする可能性があります。
また、20歳代から40歳代では、事業職業関係が多数を占めており、事業の失敗や経営不振、失業、人間関係のトラブルなどで、行方不明になる方が多いようです。
これらの方の中には、失踪後ホームレスになるなどして、所在確認ができないこともあります。
未成年者は家庭関係が約半分を占める
前項でも述べましたが、0歳から19歳までの未成年者の原因・動機は、家庭関係が約半分を占めています。
これは、親とケンカして家出するなどの場合もありますが、親からの虐待や、親同士のDV(これも虐待に分類される)から逃げている場合なども有り得ます。
この場合、警察や児童相談所、児童養護施設が保護するなどの対応が考えられるでしょう。
親からの育児放棄(置き去り)の場合は、乳児院ということも考えられます。
家出の場合は、所在確認されて保護されることが大半ですが、万が一、犯罪などに巻き込まれることも考えられるので、未成年者の行方不明には、早期の対応が必要です。
「特異行方不明者」が年々増加している
以下の図は、2015年までの古いデータですが、これを見ると、行方不明者の中でも、「特異行方不明者」の数が年々増加しているのがわかります。
引用元:何でも統計
「特異行方不明者」とは、以下のような方が該当します。
- 他者による犯罪により生命の危険が生じている恐れがある者
- 少年の福祉を害する危険がある者
- 生命に危険を及ぼす事故に遭遇している者
- 自殺の恐れがある者
- 精神障害の状態の者
- 危険物を携帯し、自傷・他傷の危険性がある者
- 13歳以下の子どもや高齢者など、本人だけでは生活が困難な者
行方不明者の数が減っても、特異行方不明者の数が増加傾向にあるというのは、事件性や重大性を帯びた行方不明者が増えてきたというのもありますが、受理する警察側の判断や、届け出る側の要求が変わってきた、という実態もあるようです。
しかし、実際に日本国内の自殺者の数が増加していることや、子どもや若年層をターゲットにした犯罪がクローズアップされていることを鑑みると、注視せざるを得ない要素ではないでしょうか。
若年層は異性関係の犯罪が増加している可能性もある
10歳代、20歳代では、400人以上の行方不明者が、異性関係を原因・動機としています。
近年は、インターネットを通じて、見知らぬ人と出会ったり、援助交際などに発展したりする場合もあり、それが家出や誘拐・監禁の原因となる場合もあるようです。
2017年に起きた座間9人連続殺害事件では、自殺願望を抱く男女をTwitterで勧誘し、自宅のアパートに連れ込んで殺害したということがありました。
Twitterでは、この事件を境に利用規約変更がなされましたが、SNSを通じてこのような事件が起こる可能性は、今後もあると言えるでしょう。
また、若年層の女性では、ホストなどに入れあげた挙句に借金の形に風俗に売り飛ばされるなどといったこともあると言われており、実際の数としては少ないものの、裏には犯罪がらみの行方不明者がいる可能性もあります。
13歳未満の「略取誘拐・人身売買」件数は増加傾向にある
法務省の『犯罪白書』によると、13歳未満の「略取誘拐・人身売買」の被害件数は、増減を繰り返しながらも、近年は100件を超え、増加傾向にあります。
2010年 | 91件 |
---|---|
2011年 | 86件 |
2012年 | 95件 |
2013年 | 94件 |
2014年 | 109件 |
2015年 | 84件 |
2016年 | 106件 |
2017年 | 72件 |
2018年 | 110件 |
2019年 | 114件 |
2020年 | 114件 |
引用元:法務省『犯罪白書』
これらは、ほとんどが強制わいせつや強制性交などを目的としており、時には監禁・殺害に至る事件にまで発展する可能性があります。
また、人身売買は、日本ではまだ横行しているとは言い難い状況ですが、世界では横行している犯罪であり、今後日本でも、児童ポルノや臓器移植などを目的とした子どもの人身売買が起こる可能性もゼロではありません。
アメリカでは、13歳未満の子どもを一人で留守番させたり、一人で買い物に行かせたりするのは、たとえ昼間であっても禁止されています。
ベトナムでは、臓器奪取を目的とした誘拐が相次いでいることから、子どもを一人にしないように呼びかけられています。
日本でも、地域の繋がりが希薄になった近年では、子どもを見守る地域の大人がいなくなり、危険性が増したと言えるでしょう。
行方不明者を減らすには、子どもと高齢者を守る対策が急務!
日本国内の行方不明者数の推移と、近年の傾向を、年齢層別、原因・動機別に見てきました。
行方不明者数は、ここ2年ほどは減少傾向にあるとはいえ、まだ年間8万人近くの方が行方不明者として届出されています。
中でも、80歳以上の高齢者、特に認知症の方の行方不明者が増加しており、これは早急に対策が必要であると言えるでしょう。
認知症の方を在宅で介護することが推奨されているようですが、これは家族だけでは限界があることです。
医療と福祉の両面から、早急に取り組むことが必要とされるでしょう。
また、増加傾向にあるとは言えませんが、子どもの行方不明者も依然として1,000人を超えており、「ミッシングチルドレン」などと言われて、Yahooニュースに掲載される(2021年)などもしています。
最近は、携帯電話にGPSなどの機能が付き、子どもの行動を把握する方法もあるので、親は、なるべく子どもを一人にしないことと、子どもの行動を把握すること、子どもから目を離さないことが重要です。
また、子どもを地域で見守るシステムを整備するなど、子どもを安全に保護する環境を整えることも急がれます。
特に、弱者である子どもや高齢者、若年層の女性を守る取り組みが、早急に求められると言えるでしょう。
行方不明者を減らすには、社会全体で取り組む必要があるのです。
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