【投稿日】 2022年5月16日 【最終更新日】 2022年6月7日

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&Aで会社を吸収合併する場合や投資家が投資をする場合、金融機関などが融資をする場合などに、実施可否の判断をするために事前に行う調査のことを言います。

調査の目的によって多くの種類のデューデリジェンスがありますが、その中で不動産鑑定士が出来るデューデリジェンスは「不動産デューデリジェンス」です。

この記事では、この「不動産デューデリジェンス」の内容や不動産鑑定士に依頼する際の費用相場などについて解説します。

不動産鑑定士ができるのは不動産デューデリジェンス

冒頭でも触れましたが、デューデリジェンスとはM&A・投資・融資などを行う前に行う調査のことで、調査の目的によって「事業デューデリジェンス」「財務デューデリジェンス」「法務デューデリジェンス」「人事デューデリジェンス」「システムデューデリジェンス」「環境デューデリジェンス」などの多くの種類がありますので、これらの中から必要なデューデリジェンスを行います。

これらの中で、不動産鑑定士が行うことが出来るデューデリジェンスは「不動産デューデリジェンス」です。

デューデリジェンスの種類 担当する専門家
ビジネスデューデリジェンス(事業デューデリジェンス) 戦略コンサルタント
シンクタンク
財務デューデリジェンス 会計士事務所
監査法人系コンサルタント
法務デューデリジェンス 弁護士事務所
人事デューデリジェンス 戦略コンサルタント
人事や年金に詳しいコンサルタント
ITデューデリジェンス ITコンサルタント
ITベンダー
知財デューデリジェンス 弁理士事務所
弁護士事務所
不動産デューデリジェンス 不動産鑑定士事務所
不動産会社
税務デューデリジェンス 税理士事務所
監査法人系コンサルタント
環境デューデリジェンス 環境コンサルタント

不動産デューデリジェンスは、M&A・投資・融資などにおいて買収先・投資先・融資先などの企業などが保有している不動産を対象として行います。

また、不動産の販売や賃貸を事業として行っている企業が、不動産を購入する際にも行います。

不動産デューデリジェンスの内容

不動産デューデリジェンスでは、一般的に「経済的調査」「物理的調査」「法的調査」という3種類の調査を行いますので、それぞれの調査について詳しく説明していきます。

経済的調査

経済的調査は、土地や建物などの不動産の現在価値を客観的に算出し、不動産の経済的価値を把握するために行うもので、主な調査内容は次の通りです。

  • 不動産市場の調査分析(立地条件、地域特性など)
  • 不動産経営調査(入居者・テナント、入居率・賃料推移、売却見込み価格など)
  • 投資採算性に基づくリスク分析

これらの中から、不動産デューデリジェンスの実施目的(M&A・投資・融資など)や不動産の保有目的(事業用・販売用・賃貸用・投資用など)に応じて、必要な調査を行います。

不動産市場の調査分析に関しては、対象不動産のある地域の全体的な動向を調査・分析し、対象不動産の立地条件やその地域特性について調査します。

立地条件や地域特性は、賃貸用・投資用不動産の入居率や賃料の根拠となる重要な調査項目となります。

例えば、将来に向けて対象不動産の周辺の利便性向上が期待できるのであれば、入居率が高くなり賃料も高く設定することができ収益性が上がることが推測できます。

逆に、周辺の人口減少や利便性の低下などが見込まれるのであれば、収益性の向上は期待できないということになります。

不動産経営調査に関しては、現在や過去の入居者やテナントの調査、入居率や賃料の推移、将来の売却時の見込み価格の算出などを行います。

入居者やテナントについては、入居目的、信用情報、支払い状況等の人物調査の範囲まで調査することもあります。

賃貸・投資用不動産の場合は、これらの調査結果をもとに投資採算性という観点からリスク分析を行い、対象不動産を購入するために必要な適正価格を算定することになります。

このような詳細な経済的調査は、仲介を行っている不動産業者ではなかなか実施することが難しいため、一般的には不動産鑑定士に調査を依頼します。

また、入居者やテナントの人物調査が必要な場合は探偵に依頼することもあります。

物理的調査

物理的調査は、不動産デューデリジェンスの中では最も重要な調査項目で、主な調査内容は次の通りです。

  • 土地の状況調査(立地状況、接道状況、地盤強度など)
  • 建物の状況調査(管理状況、修繕履歴、劣化診断、耐震性、遵法性など)
  • 環境調査(土壌汚染、アスベスト・PCB等の調査)
  • 将来の修繕更新費用の試算

土地の状況調査に関しては、土地の形状、境界線、接している道路が公道か私道か、道路の幅員、地盤の強度などを調査します。

建物の管理状況に関しては、構造、築年数、建築物や設備の修繕履歴、内装・外装・躯体・設備の劣化状況、メンテナンス状況、耐震性、管理面に関する遵法性などを調査します。

環境調査に関しては、土壌汚染の有無、アスベスト・PCB等の有害物含有状況などについて調査を行います。

以上のような調査結果から、今後その不動産を維持管理していくために必要となる将来の修繕更新費用を試算します。

不動産については外見を見ただけでは瑕疵の有無や劣化状況などを判断することができませんので、専門知識を持つ不動産鑑定士や土地家屋調査士などに調査を依頼します。

エンジニアリングレポートとは?

物理的調査に関する調査結果をまとめたものを「エンジニアリングレポート(ER)」と言い、M&A・投資・融資方針を決定するための重要な資料となります。

エンジニアリングレポートには、物理的調査の結果や分析結果のほか、将来の修繕更新費用、再調達価格、地震リスク評価などを含めることが一般的です。

再調達価格とは、対象物件と同一仕様の建物を調査時点で新築すると仮定した場合の費用の総額を試算するものです。

また、地震リスク評価は、地震によって生じる物的被害額(損失額)を評価するもので、地震リスクの指標として予想最大損失率(PML:Probable Maximum Loss)が利用されます。

不動産関係で利用されている地震PMLとは「今後50年間に超過確率が10%となる地震動が発生し、その場合の90%非超過確率に相当する物的損害額の再調達価格に対する割合」のことです。

一般的に、1981年以降の新耐震設計法によって設計された建物のPMLは10~20%程度ですが、1981年以前の旧建築基準法により設計された建物のPMLは20%以上の大きな値となることが多いと言われます。

法的調査

不動産の売買においては、その権利関係が不明確になっていることがあるため、対象不動産の権利関係を明確にするために法的調査を行います。

法的調査の主な調査内容は次の通りです。

  • 権利関係調査(所有権、借地権など)
  • 賃貸契約調査(入居者・テナントとの賃貸契約)
  • 遵法関係調査(建築基準法、消防法など)
  • 占有関係調査(境界など)
  • 訴訟関係調査(訴訟・紛争の履歴など)

権利関係調査に関しては、土地や建物などの対象不動産の所有権・借地権などが不明確になっていないか、抵当権が設定されていないか、売主が対象物件を売却する権利を有しているかどうかなどを調査します。

賃貸用不動産の場合は賃貸契約調査を行いますが、これは入居者やテナントとの賃貸借契約が適正に行われているか、トラブルが生じていないかなどを調査します。

遵法関係調査に関しては、建物が建築基準法や消防法などの関連する法規に則って建築されているかなどを調査します。

訴訟関係調査に関しては、対象不動産にかかわる訴訟・紛争などの履歴がないかについて調査をし、もし現に訴訟・紛争などが生じている場合は、その内容・解決見込みなどを詳細に調査します。

このような不動産に関する法的なリスクを避けるために、不動産鑑定士や弁護士などの法律の専門家に依頼して調査を行う必要があります。

不動産デューデリジェンスの分析視点

不動産デューデリジェンスでは、対象となる不動産の保有目的によって分析の視点が変わってきます。

つまり、事業用の不動産なのか、販売用や賃貸用の不動産なのか、投資用の不動産なのかによって分析視点がかわりますので、それぞれについて説明します。

事業用不動産の場合

企業が不動産を取得する目的としては、M&Aによる吸収合併の場合のほかに、事業の遂行に必要な生産拠点や物流拠点などの不動産を新たに取得する場合があります。

このような事業用不動産の場合の分析視点は、大きく資産価値の評価とビジネス面での影響評価に分けることができます。

前者は財務デューデリジェンスと密接な関係がありますし、後者は事業デューデリジェンスと密接な関係がありますので、連携しながら進めることが必要です。

資産価値評価の分析においては、その不動産を売却した場合にどの程度のインパクトがあるのか、またその不動産における減損リスクや除却リスクはどの程度存在するかという視点で調査をします。

ビジネスへの影響評価の分析では、その不動産は継続利用が可能なのか、継続利用する場合将来にわたって変動リスクは存在しないのか、投資や減価償却の水準が今後どのように変化していくかという視点で調査します。

また、事業用不動産の場合は、対象の不動産を長期間保有していることが考えられるため取得時の資料が散逸していたり紛失していたり、所得後に建て替えや増改築を行っているため不動産の状況が大きく変わっているというケースも珍しくありませんので、これらに注意をして進める必要があります。

販売または賃貸用不動産の場合

前項では自社の事業遂行のために不動産を取得する場合の分析視点について説明しましたが、販売用または賃貸用として不動産を取得する場合もあります。

まず、不動産の販売を目的とする場合は、不動産の取得価格は販売原価の一部となりますが、取得時の不動産の時価評価額は重要ではなく、不動産の販売価格、販売原価(不動産取得費+造成・建築費+販売費)の収支として確認する必要があります。

また、不動産の賃貸を目的とする場合は、入居率や賃貸条件(賃料、保証金)などの賃貸事業としての収支やコスト構造、今後の必要投資(維持管理費、修繕費用など)などを確認する必要があります。

このように、販売用不動産であれば販売価格と販売原価の差額が利益であるという視点で調査が必要ですし、賃貸用不動産であれば賃貸事業としての視点からの調査が必要となります。

投資不動産の場合

投資家が投資手段の一つとして不動産を取得する場合や企業によっては余剰資金の効果的活用などの目的で投資用不動産を取得するケースもあります。

投資用不動産の調査の視点は、その不動産を取得・保有することに関する財務的なリスクの大きさを調査して、不動産取得の条件や取得後の継続保有の可否判断などに役立てることになります。

投資不動産の場合は、前項の賃貸用不動産のような賃貸運用を目的とするインカムゲイン(賃料収入)重視か、売却によるキャピタルゲイン(売却益)重視かによって分析視点が変わってきます。

インカムゲインを重視する場合は、長期保有によって安定した賃料収入が得られるかどうかという視点で調査を行います。

一方、キャピタルゲイン重視の場合は、築古物件の改装やテナント誘致などによる価値向上を狙いますので、その目的に見合うかどうかという視点で調査を行います。

なお、投資用不動産の場合にはREITや信託受益権などの金融商品に準じた形態に変化していることがありますので注意が必要です。

不動産デューデリジェンスについて不動産鑑定士に依頼する費用相場

不動産デューデリジェンスでは、「経済的調査」「物理的調査」「法的調査」の3種類の調査を行いますが、いずれの調査にも不動産に関する高い専門性が求められますので、一般的には不動産鑑定士に依頼して行います。

この場合の費用がどの程度になるのかは気になるところだと思いますが、対象となる不動産の規模や状況が大きく異なるため、一概に費用相場を算出することは困難です。

しかし目安としては、不動産デューデリジェンスを不動産鑑定士に依頼する場合は2~5万円/時間程度となり、分析やレポートを含む場合は数10万~100万円程度、不動産の規模が大きくなれば100万円以上になると考えられます。

不動産鑑定士による不動産デューデリジェンス以外にもやっておきたいデューデリジェンス!

これまでに説明してきたように、不動産デューデリジェンスは取得リスクや保有リスクを回避するために不動産を購入する前に行う調査のことで、具体的には経済的調査、物理的調査、法的調査を行います。

しかし、実はこの不動産デューデリジェンス以外にもぜひやっておくべき調査(デューデリジェンス)があります。

例えば、不動産の周辺環境や過去の経歴、犯罪などで使われた履歴がないかどうか、心理的瑕疵などがないかどうかなど、その不動産の実態について調査する必要があると考えられます。

また、不動産の所有者や売主の経歴などについても調査しておく必要があるでしょう。

一般的な不動産デューデリジェンスに加えてこれらの調査(デューデリジェンス)を行うことによって、取引後に犯罪やトラブルに巻き込まれることを防ぐことができます。

つまり、より深く踏み込んだデューデリジェンスをすることになりますので、より大きなリスク回避効果が期待できることになるのです。

このような調査は不動産鑑定士では行うことができませんので、調査のプロである探偵を使って行う必要があります。

一般的に不動産売買には高額な資金が必要となりますし、購入後にリスクが発覚すると大きな問題に発展することも考えられますので、ここで説明したような探偵を使ったより実態に基づくデューデリジェンスを行う必要があると考えられます。

不動産は金額が大きいため、取引前には必ずデューデリジェンスをしよう!

従来、不動産売買の際の慣習として、売主側が提示する不動産鑑定や重要事項説明で対象物件の内容を確認するということが行われてきました。

しかし、不動産鑑定や重要事項説明に記載された情報だけでは物件のリスクを正確に見極めることは不可能だということが問題となっていました。

特に中古物件の場合は、購入後に建物の瑕疵が見つかったり、土壌汚染が見つかったり、あるいはその不動産にかかわるトラブルに巻き込まれたりということが起こっていました。

目に見えない心理的瑕疵や周辺環境にかかわる問題、犯罪等への関与などは不動産鑑定や重要事項説明だけでは判断することができません。

これらの不動産購入や投資に関わるリスクを回避するためにも取引前には必ずデューデリジェンスを行うことが必要なのです!

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