【投稿日】 2022年3月16日 【最終更新日】 2022年4月4日

仮差押えは、債務者が財産隠しや財産の処分を行う可能性がある場合に有効な手段です。

民事訴訟の訴えの主旨となる請求に関する権利の実現を保全するための手続きなので、あくまで「仮」という文字がついていますが、その効力はとても強力です。

しかし、仮差押えを検討している方の中には「制度があることは知っているけど、どういうものなのかしっかりと理解できていない」という方は多いのではないでしょうか。

そこで今回は、仮差押えの基礎知識や、債権者が知っておきたいメリット・デメリットを解説いたします。

民事保全の仮差押えとは?

仮差押えとは、債権回収を行うにあたって、勝訴するまでの期間に債務者の財産を確保(保全)することができる制度です。

債権回収の手段として訴訟を起こし勝訴すると、債務者へ債権の支払いが命じられ、強制執行ができるようになります。

しかし、債権回収のための訴訟は、訴訟を起こしてか半年〜2年という長い期間が必要です。

判決までの期間に債務者が財産隠しを行えば、強制執行を行ったとしても空振りに終わってしまい債権を回収できないという事態になりかねません。

債務者が財産隠しを行うことを防ぎ、債務者から確実に債権を回収できるようにするために仮差押えが重要な役割を担うのです。

仮差押えの効力

仮差押えはあくまで債権者の財産処分を禁止し財産を確保するものであり、債権回収を行うためには訴訟を起こす必要があります。

しかし、実際には仮差押えが認められた時点で債務者が債権の支払いに応じるケースが少なくありません。

仮差押えが認められた時点で債務者が支払いに応じるケースが多い主な理由は以下の3点です。

  • 仮差押えが認められた時点で、債権者が勝訴する可能性が高いから
  • 預貯金債権が仮差押えされると業務に支障が出るから
  • 対外的なイメージが悪化する可能性があるから

上記のように、仮差押えは債務者にとって大きなプレッシャーとなります。

そのため、仮差押えを行った直後に債務者から支払いの申し出があるというケースが多いのです。

仮差押えの対象となる財産

債務者の財産であれば基本的にどんなものでも仮差押えを行うことができます。

一般的には不動産や銀行預金、売掛債権といった財産が対象となるイメージがありますが、商品在庫や機械などの動産も対象となります。

特に銀行預貯金や売掛債権、動産に対して差押えを行った場合は、債務者の通常業務に大きな支障が出るのが特徴です。

債権者が仮差押え手続きを行う際の4つのステップ

仮差押えの手続きは以下の4つのステップに分けられます。

  • STEP1:仮差押え命令の申立書を申請する
  • STEP2:裁判所が審理を行う
  • STEP3:担保金を支払う
  • STEP4:仮差押えの執行

それぞれの具体的な内容や注意点について詳しく解説します。

STEP1:仮差押え命令の申立書を申請する

債権者が仮差押え手続きを行うためには、まず裁判所に「仮差押申立書」を提出する必要があります。

仮差押申立書に添付する書類は以下の通りです。

  • 請求債権目録
  • 仮差押債権目録(仮差押えの対象が債権の場合)
  • 物件目録(仮差押えの対象が不動産の場合)
  • 債権があることを示す疎明資料
  • 債権者の資格証明書(法人の場合)
  • 債務者の住所または本社所在地及び登記された支店所在地の不動産登記事項証明書
  • 保全の必要性についての債権者の陳述書
  • 委任状(弁護士に委任する場合)

必要となる添付書類をすべて用意して提出することで仮差押えの申し立てが完了します。

STEP2:裁判所が審理を行う

申立書を提出すると、裁判所が仮差押えの可否について審理します。

審理の対象となるのは以下の2つの項目です。

  • 請求目録に記載されていた請求債権が本当に存在するのか
  • 債務者の財産を仮差押えする必要があるのか

裁判所から仮差押えを認められるためには、請求債権が実在し、仮差押えをする必要があると判断される必要があります。

上記2点は申立書に添付した疎明資料や陳述書を確認して判断することになりますが、情報が足りないと判断された場合は追加資料の提出が必要です。

場合によっては裁判官と面談を行うケースもあるなど、慎重な審理がなされます。

申立書や添付書類は細かい部分まで気を配って作成しましょう。

STEP3:担保金の供託

仮差押えを行う場合、債権者は担保金を支払う必要があります。

なぜなら、債権者が訴訟で敗訴した場合、相手方に損害賠償を支払う必要があるからです。

訴訟において債権者が敗訴すると、仮差押えは不当であったということになります。

つまり、仮差押えをされた相手方は一方的に財産の処分を禁止されたということです。

財産の処分を禁止されると、相手方は仮差押え期間中に財産を処分することができず、損害を被ることになってしまいます。

例えば、「不動産を売却して事業資金に充てようとしていたのに、仮差押えをされていたせいで資金を捻出できず機会を逃してしまった」というケースなどが考えられます。

債権者が敗訴した場合に、確実に損害賠償金が渡るように担保金という仕組みが用意されているのです。

担保金の金額と支払い方法

担保金の金額の相場は、債権の仮差押えで請求額の2〜3割程度、不動産の場合は不動産価額の15〜20%程度です。

以下の2つの方法のどちらかで担保金を供託する必要があります。

  • 法務局に供託して、供託書正本を裁判所に提出する
  • 銀行と支払保証委託契約を結び、契約書を裁判所に提出する

実際には法務局に供託して供託書正本を裁判所に提出する方法が多く用いられています。

裁判所から担保金の額が通達されてから7日以内に支払う必要があるため、担保金は事前に準備しておきましょう。

ただし、担保金の金額は仮差押えをする財産の価値や、債権者が敗訴する可能性、債権者が敗訴した場合に発生する損害の程度などが考慮されて前後する場合があります。

訴訟にて債権者が勝訴した場合は、仮差押えは不当ではないと判断されるため、担保金は債権者に全額返金されます。

STEP4:仮差押えの執行

担保金の支払いが確認できれば、裁判所が「仮差押決定」を発令し、対象財産の仮差押えを開始します。

不動産が仮差押の対象になっている場合は債務者の不動産に仮差押え登記を行い、債務者の銀行預金や売掛債権を仮差押えした場合は、裁判所から債務者の取引先や金融機関に「仮差押決定書」を送付して、債務者の取引先や金融機関が債務者に対して支払いを行うことを禁止することで仮差押えが実行されます。

仮差押えが決定されるといつから効力が発生するの?

裁判所が仮差押えを決定した後、効力が発生するタイミングは仮差押えを行う財産によって異なります。

仮差押えの対象が不動産の場合は、不動産の仮差押え登記が完了した時点から効力が

生じます。

一方で、仮差押えの対象が債権の場合は、裁判所から「裁判仮差押決定正本」が金融機関に送付され、金融機関の担当者が対象口座の凍結処理を完了した時点で効力が生じます。

財産の保全・仮差し押さえをする際に原告側が知っておきたいメリット・デメリット

財産隠しや財産の処分を禁止できる仮差押えは、債権者にとってメリットが多いように見えますが、実はメリットだけではなくデメリットもいくつか存在します。

仮差押えを検討する際はメリット・デメリットの両方を把握した上で申し立てを行うかどうかを決定しましょう。

仮差押えのメリット

仮差押えのメリットは以下の3点です。

  • 申し立てから仮差押え決定までの期間が短い
  • 債務者に知られずに手続きを行うことができる
  • 債務者との交渉を有利に進めることができる

それぞれの具体的な内容を見ていきましょう。

【1】申し立てから仮差押え決定までの期間が短い

債権回収のための訴訟を起こした場合、通常半年〜2年ほどの時間がかかります。

一方で仮差押えは、裁判官が仮差押決定を出すまで一週間程度なので、訴訟と比較するとはるかに短い期間で手続きを終えることが可能です。

その理由として、仮差押えは債務者の財産処分を防ぐための制度なので、手続きに時間がかかってしまっては本末転倒となってしまうことが挙げられます。

そのため、裁判所は迅速な対応で仮差押えの可否を判断しなければならないことになっているのです。

【2】債務者に知られずに手続きを行うことができる

仮差押えは債務者に知られずに手続きを行うことが可能です。

仮差押えをすることを債務者に知られてしまい、債務者が財産を隠してしまっては仮差押えを行う意味がありません。

そのため、例えば銀行預金の差押えを行う場合は、裁判所から「裁判仮差押決定正本」が金融機関に送付され、届いてから債務者に差押えが完了したことが通知されます。

債務者に知られずに手続きができるからこそ、債務者の財産を確実に確保することができるのです。

【3】債務者との交渉を有利に進めることができる

仮差押えによって財産の処分ができなくなれば、債務者は損害を被る可能性があります。

また、財産を処分できないこと自体が大きなプレッシャーとなるでしょう。

そのため、仮差押えの段階で債務者が債権の支払いについて交渉を申し出るケースが少なくありません。

債権者側は民事訴訟を起こして勝訴判決を得ることができれば、強制執行を行うことが可能になるため、債務者よりも有利な立場になります。

そのため、債務者との交渉では債権者に有利な条件を提示することができるのです。

交渉の結果、民事訴訟を起こさずに債権を全額回収できるケースもあります。

仮差押えのデメリット

仮差押えのデメリットは以下の4点です。

  • 担保金が必要
  • 手続きが複雑
  • 債務者が破産すると債権を全額回収するのは難しい
  • 仮差押え後の訴訟で敗訴した場合は債務者に対して損害賠償義務が発生する

それぞれの具体的な内容は以下の通りです。

【1】担保金が必要

仮差押えを行うためには、債権者の主張が間違っていないことを保証するための担保金が必要です。

担保金の額は債権額の20〜30%、不動産では不動産価額の15〜20%ですが、担保金は全額現金で用意する必要があります。

また、担保金を訴訟で勝訴するまで預けたままにしなければなりません。

そのため、債権者自身の資金繰りが悪化していて担保金が用意できない場合は、仮押さえ手続きを行うことができない点はデメリットと言えます。

【2】手続きが複雑

仮差押えの手続きは基本的に書類審査で行われます。

通常の裁判で行われる口頭での説明や証人尋問はないため、すべて書面上で説明しなければなりません。

そのため、申立書の作成や疎明資料の作成、陳述書の作成などは、短期間で過不足なく作成する必要があります。

仮差押えに必要な書面の作成は、専門性が高いため、弁護士依頼は必須です。

弁護士に依頼する場合は別途弁護士費用がかかるため、仮差押えの資金を用意する際は担保金に加えて弁護士費用を用意しておきましょう。

【3】債務者が破産すると債権を回収するのは難しい

仮差押えは債務者の財産隠しや財産処分を禁止することができます。

しかし、債務者の財産に対して優先権が生じるわけではありません。

例えば、抵当権などの担保権は、債務者が破産しても他の債権者よりも優先的に債権を回収することができますが、仮差押えには抵当権のような優先権はありません。

そのため、仮差押えをした後に債務者が民事再生や破産などの法的整理をすると、仮差押えは無効となり、他の債権者と平等に配当を受けることになります。

そのため仮差押えをする際は債務者の資産調査をしっかりと行った上で手続きを進めることが重要です。

【4】仮差押え後の訴訟で敗訴した場合は債務者に対して損害賠償義務が発生する

仮差押えをした後に、債権者が訴訟を起こしたにも関わらず敗訴してしまうと、損害賠償を支払う必要があります。

仮差押え手続きを行う際に供託する担保金は、敗訴した時に損害賠償が発生することを見越して預けられているものです。

債務者が仮差押えによって被った損害の程度によっては、供託した担保金では足りないケースもあります。

供託した担保金では足りない場合、債権者は債務者に対して不足分を支払う義務が生じることになります。

仮差押えは債権回収の可能性を高められるものの、担保金や手続きの煩雑さなど原告の負担が大きい手段!

仮差押えは債権回収の可能性を高めることができる一方で、申立書や添付書類の作成、担保金の準備など債権者にとって負担の大きい手段です。

訴訟で勝訴することで担保金は全額返金され、多くの場合強制執行を行うことで債権回収をすることができます。

しかし、もしも債務者が破産した場合は債権を全額回収することはできません。

そこで重要となるのが「きちんと債権の支払いができるだけの財産はあるのか」を見極めることです。

支払いができるだけの財産があるのかどうかを見極めるためには、申し立てをする前に「資産調査」を行う必要があります。

資産調査は文字通り、債務者はどの程度の財産を保有しているのかを調査するものです。

資産調査は弁護士や探偵に依頼することができるので、仮差押えを考えている方はまず資産調査を検討しましょう。

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