【投稿日】 2021年12月8日 【最終更新日】 2022年1月10日

コロナ禍において企業は、それまでと同じような活発な行動を起こせなくなり、経営不振に至るケースが増えました。

そんな中、各企業は「それでも経営を継続しなくては」といった使命のもと、M&Aによる経営存続を試むようになりました。

そこで今回は、2021年におこなわれた最新のM&A事例について、さらに「なぜそういったM&Aが実施されたのか?」といった理由と合わせてご紹介します。

M&Aの成約件数の推移

中小企業庁の2018年版中小企業白書によると、国内M&Aは2017年に3000件を超えて過去最大の成約件数となりました。同ページのグラフからは、リーマンショック前後での浮き沈みこそあるものの、M&Aが毎年増加傾向にあることがわかります。

中小企業は特に、新しい事業や商圏を広げるための取っ掛かりとしてM&Aを選択することが多いとされており、M&A成約数は大企業のケースでは減少しているものの、中小企業事例においては増加の一途にあります。

さらに中小企業は「子会社・関連会社を『新設』するよりも『M&Aによって増加させたパターンが多い』」という点にも注目すべきでしょう。

つまり現在、中小企業の経営におけるM&Aは「非常に活性化している」と言えます。

2021年注目の企業買収事例

<1>パナソニック・ブルーヨンダー

2021年の4月に、パナソニックはアメリカのソフトウェア開発企業であるブルーヨンダーを買収しました。

額は7700億円にのぼり、業界を驚かせました。家電に強いパナソニックですが、製造や流通向けソフトウェア開発企業を買収したことには理由がありました。

それはサプライチェーンの強化です。パナソニックはBtoB事業として「デバイス・センシング・ロボティクス」を展開しています。こちらは「デバイス=装置・機械」「センシング=感知機器(例:センサー)」「ロボティクス=ロボットによる作業自動化」により、顧客が持つ工場などにおける製造ラインや仕分けといった過程を効率化するもの。

そして、ブルーヨンダーはサプライチェーンマネジメントを強化するソフトウェアを企業向けに提供していました。ブルーヨンダーのソリューションにより、顧客は生産プロセスなどの自動化が実現可能となります。

つまりデバイス・センシング・ロボティクスとブルーヨンダーのソフトウェア技術を組み合わせられれば、より効率化したプロセスを顧客の事業上で実現できるという展望が期待できます。

パナソニックは、買収に至る前からブルーヨンダー株を保有したり、ブルーヨンダーへ役員を派遣するなど地道かつ慎重に将来の展望を見据えて調査をおこなっていました。その調査の結果、自社にとって大きなメリットをもたらすと判断し、残りのブルーヨンダー株を手に入れるために大株主であるファンドとの交渉に臨んだとされています。

ブルーヨンダーは既存の取引先にユニリーバやウォルマートなどの大企業がありました。パナソニックにとっては、この既存顧客も魅力的でした。そのため自社売上高7兆円の1/10ともなる額、7700億円での買収に至ったのです。

<2>楽天グループ・日本郵政(業務資本提携)

楽天グループと日本郵政株式会社は、2021年にM&A(資本業務提携)をおこないました。

具体的には、2社が様々な分野の事業で業務提携をすることになり、以下の事業内容が実現すると見られます。

  • キャッシュレス決済分野における連携
  • 2社の協業による新たな配送システム・配送拠点の設立
  • 郵便局内で楽天モバイルの申込みができる窓口の設置
  • 楽天から日本郵政へDXを実現するための人材派遣
  • キャッシュレス決済分野における連携

業界からは、日本郵政が所有する物流網や荷量のデータと、楽天が保有するEC運用ノウハウが大きなシナジーを生み出すと注目されています。

このM&Aでは、日本郵政が楽天の増資を引き受けるという第三者割当増資がおこなわれました。出資額はおよそ1500億円、出資比率は8.32%となっています。

<3>LINE・Zホールディングス

2021年にZホールディングスは、LINEの事業を譲り受ける形で経営統合しました。

経営統合までのプロセスはかなり複雑で、下記の手順を踏んでいます。

NAVERとソフトバンクがLINE株(総額約1,680億円)を公開買付け
LINEがZホールディングス株式(総額約7,396億円)を公開買付け
LINEが存続会社、汐留Zホールディングスを消滅会社とする吸収合併
ソフトバンクとNAVERが持つ、LINEの議決権割合を5:5にするための共同事業化取引
LINEが持っているすべての事業を、LINE承継会社に継がせる会社分割
Zホールディングスを完全親会社とし、LINE承継会社を完全子会社とする株式交換

本M&Aが進められた理由は、上記プロセスに登場した企業それぞれの事業を強化するためと、新しい事業を始めるための投資をおこなうためです。

集客やマーケティング、新規事業・システム開発、フィンテックそれぞれの事業が相乗効果をもたらすことが期待されています。

<4>ココカラファイン・マツモトキヨシ

2021年、全国でドラッグストア事業を展開するココカラファインとマツモトキヨシが経営統合をおこないました。事業を譲渡したのはココカラファイン、受け取り側はマツモトキヨシです。両社とも全国1500前後の店舗展開をしていました。

マツモトキヨシグループ傘下へココカラファインが加わった本M&Aでは、共同での商品開発や、デジタルを伴った販売促進が進められることが期待されています。ココカラファインは、両社を合わせた3000もの店舗数となることで、顧客一人一人に向けたヘルス&ビューティマーケティングを実現したいとしています。M&Aによる見込み営業利益は2000億円。

本M&Aでは株式交換・吸収分割といった様々なプロセスが用いられ、ココカラファインが子会社化されます。

<5>トゥルース・ビーイング

ソフトウェア開発のトゥルース社は、2021年に同社代表が会長であるビーイング社に対してTOBをおこないました。一株900円で、最終的には全体の88%以上(4,064,911株)を買い付けました。

TOBの目的はMBOによる非公開化です。つまりビーイング社の上場を廃止し、非公開とすることが目的でした。

トゥルース代表は、土木積算関係の事業に依存した自社の構造に懸念を持っていました。そのため、構造を変革するべく財務的には短期的にマイナス面のある投資をしなければなりませんでしたが、マイナス投資が影響して株価が下がるのではないかという危惧が残ります。そこで施策全体を中長期的な改革と捉え、改革期間中の非公開化に踏みきったのでした。

<6>CAICA・Zaif Holdings

金融系システム開発のCAICA社は、暗号資産交換所に関するシステム開発に携わるZaif Holdingsを子会社化しました。M&Aの成立には株式譲渡と第三者割当増資が利用され、取得した株式は総計37億円となりました。

元からCAICAは、Zaif Holdingsを持分法が適用された関連会社としていました。つまりZaifはCAICAから資金的な提供を受けていました。ただ、同状況では経営判断を素早くおこなうことが難しく、両社の特徴を活かした連携がうまくいかない恐れがありました。

子会社化によって、CAICAの構築するシステム等をZaifに対して提供できるようになり、Zaifが備える能力をより効果的に発揮できるようになります。

<7>駅探・マーベリック

鉄道の乗り換え案内サービスや駅周辺の住宅・飲食店・生活サービス情報を取り扱う株式会社駅探は、スマートフォン向け広告を取り扱うマーベリック社の同事業を買収しました。

買収により駅探は、広告テクノロジーに関する事業を強化、グループ全体のロードマップを可視化、自社保有メディアの収益力をアップするための技術・人材を獲得、事業領域の分割によるリスクの分散といった項目を実現可能となります。

上記M&Aは、企業を分割し、分割した一部を新設会社に承継してもらう「新設分割」および株式譲渡により実現しました。マーベリック社から新設分割で誕生したサークア社に事業承継がおこなわれたのち、駅探がサークアの全株式を取得したというプロセスです。

<8>ビーネックスグループ・レフトキャピタル

エンジニア派遣や、家電などに組み込まれるコンピューティングシステムの開発に携わるビーネックスグループは、レフトキャピタル社を買収しました。

レフトキャピタルは、金融業界を始めとして数多くの分野へシステム開発を提供するアロートラストシステムズ社を傘下に持っており、当M&Aがおこなわれた理由も同事業に注目されたためでした。

ビーネックスグループは、アロー社の抱える顧客数の多さに注目。グループ入りさせることで、アロー社既存顧客に対しエンジニア採用分野での働きかけを実現しようという考えがありました。さらに、自社採用の新規エンジニアに新しい技術獲得の選択肢を増やすことも可能になります。ビーネックスグループは以上の理由から、M&Aに踏み切りました。

M&Aは、総額13.35億円の株式を取得する形で進められました。

<9>アクシス・ヒューマンソフト

情報システムの開発や保守・運用に関わるシステムインテグレーションやクラウドサービスを提供するアクシスは、幅広い業界に開発サービスを供給しているヒューマンソフト社を買収しました。

買収の目的はアクシスの人材不足を補うためです。さらにヒューマンソフト側もアクシス子会社となることで販路拡大や資本増強が狙え、自社成長につながると見越すことができ利益が一致しました。

子会社化には株式譲渡のプロセスが利用されました。アクシスはヒューマンソフトの株式4.15億円を取得しています。

<10>ミックウェア・エイチアイ

カーナビゲーションなど車載システムの開発に携わる株式会社ミックウェアは、当時アートスパークホールディングスの連結孫会社だった株式会社エイチアイを買収しました。

アートスパークホールディングスは自動車や家電を中心としてシステム開発のトータル支援を事業としています。エイチアイはその傘下で受託開発をおこなっていました。

ミックウェアは、開発部門を強化するために高度な技術力が自社に必要だと考えていました。そこでエイチアイの技術に目をつけ、買収に踏み切りました。

またエイチアイを手放すアートスパークホールディングス側は、当時エイチアイが携わっていたような受託事業とは異なる分野への注力を考えており、エイチアイを売却することに応じやすかったという背景を持っていました。

アートスパークホールディングスは、ミックウェアへ保有エイチアイ株式すべてを売却。ミックウェアが4.5億円で株式を取得したことでM&Aが成立しました。

<11>野村総合研究所・SQA Holdco Pty Ltd

IT技術に関するコンサルティングを手掛ける野村総研は、SQA Holdco Pty Ltdの買収をおこないました。

SQA Holdco Pty LtdはPlanit Test Management Solutions Pty Ltdの持株会社でした。Planit社は多数のエンジニアを抱えるITテスティング企業。ITに関するシステム品質についての専門知識を有しています。

SQA社はオーストラリアの企業で、やはりITテスティング専門技術者が多数所属しています。ITを用いたシステムの品質保持・向上、自動テスト用ツールといったサービスの提供に強みがあります。

野村総研は、長期的にグローバル展開を広げる視野を持っていました。そこでSQL社の買収をすることで、ノウハウや既存顧客の取得を試みたのです。M&Aにより、主にオセアニア地域で事業を拡大する展望が得られるとしています。

総額は非公開ながら、野村総研による株式取得は現地の子会社を通して実行したとされています。

<12>テリロジー・クレシード

海外ハード・ソフトウェア製品の輸入販売、ネットワークの構築・保守・セキュリティ対策などを手掛ける株式会社テリロジーは、クレシード株式会社を買収しました。

クレシードはICT関連の事業を幅広く手掛けており、情報戦略の企画立案から開発、運用管理と一気通貫に代行する分野に強みを持っています。

テリロジーはクレシードの強みに注目し、買収により「大企業から中小へのあらゆる対応、業務支援・代行業による収益モデルの確立、取り扱い商品・サービス拡大によるCX向上」を実現するためにM&Aを行いました。

テリロジーは、クレシード株90%の議決権を取得することで買収を成立させています。

<13>でらゲー・モブキャスト(ゲーム「キングダム乱一天下統一への道ー」)

モンスターストライク等の開発に関わったゲーム会社、株式会社でらゲーは、ゲーム系コンテンツのプロデュース事業を手掛ける株式会社モブキャストゲームスの一部事業を買収しました。

でらゲーが買収した事業はゲームタイトル『キングダム乱 -天下統一への道-』。モブキャストゲームスとの共同開発タイトルでもありました。

本タイトル買収の目的は、損失回避です。ゲームの運営では管理コストが賄えなくなったモブキャストゲームスは、でらゲーにタイトルを無償譲渡しました。モブキャストゲームスは他にも同様にゲームタイトルの譲渡を積極的に進めており、本策もその一環とみられています。

<14>土木管理総合試験所・アドバンスドナレッジ研究所

建設業界向けサービス(材質試験・解析・調査等)を提供する株式会社土木管理総合試験所は、株式会社アドバンスドナレッジ研究所を買収しました。

株式会社アドバンスドナレッジ研究所は、専門家でなくても扱える熱流体解析ソフトや熱設計技術、気流/温熱/環境解析サービスの提供を事業としています。

土木管理総合試験所は、建設業界で近年需要が高まる「省エネルギーや住居の快適さのシミュレーション」を提供するためにアド研の熱流体に関する技術を取り入れる必要があると判断しました。同シミュレーションは今後の需要も非常に高まると予想されていたため、買収に踏み切ります。

アド研は土木管理総合試験所へすべての株式を売却し、M&Aが成立しました。

M&Aの主な目的は、新規事業開拓と既存事業強化の2つ

2021年におこなわれたM&Aの様々な事例を見てきましたが、各社とも自社に足りない事業を取り入れたり、自社の実績を活かした類似分野への強化を目指すといった非常に前向きな理由で買収や経営統合に踏み切っていたことがわかりました。

M&Aをおこなうことで新規事業を展開できるようになったり、買収先の既存事業から顧客開拓が得られるなど副次的な効果も見逃せません。

買収される側も資本増強など様々なメリットがあるため、上記のようなWin-Win型のM&Aは今後も続いていくことでしょう。

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