【投稿日】 2022年7月23日 【最終更新日】 2022年8月26日

近年、M&A(企業買収・合併)において、デューデリジェンス(Due Diligence / DD)が重要視されるようになってきました。

M&Aを進める上で、デューデリジェンスは重要な役割を持っています。

貴重な資金を投じるかもしれない売却側企業について、詳細な調査を行い、資産の適正評価手続きを行うことで、実態を把握し、M&Aを進めるかどうかの判断を行う材料になるのです。

こういったデューデリジェンスには、財務・法務・人事などいくつかの種類があり、その一つが環境デューデリジェンスです。

では、環境デューデリジェンスとは、いったいどんなものなのでしょうか?

本記事では、環境デューデリジェンスの重要性や、主な調査項目といったことから、環境デューデリジェンスの進め方、具体的な事例などを解説していきます。

環境デューデリジェンスとは?

環境デューデリジェンスは、対象用地の環境面のリスク(土壌汚染リスクや排気廃水、遵法性など)を適正に評価するものであり、M&Aや不動産取引(海外生産拠点の移転・撤退等)における意思決定や価格形成をするために必要なものです。

土壌汚染をはじめとする環境面に関する現状確認や、環境問題が発生するリスク、環境問題が発生した際にかかる原状回復等のコストの把握を行い、事業計画に反映させる必要があるためです。

2003年2月に土壌汚染対策法が施行されたことを受けて、土壌や地下水の汚染に関する評価の必要性が、土地売買など不動産価値評価の分野で強く認識されるようになりました。

環境省でも、令和元年度に「環境デューデリジェンスに関する検討会」を設置し、環境デューデリジェンスに関する手引書「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門 ~OECDガイダンスを参考に~」を作成しています。

ここでは、環境デューデリジェンスに関する基本的な事項について、解説していきます。

環境デューデリジェンスが必要となる場合

環境デューデリジェンスが必要となる場面はいくつかありますが、主なものは以下の通りです。

  • M&A取引の対象企業(売却側企業)が化学物質や油類のような有害物質を取り扱う産業に該当する場合
  • 対象企業の工場が、アスベスト建材やPCB含有器機を使用している場合
  • 初期的なスクリーニングにおいて、土壌汚染等の発生リスクが高いと判断される場合
  • 対象企業の土地が、歴史的な土壌汚染の履歴を有する可能性が高い場合

このような場合は、環境デューデリジェンスを実施して、売却側企業に関する適正評価を再形成する必要があります。

環境デューデリジェンスの重要性

環境デューデリジェンスが重要なのは、取引後に、対象企業の不動産に重大な不具合や欠陥(特に環境汚染や廃棄物の存在)があることが判明すると、追加調査や対策・補修工事等によるコストの増加、工期及び事業の遅延などを招き、場合によっては事業中止となることもあり得るからです。

汚染の流出・拡散によって、賠償責任を負担する可能性がある上に、会社のレピュテーション(信用評価)の面でも、様々な悪影響が生じることになります。

特に、特殊な環境下にある企業を買収する際には、騒音問題や振動問題、産業廃棄物処理問題、危険物や特殊な薬液等を扱う施設の管理問題など、ひとたびトラブルが発生すると、致命的になりかねないリスクが多いため、環境デューデリジェンスが欠かせません。

また、以下の理由によっても、環境デューデリジェンスの重要性がわかります。

汚染・障害物の対策費用の高額化

廃棄物・環境汚染の調査・費用は高額になりやすく、対象地の資産価値・担保価値も低下するため、契約締結後に予想外の土壌汚染が発見されると、深刻なトラブルになります。

具体例を2つ挙げると、東京都が購入した新生鮮市場用地から高濃度の汚染が発見された例では、対策費用が約850億円を超え、対象地の売主が支払った和解金額も78億円に及んでいます。

また、大阪府のカジノリゾート予定地においても、土壌汚染対策費約360億円、地中障害物撤去費約20億円、液状化対策費約410億円を要することが公表されています。

この他、取引後に発見された地中の障害物・廃棄物の除去費用についても、10億円を超えるような事例は多数あり、賠償額・解決金額が数十億円となる事例も少なくありません。

法的手続きの限界

当該不具合や欠陥を理由に、契約解除や損害賠償の請求を行うことは、法的には可能ですが、法的手続きには時間とコストがかかる上、そもそも裁判の結果として、請求が全て認められるかどうかは不確実です。

また、損害賠償請求が認められたとしても、被った経済的損失の全ては回収できないということも少なくありません。

さらに、相手側が解散・清算したり、破産したりすることにより無資力となっているケースもあり、そのような場合には、法的な権利は認められても、現実には賠償金等の回収ができないことになってしまいます。

こういった状況に陥らないためにも、取引前に環境デューデリジェンスを実施することが、極めて重要なのです。

環境デューデリジェンスの主な調査項目

環境デューデリジェンスの主な調査項目は、主に以下のように大別されます。

  1. 法的調査(法的規制や法的解釈(対象不動産の汚染や欠陥が瑕疵・不適合と判断されるか等)
  2. 物理的調査(土地・建物状況調査、環境調査を含む)
  3. 経済的調査

このうち、物理的調査の主な項目は、以下の8つです。

  • 土壌・地下水汚染
  • アスベスト
  • PCB(ポリ塩化ビニフェル)
  • 大気汚染物質
  • 水質汚濁物質
  • 騒音・振動
  • 産業廃棄物
  • 危険物・特殊薬液貯蔵施設

これらの調査は、専門的な調査機関によって行われます。

環境デューデリジェンスにおいて発覚する主な懸念事項

環境デューデリジェンスにおいて発覚する主な懸念事項は、以下の4つです。

  • 経営の圧迫や、近隣住民による訴訟リスクの要因となる可能性がある土壌汚染や地下水汚染
  • 行政からの操業停止命令等の要因となる環境及び労働安全衛生法の法令違反
  • 従業員の健康被害の原因となり得るアスベストの不適正管理
  • 処分が義務付けられているPCBの放置

もし、環境デューデリジェンスによってこれらの懸念事項が発覚した場合は、M&Aを進めるかどうか、再検討した方がいいでしょう。

環境デューデリジェンスの進め方

この項では、環境デューデリジェンスの進め方を次の5STEPに分け、順を追って説明していきます。

30日間~90日間という短いデューデリジェンス期間の中で、買収側企業が効率よく適正な環境デューデリジェンスを実施するには、環境デューデリジェンスの流れをよく理解しておく必要があるため、流れをよく読んで、頭に入れておきましょう。

STEP1:実施計画の策定

まず、実施計画を策定します。

環境デューデリジェンスの調査対象地、調査目的、調査項目、調査手続き、制約等の確認をし、売却側企業と調査計画についての合意を持ちます。

STEP2:資料調査(事前調査)

資料調査(事前調査)では、以下のような調査をします。

調査の前には、現地調査の前にもらいたい資料や、現地調査の際に閲覧を希望する資料を記載したInformation Request List (IRL)を売却側企業に送付しておきましょう。

  • 土地利用状況・利用履歴の確認:過去の地形図、住宅地図、航空写真により判断します。土壌汚染対策法による指定区域の確認も行います。
  • 土地所有者の変遷を評価:土地台帳、登記簿、戸籍謄本、閉鎖謄本などにより評価します。
  • 地形・地質の評価:地質図により、地質・地下水流向などを評価します。
  • 所有者・管理者へのヒアリング:原材料リスト、取扱物質リスト、生産フロー、焼却炉の有無、生産品目リスト、廃棄物リスト、図面(工場配置図)、社史などを聞き取ります。
  • 公的届出資料の確認:特定施設設置届(水質汚濁防止法、下水道法による)、その他環境関連法令届などを確認します。
  • VDR開示の許認可等の確認:セキュリティが確保されたWEB上にアップロードされた文書や資料を開示してもらえるかどうか確認します。

STEP3:現地調査(フェーズⅠ調査・環境サイトアセスメント調査)

フェーズⅠ調査と呼ばれる環境サイトアセスメント調査では、対象地の建物や有害物質の使用状況、周辺環境等の目視調査を行います。

ここでは、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、地下水汚濁、騒音、振動等、ほぼ全ての環境影響が調査項目となります。

フェーズⅠ調査では、これらの特定された「可能性」に対して、定性的な評価を行い、潜在的な環境汚染の「可能性があるか否か」の評価をするのです。

また、対象企業のマネジメントに対するインタビューや、資料の閲覧も行います。

STEP4:サンプリングを伴う調査(フェーズⅡ調査)

必要に応じて、土壌試料・土壌地下水・アスベスト等の試料採取を実施し、分析値と基準値を比較することで、汚染の有無に関して定量的な評価を行います。

つまり、「実際に汚染があるかないか」の評価ということになります。

STEP5:評価結果の活用

環境デューデリジェンスにより、もし多額の出費につながる可能性のあるリスクが確認された場合、次の方策を取ることが考えられます。

  1. 費用を評価して、買収価格に反映する
  2. 契約書の中に、リスク回避のための条項を入れる
  3. 保険でリスクヘッジする
  4. ディールから撤退する

1の費用の評価に関して、アスベスト材の除去費用や廃棄物の処理費用は、すでに見積もりが取られているケースが多いため、その額を報告します。

一方、土壌・地下水汚染は、将来発生する費用を確定することが難しく、幅(MLC(Most Likely Case)コスト~RWC(Reasonable Worst Case)コスト)で報告することが一般的です。

MLC コストは、当該国で法律上あるいは通常に求められる対策範囲や対策内容を想定してその費用を評価し、RWCコストは、最悪の場合にかかってしまうかもしれないという費用を評価します。

2及び3は、それぞれの専門家(弁護士・保険会社)が行います。

環境デューデリジェンスの事例

この項では、環境デューデリジェンスの事例を4つ挙げていきます。

土壌汚染調査の事例は、細かく流れを追って説明し、その他の会社の事例は、概要とポイントのみの説明です。

土壌汚染調査の事例

土壌汚染調査では、過去の土地の利用状況、汚染物質が地下に浸透した可能性や経緯、地質や地下水の状態、地中における汚染物質の挙動等についての情報を確認します。

土壌汚染調査は、実務上一般的に、資料調査をフェーズⅠ調査、概況調査・詳細調査をフェーズⅡ調査、土壌汚染対策をフェーズⅢと呼ぶことがあります。

①対象地の規制区域指定の確認

対象地が土壌汚染対策法、ダイオキシン対策措置法その他の法令に規定される規制対象区域に指定されているか、また、対象地上の建物が、水質汚濁防止法、ダイオキシン類対策措置法その他の法令に規定される特定施設に指定されているか、または指定解除がなされているか、等の確認をします。

②調査報告書(エンジニアリング・レポート)等の確認

対象地について、土壌汚染調査や対策工事をしたことがあるか確認した上で、もしそういった事実があれば、実施された土壌汚染調査(履歴調査、概況調査、詳細調査)、土壌汚染対策の計画、土壌汚染対策の実施、土壌汚染の効果確認等に関して、売却側企業の有する全ての報告書(エンジニアリング・レポート)その他の資料の提出を求め、その内容を精査する必要があります。

土壌汚染の対策措置が実施されている場合には、土壌汚染調査結果を踏まえた適切な対策措置が採られているかどうかを確認することも必要です。

③土壌・地下水調査の実施

土壌汚染の疑いのある場合や、対象地のその後の利用計画・用途等により、土壌汚染の存否や程度を確認する必要性が高い場合には、資料による調査だけでなく、対象地におけるボーリング調査や、土壌・地下水の化学分析も含めた調査を検討する必要があります。

④土壌調査において問題となる個別の汚染・廃棄物

実務上問題となる調査項目としては、以下の9つが挙げられます。

  1. 土壌汚染対策上の特定有害物質
  2. ダイオキシン類
  3. 地中障害物・廃棄物
  4. 埋蔵文化財
  5. アスベスト汚染・アスベスト廃棄物
  6. PCB汚染廃棄物
  7. 油汚染
  8. 地盤不良・基礎不良
  9. 液状化

土壌汚染調査は、以上のような手順を踏んで行われます。

某大手住宅メーカーの事例①

某大手住宅メーカーでは、年間約30万㎥の木材を利用する事業特性とサプライヤーを通じた影響力の大きさを踏まえ、環境デューディリジェンスの仕組みを構築して、持続可能な木材調達を実施しています。

具体的には、調達木材のリスク評価を行い、トレーサビリティの確認や調査の徹底をサプライヤーに働きかけるということです。

リスク評価は、ワシントン条約やIUCNレッドリストによる樹種リスク、伐採国・地域リスク(違法伐採度合、腐敗認知指数)などの初期リスク評価から、初期リスク評価で高リスクの可能性が高い場合は、現地の管理状況や伐採状況について情報収集を行い、運用面での違法リスクを判断する詳細評価までを行っています。

こうした評価をもとに、リスク緩和措置を取り、国際的な要請である「Zero Deforestation」(森林減少ゼロ)の実現に向けて努力しているのです。

某大手住宅メーカーの事例②

某大手住宅メーカーは、2018年に「CSR調達基準ガイドライン」を新たに制定しました。

その内容は、以下の通りです。

  • 環境に対する基本姿勢
  • 化学物質の管理
  • 排水・汚泥・排気の管理及び発生の削減
  • 温室効果ガスの排出削減
  • 廃棄物の特定・管理・削減
  • 生物多様性に関する取り組み

これにより、国際的な環境課題を与える因子の特定・管理、各国地域における環境関連の法令遵守、環境負荷軽減に関する目標設定と取り組みを求めています。

これも、環境デューデリジェンスの新基準と言えるでしょう。

某大手複合機メーカーの事例

某大手複合機メーカーは、取引先における環境管理の強化を支援する「環境コラボレーションプログラム」を実施しています。

このプログラムでは、同社が取引先の工場を直接訪問し、化学物質管理の診断とその結果に応じた指導や、測定結果・材料情報などの文書管理の指導を行っています。

さらに同社は、自ら培ってきた環境技術・ノウハウを取引先に提供する「グリーンサプライヤー活動」を推進しており、これは同社の環境専門家が取引先の生産拠点を訪問し、コストダウン効果や投資の必要性を含めた改善提案を実施し、取引先との協働で環境負荷の軽減を進めるというものです。

さらに、2020年度からは「グリーンサプライヤー活動」をデジタル化し、取引先が自ら環境負荷軽減に取り組めるエコシステムの確立に挑戦しています。

これにより活動の対象範囲を拡大し、環境負荷軽減とコスト削減をさらに加速させることを見込んでいるのです。

これも、環境デューデリジェンスの考え方による「リスクの停止・防止・軽減」が元になっています。

環境デューデリジェンスは専門の調査会社への依頼が必須!

環境デューデリジェンスはこれからの時代、M&Aを進める上で欠かせないものとなっています。

しかし、その内容は極めて専門的であり、一般の会社員が片手間でできるようなものではありません。

したがって、環境デューデリジェンスを実施するに当たっては、専門の調査会社の手を借りることが必須になります。

専門の調査会社であれば、環境情報に対する第三者保証業務や、環境・安全コンプライアンス調査など、環境デューデリジェンスに付随した調査や業務までも請け負ってくれます。

具体的には、次のような依頼先が一般的です。

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