【投稿日】 2021年12月1日 【最終更新日】 2022年1月10日

企業が「M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)」を行う際には、事前に買収対象企業やその保有資産の状況などについて調査を行います。

この調査活動のことを「デューデリジェンス(Due diligence)」と言い、これは「当然に実施すべき努力」ということを意味しています。

「デューデリジェンス」は、「DD」や「デューデリ」、「デューディリ」と略されることがあり、調査の目的や内容によっていくつかの種類があります。

この記事では、「法務DD(デューデリジェンス)」について詳しく解説しますが、それ以外のDD(デューデリジェンス)についても、記事中で簡単に説明します。

そもそも法務DD(デューデリジェンス)とは?

法務DD(デューデリジェンス)とは、M&Aを実施する前に行われる調査活動の一つです。

具体的には、買収対象企業の株主関係、契約内容、労務関係、保有資産などについて調査を行い、法令順守状況や訴訟、環境問題などのリスクを抱えていないかどうかを確認するものです。

法務DD(デューデリジェンス)の目的

法務DD(デューデリジェンス)の目的は、M&Aを実施する際に買収対象企業に法的なリスクがないかどうかを調査し確認することで、基本的に買手企業が買収対象企業に対して行います。

法務DD(デューデリジェンス)を行った結果、買収対象企業に見過ごすことができないような重大な法的なリスクが見つかった場合は、M&Aを中止するという判断がなされることもあります。

また、M&Aを中止するという決断に至らなかった場合でも、見つかった法的リスクを考慮して買収交渉価格が決められることになります。

このように、法務DD(デューデリジェンス)は、M&Aにおいて最終判断を下すための重要な調査活動だということができます。

法務DD(デューデリジェンス)で検討される主な内容

法務DD(デューデリジェンス)で検討される主な内容として、次のような事項があります。

    • 株主関係
    • 契約内容
    • 労務(従業員など)
    • 企業が保有する資産・負債、権利関係
    • コンプライアンス(法令順守)、許認可
    • 訴訟・紛争
    • 保有不動産の環境問題

以下、それぞれについて順に詳しく説明していきます。

株主関係

株式譲渡によって企業を買収する場合は、対象企業の株式について調査を行います。

この調査によって、売手が対象企業の株式を実際に保有している「真の保有者」であることを確認し、さらに担保権などが設定されていないかどうかを確認します。

また、対象企業の株主構成や株主の状況を調査し、少数株主がどのようになっているかを把握しておくことも重要となります。

これは、一般的に買手が議決権の2/3以上の株式を取得できれば強い支配権を得ることになりますが、第三者が少数株主として残る場合は、帳簿閲覧権や株主代表訴訟などによって、M&A実施後の経営に干渉される可能性があるからです。

また、敵対的な少数株主がいる場合は、M&Aの手続き自体がスムーズに進まなくなることもあり得ますので、少数株主にもM&Aの実施について納得してもらえるように進めることが重要となります。

契約内容

事業を遂行するためにはさまざまな契約の締結が不可欠ですので、対象企業の契約内容について調査する必要があります。

契約の種類は事業内容によって異なることもありますが、一般的には売買契約、取引基本契約、業務委託契約、ライセンス契約、賃貸借契約、リース契約などがあります。

契約の内容を確認することによって、対象企業の債権(権利)の保有状況や、債務(義務)の状況がわかります。

また、M&A実施後もこれらの契約内容が維持されるのか、不利な条項が含まれていないか、違法な内容は含まれていないかなどの確認も必要です。

特に、契約の中に「COG(Change of Control)条項」が付されていないかを確認することが重要となります。

「COG条項」とは、契約当事者の株主等の支配権に変更があったときに、相手方に契約解除権が発生するという「支配権移転の場合の契約解除権」を定めた条項です。

対象企業の事業において非常に重要な契約の中にこのCOG条項が含まれている場合は、M&A実施後に、その重要な契約が解除されたり、不利な条件を負わされたりする可能性があります。

このCOG条項は、ライセンス契約や代理店契約などの当事者間の信頼関係に基づく継続的な取引契約などに含まれているケースが多いようです。

また契約に関しては、書面化されていない契約もあり得ますので、経営者や主要役員へのインタビューの際に確認する必要があります。

労務(従業員など)

労務に関しては、基本的に「人事DD(デューデリジェンス)」の対象範囲となりますので、法務DD(デューデリジェンス)では従業員の労働条件やパワハラ・セクハラ、退職・解雇などの法的問題に限定して調査することになります。

M&A実施後も事業を継続していくためには、必要な人材が確保されていなければなりませんので、対象企業でこれまで事業に関わってきた従業員に継続して働いてもらう必要があります。

しかし、対象企業の労働環境が悪かったり、残業代の未払いがあったり、パワハラ・セクハラなどが見過ごされていたような場合は、人材の確保が難しいばかりでなく、従業員とのトラブル(訴訟や紛争)に発展する可能性も考えられます。

また、従業員の理解が得られない状態でのM&Aの成功はあり得ないと考えられますので、役員や従業員の役割・配置などについても確認しなければなりません。

企業が保有する資産・負債、権利関係

対象企業が事業を行うために保有している資産や権利についても調査する必要があり、これは企業価値を正確に把握する上でも重要なことです。

確認すべき資産には、不動産、リース・賃貸を含む動産、知的財産権、金融資産などがあります。

不動産については登記簿謄本から所有権の帰属や担保状況を確認し、動産については占有状況や固定資産台帳への記載の確認を行います。

担保が設定されている場合やリース・賃貸の場合には、M&A実施後も継続して使用することができるかを確認しておく必要があります。

特許などの知的財産権は、特許登録証や特許登録原簿を確認し、登録者に間違いがないか、実施権者がいるのかどうか、質権が設定されているかどうかなどを確認します。

負債に関しては、借入金や買掛金、未払い金の状況などを確認します。

また、簿外債務がある場合もありますので、経営者や主要役員へのインタビューの際に明らかにする必要があります。

コンプライアンス(法令順守)、許認可

対象企業の事業が「許認可」が必要な業態である場合には、関係する許認可がどうなっているかは非常に重要な調査事項となります。

許認可を適切に取得しているか、その許認可が有効な状態にあるのか、M&A実施後に現有の許認可を引き継げるのかどうかについて調査します。

もし、その許認可を継承することができない場合は新たに許認可を再取得する必要がありますので、そのための費用、手続き、難易度などについても確認が必要となります。

なお、許認可を再取得する場合には一定の時間が必要となるケースがありますので、事業の継続性を考慮すると、M&A実施後すぐに申請ができるように準備しておく必要があります。

また、事業を遂行する上で業務に関する法令を順守しているかどうか、一般的な会社法や税法、労働関係法令、個人情報保護法、下請法などを順守しているかどうかも必ず確認が必要です。

M&A実施後に法令違反していることが発覚すると、買手の企業価値を大きく毀損することになりますので、法務DD(デューデリジェンス)の中でも重要な調査項目となります。

訴訟・紛争

対象企業が訴訟・紛争を抱えている場合は、その内容によっては大きなリスクになり得ますので、詳細について調査することが必要です。

すでに訴訟で係争中の場合には、請求額がどの程度になるのか、訴訟の見込みはどうなのかなどについて細かく確認する必要があります。

現在係争中でない場合であっても、今後訴訟になる可能性がある潜在的事項の有無についても確認が必要ですし、過去に裁判となった事項がある場合はその内容についても確認しておく必要があります。

これは、事業に関わる商品やサービスに関して訴訟が起こされている場合は、今後も同様の訴訟を起こされる可能性があるからです。

保有不動産の環境問題

M&Aによって対象企業から不動産を継承した後に、土壌汚染されていることが発覚した場合は、その浄化費用は買手企業が負担しなくてはなりません。

同様に工場設備を継承して環境を汚染するような物質を流出させることになった場合も買手企業が責任を負わなければならなくなります。

このように、M&A実施後に保有不動産に起因する環境問題が発覚したり発生したりしないように、法務DD(デューデリジェンス)において確認しておく必要があります。

法務DD(デューデリジェンス)のやり方と主な流れ

一般的に法務DD(デューデリジェンス)は、次のような流れで実施されます。

開示請求資料リストの作成
資料の開示請求
開示資料の分析・検討
売主や対象企業の経営者・主要役員へのヒアリング
報告書(意見書)の作成
結果の報告

法務DD(デューデリジェンス)を行うのは最終合意締結前

法務DD(デューデリジェンス)を始めとするDD(デューデリジェンス)は、M&Aの交渉過程の中で行われ、一般的にはM&Aの基本合意書の締結が終わったタイミングで行われます。

M&A全体の流れとDD(デューデリジェンス)の位置づけは、次のようになっています。

M&Aの検討開始
相手先の検討
基本合意書の締結
DD(デューデリジェンス)
最終合意書の締結
取引実行

基本合意書締結後にDD(デューデリジェンス)を行う理由は、基本合意前には調査に必要な資料を入手することができないからです。

法務DD(デューデリジェンス)にかかる期間

M&A全体の期間は、企業の規模によって異なりますが、一般的には約6ヶ月~1年程度かかる場合が多いようです。

その中で、法務DD(デューデリジェンス)にかかる期間は1~2ヶ月程度です。

法務DD(デューデリジェンス)の途中で何も問題がなければ、この一般的な期間で完了しますが、資料の提出などに時間がかかったりすると、期間が伸びることもあります。

法務DD(デューデリジェンス)はどこに依頼すべき?

法務DD(デューデリジェンス)は、誰がやらなければならないという決まりがあるわけではなく、法務DD(デューデリジェンス)の経験がある企業では、社員が行う場合もあります。

しかし、法律に関する専門的な知識が必要であり、多くの法律に関して横断的な知識が求められることから、企業法務やM&Aを専門とする法律事務所や弁護士法人に依頼することが一般的です。

法務DD(デューデリジェンス)を弁護士に依頼することのメリットは、DD(デューデリジェンス)によって明らかになった問題点について法的な観点から適切なアドバイスが得られることが挙げられます。

法務DD(デューデリジェンス)以外に必要なDDとは?

M&Aの実施に際して行う必要のあるDD(デューデリジェンス)としては、法務DD(デューデリジェンス)以外に、次のようなものがありますので、それぞれの概要について説明しておきます。

事業DD(デューデリジェンス) 対象企業の事業の実態を正確に把握するために行うもので、商品やサービス、営業、マーケティングなどがどうなっているかについて調査します。
財務DD(デューデリジェンス) 対象企業の財務諸表から過去の業績推移、収益性、投資状況などについて分析します。
税務DD(デューデリジェンス) 対象企業に法人税の未払い、税務リスクが発生する可能性がないかを調査します。
人事DD(デューデリジェンス) 対象企業の人員数、人件費、人事制度、人事システム、労使関係などについて調査します。
環境DD(デューデリジェンス) 対象企業の土地や建物における環境問題を調査するもので、土壌汚染・大気汚染・水質汚染など環境リスクの有無、国内で使用禁止や使用制限されている資材が使われていないかなどについて調査します。

M&Aの際には、探偵にも協力を依頼すると、より企業の実態が明確になり、リスク回避につながりやすい!

ここでは、法務DD(デューデリジェンス)とは何か、検討される内容、やり方や流れ、依頼先などについて説明してきました。

日本のDD(デューデリジェンス)に関しては、契約内容や財務面に偏りがちで、危機管理面が疎かになりやすく、その要因として情報開示に関する法整備が進んでいないという指摘があります。

記事中でも説明しましたが、DD(デューデリジェンス)は買収対象企業側から開示された資料に基づいて調査を行いますので、意図的に隠された内容について把握することはできません。

このようなことから、M&AでDD(デューデリジェンス)を行う際には、探偵会社にも協力を依頼して、買収対象企業の訴訟履歴、不正、知的財産の侵害などの調査を行うことが必要と考えられます。

これによって買収対象企業の実態がより明確になり、リスク回避につながるはずです。

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