【投稿日】 2021年12月15日 【最終更新日】 2022年1月10日

M&Aを検討する際、契約書など必要書類の多さが大きな障壁となり一歩が進めないことがよくあります。

「使われる文言が難しく、意味が分からない・・・」「どの段階で何の書類が必要なの?」「頭がこんがらがってしまい、どの契約書も同じに見えてしまう・・・」など、内容の煩雑さに辟易する方も多いのではないでしょうか。

今回は、そんなM&Aで必要な契約書についての意味や、内容、締結するタイミング、作成ポイントなどを詳しく解説いたします。

M&Aで必要な契約書は主に5種類

M&Aでは主に5種類の契約書が必要です。

  • 1.機密保持契約書
  • 2.意向表明書
  • 3.基本合意契約書
  • 4.アドバイザリー契約書
  • 5.最終契約書

スムーズにM&Aを進めるためにもそれぞれの内容を把握しておきましょう。

手順 内容 必要な契約書
1 M&A仲介業者の選定 アドバイザリー契約書
2 M&A相手候補企業の選定 機密保持契約書・意向表明書
3 交渉・基本合意の締結 基本合意契約書
4 デューデリジェンスの実施 なし
5 最終契約書の締結 最終契約書

【1】機密保持契約書

機密保持契約書は秘密保持契約書とも呼ばれ、自社が持つ秘密情報を他社に開示する際に、秘密を保持してもらうために交わす契約書です。

M&Aにおいて機密保持契約は最重要と言っても過言ではないため、早い段階で締結するのが一般的です。

自社が保有しているノウハウや機密情報、財務情報などあらゆる秘匿性の高い内容を相手に開示することには大きなリスクが伴います。

機密保持契約により責任の所在や損害賠償範囲など、以下で解説するルールを定めておくことで、それらが万が一漏洩してしまった時でもスムーズな対応が可能となるのです。

機密保持契約書の構成は以下の通りです。

  • 契約形態
  • 機密情報の内容および開示範囲
  • 有効期間
  • 機密情報の返還・破棄
  • 損害賠償
  • 準拠法・管轄
  • その他、必要な条項

それでは、情報漏洩のリスクを低減し、安心してM&Aを進めるための機密保持契約書がどのようなものか見ていきましょう。

契約形態

機密保持契約書の契約形態は大きく二つです。

  • 差入方式
  • 契約書方式

差入方式は売り手が秘密保持義務を負わないケースで採用されることが一般的です。

例えば入札方式で売り手企業の情報が買い手企業へ一方的に開示される場合などが該当します。

対して契約書方式は売り手企業・買い手企業双方に秘密保持義務を負うケースで採用されることが一般的です。

M&Aの交渉の過程ではお互いに開示した情報をもとに検討を行わなければならないことが多く、この場合は双方に押印が必要な契約書型で締結します。

いずれにしても、売り手企業から情報を提供されるため買い手企業は提出が必要な契約書であり、ケースに応じてその形式が変わることを覚えておきましょう。

機密情報の内容および開示範囲

機密情報の内容を選定していきます。まずどのようなものが含まれどのようなものが含まれないかを以下のことをもとに取捨選択します。

含まれるものとしては次の3つです。

  • M&A交渉をしているという事実
  • M&Aの取引条件
  • 売り手企業の情報

含まれないものとしては、元々公開されていたり個人的に知っていたりする次のような情報です。

  • すでに公に知られている情報
  • 開示当事者より知らされる前から知っていた情報
  • 開示当事者・受領当事者双方の秘密保持義務とは全く関係のない第三者から正当に取得した情報
  • 受領当事者により独立に開発された情報

機密情報の開示範囲は、次などが規定されます。

  • 締結当事者双方の役員及び従業員
  • グループ会社の役員及び従業員

またM&Aは各種専門家のサポートを受けるのが一般的なため、弁護士・公認会計士・税理士・M&A専門家等々、これら各種専門家も含みます。

他にも買収資金を調達するための金融機関も含めておいた方が良いでしょう。

有効期間

未来永劫、期間の定めなく秘密を守ることは現実的ではありません。

そのため機密保持契約には1年から5年の有効期間が設けられることが一般的です。

長短については特に決まりはなく、M&Aの検討に必要な年数もしくは両当事者がM&Aを断念した時のいずれか短い方とされることが多いようです。

また、期間の長さは両当事者間の案件の機密性にもよりますが、情報として陳腐化しやすいものは短くなる傾向にあります。

機密情報の返還・破棄

M&Aの契約終了後、またはM&Aが成立せず機密情報だけが手もとに残った場合は情報漏洩と不正利用のリスクが高まります。

それに対応すべく、開示した情報の取り扱いについて規定したものが、機密情報の返還・破棄の項目です。

この項目では「情報開示者の指示に従って返還・破棄する」ことを明記しておきます。

加えて、返還・破棄したことを明確にするため、当事者からそれらを証明する書面を発行してもらっておけばより安全です。

損害賠償

機密保持契約書は、相手方が契約を違反することも想定して作成しなければいけません。

損害賠償についてしっかりと取り決めておくことは、情報漏洩の抑止力となり、また万が一のことが起こってもスムーズに事後対応をすることができます。

準拠法・管轄

準拠法・管轄については、M&Aを日本企業同士で行うか、海外企業との間で行うかで違いますが、いずれにせよお互い協議の上で設定することとなります。

相手が日本企業であれば準拠法は日本法なので問題ありませんが、気を付けるべきは海外企業と締結するケースです。

その場合、お互いの国の準拠法や管轄裁判所を設定してしまうと不公平な結果を招く可能性が否めません。そこで第三国に設定することにより双方が不利益を被らないよう配慮する場合もあります。

その他、必要な条項

その他、必要な条項として、開示された情報の正確性についての免責や、当事者が反社会的勢力だった場合に契約の解除や損害賠償請求ができる反社条項などを規定する場合もあります。

【2】意向表明書

M&Aにおける意向証明書とは、買い手企業が売り手企業に対して譲受の意思や希望条件を一方的に伝える書面です。

口頭で伝えても構いませんが、書面にすることにより売り手企業に対して「取引の真剣度」を示せます。

意向表明書の主な構成は次の通りです。

M&A実施の目的・方法 どのような目的でM&Aを望んでいるか、その意思表明や理由などを示します。
企業概要 買い手企業の概要です。商号や屋号、代表者・役員、沿革、従業員数、資本金、グループ企業、財務状況などを記載します。売り手企業と買い手企業がお互いによく知っている間柄の場合は省略されることもあります。
希望買収価格 買い手企業が希望する買収価格を記載します。ただし、デューデリジェンス前の段階なので、最終合意の時点で調整される可能性があることを含んでおきます。
スケジュール M&A成立までのスケジュールを記載することで、売り手企業と買い手企業の間でスケジュール認識を共有できます。共通の感覚を持つことにより、同じ歩幅で進んでいくことができます。

他にも、買収金の支払い方法、M&A成立後の従業員の処遇、独占交渉権などを記載することもあります。

複数の買い手企業がいる場合、売り手企業は意向表明書を見ることで交渉する相手を絞ることができます。

そのため他社よりも好条件を示していることが重要です。

その一方でM&Aにおいて意向表明書は必須書類ではなく一方的な意思表示のため法的な拘束力はありません。

仮に契約まで至らなかったとしても損害賠償を請求できるものではなく、あくまで買い手企業の気持ちを量るための資料としての位置付けなのです。

独占交渉権の付与を求める企業もある!

意向表明書にて独占交渉権の付与を求める企業もあります。

買い手企業は、意向表明書ののちにデューデリジェンスに進みます。

デューデリジェンスは数百万円の費用負担が伴うため、着手後には売り手企業と他の買い手候補企業との間でM&Aの成立させたくありません。そのために独占交渉権を記載するのです。

要するに、先に意向表明書を出した自分たち以外とはM&Aの交渉をしないで欲しいという事です。

なお、独占交渉権の期限については、協議において合意されれば延長できる旨を記載することが多いようです。

意向表明書には法的拘束力がないのが一般的!

前述の通り、意向表明書には一般的に法的拘束力がありません。

そのため記載に反しても損害賠償請求はできません。

とは言え、記載していることがその後の交渉の前提になるので全体的に内容には留意しておいた方が良いでしょう。

【3】基本合意契約書

M&Aにおける基本合意契約書とは、最終契約に先立ち、合意した基本条件を整理してお互いの認識を統一するために締結するものです。

M&Aを円滑に進めるためのものであり、主に次の事項から構成されています。

  • 取引形態
  • 譲渡価格
  • 今後のスケジュール
  • デューデリジェンスについて
  • 独占交渉権の付与
  • 法的拘束の範囲

基本合意契約書は最終契約前の仮の合意であり、またデューデリジェンス開始前のタイミングで締結します。

締結までの流れは次の通りです。

売り手企業と買い手企業のトップが面談をする
前向きにM&Aを進めるために譲渡価格など様々な交渉をする
その上で基本的な取引条件に合意できれば基本合意契約書を締結する

なお、よく混同される意向表明書と基本合意書との違いは、意向表明書は買い手企業からの一方的な意思表示であるのに対して、基本合意書は売り手・買い手双方が希望を交渉によって整理して、合意したものである点が異なります。

  意向表明書 基本合意書
順番 機密保持契約書の後 条件交渉の実施後
内容 M&Aを行う意思表示 大まかな条件 最終契約に向けた具体的な内容
合意の有無 なし(一方的) あり(双方の合意)

基本合意契約書には法的拘束力を持たせるのが一般的!

基本合意契約書には以下の条項について法的拘束力を持たせるのが一般的です。

  • デューデリジェンス
  • 独占交渉権と交渉期間
  • 秘密保持義務
  • 善管注意義務
  • 公表
  • 費用負担

後日トラブルにならないように、基本合意書においてどの条項が拘束力を持ち、どの条項が拘束力を持たないかをしっかり確認する必要があります。

なお、通常はM&Aの実行の義務(買収価格)に対しては拘束力を持たせません。

デューデリジェンスの結果で柔軟に変更できる幅を含ませるためです。

【4】アドバイザリー契約書

M&Aにおけるアドバイザリー契約書とは、売り手・買い手企業が交渉を円滑に進めるために第三者のM&Aアドバイザーや仲介業者と締結する契約書のことです。

M&Aは専門的な知識を必要とする事項が多岐にわたっているため、自分たちの判断で正しく進めることは極めて困難です。

そこでアドバイスや手続きの補助を得ることを目的として、売り手企業はM&Aを検討し始めた段階で専門家や仲介業者とアドバイザリー契約書を締結します。

アドバイザリー契約書は以下の内容で構成されています。

  • 契約形態
  • 業務内容・範囲
  • 契約の有効性
  • 報酬について
  • 免責事項
  • 機密保持
  • 資金調達の優先権

ほとんどの場合はM&A仲介業者からアドバイザリー契約書を提示されサインを求められます。

どのようなことが書かれているか、一つずつ詳しく見ていきましょう。

契約形態

アドバイザリー契約書の契約形態は以下の4種類です。

  • 専任契約
  • 非専任契約
  • 仲介方式
  • アドバイザリー方式

簡単にそれぞれの特徴を見ていきます。

専任契約 一つのM&A仲介業者と独占的に契約を結びます。 メリットはM&Aを検討していることが外部に漏れにくい点で、デメリットは仲介業者との間に何か問題があってもすぐに解決しにくい点です。
非専任契約 複数のM&A仲介業者と同時に契約ができます。 メリットはM&Aの候補企業を多く紹介してもらえる点で、デメリットは仲介業者から見ると独占的ではないため、しっかりとしたサポートが受けれない可能性がある点です。
仲介方式 中小企業間のM&Aで一般的な方式で、同一の仲介業者が売り手・買い手企業双方とアドバイザリー契約を結びます。 メリットは、中立的な立場でアドバイスをするため、風通しが良く交渉が短期間でまとまりやすい点です。デメリットは担当者が交渉をまとめるために提案した妥協案が、結果的に自社の不利益となる可能性がある点です。
専任契約 大企業間のM&Aで一般的な方式で、売り手・買い手企業のどちらかと専属的にアドバイザリー契約をします。 メリットは利益を最大化した交渉をしてくれる点ですが、反面交渉が決裂する可能性があるため、その点がデメリットとなります。

業務内容・範囲

M&Aアドバイザーの業務内容は前述の通り多岐にわたります。そのためにアドバイザリー契約書の中で業務の範囲を絞って責任を明確に取り決めておく必要があります。

主な業務内容の例として次のようなものがあります。

どこまでアドバイザーにやってもらい、どこから自分たちでやるのかを明確にすることで、未実施項目の責任の所在が分かりやすくなるなど、トラブルを未然に防ぐことができます。

契約の有効期間

アドバイザリー契約の有効期間は数カ月から1年程度、または明確な期間は定めず自動更新とされることが多いようです。

実際には開始から完了までの期間がどのくらい必要か予想し難いため、自動更新が最も適していると言われています。

それからアドバイザリー契約は有効期間だけではなく中途解約の内容についてもしっかり確認しなければいけません。中途解約ができない旨や、違約金が発生する記載がある場合は、不利益を被らないよう交渉しましょう。

報酬について

アドバイザリー契約では、仲介業者ごとに報酬体系が大きく異なります。

そのため報酬については入念に確認する必要があります。 以下の4つのうち、どの報酬が発生するかを確認するようにしましょう。

着手金 M&Aを仲介業者に依頼するときに支払う手数料です。一般的には50~200万とされていますが、着手金を請求しない業者もあります。M&Aが成立しなくても返還されることはありませんのでご注意ください。
月額報酬 コンサルティング料として毎月支払うべき報酬です。M&Aが成立するまで毎月固定で発生するため、その期間が長くなると負担が増えていきます。
中間報酬 売り手企業と買い手企業との間で基本合意が締結された時点で支払われる報酬です。中間報告は成功報酬の一部と考えられることが多く、「レーマン方式」で計算されます。
成功報酬 M&Aが成立した時に支払われる報酬です。中間報酬と同じく「レーマン方式」で計算されることが一般的です。

M&A仲介業者によって請求される報酬はまちまちですが、必ずと言っていいほど発生するのは成功報酬です。

アドバイザリー契約を締結する際は、どの報酬の支払いが必要になるのかをしっかりと確認しておきましょう。

免責事項

アドバイザリー契約書の免責事項には、「故意または重過失を除いて免責される」という文言が一般的に記載されています。

そのため、M&Aの成否に関してはあくまで意思決定を行った企業側に責任があるとされており、仲介業者がその責任を負うことはありません。

機密保持

機密保持については、個別に機密保持契約書を締結することなく、アドバイザリー契約書に織り込むことができます。

M&Aでは、売り手企業は仲介業者に多くの情報を提供しなければなりません。

何をどこまで開示できるかを明確にし、情報漏洩を防止できる内容かどうか確認しておきましょう。

資金調達の優先権

アドバイザーが金融機関系の場合は、「買収資金の調達については自社が優先的に融資を実施する」との旨をアドバイザリー契約書に記載される場合があります。

しかし、必ずしもそこから融資を受けることができる訳ではなく、案件次第となります。

【5】最終契約書(株式譲渡契約書)

最終契約書とは、M&Aの最終段階において当事者間で締結される、最も重要な契約書のことです。

実際にはそのような名称の契約書が存在するわけではなく、M&Aにおける正式かつ最終的な契約書をそう呼んでいます。

株式譲渡であれば株式譲渡契約書、事業譲渡であれば事業譲渡契約書、他にも合併契約書、総数引受契約書などスキームによって名称が違ってくるのです。

今回は、実務上取り扱うことの多い株式譲渡契約書で説明していきます。

最終契約を交わすタイミングは、デューデリジェンスを終え、その結果を踏まえて売り手企業と買い手企業がすべての条件に対し合意できた時となります。 ここで押さえておきたいのが最終契約書と基本合意契約書との違いです。

  基本合意契約書 最終契約書
締結タイミング デューデリジェンス前 交渉終了後
記載内容 基本事項のみ 具体的な決定事項
法的拘束力の有無 なし あり

基本合意契約書は、デューデリジェンス実施前の基本的な合意を確認するためのものであり、法的拘束力はありません。仮に何らかの理由でM&Aが破談しても違約金も損害賠償も請求できません。

一方最終契約書は、デューデリジェンスなどの分析結果を踏まえて譲渡価額が決定され、売り手・買い手企業双方の意思が合致した時に締結されます。

最終的な判断を双方で確認しているため法的拘束力があり、M&Aが破棄される場合は損害賠償請求をすることが可能です。 最終契約書の構成は一般的に以下の通りです。

  • 定義
  • 譲渡対象物・合意形成
  • 表明保証
  • 誓約事項
  • クロージング条項(前提条件)
  • 損害賠償・補償に関する条項
  • 契約解除に関する条項
  • その他の条項

それでは一つずつ詳しく見ていきましょう。

定義

株式譲渡契約書では、冒頭で頻繁に使用される用語について定義しておきます。

例えば次のようなものです。

  • 関係法令
  • 許認可等
  • 対象会社
  • 対象株式
  • 譲渡日

分量が多い契約書において、最初に用語を定義することは、大事なことです。

用語の定義を明確にすることは認識のズレを防ぐための大事な項目と言えるでしょう。

譲渡対象物・合意形成

譲渡対象物・合意形成の項目は株式譲渡契約書の中心的な部分です。

契約当事者間で譲渡の対象となる株式、譲渡価格、支払日、支払方法、実行場所等について具体的に定めます。

なお価格については調整が必要になる場合があるあります。

M&Aの案件によっては、契約締結日からクロージングまで季節をいくつもまたぐことがあります。季節によって売上変動が大きい業種では、これを鑑みて事後的に価格を調整する方法をあらかじめ取り決めておくのです。

その方法は以下の4つです。

正味運転資本の増減 「売上債権+棚卸資産―仕入債務」で計算することができます。 正味運転資本の増減が大きく、その他資産の変動が少ないケースで採用されます。
純資産の増減 契約締結からクロージングまでの間に純資産の増減が見込まれる場合に採用されます。
純有利子負債の増減 純有利子負債の増減を重要視する場合に採用されます。  「有利子負債―現預金残高」で計算することができます。
売上・利益・KPIの増減(アーンアウト条項) 売り手と買い手の希望金額に大きな差がある場合に採用されます。クロージング後の一定期間の売上・利益・KPIに目標値を設定し、その達成度合いによって対価が変動する仕組みです。例えばクロージング時点で80%の対価を支払い、クロージング後の売上・利益・KPIの増減をもとに残りの20%を支払うという事ができます。

表明保証     

表明保証とは、契約当事者間で対象企業の債務や法務について、事実であることを保証するものです

M&Aにおいて最終契約書の表明保証は非常に重要な意味を持っています。

譲渡日までに確認できている事実を明らかにすることで、主に買い手が不利益を被ることを防ぎます。

表明保証はデューデリジェンスでは発見できなかった隠れたリスクに対する強力な予防線となるのです。

では売り手、買い手はそれぞれどのような項目について表明保証するのでしょうか。

一覧にまとめたので参考にしてください。

売り手の主な表明保証の例

項目 内容
権限・授権 契約に必要な権限を持ち、法令上の手続きを終えていること
反社からの断絶 反社会勢力とは無関係であることなど
許認可の取得 本契約に必要な許認可等について、その取得等が適切に行われていることなど
法令等との抵触 本契約の締結や履行における法令に対する違反の有無など
対象株式の存在 対象会社の株式数の正確性
対象株式の所有 株主は、対象会社の株式を完全に保有していること。株式には他の権利が付着していないことなど
株主名簿の記載内容 株主名簿に記載された内容が正しいか
存続 売り手企業の適法性、存続など
計算書類等 計算書類等の適正性や正確性など
資産等 資産保有の適法か、また十分かなど
債務及び負債 簿外負債や偶発債務の存在の有無
税務申告等の適正 税務申告の適正性や追加の課税処分を受けるおそれなど
債務不履行 債務不履行がないか
知的財産 所有する知的財産権の有効性など
その他知的財産権の侵害 他者の知的財産権を侵害していないことなど
労働関係 従業員との労働関係の適法性や適正性など
環境関係 環境問題(土壌汚染・産廃など)の不存在など
紛争 対象会社を当事者とする紛争は存在していないかなど
法令順守、許認可 法令順守していることなど
保険契約 適切な保険契約か、また保険金請求をしたこと
変更の不存在 譲渡側(売り手)が対象会社に対して、一定時点(基本合意の締結日等)以降、重大な変更を加えていないこと
開示情報 譲渡側(売り手)や対象会社が買い手に対して開示した情報の正確性や網羅性など

買い手の主な表明保証の例

項目 内容
存続 買い手企業の適法性、存続など
権限・権限 契約に必要な権限を持ち、法令上の手続きを終えていること
反社からの断絶 反社会勢力と無関係であること
許認可の取得 本契約に必要な許認可等について、その取得等が適切に行われていることなど
法令等との抵触 本契約の締結や履行における法令に対する違反の有無など

売り手が表明保証を負うことはもちろんですが、買い手にも少ないながら表明保証義務があります。

上記は簡易的にまとめたものにすぎませんが、参考にしてみてください。

なお、表明保証であげた事項について、すべて問題がない企業はなかなかありません。

実施は問題がある部分を調整しながら、契約書の修正を図っていく流れになります。

解決が容易な軽微なものであれば譲渡日までに修正が可能ですが、解決が難しいものは「できる範囲」に限定し、その分対価を下げる調整を行うこともあります。

誓約事項

誓約事項は取引を円滑に進めるために規定するもので、時期により2パターンに分けられます。

クロージング日より前 クロージング日より前の誓約事項では、契約締結からクロージング日までの間で売り手に実施して欲しくないことを規定しておきます。加えてデューデリジェンスの結果、是正すべき内容が出てきた場合は誓約事項に含めて、クロージングまでに修正してもらうようにします。
クロージング日より後 クロージング日より後の契約事項は、その後の業務を円滑に進めるために規定します。 例えば協業避止や引抜・勧誘禁止、一定期間の引き継ぎ業務などを定めます。

クロージング条項(前提条件)   

M&Aのクロージング条件(前提条件)とは、クロージングの日までに、契約上の義務を果たしていない場合は、取引を実行しないことができるという条件です。

M&Aにおいては契約交渉上の論点になるケースが2つあるので紹介しておきます。

MAC条項 MAC(Material Adverse Chang)とは、日本語にすると「重大な悪化」のことです。対象企業の運営・経営状況等に重大な悪影響を及ぼす事項が無いことをクロージングの前提条件としています。 「重大な悪影響」の範囲が不明確なため、その内容をあらかじめ取り決めておく必要があります。
キーマン条項 特定の有能な人材にM&A後も働き続けてもらうことをクロージングの前提条件にした条項です。経営者、優秀な役員、他にない技術を持つ職員が一定期間会社に残るため高額で売却できるメリットがあります。

損害賠償・補償に関する条項     

損害賠償・補償に関する条項では、株式譲渡契約書に定めた誓約事項違反による損害や、表明保証が守られず損害が発生した場合の賠償について定めます。

この条項でのポイントは賠償する「期間」や「上限額」、「下限額」です。

これらが定められていなければ、将来にわたり永遠に賠償金を払わせられたり、損害額以上の賠償額を請求されたりしかねません。

重要なポイントなので注意しておきましょう。

契約解除に関する条項

契約解除に関する条項では、表明保証違反や契約の義務違反など一定の事由が発生した場合に契約を解除できる旨が定められています。

契約解除できる時期は「クロージングまで」と定めるのが一般的です。なぜならM&Aが実施された後では原状回復が非常に困難だからです。

M&A実施後は役員の入れ替わりや取引先への周知が終わっています。そこまでやって、今さらM&Aをなかったことにするのは非常に困難です。

そのため契約解除に関する条項には、解除可能な時期は「クロージングまで」としっかり定められているか確認しておく必要があります。

その他の条項

その他の条項として以下の事項が記載されます。

  • 秘密保持条項
  • 公表条項
  • 準拠法、管轄条項
  • 分離可能条項
  • 完全合意条項
  • 誠実協議条項

最後に原本の取り扱いや、契約当事者の氏名、住所なども記載されます。

M&Aの契約書は自分で作るのではなく、しっかりと弁護士や行政書士などを入れて自社専用作ってもらうのが無難!

今回はM&Aで必要な契約書について一つずつ解説しました。

契約書や必要書類で使われる文言は聞きなれないものが多く、一見難しく感じますが、意味を理解しポイントを押さえれば読み進めることは可能です。

しかしM&Aは財務や法務などの専門知識がなければスムーズに対応できないことがほとんどです。

また交渉が複雑で難しくなることもあります。

M&A仲介業者やアドバイザーと提携していても提供される情報はあくまでも案なので、最終意思決定は当事者の責任で行わなければなりません。

必要に応じて弁護士や行政書士など専門家のサポートを受けながら、契約書は自社専用を作ってもらうのが無難でしょう。

最終契約書であいまいな点や相違点が無いか確認し、スムーズに事業承継ができるように万全を期してM&Aの最終局面を迎えましょう。

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