【投稿日】 2022年3月14日 【最終更新日】 2022年3月18日

税務・会計の専門家である税理士は、M&Aにおいて税務デューデリジェンスや財務デューデリジェンス、バリュエーションなどの役割を担います。

この記事では、M&Aにおける税理士の役割、税理士が担う業務の詳細、税理士の報酬相場などについてくわしく解説します。

M&A時に税理士が担う役割

国家資格である税理士は、税金に関するアドバイスや確定申告などの税務に関する諸手続きの代行などを主要業務としています。

M&Aの際に税理士は、税金対策のためのスキームの検討や確定申告の代行など、主に税務の観点からのサポートを行います。

具体的には「税務・会計に関するサポート」「アドバイザリー業務」「デューデリジェンスサービス」「バリュエーションサービス」などを担うことができます。

また、税理士事務所の中にはM&A全般に関するコンサルティング業務を行っている事務所もありますので、M&Aにおける買い手側企業と売り手側企業の仲介や交渉のサポートなども依頼することができます。

なお、税理士事務所によっては特定の業種や業態に特化してサービスを提供している事務所もあるようですので、実際に依頼する際には確認するようにしてください。

公認会計士との違い

公認会計士も税理士と同じ国家資格で、会計やファイナンスなどの分野におけるプロフェッショナルです。

税理士が税金に関するアドバイスや諸手続きを主要業務としているのに対して、企業における会計処理や幅広いグローバルな会計知識を必要とする業務を行っていることから、グローバル企業の企業分析や業界分析に強いと考えて良いでしょう。

M&Aにおいては、公認会計士は財務デューデリジェンス、バリュエーション(企業価値評価)の役割を担うことが多く、税務デューデリジェンスについては税理士が主体的に行います。

特に、財務デューデリジェンスにおいては、資産価値は適切か、簿外債務がないか、将来多額の債務を負うリスクがないかなど、決算書や事業報告書などの書面上に現れていない潜在的なリスクを抽出して、売り手側企業のさまざまなリスクに関する調査を行います。

また、抽出した問題点とその解決方法についての検討やアドバイスも行うことができます。

弁護士との違い

弁護士は法律に関する専門家として、M&Aには必要不可欠な存在です。

M&Aでは、秘密保持契約書、基本合意書、最終合意書という主要な契約書が作成されますので、契約内容が法令に基づいて作成されていることを確認します。

また、それぞれ契約書の条項や内容に、依頼企業にとって不利なものがないかというリーガルチェックも行います。

その他、M&Aのスキームによっては会社法や独占禁止法などに抵触していないかのチェックが必要になりますし、必要な届出を適正な方法で適切な時期に作成して提出する必要があります。

なお、M&Aの際に弁護士が行う業務として法務デューデリジェンスがありますが、これは対象企業が抱えている潜在的な法律に関するリスクを調査するもので、弁護士が主体的に担う業務となります。

M&A時に税理士が担う4つの業務

M&Aにおいて、税理士が担う主な業務は、税務デューデリジェンス、バリュエーション(企業価値評価)、税務・会計に関するサポート、M&A全般のサポートなどです。

ここでは、この4つの業務それぞれについて詳しく説明します。

【1】税務デューデリジェンス

M&Aにおいて税理士が担う1つ目の業務は、税務デューデリジェンスです。

税務デューデリジェンスとは、M&Aの最終合意前に買い手側企業が売り手側企業の潜在的な税務リスクや財務リスクなどの問題点を洗い出す調査活動のことです。

税理士は会計・税務のスペシャリストとしての立場から税務デューデリジェンスに参画して調査を行います。

税務デューデリジェンスで税理士がチェックする資料は一般的に次のとおりで、売り手側企業に対して開示請求をして提示してもらいます。

  • 財務諸表
  • 過去3期分の事業報告書
  • 税務申告書(法人税確定申告書、消費税確定申告書)
  • 法人税・消費税などの税務資料
  • 寄付金・献金の一覧
  • 定款、登記関係資料
  • 株式関連の書類(取締役会議事録、株主総会議事録、株主名簿)

また、税務デューデリジェンスをスムーズに進めるために、売り手側企業が自主的に自社の強みや弱みに関する分析資料を作成することがありますが、この場合の資料は売り手側企業から税理士に作成依頼することがあるようです。

買い手側企業は、税務デューデリジェンスの他にも、事業デューデリジェンス、法務デューデリジェンス、人事デューデリジェンス、環境デューデリジェンスなどを行い、経営上の異なる専門性の観点からあらゆるリスクの洗い出しをします。

買い手側企業にとっては、デューデリジェンスは買収後に予期せぬリスクが発生することを減らすための必須の調査活動だからです。

これらのデューデリジェンスの結果をもとに、買い手側企業はM&Aを実行するかどうかの最終判断をします。

【2】バリュエーション(企業価値評価)

M&Aにおいて税理士が担う2つ目の業務は、バリュエーション(企業価値評価)です。

バリュエーションとは、企業の価値を客観的な金額的基準で評価することで、高度な会計知識を必要とするため、実績のある税理士や公認会計士が行います。

M&Aにおける企業価値とは、評価対象企業が保有する資産価値だけではなく、評価対象企業が今後創出する収益力やそのための無形資産も含めた価値のことです。

つまり、事業によって創出される経済的価値である「事業価値」と、余剰資産などの「非事業用資産」の合計が「企業価値」ということになります。

バリュエーションの方法は、「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つに分けられ、それぞれの概要は次の通りです。

コストアプローチ 評価対象企業の純資産を基準に企業価値を評価する方法で、会計上の純資産額に基づいて評価する「簿価純資産法」、評価対象企業または事業の資産・負債のすべてを時価に置き換えて純資産を評価する「時価純資産法」があります。
マーケットアプローチ 類似企業やM&A取引事例の各種財務指標と比較することによって相対的な価値を評価する方法で、評価対象企業の株式の市場価格を基準にして評価を行う「市場株価法」などがあります。
インカムアプローチ(DCF法など) 将来期待される利益やキャッシュ・フローに基づいて価値を評価する手法で、評価対象企業の将来のフリーキャッシュフローを算定して評価する「DCF法」、株主が受け取る配当額から評価する「配当還元法」などがあります。

M&Aでは、このバリュエーションによって算定された企業価値をベースに売買価格が決定されます。

バリュエーションは、売り手側企業、買い手側企業の双方がそれぞれ実施するケースがあり、売り手側企業は売買価格を提示するために行い、買い手側企業はM&Aを実行するかどうかを判断するために行います。

【3】税務・会計に関するサポート

M&Aにおいて税理士が担う3つ目の業務は、税務・会計に関するサポートです。

M&Aを行うことによって多額の金銭の会計処理が発生し、その金銭に関する税務処理も必要となりますので、これらの会計処理や税務処理に関するサポートや節税対策のアドバイスなどを行います。

M&Aを実行することによって、売り手側企業は多額の金銭を受け取ることになるため、相応の税金を納めなければなりません。

また、買い手は取得した資産や負債などの会計処理を正しく行う必要がありますが、会計基準によって仕訳の方法が変わることが考えられます。

このように、M&Aの際には売り手側企業、買い手側企業の双方に、会計処理や税務処理を適切に行う必要性があるため、税理士によるサポートが必要となるのです。

【4】M&A全般のサポート

M&Aにおいて税理士が担う4つ目の業務は、M&A全般のサポートです。

前述のように、税理士事務所によってはM&A全般のコンサルティング業務やアドバイザリー業務を行っているところがあります。 このコンサルティング業務やアドバイザリー業務とは、M&Aの売り手側企業と買い手側企業の仲介やM&Aプロセス全般のサポートを行うことで、次のような業務を行っています。

  • M&Aの相手先探し(売り手側企業と買い手側企業の仲介)
  • M&A戦略の策定
  • 相手先との交渉
  • 契約書の作成サポート

このように、M&Aアドバイザリー業務に対応している税理士事務所であれば、M&Aのすべてのプロセスを一貫して依頼できます。

M&Aのプロセス毎に個々の専門家に都度サポートを依頼する方法もありますが、このようにすべてのプロセスを一貫して依頼する方が手間やコストを抑えることができ、スムーズに進めることができると考えられます。

税務・会計に関するリスクの洗い出しや節税対策は税理士の専門分野!

M&Aに際しては、買い手側企業も売り手側企業も決算書の作成が必要となります。

このときに必要となる会計処理の種類は3つありますが、M&Aのスキームによって、これらの会計処理や税務処理も変わってきます。

決算書を買い手側企業、売り手側企業がそれぞれ単体で作成する場合は「個別会計」、グループ全体で作成する場合は「連結会計」、そして税金を計算するための「税務会計」です。

税金への影響もありますので、税理士のサポートを受け、適切な会計処理と税金計算を行う必要がありますが、この中で税理士は主に「税務会計」に関するサポートやアドバイスを行います。

M&Aを実施すると、多額の所得税や法人税が課せられることになりますので、税負担による利益の減少を防ぐためにも何らかの節税対策を講じる必要があります。

このようなときに、税理士に依頼すれば、M&Aで活用できる節税対策についてアドバイスが受けられ、より多くの利益を手元に残すことも可能となるでしょう。

税理士が確定申告の代行もしてくれますので、買い手側企業、売り手側企業双方の手間を軽減させることもできます。

M&Aを税理士に依頼した場合の報酬の相場

M&Aを税理士に依頼した場合の報酬の相場、依頼する業務の内容によって異なります。

以下、それぞれの依頼業務別に一般的な報酬相場を紹介しますが、税理士事務所によって報酬体系が異なりますので、事前に見積を依頼して報酬の内訳などについて詳しい説明を受けたうえで依頼する必要があります。

税務デューデリジェンスを依頼した場合の報酬相場

税理士に税務デューデリジェンスを依頼する場合は、中小企業で50万円程度が相場となります。

規模の小さな場合であればそれよりも少ない金額となることもあります。

バリュエーションを依頼した場合の報酬相場

税理士に企業価値を算定するバリュエーションを依頼する場合の報酬相場は、規模の大小により50~100万円程度が目安となります。

アドバイザリー業務を依頼した場合の報酬相場

税理士にアドバイザリー業務を依頼する場合の報酬相場は、50~150万円程度が目安となりますが、規模が大きいM&Aの場合は、報酬が1,000万円を超えることもあります。

また、取引金額に応じてレーマン方式で報酬を算定するケースもあります。

報酬の計算に用いられるレーマン方式は、次のように取引金額に応じて1%~5%の報酬料率を定めて、それぞれの部分毎に計算して足し合わせて報酬を算出します。

取引金額が5億円以下の部分 5%
取引金額が5億円超10億円以下の部分 4%
取引金額が10億円超50億円以下の部分 3%
取引金額が50億円超100億円以下の部分 2%
取引金額が100億円超の部分 1%

例えば、取引金額が18億円の場合は、それぞれの部分の計算は次のようになります。

  • 5億円×5%=2,500万円
  • 5億円×4%=2,000万円
  • 8億円×3%=2,400万円

したがって報酬は、2,500万円+2,000万円+2,400万円=6,900万円となります。

税務・会計のリスクを回避するなら税理士への依頼が必須!自社の業種・業態に精通した税理士に依頼しよう!

M&Aにおける税理士の役割は、主に税務デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、バリュエーションです。

M&Aは、中小企業の事業承継問題を解決する方策としても注目されていますが、M&Aを成功させるためには豊富な経験と専門知識が必要となります。

税務や会計のリスクを回避するためにも数多くのM&Aを経験している税理士に依頼することが必須です。 特に、自社の業種や業態に精通している税理士であれば、さらに強力なサポートを受けることができるでしょう。

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