【投稿日】 2022年6月26日 【最終更新日】 2022年7月7日

M&A成立後に行われる経営統合のプロセスのことを「PMI」と言います。

PMIは、これに失敗するとM&A自体の失敗につながりかねないというほど重要なプロセスですが、日本におけるM&Aでは軽視されがちという傾向があるようです。

そこで、この記事ではPMIとは何か、何を行うのか、なぜ重要なのかを説明し、PMIを成功させるための4つのポイントについて解説します。

また、PMIの重要性を理解していただくために、いくつかのPMIの成功事例と失敗事例についても紹介します。

M&AにおけるPMIとは?

PMIとは「Post Merger Integration」の略で、直訳すると「合併後の統合」または「買収後の統合」という意味になります。

つまり、M&A成立後に実施する経営統合プロセスのことで、M&Aでは最も重要なプロセスの一つと言っても過言ではありません。

「M&Aの成否はPMIが成功するかどうかによって決まる」と言う専門家もいるほどです。

M&Aによるシナジー効果を最大化するためには、早急に経営統合を行い新しい組織体制を確立し、長期的成長を支えるマネジメントの仕組みを作ることが不可欠です。

期待したシナジー効果が得られるかどうかは、PMIが成功するかどうかにかかっているのです。

PMIの実施内容

PMIで何を統合するのかは、M&Aの目的・内容などによって異なってきますが、代表的なものとしては、「経営体制や組織の統合」「社内インフラや業務システムの統合」「企業文化の統合」などが挙げられます。

この3つの統合は、「経営統合」「業務統合」「意識統合」と表現されることもあります。

この他には、「新しいグループ方針の策定」「事業内容・取引先の見直し」などを行うこともありますが、いずれも最終目的は経営統合によるシナジーの最大化です。

ここでは、主なPMIの実施内容について、2つの会社が統合して1つの会社になる場合を想定して説明します。

経営体制や組織の統合

これは、吸収合併によって異なる会社が一体化する場合には必須の内容です。

基本的には、買い手企業の経営体制や組織を引き継ぐことが多いのですが、M&Aを機に経営体制や組織を再編しなおすこともあります。

買い手企業の経営体制や組織を引き継ぐ場合は、迅速な統合作業が可能ですが、買収対象企業の従業員の中には反発を感じて離職する人が出てくることがあります。

M&Aを機に経営体制や組織を再編しなおす場合は、統合作業にかかる負担が大きくなるため、特に現場レベルでは大きな混乱を生じる可能性がありますので、外部のコンサルタントなどをうまく活用することが大事です。

なお、M&Aのやり方によっては、買収対象企業を子会社として存続させて自主的な経営を行わせるようなケースもあり、この場合のPMIは最小限となります。

社内インフラや業務システムの統合

異なる会社が一体化する場合、社内インフラ、経理・総務などの業務システム、人事制度などの統合も必須となり、これには決算日や支払日など会社としての基本的な事項も含まれます。

IT関係などの社内インフラ、経理・総務などの業務システムは、いずれの企業にも存在する機能ですので、重複する機能を削減しつつ新しい企業としてのビジネスや業務とって最適なものにするという考え方が重要となります。

人事制度については、人事規定や業績評価制度など人材に関する内容になりますので、特に買収対象企業の従業員が不満を抱かないような公平性のある見直しが大切です。

企業文化の統合

企業文化とは、それぞれの企業において長期間にわたって作り上げられてきた暗黙的に共有された価値観や信念などのことを言い、その企業に所属している人の行動や考え方に影響を与えているものです。

例えば、業務上の意思決定がトップダウン型か合意形成型か、リーダーシップのスタイルが独裁的か民主的か、あるいは明確か曖昧かなどは、企業文化の違いによるところが大きいでしょう。

異なる会社が一体化する場合に、この企業文化の統合が一番難しい事項と言えるかもしれません。

企業文化の統合の一般的なアプローチは、合併後の新しい企業にとって望ましい文化とは何かをゼロベースから考え直して、作り上げていくことではないかと考えられます。

顧客志向、チームワーク、他人の尊重のほか、その企業に必要な独創性や革新性、決断力などを明確にして従業員に公表し、日々の実践を促すという方法があります。

このように新しい企業文化ができて定着するには、それなりの期間が必要となりますが、PMIにおいては、2社の企業文化を統合させるための基本的な考え方と統合後の定着の仕組みを考えておく必要があります。

この企業文化の統合で最も大切なことは、「一方の企業文化を他方に押し付けないこと」です。

PMIはなぜ重要なのか?

PMIは、M&Aで想定したシナジー効果を発現させるために必須のプロセスですが、残念ながら国内のM&Aにおいては、しっかりとしたPMIが行われた事例は多いとは言えません。

なぜならば、対象企業との最終合意を得ることがゴールであると考えて、肝心のPMIによる経営統合に力が注がれないことが多いからだと考えられます。

買い手企業と買収対象企業との間で事業におけるシナジー効果が発現して、企業価値が向上してこそM&Aが成功したと言えるわけですから、「経営統合」「業務統合」「意識統合」というPMIの3本柱を疎かにしてはいけないのです。

PMIを成功させるための4つのポイント

では、PMIを成功させて期待通りのシナジー効果を得るにはどうすればいいのでしょうか?

PMIを成功させるために重要な4つのポイントについて説明します。

経営トップの強いリーダーシップ

まず1つ目のポイントは、経営トップの強いリーダーシップが必要だということです。

M&Aが成立すると、組織の変更や配置転換などが必要となることが多いため、社員の間に大きな不安や混乱が起こりかねません。

そのため、PMIを成功させるためには、新たな経営理念やビジョンを示し、社内をまとめ上げる強いリーダーシップを持つ経営トップが必要となります。

また、社外の取引先や株主・投資家などのステークホルダーに説明をする必要もあります。

リーダーシップは経営トップにだけ求められるのではなく、M&A成立後の各部門・部署の責任者にも求められます。

部門や部署を取りまとめる立場の人間が混乱して明確な指示ができないようでは、PMIは円滑に進みません。

あらかじめ統合計画を作成しておく

2つ目のポイントは、あらかじめ統合計画を作成しておくことです。

M&Aでは、基本合意を結んだ後に買い手企業が、買収対象企業のリスクを把握するためのデューデリジェンスを行い、買収価格を決めて最終合意に至るというステップを踏みます。

基本合意後は、デューデリジェンスや買収価格などが重要視されがちですが、並行して統合計画の作成を行っておく必要があります。

なぜなら、PMIは統合後1日目から始める必要があるからです。

その時点で、何をどのように統合するのかという統合計画(マスタープラン)と、それに基づくアクションプランができていなければ、従業員に対する明確な指示を出すことができません。

また、実行すべきいくつかの統合作業の中には長い期間を必要とするものもありますので、経営トップから現場レベルまでの認識を合わせておくことも必要です。

M&Aにおいては、デューデリジェンスや契約に大きな労力が必要となりますが、統合プロセスについても、それぞれの実施内容をわかりやすく整理して、それぞれの内容についての責任者・担当者をあらかじめ決定しておくなどの入念な準備作業が必要となります。

PMIを実行できる人材を確保しておく

3つ目のポイントは、PMIを実行できる人材を確保しておくことです。

前述のように、PMIには異なる分野の複数の実施内容がありますので、その分野のシステムや業務に精通しており、M&Aの目的を十分理解している人材が必要となります。

PMIでは現場レベルでさまざまな統合作業を行う必要があり、予想外の事態が発生することも考えられるため、適切な判断をして現場の従業員に指示を出せるような有能な人材の確保が不可欠となります。

なお、新しい会社のコアとなる事業だけではなく、人事や経理、総務などの間接部門においても、PMIを適切に実行できる人材の確保が必要です。

PMIの意義を現場に伝えて共有する

4つ目のポイントは、PMIの意義をきちんと現場に伝えて共有することです。

統合計画(マスタープラン)やアクションプランに基づいて、実際の作業を行うのは現場の従業員になりますので、PMIの意義や重要性を明確に伝えて共有することは重要です。

PMIの意義や重要性がきちんと伝えられていない状態では、PMIが行えないどころかトラブルが発生し、M&A自体が失敗になることも考えられます。

また、買収対象企業の従業員の中には、M&Aそのものにネガティブな感情を抱く従業員がいることも考えられますので、きちんと理解を得たうえで、両社の従業員が協力してPMIを実行できるようにすることも大切です。

PMIの過去の事例に学ぶ

PMIの重要性を認識していただくために、過去の成功事例と失敗事例をいくつか紹介しましょう。

いずれも簡単な紹介になってしまいますが、特に失敗事例については何が失敗のポイントなのかをしっかりと理解して、自社のM&Aに活かすようにしてください。

PMIの成功事例

まず、PMIの成功事例を3例紹介します。

<1>楽天

楽天は、2000年代の初頭からM&Aを積極的に行って、自社に必要なサービスを取得してきました。

インターネット上で事業を行うための基盤となるIT企業をはじめ「マイトリップ・ネット」や「DLJディレクトSFG証券」を買収し、「イーバンク銀行」を連結子会社化して、それぞれ「楽天トラベル」「楽天証券」「楽天銀行」として育て上げています。

インターネット基盤の上に、旅行、証券、銀行、アパレルなどの異なる分野のシナジーをうまく発現させることによって、M&AそのものにもPMIにも成功した事例ということができるでしょう。

<2>サントリー

2014年1月にサントリーホールディングスが米ウィスキー大手のビーム社を買収し、世界でも最も売れているバーボンウイスキー「ジムビーム」や「メーカーズマーク」などのブランドを手に入れました。

PMIプロセスにおいて、サントリーは社名をビームサントリーに変更した他、人事権を掌握することから始めました。

買収の翌年には、ビームサントリーの上級幹部と報酬を決める委員会を立ち上げ、委員はサントリーが決定して、ビームサントリーの経営を実質的に掌握していきました。

しかし、一方ではビーム社が持っていたクレアモント蒸留所とメーカーズマーク蒸留所には手を付けずに「あえて効率化しない」という選択をしました。

また、クレアモント蒸留所の近くに「グローバルイノベーションセンター」をつくり、世界に通用する新製品の研究開発を行なうようにしました。

ビーム社の独立性を保ちながらも放任することなくPMIを推進したことが成功のカギだと言われています。

<3>日本電産

日本電産は、2019年11月までに66件のM&Aを行っていますが、その対象企業は「技術力はあるが経営が悪化した会社」です。

日本電産の買収後の基本方針は次の3点だということですが、これを「連邦経営」と言っています。

  • 経営者も従業員も替えずに一緒に経営していく。
  • 買収企業のブランドを残して安心感を与える。
  • 買収当初は支援要員を数人程度出すが、経営再建後は全員引き上げる。

PMIの具体的手法として最も特徴的で効果があったのは、日本電産の会長が自ら出向いての昼食懇談会や夕食懇談会であり、現場社員から主任、課長以上の管理職らと100回近くの懇談会を持ち、現場の本音を聞きながら一つ一つ解決していったと言われています。

また、日本電産独自の「3Q6S」による業務監査によってPMIが行われていることも大きな特徴です。

「3Q6S」の「3Q」とは「Quality Worker(良い社員)」「Quality Company(良い会社)」「Quality Products(良い製品)」のことで、「6S」とは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「作法」「躾」のことです。

PMIの失敗事例

次に、PMIの失敗事例についても3例紹介します。

<1>みずほ銀行

みずほ銀行は、2002年4月に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が合併してできた3大メガバンクの中の1行です。

しかしながら、これまでに4度もの大規模システム障害を引き起こしており、1度目は合併直後に発生しました。

原因としては、旧3行の縄張り意識が強く、旧3行のシステムが合併後も存在し続けていたことが挙げられます。

最終的にシステム統合が完了したのは2019年のことで、合併後のシステム統合になんと17年も要したことになります。

しかし、システム障害はこれでは終わらず、2021年2月28日からの12カ月間に11回ものシステム障害が連続して発生しました。

金融庁は「システムに関するリスクや専門性の軽視、IT現場や営業現場の実態軽視、顧客影響に対する感度の欠如、言うべきことを言わない言われたことだけしかしない姿勢」などが真因であると指摘しています。

なお、2019年3月期の3大メガバンクの純利益は次の通りですが、みずほ銀行の純利益は他2行に比べて1桁少なくなっており、PMI失敗の代表事例と言われることにも納得できます。

三菱UFJフィナンシャル・グループ 8,726億円
三井住友フィナンシャルグループ 7,266億円
みずほフィナンシャルグループ 965億円

<2>マイクロソフト

マイクロソフトは、2014年4月にノキアの携帯端末事業を買収しましたが、この狙いは「ノキアの携帯端末開発力の獲得」と「ノキアブランド利用者の獲得」でした。

それまでにマイクロソフトは、1990年代には携帯端末用OSの「Windows CE」を開発し、2003年には「Windows Mobile」を、2010年代初めには「Windows Phone」を開発していました。

しかしながら、2007年6月に発売されたAppleの「iPhone」やGoogleのOSを搭載した「Android端末」のシェア拡大に対抗できずに、ついに2017年7月には「Windows Phone」のサポートを終了しました。

この失敗は、マイクロソフトとノキアの企業文化をうまく統合できなかったことが大きな要因だと言われています。

<3>ウォルマート

流通業界におけるPMIの失敗事例としては、ウォルマートの西友買収があります。

西友は大手流通グループであるセゾングループの総合スーパーでしたが、業績不振に陥って2002年にウォルマートと資本提携を結び2008年には完全子会社となりました。

ウォルマートは、欧米式チェーンストアの効率性を導入してコスト削減を狙い、PMIによって価格設定を変更して、「エブリデー・ロープライス」という低価格商品を毎日販売するという戦略をとりました。

しかし、この戦略は日本の消費者には受け入れられず、他店の特売日にはユーザーを奪われて売り上げが伸びないという状態に陥りました。

2020年、ついにウォルマートは、西友を米国ファンドのKKRと楽天グループに売却して、PMIは失敗に終わりました。

M&AにおけるPMIを成功させてシナジー効果を最大化するには、事前の入念な準備が大事!

ここでは、PMIがなぜ重要なのか、PMIを成功させるための4つのポイント、さらにPMIの成功事例と失敗事例を紹介しました。

PMIが、M&Aの成否を左右する重要なプロセスであることについて、十分にご理解いただけたものと思います。

M&A成立後の経営統合プロセスの内容は多岐にわたりますし、経営統合に要する期間も長期にわたるため、事前の入念な準備が大事なのです。

これを怠るとPMIに失敗して期待通りのシナジー効果が得られないばかりか、M&A自体が失敗に終わってしまうことは、紹介した失敗事例からも明らかでしょう。

M&A時のスムーズなPMIのために、探偵事務所による突っ込んだ調査も行うのがおすすめ!

M&Aにおいて、M&A後のPMIの失敗は、M&Aの失敗を意味します。そのため、M&Aにおいては非常に重要なプロセスです。

しかし、一般的にM&Aを行う前のリスクヘッジとして行うデューデリジェンスでは、公開書類や会社の決算書類などの内部書類などをベースに進めるため、企業の実態だったり、文化、周囲からの評判などそういったPMIを見据えている場合が少ないのが実情です。

特に、M&A先の企業の役員や従業員の過去の経歴や、反社会的勢力とのつながりや、犯罪歴など個人的な部分については、個人情報保護法上調べることが難しいため、あまりデューデリジェンスの一環として調査されないことがほとんどです。

しかし、PMIをスムーズに進めるためには「相手を知る」ことが一番重要なはずであり、PMIでの失敗を防ぐためには、一般的なデューデリジェンスに加えて相手側の企業を個人に至るまでしっかりと調べることが必要になってきます。

そんな時の相談先として探偵事務所がおすすめです。探偵事務所は探偵業法の範囲内で、一般の方には調べることができないような個人の情報なども調べることができます。

探偵事務所SATでは、そういったM&Aのデューデリジェンスの精度をあげる、M&A先の役員など個人にまでフォーカスした調査を行っていますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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