【投稿日】 2023年6月1日 【最終更新日】 2023年6月25日

債権を回収しようとしても、相手方が財産を持っていなければ債権の回収はできません。

非回収によって泣き寝入りしてしまう事例も多く存在しています。

そんな泣き寝入りを無くすための方法が、「詐害行為取消権」です。

この詐害行為取消権は古くから存在するものの曖昧な部分が多く、判例もほとんどない状態でした。

しかし2020年4月から改訂され、注目が集まっています。

今回は、そんな詐害行為取消権について、解説していきます。

詐害行為取消権とは?

詐害行為取消権とは、その名の通り詐害行為を取り消すための権利です。

以下からはより深く詐欺行為取消権の内容を解説します。

詐害行為取消権の概要

詐害行為取消権について詳しく表現すると、「債権者を害すると分かっていながら、債務者が自身の財産を減らしておく行為」になります。

「債権回収されてしまう」と考えた債務者の中には、「債権者に財産を渡すことになるのであれば、初めから財産がないかのようにすればよい」と知人や友人に財産を譲ってしまう場合があります。

財産隠しを行われてしまうと、債権者は債権回収ができなくなります。

一方債務者は、債権回収の期間が過ぎてから親族や友人から財産を返してもらい、返済を免れます。

この行為に対抗するために生まれたのが、詐害行為取消権というわけです。

詐害行為取消権を行使する相手

債権の回収は、一般的には債務者に対して行うものです。

しかし詐害行為取消権は、債務者から「債務者の財産」を受け取った人物である「受益者」に対して行使されます。

また、その財産が受益者から第三者である「転得者」へさらに受け渡しがあったとするならば、その転得者に対しても詐害行為取消権を行使することができます。

受益者と転得者のどちらに詐害行為取消権を行使するかは、債権者が決められます。

どちらを選ぶべきなのかは場合によって異なるため、弁護士に相談しましょう。

詐害行為取消権の範囲

詐害行為取消権が及ぶ効果には範囲が存在します。

財産不可侵の原則の例外的な形で効果は限定的です。

民法424条の8では、債務者の詐害行為について、債務者が行った行為の目的が可分である時には、被保全債権を上限とするように定められています。

詐害行為取消権の成立に必要な要件

詐害行為取消権は、債務者を通した間接的な関わりしかない第三者である「受益者」「転得者」に行使するものになります。

場合によっては受益者と転得者の財産権を不当に侵害してしまう可能性もあるため、本権は乱用できないように細かく要件が設定されています。

これらの要件が明確にされたのは2020年からです。

以下からは、改正された要件について解説します。

要件1:債権が詐害行為よりも前に成立していること

債権者が詐害行為取消権を行使するためには、「債務者に対する債権が、債務者ほか第三者に財産処分される前に確定していること」が条件として必要になります。

あくまでも「債権回収の際に出した取引可能な債権」の中から、詐害行為によって不当に財産を減らしているのであれば、その債権取引を裏切ったことになります。

したがって、詐害行為よりも前に債権が成立していなければなりません。

要件2:債務者が無資力であること

債権者は債権の回収を目的とします。

債務者に財産があるのであれば、その債務者から債権を回収すれば問題ありません。

そのような場合に詐害行為取消権を行使してしまうと、受益者や転得者が対象になってしまいます。

そのため、「債務者に資金力がある場合」には詐害行為取消権を行使できないことになっています。

なお、詐害行為時だけではなく、詐害行為取消権を行使するときにも債務者が無資力であることは必須要件です。

詐害行為の時に無資力だったとしても、そのあとに資力が回復していれば、詐害行為取消権を行使しなくても債権回収が可能だからです。

要件3:財産権を目的とした行為であること

また詐害行為取消権を行使できるのは、財産権を目的とした行為である場合のみです。

例えば、結婚や養子縁組、離婚などは財産の移動を目的としているとはいえなく、ほとんどの場合で詐害行為とはみなされません。

ただし、離婚時の財産分与や生前分与などは例外的に詐害行為とみなされることがあり、注意が必要です。

詐害行為とみなされるものの具体例は以下になります。

  • 贈与
  • 財産を低価格で売却
  • 不釣り合いな弁済
  • 新設分割方式による会社分割

不自然だと思われる財産移動が認められる場合には、詐害行為とみなされます。

要件4:債務者に詐害意思があったこと

債務者に詐害意思があったかどうかによっても、詐害行為取消権の行使の正当性についての解釈は異なってきます。

詐害意思がない状態で行った行為は、詐害行為にはあたりません。

債務者に「債権者を困らせたい」という明確な意思があったわけではなくても、「この行為により自己の財産が減り、債務返済ができない」という自覚があるだけでも詐害意思としてみなされます。

要件5:受益者や転得者に詐害行為の悪意があったこと

詐害行為取消権を行使するためには、受益者または転得者が「債務者による意図的な財産譲渡などの行為によって、債権者が弁済を受けられない」ということを知っている必要があります。

改正された民法では、「転得者から財産を得た、また別の転得者」がいる場合にも、その転得者が弁済についての事情を知っている必要があることになっています。

つまり、受益者を経て詐害行為よって分割された財産を受け取った転得者が複数人いる場合、詐害行為取消権を行使するにはそのすべての人が事情を知っていなければならないことになります。

事情を知らずに財産を受け取った人が含まれている場合には、別の方法での債権回収が必要です。

詐害行為取消権の効果は?

詐害行為取消請求が裁判上認容されると、民法425条に則り、債務者およびそのすべての債権者に対してもその効力を生じることになります。

そして、詐害行為取消権により債務者の詐害行為が取り消しされた場合、債務者の詐害行為によって処分された財産は債務者の手元に戻ると考えられています。

これに従い、受益者が債務者との契約時に交付したものがあれば、受益者は債務者に対して取得した財産の返還を求めることもできます。

その対象の財産が動産・不動産かにより、以後の扱いが変わります。

以下から詳しく解説します。

対象財産が金銭、動産の場合

対象財産が「金銭」や「動産」である場合、債務者が受取を拒否したり、受け取ったとしても消費してしまったりする可能性があります。

それを防ぐために、424条の6第1項後段または第2項後段、424条の9第2項に基づいて、取消債権者は、債務者ではなく受益者や転得者に対して直接支払いまたは引き渡しを求めることが可能です。

そして、取消債権者が受益者や転得者に対して動産の代わりに価格賠償を請求する場合にも、債務者を通すことなく直接自分(取消債権者)に対して支払うように求めることもできます。(424条の6第1項後段又は第2項後段、424条の9第2項)

なお、この対象財産が金銭であった場合、取消債権者は他の債権者に先んじて優先弁済を受けることができます。

優先弁済を受けるにあたっては、被保全債権と、債務者が有する受取金銭の返還請求権を相殺しなければなりません。

この場合には、424条の9第1項後段により、受益者や転得者はすでに対象財産を債権者に支払い又は引き渡しをしている扱いとされ、そのあとに改めて支払い・引き渡しが行われる必要はありません。

対象財産が不動産の場合

対象財産が「不動産」の場合には、債務者の意思とは関係なく、登記や債務名義を戻すことで取消となり、この場合には一度当該の財産は債務者の元に戻ることになります。

取り戻し対象は現物返還が原則とされており、受益者や転得者による現物返還が困難である場合には、取消債権者は金銭や動産と同じように受益者や転得者に対して直接の支払い・引き渡しを請求することができます。(424条の6第1項後段又は第2項後段、424条の9第2項に基づく)

詐害行為取消権の行使を受けた人の権利

詐害行為取消権が行使された場合、受益者や転得者は債務者から受け取っていた利益や財産を失うことになります。

それに対抗するために、民法第425条の2~第425条の4に基づいて受益者や転得者は反対給付金の返還請求権を行使することが可能です。

詐害行為取消権の行使方法

民法424条1項本文によると、詐害行為取消権の行使には裁判所への訴訟提起が必要とされます。

詐害行為取消権は、「該当者の行為を取り消す」という重大な効果をもたらし、第三者への影響も大きくなることから、裁判所への訴えでのみ行使が可能になるのです。

基本的な流れは一般的な訴訟に準じます。

つまり弁護士に相談し、取消権発動要件を抑えられているかどうかを確認し、裁判所に訴えを提起後、証拠となる書類を提出し、口頭弁論や審理などを行ってから判決が下るというものです。

本手続きには書類の作成も必須であるため、事前に必要書類についても確認して取り揃えておかなければなりません。

そこで以下からは、必要書類についての解説をします。

必要書類

詐害行為取消権の行使に必要な書類は、裁判所へ訴訟を行う時に必要な書類に準じています。

以下が必要書類です。

  • 訴状
  • 契約書など、債権・債務関係がわかる証拠書類の写し
  • 原告や被告が法人の場合には商業登記簿謄本
  • 不動産について争う場合には不動産登記簿謄本
  • 不動産について争う場合には固定資産評価証明書
  • 収入印紙(金額はケースによって異なる)
  • 債務者への告知書類

※弁護士によって必要書類の呼び方に変動あり
※個別のケースによって必要書類に変動あり

また詐害行為取消請求の判決は、被告だけではなく債務者へも通知されるため、債権者は提訴後に債務者へ提訴した旨を告知しなければなりません。

本書類は、弁護士に相談し、依頼することで準備の代行もかなうことが多くなっています。

詐害行為取消権を行う上での注意点

詐害行為取消権の行使をするにあたっては、気を付けなければならない注意点がいくつかあります。

特に、期間制限と裁判の要件は最低限自分で把握しておかなければならない内容です。

そこで以下からは、詐害行為取消権を行使する上での注意点2つについて詳しく解説します。

注意点1:期間制限に注意

民法426条に基づき、詐害行為取消権は詐害行為の事実を知ってから2年が経過するまでに訴えを提起しなければなりません。

また、詐害行為自体も10年以内に行われたものでなければならないと定められています。

詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。

いざ詐害行為取消権を行使するために証拠を完璧に揃えていたとしても、当該期間を過ぎてしまっていたら意味がないため、詐害行為取消権を行使する際には十分な注意が必要です。

注意点2:裁判上の請求が必要

詐害行為取消権を行使するためには、裁判を行うことが必須とされています。

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

民法第424条第1項によれば、債権者は受益者や転得者に対して、口頭や内容証明だけで詐害行為取消権を行使することを告知するだけではなく、必ず裁判所に訴訟を提起しなければならないとことになっています。

詐害行為取消権の訴訟は専門的な手続きが必要になり、証拠を集める難易度も高くなりがちです。

自分で行うのは難しい訴訟なので、弁護士に対応してもらい、綿密に訴訟準備を行うことで取消債権者側の主張が認められる可能性が高められます。

このように、詐害行為取消権の行使には時間とお金がかかることを意識しておかなければなりません。

詐害行為取消権についてはまずは弁護士に相談!

債務者が債務の弁済をせずに財産を第三者に対して分与してしまった場合には、詐害行為取消権を発動させ、その第三者に対して財産の権利移行を取り消すことができます。

この詐害行為取消権を行使するためには、一定の要件を満たしていることも必要です。

詐害行為取消権を行使することで何らかの弁済をさせられれば、債権回収にもつながります。

しかし、権利の行使は訴訟を提起する方法しかない為、法律に詳しい専門家である弁護士に相談しながら進めていくべきです。

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