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債権譲渡禁止特約とは?債権譲渡が無効化するケースとそうでないケース

【投稿日】2023年6月17日

債権譲渡を行う上で、相手方の承諾を得ずに契約上の債権を第三者に譲渡してしまわないためには「取り決め」を定めておく必要があります。

勝手な譲渡を禁止する取り決めとして存在するのが「債権譲渡禁止特約」です。

そこで今回は、譲受人と債務者の間に締結されるこの「債権譲渡禁止特約」について解説します。

債権譲渡禁止特約とあわせて、債権譲渡が無効化するケースと無効にできるケースといった、注意すべき場面についても併せて紹介します。

債権譲渡禁止特約とは?

債権譲渡禁止特約とは、その名の通り「債権譲渡」を禁止する契約です。

債権譲渡とは、債権譲渡人と債務者の間で取り交わされます。

譲受人に対して「未回収の債権」がある場合、その未回収の債権の代わりに譲渡人が所持している債権を譲渡してもらう、というものです。

譲受人は、債権を譲渡人から受領する権利があるものの、譲渡人と債権の債務者との間で債権譲渡禁止特約が結ばれている場合、債務者に対して債権の効力を発揮することができません。

譲渡禁止特約を定める理由

譲渡禁止特約を定める必要は、なぜあるのでしょうか。

それは、契約の相手が予期せぬ変更を行うというリスクを防止する目的があるからです。

ある取引の相手を決める際には、資金状況や会社の経営方針、経済状況などを含めて検討します。

取引先を決めたら、契約を行い、双方の権利や義務を確認します。

しかし、これらの権利や義務が第三者に勝手に譲渡できてしまうと、契約を結んだ意味がなくなってしまいます。

こういったトラブルを防ぐためにも、譲渡禁止特約が定められているのです。

債務者にとって「債権者が固定されている状態」は非常に大切です。

契約相手を固定することによって、誤った相手へ弁済してしまう可能性を減らし、債権者の変更による混乱を防ぐといったリスク回避ができます。

譲渡禁止特約の原則

譲渡禁止特約の原則は「契約上の地位の移転」「債権譲渡」「債務引受」の3つです。

この原則について以下から詳しく解説します。

原則1:契約上の地位の移転

契約から生じる権利・義務の全てを第三者に移転させることを「契約上の地位の移転」といいます。

契約上の地位の移転には、取消権や解除権等も含まれていることを覚えておきましょう。

この契約上の地位の移転について、民法では以下のように定めています。

契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。

民法上では、相手方の承諾があれば「契約上の地位の移転」が可能になります。

そのため、譲渡禁止特約においては相手方の承諾がない状態で移転することはできません。

実務上では、「事前における書面での締結」にて契約が結ばれなければならない、と条件に付記されることが多いです。

口頭での契約締結は、のちのトラブルを招きやすいのです。

原則2:債権譲渡

債権自体を第三者に譲渡することが「債権譲渡」です。

債権には、金銭や動産不動産なども含まれます。

債権譲渡について民法は、以下のとおり定めています。

債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。

3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。

4 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。

(譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託)

第466条の2 債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。

民法改正により、「譲渡禁止条項」が定められていたとしても譲渡は有効となりました。

これにより、「契約相手が変更になる」というリスクを完全になくすことはできません。

しかし民法466条3項は、悪意の第三者(条項を知っておきながら債権譲渡を受けた人)や重過失の第三者(条項について知らなかったが、それにより重大な過失がある人)などに債権譲渡を行った場合には、債権譲渡自体が無効になると定めています。

これにより、譲渡禁止特約を結ぶことによって誤弁済や過誤払いのリスクを回避することができるといえます。

原則3:債務引受

相手に対して背負っている義務である債務を第三者に負わせることを「債務引受」といいます。

債務引受には2種類あり、併存的債務引受と免責的債務引受に分類されます。詳しい内訳は以下の通りです。

  • 併存的債務引受:債務者に加えて、第三者も共に債務を引き受けること
  • 免責的債務引受:債務者は債務を免れて、第三者だけが債務を負担すること

民法は、併存的債務引受と免責的債務引受について以下のように定めています。

(併存的債務引受の要件及び効果)

第470条 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。

2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。

3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。

4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。

(免責的債務引受の要件及び効果)

第472条 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。

2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

民法470条3項、同472条3項に基づき、債務引受を行う場合には債権者の承諾が必要になります。

こちらも、トラブル防止のためにも口頭での締結ではなく書面での締結が推奨されています。

譲渡禁止特約の効力

譲渡禁止特約の効力は、あくまで民法に基づくものになります。

民法466条2項によれば、譲渡禁止特約に違反した債権譲渡であっても無効にはなりません。

しかし譲渡禁止特約を設けることにより、下記のような実益が生まれることも事実です。

  • 譲渡禁止特約の存在について悪意・重過失の債権の譲受人に対して、債務の履行を拒んだ上で、譲渡人に弁済することができる(民法466条3項)
  • 債権の全額に相当する金額を供託することができる(民法466条の2第1項)

また、債権譲渡禁止特約とは、債務者の権利を保護する契約でもあります。

債務者が債権譲渡禁止特約に反対する場合、債務者は譲受人に対して譲渡の無効を主張できます。

そのため、債権譲渡が行われる前に譲渡人と債務者との間で禁止特約が結ばれていないかを確認する必要があります。

債権を受け取る側である譲受人にとって債権譲渡が無効になることは大きな損害となり、譲受予定だった債権を元に事業計画を立てていた場合にはダメージを受けてしまいます。

事業を進めるうえで、企業間における債権や資産の流動は避けられません。

そのため、債権譲渡禁止特約についてはその効力をしっかり認識すべきです。

債権譲渡禁止特約を無効にできるケース

債権譲渡禁止特約は、その契約を無効にできるケースというものが存在します。

このケースは主に「譲受人が無過失であること」「債務者から承諾を得ていること」の2つに分けられます。

譲受人が無過失である

債権譲渡禁止特約を結んでいる状態であるにもかかわらず、特約を無効にできるケースとして「債権譲渡を行う際に譲受人が善意で無過失であること」が挙げられます。

ここでいう「善意」とは、「債権譲渡禁止特約の契約事実を知らなかった」ということです。

注意義務を怠っていた場合は「過失」と扱われるものの、大半の場合では善意者として扱われます。

しかし、場合によっては「重過失である」とも判断されるため注意が必要です。

債務者から承諾を得ている

債権譲渡禁止特約を締結している場合であっても、債務者側から債権譲渡に関する承諾を得ることができていれば債権譲渡禁止特約を無効にし、債権を譲受する事が可能です。

この場合は、譲受人が無過失である必要は特にありません。

債権譲渡が無効になるケース

債権譲渡禁止特約において、譲受人にとって債務者へ債権の効力が発生しないという「無効」のケースが存在します。

そのケースは以下の通り3つに分類されます。

ケース1:譲受人に悪意がある

債権譲渡禁止特約は、譲受人を保護するために規制が緩和されました。

特約であるにもかかわらず「譲受人が債権の効力を債務者に発揮する場合」には、善意で無過失である必要がありました。

そのため、「悪意又は重過失」である場合には債権譲渡の効力は発揮しません。

預金債権などの譲渡禁止が明確な債権の場合、その債権について譲渡禁止特約が交わされていなかった事実を知らないということはあり得ません。

そのため、悪意があったとして判断されます。

譲渡禁止特約の効力自体は、債務者が主張しなければ発揮されません。

そのため、債務者側が譲受人の悪意や重過失を立証しなければ無効にすることはできないため注意が必要です。

また、債権によっても悪意が明確か不明確か判断しにくいものがあり、その場合にも債務者が立証しなければなりません。

ケース2:債権が制限対象にある

債権の中には、債権譲渡の制限対象となるものがあります。

この債権譲渡の制限対象である債権が債権譲渡される場合には、債権譲渡禁止特約の効力は無効となります。

債権譲渡の制限対象となる債権として、以下の通り「債権自体の性質で制限されているもの」があげられます。

  • 慰謝料請求権、扶養請求権:行使できるのが特定の人物に限られる債権
  • 使用借権・賃借権:形態が特殊な債権
  • 給与に関わる債権・遺産相続などの効力を持つ財産分与請求権・遺留分減殺請求権・生活保護・老後の年金:法律の規定により制限された債権

債務者による対抗がある

債権同士の相殺により、債権譲渡自体が無効になるケースがあります。

例えば、とある取引先の会社と自分がお互いに債権を持っている場合、その債権同士が相殺できる金額または同等の債権であり、どちらか一方がその債権の消滅を希望しているときにはその債権を消滅させることができます。

相殺し合う債権については同種であることが前提で、価値を計りやすい債権であることが条件です。

しかし、債権譲渡における債務者側からも譲受人に対して相殺を希望・主張ができます。

その時、譲受人が受け取る債権の債務者が、「相殺できる同等の債権」を保有していた場合に、債務者が譲受人に対して相殺を主張してきたのであれば、債権同士が相殺されて消滅してしまい、債権譲渡の効力が無効になります。

債権譲渡禁止特約の無効については弁護士に相談しよう

債権譲渡禁止特約とは、「契約中の相手が変わってしまうリスクを抑えるために、債権を第三者に無断で譲渡することを禁止する特約」です。

譲受人が「債務者と譲渡人の間に結ばれた債権譲渡禁止特約を知らない状態」でなければ、債権譲渡は無効にはなりません。

ほか、特約が無効になるケースや債権譲渡自体が無効になるケースも存在します。

債権譲渡を無効にするためには、債務者側が譲受人の悪意を立証したうえで主張を行わなければならないなど専門知識を要するため、弁護士への相談をおすすめします。

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