【投稿日】 2022年7月31日 【最終更新日】 2022年8月26日

ビジネスシーンにおいてよく使われる言葉の一つに「スケールメリット」があります。

この言葉の意味は、簡単に言うと「ビジネスの規模を拡大することによって得られるさまざまな効果」です。

この記事では、この「スケールメリット」の具体的な効果や活用例について、事例を紹介しながら詳しく解説していきます。

スケールメリットとは?

「スケールメリット」とは、同じ種類のものを多く集めて規模を拡大することによって得られるメリットや優位性のことです。

ほぼすべてのビジネスにおいて、経営規模・企業規模・事業規模・生産規模・販売規模などを拡大することによって、経済効率や生産性、知名度などを向上させることができ、より大きな売上や利益などを獲得することができます。

実は「スケールメリット」とは和製英語で、対応する英語表現としては、「economies of scale(規模の経済)」や「advantages of scale(規模の優位性)」があります。

なお、「スケールメリット」のことを「規模のメリット」と言うこともあります。

シナジー効果との違い

買収や合併などのM&Aで得られるプラスの効果としては、「スケールメリット」の他に「シナジー効果」があります。

「スケールメリット」が、同じ種類の物を多く集めて規模を拡大することによって得られるプラス効果であるのに対して、「シナジー効果」とは、複数の異なる事業や製品を組み合わせることによって生じる「相乗効果」のことです。

スケールメリットの効果

「スケールメリット」とは規模を拡大することによって得られる効果の事であり、スケールメリットの効果としては、次のようなものが挙げられます。

ここではそれぞれ、スケールメリットの効果について、詳しく説明していきます。

【1】コスト・経費の削減

「スケールメリット」の効果として一番イメージしやすいのは、コスト削減や経費削減でしょう。

例えば、大量の商品や原材料などをまとめて仕入れることによって、仕入れコストや原材料コストを大幅に削減することができます。

同じ製品を大量生産する場合も、生産設備の稼働率を上げることができますので固定費が削減されますし、作業者の習熟度が上がるため生産のスピードや品質が向上するという効果にもつながります。

【2】経営の効率化

「スケールメリット」の効果として経営の効率化も挙げることができます。

例えば、複数のグループ会社を抱える企業グループの中で、事業内容が重複するグループ会社がある場合は、統合することによって経営の効率化を図ることができます。

つまり、統合することによって事業規模が大きくなりますので「スケールメリット」を得ることができるようになるのです。

【3】知名度・信頼性の向上

コンビニ・スーパー・飲食店チェーンなどでは、店舗数を増やして販売エリアを拡大することによって販売力の向上とともに知名度を向上させることができます。

また、どこでも見かけるようになると、より多くの消費者に認知されるようになり信頼性やブランド力も向上します。

これらの結果として、競合他社に対する優位性が生まれ、集客数・売上高・利益の向上につながります。

スケールメリットの活用例や事例の紹介

「スケールメリット」を享受するための方法としては、自社の生産設備を増強したり、販売店を増やしたりすることが一般的ですが、M&Aによる買収・合併によって規模を拡大することもできます。

「スケールメリット」の効果は、業界や業種を問わず享受することができるという特徴がありますので、業種別に活用例や具体的事例を紹介します。

【1】飲食業

外食チェーンなどの飲食業では、店舗数を増やすことによって集客数を増やして売り上げ増を図り、商材などを大量に仕入れることによって仕入れコストを削減しています。

また、多店舗展開によって知名度を上げて、外食チェーンそのもののブランディングを図っています。

さらに、多くの店舗の中に業績が振るわない店舗が出てきた時でも、その他の店舗の売り上げで損失をまかなうことができ、リスク分散を図ることができます。

飲食業のスケールメリットの事例1:すかいらーく

1970年に東京の府中市に「すかいらーく」1号店を出店してから50年後の現在では、20以上のブランドで約3,200店舗を全国展開しており、従業員数は約10万人、1年間の来客数は約4億人という規模になっています。

共通的な食材は複数ブランドで共通化し「スケールメリット」を活かして調達しており、セントラルキッチンで一括調理後、自社の物流システムによる毎日配送などによって、お手頃価格で食事を提供することに成功しています。

【2】小売業

小売業も飲食業と同様に、多店舗展開することによって販売量を増やし、この販売量をもとに仕入先に値下げ交渉をして仕入れコストを削減しています。

コンビニチェーンでは、店舗設計を統一化することによって新規出店コストや維持管理コストを低減しています。

また、飲食業と同様に多店舗展開による知名度向上やブランド力の向上を図っています。

ブランド力の向上に伴って、独自性のあるPB(プライベートブランド)商品を開発・販売することも可能になり、この売り上げ増も「スケールメリット」と言えます。

小売業のスケールメリットの事例1:ファミリーマート

2016年、ファミリーマートはサークルKサンクスを統合して店舗数を増やしました。

これは、統合によってファミリーマートの店舗数を増やすという「スケールメリット」効果を狙ったもので、この統合によって業界3位だったファミリーマートは、1位のセブンイレブンに次ぐ2位を獲得し、ローソンを抜くことに成功しました。

【3】製造業

製造業では、工場をつくるための初期投資(土地代、建設費、設備購入費など)やメンテナンス費用がかかることが特徴ですが、生産量を増やせば増やすほど固定費が下がり「スケールメリット」を得ることができるようになります。

生産量の増加に伴って人件費も増加しますが、自動化・機械化によって人件費の比率を下げることができますので、さらなる「スケールメリット」も期待できます。

製造業のスケールメリットの事例1:シャープ

シャープは、従来のブラウン管テレビが薄型液晶テレビに置き換わることによる需要増などを見込んで、2000年代初めに液晶テレビの生産能力向上による「スケールメリット」の拡大を目的とする大規模投資を行いました。

これによって、シャープは「亀山モデル」と言われる液晶テレビの生産体制を構築して、生産規模を飛躍的に拡大させ「スケールメリット」を享受しました。

しかしながら、その後サムスンやLGなどの韓国メーカーなどとの価格競争に負けて、最終的には液晶テレビ生産から撤退しました。

製造業のスケールメリットの事例2:ENEOSホールディングス

総合エネルギー会社のENEOSホールディングスは、古くからM&Aによって規模を拡大してきたことで知られています。

現在のENEOSは、モービル・エッソ・三井石油・東燃・ゼネラル・日石三菱・新日鉱などがM&Aを繰り返すことによって生まれたもので、2017年に「JXTGホールディングス株式会社」に統合され、2020年に「ENEOSホールディングス株式会社」に社名変更されました。

この結果、ENEOSは「スケールメリット」を得て、現在も石油業界において首位の座を獲得しています。

【4】運送業・輸送業

トラック・鉄道・航空などの運送業や輸送業では、車両や飛行機などの購入費や維持管理費、鉄道の場合は線路の敷設費や維持管理費、人件費、燃料費などのコストがかかります。

貨物輸送の場合には、一度に多くの荷物を積載することによって輸送台数や頻度を減らしてコスト削減を図ることができます。

旅客輸送の場合も、多くの人数を乗せることによって一人当たりにかかるコストを下げることができます。

運送業・輸送業のスケールメリットの事例1:ヤマト運輸

ヤマト運輸(当時は大和運輸)が宅配便を始めたのは1976年ですが、その後宅配便市場は急速に拡大していきました。

当時の常識では「大口の荷物を一度に運ぶ方が集荷・配達の手間かかからず合理的」というものでしたが「大量の小口を集めてスケールメリットを追及すれば必ず成功するはずだ」という考えのもとに宅配サービスを開始し、現在では売上高は業界ナンバーワンになっています。

【5】教育業

塾などの教育業では、実績と知名度、そして指導内容が重要となります。

教室数が増えると生徒数が増えて実績を増やすことができ、それに伴って知名度も向上していきますが、指導内容が伴っていなければ実績を上げることはできません。

しかし、指導内容が同等とすれば、当然教室数が多くて生徒数が多い方が有利になります。

また、塾で使う教材なども「スケールメリット」によりコストダウンが可能になり、生徒一人当たりにかかる経費も安くすることができます。

このように教育業においても、規模の拡大により「スケールメリット」を享受することができます。

教育業のスケールメリットの事例1:ベネッセコーポレーション

ベネッセの前身は、1955年に誕生した福武書店で、中学向け図書や生徒手帳の発行から始まっています。

その後、通信教育の「進研ゼミ」「小学講座」「こどもちゃれんじ」などの教育事業を拡充して、幼児から高校までのラインナップをそろえて「スケールメリット」を得ました。

現在も「教育事業分野で世界No.1企業を目指す」というグローバル化と、シニア・介護事業などに積極的に取り組んでいます。

スケールメリットの注意点やデメリット

ここまで「スケールメリット」の良い面について紹介してきましたが、当然ながら注意しなければならないこともあります。

また、「スケールメリット」の反対語として「スケールデメリット」という言葉もあります。

これを分かりやすく言うと「規模を大きくしたことによる弱点」ということですが、規模を拡大することによって様々な「スケールメリット」が期待できますが、拡大が裏目に出てメリットが得られないケースも起こり得るということです。

主に次のような点に注意しなければなりません。

  • 判断や意思決定のスピードが遅くならないか?
  • コミュニケーション不足にならないか?
  • 分業化が進み全体が見えにくくならないか?
  • 売るための仕組みは整っているか?
  • 仕入先の供給能力には問題はないか?
  • 事業や企業買収先の企業に将来的にリスクになるようなことはないか?

それぞれ、「スケールメリット」を狙って事業規模拡大などの計画をする際に、注意しなければならない点について説明します。

【1】判断や意思決定のスピードが遅くならないか?

事業を統合して規模が拡大すると、判断や意思決定などのスピードが遅くなることがあります。

スタートアップ企業では、トップの意思決定がすぐに全社員に伝わり即行動が開始されますが、規模が大きくなると社員や部署が増えて、組織にも階層ができますから、トップの意思決定がすぐに伝達されなくなってしまいます。

途中の階層の多くの人の承認が必要になったり、融通がきかなくなったりすると、変化の速い社会に乗り遅れてしまう可能性があります。

ビジネスのスピードが遅くなることによって、機会逸失などの損失につながることもあります。

【2】コミュニケーション不足にならないか?

規模が大きくなって人数が増えてくると、意思疎通が図りにくくなることがあります。

スタートアップの時期には、トップの意向がすべてのメンバーに行きわたり、スムーズに進められていたことでも、規模が大きくなって人数が増え階層が増えることによって意思疎通が図れなくなり、最悪のケースでは間違ったことが伝わってしまう可能性も出てきます。

前項のようにスピードが低下することも問題ですが、間違ったことが伝わってしまうことも非常に深刻な問題になります。

【3】分業化が進み全体が見えにくくならないか?

企業の規模が拡大すると、社員が増えるため分業化が進むことになります。

スタートアップ時や小規模のころには、一人一人がすべてのプロセスに関与していたため全体を見ることができましたが、分業化が進むとそれぞれの担当のプロセスだけを見るようになって、全体が見えなくなってしまいます。

また、自分の担当ではない仕事には無関心になり、他人が自分の仕事に口出しすることを嫌うようになったりすることもあります。

【4】売るための仕組みは整っているか?

製造業は大量生産により「スケールメリット」が得られやすい業種ですが、生産したものが売れなければ売り上げは上がらず「スケールメリット」を生かすことはできません。

販路や販売チャネルの拡充とともに、売るための仕組みを整える必要があります。

売るための仕組みを整備せずに、販路だけを拡大して生産量を増やしても、それが販売できなければ在庫となって残ってしまい、経営を圧迫することになります。

想定した「スケールメリット」を得られないばかりか「スケールデメリット」となってしまう可能性があります。

【5】仕入先の供給能力には問題はないか?

小売業や飲食業、製造業が「スケールメリット」を狙って規模を拡大するためには、仕入れ商品や食材、原材料などが順調に供給されなければ行き詰ってしまいます。

自社の規模拡大だけではなく、取引先、特に仕入れ先の供給能力を考慮しておくことも大切です。

仕入先を複数確保することによってリスク分散を図ることもできますが、この場合は品質に差が出ることもありますので注意が必要です。

【6】事業や企業買収先の企業に将来的にリスクになるようなことはないか?

スケールメリットを狙って事業規模を拡大する方法の一つとしてよく活用されているのがM&Aによる事業・企業買収です。

例えば、全国展開をする飲食チェーンがスケールメリットを狙ってさらに店舗数を増やすために同じく全国展開する飲食チェーンの会社を事業・企業買収するなど、事業を自社のみで拡大するよりも、比較的簡単にスケールメリットの効果を得ることができます。

しかし、こういったM&Aの際には、買収先の企業のデューデリジェンスが必要不可欠です。

例えば、M&Aによる事業・企業買収後に、思わぬ負債が出てきてしまったり、最悪の場合には多額の損失につながってしまう可能性もあるため、しっかりとデューデリジェンスを行う必要があります。

デューデリジェンスは一般的に企業の決算資料や保有資産などに関する資料など資料ベースで行いますが、近年注意すべきと言われてきているのが、企業の社長や役員などの犯罪歴や訴訟歴、また反社会的勢力との繋がりの有無、企業の周りや取引先からの評判などです。

こういった情報はなかなか数字や書面では分からない項目ですが、M&A後にこれらが発覚してしまうと、企業のブランドイメージを大きく損なってしまったり、その他よからぬトラブルに発展してしまう可能性があります。

こういったケースも考え、事業・企業買収によるスケールメリットを目指すのであれば、決算資料や保有資産に関する資料ベースのデューデリジェンスだけではなく、実態を含めたデューデリジェンスを行っておきましょう。

基本的なデューデリジェンスはM&Aサポートを行うような企業などに、こういった社長や役員の犯罪歴や反社チェック、企業の周りからの評判や、企業の実態など、個人情報などを含む調査については、探偵事務所に依頼するのがおすすめです。

スケールメリットの注意点やデメリットをきちんと理解しておくことが大切!

この記事では、ほとんどすべての業種において効果をもたらす「スケールメリット」について、事例を挙げながら説明しました。

経営効率化・コスト削減・生産量の拡大などの効果が得られる「スケールメリット」ですが、注意すべき点やデメリットがあることも紹介しました。

規模を拡大することによってコストダウンなどの「スケールメリット」が得られる一方で、意思決定や判断のスピードが遅くなったり、コミュニケーション不足で意思疎通が図りにくくなったり、M&A後に思わぬトラブルに巻き込まれるなど、注意点すべき点やデメリットもありますので、きちんと理解しておくことが大切です!

特にM&Aをする際には、M&Aサポート会社など一般的なデューデリジェンスだけではなく、探偵事務所による、企業や役員など個人の経歴や、企業の実態などもしっかり行い、リスクがないかを確かめましょう。

探偵事務所SATでは、個人情報や反社チェックなどに関する買収相手先のデューデリジェンスの相談を承っております。

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