つきまとわれたり、しつこいメールを送られたり、脅迫されたり…。そんなストーカー行為に心身ともに傷つけられた被害者が、しかるべき罰を与えてほしい、傷ついた分だけ慰謝料を払ってほしいと考えるのは当然です。

一般的にストーカーを罰するためには刑事告訴、慰謝料をとるためには民事訴訟を起こすことになります。

しかし何の準備もせずに告訴や訴訟を起こしても、まず望んでいるような結果は得られません。正しくストーカーを裁いてもらったり賠償命令を出してもらったりするためには、それだけの証拠と手続きが必要です。

この記事ではストーカー事件の法的手続きのために必要な証拠とその集め方、そして裁判までの流れについて解説します。

ストーカー被害と認められる条件とは?

ストーカーを取り締まるためにストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)という法律があります。本来であれば軽犯罪として軽い罰しか与えられなかったストーカー行為が、この法律によって厳罰化され、かつ被害の小さい初期段階で取り締まれるようになりました。

まずは受けた被害がこのストーカー規制法で定められたストーカー行為に当てはまらなくては、刑事でも民事でも重い罰を与えたり相応の慰謝料をとったりすることは難しいです。

ストーカー規制法における「つきまとい等」にあたる行為

  • つきまとい・待ち伏せ・押しかけ・うろつき等
  • 行動監視をしていると告げる行為
  • 面会・交際等の要求
  • 著しく粗野・乱暴な言動
  • 無言電話、拒否後の連続電話、ファクシミリ、電子メール・メッセージの送信等
  • 汚物などの送付
  • 名誉を傷つける事項の告知
  • 性的羞恥心を害する事項の告知

以上8つの項目に当てはまる行為がストーカー規制法において「つきまとい等」とされ、これらが繰り返し行われることでストーカー行為とみなされます。またつきまとい等を行う動機が恋愛感情やそれに基づく恨みであるというのも、ストーカー行為と認められるための要件です。

つまりストーカー事件として訴えるためには、刑事でも民事でもこれらの「つきまとい等」が繰り返し行われたことを示す証拠が必要となります。

ストーカー行為と認められるための証拠

  • 「つきまとい等」にあたる行為が繰り返し行われている
  • 犯人が「つきまとい等」を行う動機が恋愛もしくは恋愛に基づく恨みの感情である
  • 被害者が拒否しているのに「つきまとい等」が繰り返される

ストーカーを刑事告訴する方法

刑事告訴とは、被害者あるいは被害者の親族が、警察に告訴状を提出して犯人に対する処罰を求めることです。必須ではありませんが、大抵の場合被害者側は弁護士など専門家の力を借りて告訴状を作成し提出します。

刑事告訴から刑事裁判までの基本的な流れ

  1. 被害者か被害者の親族が警察に告訴状を提出
  2. 警察による捜査と犯人(被疑者)の逮捕
  3. 警察が犯人(被疑者)を検察官に送致
  4. 検察官・検事による取り調べ
  5. 起訴・不起訴など犯人の処分の決定
  6. 起訴されれば刑事裁判が行われ、有罪・無罪と量刑が決定

もっと細かく過程を分けることもできますし、5で起訴・不起訴以外の処分が下される場合や、6で決着せず控訴・上告に発展する場合もあります。

またストーカー行為罪は非親告罪なので、被害者本人やその親族による告訴がなくても検察官が公訴することもできますが、この項では被害者側の刑事告訴から始まるパターンを想定しました。

ストーカー被害を警察に訴えたらどうなる?

ストーカー被害を訴えるといっても、最初から刑事告訴したところで望み通りの結果が得られることは稀です。なぜなら「つきまとい等」が繰り返し行われたという証拠はすぐには集まらないからです。

法的手段を視野に入れる場合でも、ストーカー行為(つきまとい等)が始まった初期段階から警察に相談し、状況に合わせた対処をとってもらうことになります。

警察にストーカー被害を訴えた場合にできる対処

被害届:
被害者が被害の内容を警察に申告する書類。被害を受けた証拠となり、これが受理されることによって警察による犯人(加害者・被疑者)へのはたらきかけが可能になる。
警告:
すでにストーカー行為が行われており、さらに繰り返される恐れがある場合に、警察本部長等が「これ以上のストーカー行為を行ってはならない」旨を加害者に告げること。加害者にストーカーであるという自覚を促す意味合いもあり、これでストーカー行為をやめる者も多い。
禁止命令:
都道府県公安委員会による加害者への禁止命令。接触禁止命令のほか、つきまとい等を防止するための具体的な命令も含む。違反すれば逮捕され、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される。
刑事告訴:
ストーカー規制法やその他の刑法に触れる犯罪行為に対し刑事罰を求めること。有罪になれば1年以下の懲役または100万円以下の罰金。

必ずしも被害届から警告、禁止命令と段階を踏む必要はありません。しかしストーカー行為が緊急手段の必要性を認められるには時間がかかることが多く、刑事告訴に踏み切るまでに、警告や禁止命令でストーカーを制しつつ出方を見ることになりがちです。

また禁止命令を経て有罪となった場合の方が、刑事罰が重くなります。犯人に厳罰を望むのであれば、段階的に対処してもらう意味はあります。しかしストーカー被害は何かのきっかけでエスカレートし、取り返しのつかない事態にもなりかねないため、無駄な引き延ばしはおすすめできません。

暴行・傷害による現行犯逮捕ができればいいのですが、なかなかそううまくはいきません。着実にストーカー被害の緊急性を示す証拠をそろえて、刑事告訴を目指しましょう。

ストーカーを刑事告訴するための証拠・要件

刑事裁判で犯人の有罪・無罪や量刑を決定するための捜査をするのは警察であり、原告(裁判を起こす被害者側)に証拠を集める義務はありません。

しかしストーカー行為は暴行・傷害などとは異なり、当事者以外には被害の程度がわかりづらいものもあります。そのためストーカーを刑事告訴するには、警察や検察官が客観的にストーカー行為だと判断できるだけの証拠が必要なのです。

証拠がなくても告訴状が受理される場合もありますが、それでは犯人が適正に裁かれません。最低でも犯人の特定、ストーカー被害の物的証拠、拒否してもストーカー行為を繰り返し行われた証拠がそろっていなくては、刑事裁判を起こす意味はないと思ってください。

刑事告訴でストーカー行為の証拠となるもの

■相手からの贈り物・手紙・メールや通話の履歴など:
ストーカー行為の物的証拠。現物が残せなければ写真に撮る。
■相手からの脅迫や暴言の録音:
ストーカー行為の証拠であり、声紋鑑定から犯人の特定もできる。
■ストーカー行為の録画・写真:
ストーカー行為の証拠として最も有力。犯人の顔や体つきがはっきりわかるものだとなお良い。
■犯人の住所・氏名・年齢・勤務先などの情報:
犯人がどこの誰なのか特定されていれば警察が動きやすい。
■ストーカー被害の内容と日時などの記録:
相手にされたことだけでなく自分の対応も記録し、「拒否してもストーカー行為が繰り返された」ことを立証する。
■目撃者の証言:
ストーカー行為に関する客観的な情報。思い込みやただの痴話げんかでないことを証明。
■警察への相談実績:
公的な記録となり、証拠能力として強力。

刑事裁判から民事での解決を図る「損害賠償命令制度」

刑事裁判で有罪判決が出た後で、引き続き損害賠償請求についての審理を行う損害賠償命令制度というものもあります。刑事裁判中に損害賠償命令の申し立てを行えば、刑事裁判と同じ裁判官が引き続き損害賠償についての審理に入ります。ちなみに申し立て手数料は一律2,000円です。

交通事故などの過失犯は損害賠償命令制度の対象外ですが、ストーカーは故意犯なので対象となります。ただし死傷、または逮捕監禁や誘拐などの重い罪にしか適用されません。

この制度のメリットは、何より刑事裁判の証拠を利用できるために自分で準備しなくてはならない証拠が軽減されることです。しかも損害賠償命令は民事裁判の確定判決と同一の効力があります。

新たに民事訴訟を起こすより負担が軽いので、刑事裁判に発展した場合は損害賠償命令制度を利用することも考えてみてください。また損害賠償命令の申し立てが却下されてから、民事裁判で争うこともできます。

ストーカー被害で民事訴訟を起こす方法

民事訴訟は個人間のトラブルを法的に解決する手続きです。原告(訴える側・被害者)が裁判所に被害を訴え、裁判官が原告と被告(訴えられる側・加害者)の言い分や証拠から、解決法を決定します。

判決は主に金銭的な賠償命令になりますが、ストーカー行為をやめなかった場合の罰則(罰金など)を定めることもできます。

民事裁判の大まかな流れ

  1. 被害者本人あるいは代理人(原告)が裁判所に訴状を提出
  2. 訴状が受理されれば第1回口頭弁論期日を決定
  3. 被告に訴状が届き訴訟成立
  4. 被告が答弁書を作成し、送付
  5. 第1回口頭弁論
    訴状の内容を確認・次回口頭弁論の日程を決定
  6. 第2回以降の口頭弁論で双方の言い分と証拠を審議
  7. 判決
    判決に不服があれば控訴・上告

関連記事:裁判所|民事訴訟

ストーカーを民事裁判で裁くメリット

一般的に民事訴訟を起こすメリットは、判決にせよ和解にせよ、法的効力のある判決を得られることです。賠償金が支払われないなどの反故があれば強制執行ができますし、一度解決した案件について再び訴訟を行うことは原則的にできません。

しかし主に賠償金について争う民事裁判で、ストーカー問題は解決できるのでしょうか。しかも民事訴訟を起こせば、相手に自分の住所を知られることになります。つまり実質引っ越ししなくてはならないわけで、それでも民事訴訟を起こすメリットとは?
※(訴状の原告住所は弁護士事務所などでも認められる場合もあります)

賠償金をとれば解決というわけではありませんが、ストーカー問題で民事訴訟を起こすメリットはあります。それをひとつずつ説明します。

ストーカーに大ごとであると認識させる

ストーカーは正常な判断力を失っている場合がほとんどです。しかし「裁判」「賠償金」という現実的な言葉を突きつけられれば、冷静になる可能性があります。

実際ストーカーは警察が警告を行えばストーカー行為をやめることが多く、これも警察の介入によって、自分のしていることを客観的に判断できるようになるためです。民事訴訟にも同じような効果があります。相手が冷静になったなら、裁判で最後まで争わず和解しても構いません。

つまり警察がなかなか介入できない場合や早めに決着をつけたい場合は、民事訴訟を起こしたり民事訴訟を起こす旨の内容証明を送ったりという方法は有効なのです。

ストーカーの資金源を断つ

ストーカーに賠償金を支払わせることで、ストーカー行為の資金源を断つことができます。

ストーカー行為から逃げるために遠くへ引っ越しても、違法な調査会社などを使って住所を調べたり、車でつけ回したりされては意味がありません。しかしそのようにしつこく付け回すことができるのは、充分な資金があるからです。資金がなければストーカー行為は縮小せざるを得ません。

また民事訴訟では引っ越し費用も相手に支払わせることができます。

被害を損害賠償で補填できる

ストーカー行為をやめさせるには警察に適切な対処をしてもらうのが一番ですが、それではストーカーに受けた被害を補填させることはできません。

損害賠償を請求するには、民事訴訟を起こす必要があります。そして上でも述べたとおり、民事裁判の判決には法的な効力があるため、判決どおりの賠償金額を強制執行で取り立てることも可能です。

裁判の途中で訴訟を取り下げて和解する方法もありますが、和解の際に作成された和解調書にも判決と同じ効力があります。和解の大きなメリットは裁判よりも多額の賠償金を得やすいこと、時間の短縮と費用の軽減などです。

また和解すればはっきりと白黒つけずに済むため、後に余計な恨みを生まないなどの理由から日本人の価値観に合っているともいわれています。

ストーカーの民事訴訟のために必要な証拠

民事訴訟は相手の罪の重さを量るのではなく、被害の程度から賠償金額と賠償内容を決定するための法的手続きです。適切な賠償を得るためには、ストーカー行為が行われた証拠に加えて、被害の程度を示す証拠が必要となります。

民事訴訟でストーカー行為の証拠となるもの

■相手からの贈り物・手紙・メールや通話の履歴など:
ストーカー行為の物的証拠。現物が残せなければ写真に撮る。
■相手からの脅迫や暴言の録音:
ストーカー行為の証拠であり、声紋鑑定から犯人の特定もできる。
■ストーカー行為の録画・写真:
ストーカー行為の証拠として最も有力。犯人の顔や体つきがはっきりわかるものだとなお良い。
■犯人の住所・氏名・年齢・勤務先などの情報:
訴訟を起こす際に犯人の特定は必須。
■ストーカー被害の内容と日時などの記録:
相手のストーカー行為だけでなく自分の対応も記録し、「拒否してもストーカー行為が繰り返された」ことを立証する。慰謝料の根拠とするため、通院や被害を受けたときの気持ちなども記録しておくとよい。
■目撃者の証言:
ストーカー行為に関する客観的な情報。思い込みやただの痴話げんかでないことを証明。
■警察への相談実績・被害届:
公的な記録となり、民事裁判でも有効。

これらが多ければ多いほどいいのは当然ですが、ストーカー行為の内容がひどい、回数があまりに多いなどが証明できれば、被害者の健康被害との因果関係も証明されます。記録なども刑事裁判用のものより詳細につけてください。

被害の程度を示す証拠

壊されたもの:
ガラスを割られた車、壊された自宅のドア・鍵穴・ポストなどの物理的被害がわかるもの。できるだけそのまま保管し、無理であれば写真に撮る。
医師の診断書・領収書:
相手の暴行によるけが、精神的な健康被害などの診断書。治療費とともに慰謝料をとるために必要。家族などにも被害があればその分も。
その他の経費の領収書:
引っ越し費用、壊されたものの修繕費など。

刑事告訴・民事訴訟のためにストーカーの証拠を集める方法

刑事にせよ民事にせよ、望む結果を得るために何より大事なのは証拠です。裁判を起こすつもりなら、あらゆる手段を使って万全の証拠を集めて臨みましょう。

自分で証拠を保管する・記録する

ストーカー被害の証拠は、自分で集められるものや自分にしか集められないものが多いです。

自分で集める証拠

  • 犯人が残していった手紙や贈り物
  • 着信・メールの履歴
  • 被害の記録(相手の暴言や直接の会話の録音も含む)
  • 診断書
  • 領収書

相手の暴言や直接の会話をいつでも録音できるように、レコーダーを持ち歩いてください。

ただし犯行の写真や動画をとったり、身元のわからない犯人の調査をしたりするのは危険なのでやめてください。相手は何をするかわからないストーカーです。普通の嫌がらせよりも慎重に接する必要があり、本人が接触するのは最大の悪手です。

探偵に依頼する

ストーカー行為を証明するには、やはり犯行現場の録画や写真が一番です。しかしこれは本人にはもちろん、素人にはなかなか集めることができません。余計なトラブルに発展するのを避けるためにも、こういった証拠集めはぜひ探偵に依頼してください。

また犯人が誰かわからない場合にも、探偵なら張り込みや行動調査で突き止めることができます。警察に動いてもらうにも民事訴訟を起こすにも、犯人の特定は必須です。

探偵ができるストーカー調査

  • 証拠写真・動画の撮影
  • 張り込み・行動調査による犯人の特定
  • 声紋・指紋鑑定
  • 盗聴器発見調査

盗聴器発見調査は、ストーカー被害の初期段階でも犯人を特定する有力な手掛かりになることがあります。何となくつけられているような気がする、どことなく部屋の様子がおかしいというような漠然とした不安のあるときにも依頼を検討してください。

ストーカー問題における告訴・訴訟の意義

ストーカー被害を解決するには、警察に訴えてストーカー規制法で取り締まってもらうのが一番です。警察からの警告を受けた時点で、多くのストーカーがストーカー行為をやめることもあり、示談に応じて適正な損害賠償が支払われることもあります。

しかしそれでは解決しなかった場合に、刑事告訴や民事訴訟が必要となります。そして裁判で争うならば、相手の罪と被害のひどさを証明できる証拠がなくてはなりません。

しかし逆に言えば、徹底的に相手の罪を暴き望み通りの損害賠償を得るためには、万全の証拠をそろえて裁判を起こせばいいということです。犯人の特定、ストーカー行為が行われた証拠、被害の程度を示す証拠。どちらも自分だけで集めるのは無理ですが、そのために探偵がいます。裁判を視野に入れるなら、できるだけ早く相談してください。