【投稿日】 2023年3月7日 【最終更新日】 2023年3月24日

2020年の初めから、国内における新型コロナ感染症の流行が拡大しました。

コロナ禍により売上げや利益が激減する企業が急増し、政府は対策として無利子無担保の融資(ゼロゼロ融資)などを実施しました。

当初は、これらの迅速な支援策の実施が評価されましたが、最近では「ゾンビ企業」を温存させる要因となったのではないかという指摘が出てきています。

そこで今回は、「ゾンビ企業」とは何か、本当にコロナ禍によって「ゾンビ企業」は増えたのか、そして今後「ゾンビ企業」は倒産の可能性はあるのか、などについて解説します。

そもそもゾンビ企業とは?

「ゾンビ企業」とは、業績悪化により経営が破綻状態にあるにもかかわらず、金融機関や政府などの支援によって存続し続けている企業のことをいいます。

もともと、「ゾンビ(Zombie)」とは、西アフリカやカリブ海一帯で「ヴードゥー教における『死体のまま蘇った人間』」のこととされていました。

その後、ホラー映画などにゾンビが登場するようになり、一気に広まりました。

さらに日本では、バブル崩壊後の1990年代後半に「ゾンビ企業」という言葉が生まれ、現在では一般に浸透しています。

コロナ禍で倒産件数は増えたのか?減ったのか?

コロナ禍で、売上げや利益が激減する企業が急増したのであれば、今現在では倒産する企業が急増しているはずです。

そこで、実際はどうだったのか、信用調査会社2社のデータを引用しながら、以下で解説します。

帝国データバンクによる倒産件数の推移

まず、帝国データバンクが公表している資料によると、コロナ禍前後の2019年~2022年までの「倒産件数」は、次の通りとなっています。

倒産件数 前年比
2019年 8,354件 +3.6%
2020年 7,809件 ▲6.5%
2021年 6,015件 ▲23.0%
2022年 6,376件 +6.0%

引用元:帝国データバンク「全国企業倒産集計2022年報」

このデータから分かることは、2019年に8,354件だった倒産件数は、コロナ禍が始まった2020年には7,809件(前年比6.5%減)、2021年には6,015件(前年比23.0%減)にまで減少したという事実です。

そして倒産件数は、直近の2022年で増加に転じて、6,376件(前年比6.0%増)になったということも分かります。

東京商工リサーチによる倒産件数の推移

次に紹介する、東京商工リサーチのデータからも全く同様の傾向がわかります。

コロナ禍が始まる前の2019年~2022年までの「倒産件数」は、次の通りとなっています。

倒産件数 前年比
2019年 8,383件 +1.8%
2020年 7,773件 ▲7.3%
2021年 6,030件 ▲22.4%
2022年 6,428件 +6.6%

引用元:東京商工リサーチ「年間 全国企業倒産状況」

このデータからも、2019年に8,383件だった倒産件数は、コロナ禍が始まった2020年には7,773件(前年比7.3%減)、2021年には6,030件(前年比22.4%減)と年々減少していたものの、2022年には6,428件(前年比6.6%増)の増加に転じたことが分かります。

コロナ禍の倒産件数について推測できること

帝国データバンクと東京商工リサーチの倒産件数データから推測できることとして、次の3点が挙げられます。

  • 政府が2020年から実施した新型コロナ支援策「ゼロゼロ融資」などの効果によって、倒産件数が減少した
  • もしコロナ禍がなければ2020年や2021年に市場から淘汰されていたはずの「ゾンビ企業」が、政府の新型コロナ支援策によって延命された
  • 新型コロナ支援策が終了し、各種融資への返済が始まった2022年になって、返済に行き詰まった「ゾンビ企業」の倒産が増加してきた

コロナ禍でゾンビ企業は増えたのか?

信用調査会社2社による「倒産件数の推移」データから、コロナ禍において倒産件数が減少していたことが分かりました。

データからは、「政府による新型コロナ支援策によって、本来倒産しているはずの『ゾンビ企業』が延命されているのではないか」と推測することができます。

以下からは、この推測に対する答えとなる調査結果について、データを交えながら解説します。

帝国データバンクによるゾンビ企業の調査

ここで紹介するデータは、帝国データバンクによる自社保有の企業データベースの中から、国際決済銀行(BIS)による「ゾンビ企業」の定義に該当する企業を抽出するという同社の調査結果です。

まず、国際決済銀行(BIS)による「ゾンビ企業」の定義について簡単に説明します。

国際決済銀行(BIS)では、次の2つの条件を満足する企業を「ゾンビ企業」と定義しています。

条件1 支払能力要件 3年以上にわたって「ICR<1」
条件2 成長性要件 「設立10年以上の企業」

「ICR」とは企業の信用力を評価するための財務指標の一つで「インタレスト・カバレッジ・レシオ(Interest Coverage Ratio)」の略です。

ICRは、次の式で表されます。

インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)=(営業利益+受取利息+受取配当金)/(支払利息・割引料)

ICRの倍率が高いほど「金利負担の支払能力が高く財務的に余裕がある」と判断されます。

そのため条件1は「該当する企業が、3年以上にわたって利払いを自社の利益で賄うことができない財務的に余裕のない状態」にあることを示すものです。

ゾンビ企業の推移

帝国データバンクの、過去15年間における「ゾンビ企業」の比率と企業数の推移は次の通りです。

ゾンビ企業比率 ゾンビ企業数
2007 13.4% 16.2万社
2008 14.9% 18.1万社
2009 17.2% 21.2万社
2010 19.4% 25.1万社
2011 19.8% 27.4万社
2012 17.0% 24.1万社
2013 14.2% 20.3万社
2014 11.3% 16.3万社
2015 10.3% 15.1万社
2016 9.9% 14.5万社
2017 10.1% 14.8万社
2018 10.0% 14.8万社
2019 9.9% 14.6万社
2020 11.4% 16.6万社
2021 12.9% 18.8万社

引用元:帝国データバンク

また、過去最も「ゾンビ企業」の比率が高かったのは2011年の19.8%ですが、これは2008年の「リーマンショック」、2009年12月の「中小企業金融円滑化法施行」によるものです。

コロナ禍における「ゾンビ企業」の比率は、まだ2011年のレベルには達していませんが、表からは2020年の11.4%が2021年には12.9%となり1.5ポイント増加していることが分かります。

同様に、2021年の「ゾンビ企業」の数は約18.8万社であり、2020年度の16.6万社から2.2万社増えており、2020年以降のコロナ禍によって「ゾンビ企業」が増えていると確認できるといえます。

ゾンビ企業が多い業種

帝国データバンクの調査における最新の2021年データでは「ゾンビ企業」が多い業種として、「小売業」の19.5%、「運輸・通信業」の17.2%、「製造業」の14.4%が挙げられています。

小売業、運輸・通信業、製造業におけるゾンビ企業比率は業種全体のトップ3であり、業種全体におけるゾンビ企業比率の12.9%を上回っています。

業種 ゾンビ企業比率
1位 小売業 19.5%
2位 運輸・通信業 17.2%
3位 製造業 14.4%

ゾンビ企業が多い企業規模

帝国データバンクの調査結果によると「ゾンビ企業」が多い事業規模は、従業員数が「5人以下」の企業が18.4%、従業員数が「6~20人」の企業が14.4%と、それぞれ企業全体におけるゾンビ企業比率の12.9%を上回っています。

「企業規模ごとのゾンビ企業比率」は、以下の表の通りです。

サービス業 従業員数 ゾンビ企業比率
1位 5人以下 18.4%
2位 6~20人 14.4%
3位 21~50人 11.6%
4位 51~100人 8.6%
5位 101~300人 6.2%

上記表からは、従業員数が増加すると「ゾンビ企業」の比率が低下する傾向にあることが分かります。

日本銀行から公表されたゾンビ企業に関する研究論文

コロナ禍における「ゾンビ企業」についての研究・調査データとして他に、ゾンビ企業数の推移やゾンビ企業が多い業種について示された「日本銀行のワーキングペーパー」についても紹介します。

この論文では、下記のデータベースを用いることで「国際決済銀行(BIS)による『ゾンビ企業』の定義」に「条件3」を追加し、大企業と中小企業における「ゾンビ企業に該当する企業」を抽出しています。

大企業 日本政策投資銀行「企業財務データバンク」
および日経NEEDS-Financial QUEST
対象企業:東証一部・二部上場の約2,300社
中小企業 中小企業信用リスク情報データベース
(Credit Risk Database; CRD)
対象企業:約100万社
条件1 支払能力要件 「ICR<1」
条件2 成長性要件 「企業年齢10年以上」
条件3 金利要件 「支払金利<貸出約定平均金利(ストックベース)」
または「今期の借入金>前期の借入金」

引用元:企業金融支援と資源配分―研究の潮流と新型コロナウイルス感染症拡大後の動向―企業金融支援と資源配分――研究の潮流と新型コロナウイルス感染症拡大後の動向

データ抽出においては、3年連続で条件1~3を満たす場合(3年連続基準)と、単年のみ条件を満たす場合(単年基準)に分けるという方法がとられています。

条件3は「支払金利が貸出約定平均金利を下回ること」または「借入金が前期より増加していること」を示しており、条件3が追加されることにより「ゾンビ企業」とみなされる条件が複雑になるため、結果的に抽出されるゾンビ企業数は少なくなります。

ゾンビ企業の推移

日銀の研究論文によると、大企業の「ゾンビ企業」比率について、2020年は「3年連続基準」だと増加がなく、「単年基準」では急上昇していることが分かりました。

中小企業における2020年のゾンビ企業比率についても、「3年連続基準」では増加がなく、「単年基準」では急増しており、「ゾンビ企業」の比率は大企業よりも中小企業の方が高いことが確認できました。

ゾンビ企業が多い業種

日銀の研究論文によると、大企業と中小企業のいずれも、2020年におけるゾンビ企業が多い業種は「宿泊・飲食サービス業」でした。

2020年における各業種を単年基準で抽出すると、感染症の影響を強く受けた「宿泊・飲食サービス業」にゾンビ企業化が多くみられていることが分かります。

コロナ禍でゾンビ企業が増えたことが分かった!

帝国データバンクと日本銀行の調査結果から、次の3点が分かりました。

  • 2020年からのコロナ禍によって「ゾンビ企業」が増加している
  • 「ゾンビ企業」が多い業種は、「小売業」「運輸・通信業」「宿泊・飲食サービス業」など
  • 「ゾンビ企業」は規模の小さい(従業員数の少ない)企業に多い

コロナ関連融資を受けたゾンビ企業に倒産の可能性がある!

今回は、公開されている倒産情報を利用した統計結果や、コロナ禍における「ゾンビ企業」の調査結果などを引用して、本当にコロナ禍によって「ゾンビ企業」は増えたのか、今後「ゾンビ企業」の倒産の可能性はあるのかなどについて解説しました。

分かったこととしては、政府の新型コロナ支援策によって「ゾンビ企業」が延命された可能性が高いということです。

さらに、支援策などで受けた融資の返済が始まった2022年ごろからは、倒産する「ゾンビ企業」が増加している傾向がみられたことも挙げられます。

倒産件数も「ゾンビ企業」の比率も、リーマンショック後の状況に比べればまだ低いレベルです。

しかしながら新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響は、全世界が共通して受けています。

そのため、取引先がゾンビ企業となっていないか、といった注意はこれからも払い続ける必要があります。

ゾンビ企業に関する調査なら探偵事務所SATまで

コロナ禍によって、緩和された条件の融資や助成金、補助金、給付金などが多数交付されました。

また、融資条件や金額も大幅に緩和されました。

そのため通常であれば破綻しているにも関わらず存続している、ゾンビ企業の数は確実に増えています。

そういった企業と取引をしてしまうと、コロナ禍における助成金や補助金、給付金、コロナ融資などの恩恵がなくなった瞬間に倒産してしまう可能性が高くなります。

特に重要な案件であったり、大きな金額の取引を行う場合には、まずは取引先がゾンビ企業ではなく、真っ当な事業を行っている会社であることや、信用調査、動向調査などを行っていくことが重要です。

探偵事務所SATでは、そういった企業の信用、動向調査を承っております。

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