【投稿日】 2019年11月19日 【最終更新日】 2021年10月21日
仕事に対する多様性が生まれた現代では、会社を転職することも珍しくなくなってきました。仕事のスキルが高い人材をスカウトするヘッドハンティングも、転職のきっかけとして認識されています。
しかし、元の会社に明らかな打撃がある場合、必ずしも合法的なヘッドハンティングが行われたとは言えません。特に、元社員・退職者による悪質な引き抜きは、場合によっては違法性を指摘して訴えることも出来ます。
では、違法なヘッドハンティングとは、一体どのようなものなのでしょうか。確認するべきポイントを押さえながら、違法なヘッドハンティングや社員の引き抜きを訴える方法について、詳しく解説していきます。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
元社員・退職者によるヘッドハンティングや引き抜きが違法となるケースとは
まず最初に、ヘッドハンティングや引き抜きが違法となるケースをみていきましょう。ヘッドハンティングの違法性は、一言で言うと元の会社にどのような影響が出たかがカギになります。実際に起こった判例を元に、違法なヘッドハンティングや引き抜きとなるポイントについて解説していきます。
社会的にみて悪質だと判断されるかどうかがポイント
とても曖昧な表現なのですが、ヘッドハンティングや引き抜き行為が違法と判断されるかどうかは、社会的にみて悪質だと判断されるかどうかがポイントとなります。実際に違法と判断された判例を元に、具体的な違法性をみていきましょう。
東京学習協力会事件
とある進学塾の講師2人が、元々勤めていた塾の講師複数人に声を掛けて、自身の開設した塾に引き抜きをした事件。前職の塾で入手した生徒の情報を元に勧誘の書類を送ったり、前職の塾に近い場所で塾を開業したことで損害賠償を請求され、東京地裁は損害賠償を認める判決を出した。
ラクソン事件
元会社に不満を持っていた取締役が、退職前から競合会社と接触して計画的に社員の大量引き抜き、元会社に多大な経済打撃を与えた事件。社会性を大きく逸脱した引き抜き行為でるとして、東京地裁は被告に対する損害賠償を認めた。
モデル事務所の大量引き抜き事件
大手モデル事務所の元取締役が、自身が設立した新会社にモデルを大量に引き抜いた事件。
あまりに多い人数と勧誘が問題視されると認定され、東京地裁が被告に対し賠償命令を出した。
上記三件の判例で共通しているのは、以下の点です。
- 元の会社の損害を一切考えていない行為であること。
- 大人数の引き抜きで社会的に見て違法性を感じる行為であること。
- 計画的で違法性を感じる行為であること。
ヘッドハンティングや引き抜き行為自体には、何の違法性もありません。しかし、判例でご紹介したように、引き抜きの方法や引き抜きの人数によっては社会的視点から違法と捉えられ、被告側に損害賠償請求が認められることもあります。
しかし、その違法性を判断するためには、立証できるだけの証言や証拠が必要です。勧誘で多くの社員が辞職し仕事に影響が出たとしても、社員が自発的に辞めたのであればそれを訴えても却下される可能性があるからです。
もしヘッドハンティングや元社員による引き抜き行為で、上記のような社会的視点から違法と判断されるような被害を受けた場合は、その違法性を立証できる証言や証拠集めを行うようにしましょう。
ヘッドハンティングや引き抜き行為の違法性は証拠で左右される
ヘッドハンティングや元社員による引き抜き行為は、そのほとんどが日常業務の水面下で行われます。そのため、事前に証拠や証言集めをすることは難しく、自力での証言や証拠集めは難しいのが現状です。
特に、計画的な引き抜き行為の場合、元会社への被害をある程度予測して動いていますので、口止め行為や証拠隠滅など用意周到に行われることも少なくありません。実際に集めなければならない証拠としては、以下のような項目が挙げられます。
悪質な計画性があったという証拠
悪質な計画性とは、元社員と競合会社が手を組んで社員の引き抜き行為を行なったり、社員が一斉に辞めるように仕組むといった行為です。大規模な計画の場合調査対象が広くなり、自力での調査が難しくなります。
会社の機密情報や顧客情報を持ち出したという証拠
会社独自の機密情報や顧客情報の持ち出しを条件に、高待遇での受け入れをちらつかせて引き抜きをするなどの行為を立証するための証拠です。直接的な証拠が掴みにくいため、調査の難易度も高くなります。
明らかに元会社への妨害を意識していたという証拠
ヘッドハンティングや引き抜きをした元社員が、元会社への妨害を意識していたことを立証するための証拠です。例えば、元会社とかなり近い場所に新会社を設立したり、意図的に元会社の顧客を勧誘するといった行為がこれにあたります。調査範囲が広く聞き込み人数も多いので、自力での調査は厳しくなります。
これらの例から言えるのは、ヘッドハンディングや引き抜き行為の違法性を立証する証拠は、集めるのが非常に難しいということです。周囲からの証言や社内に残っている証拠集めなら可能ではありますが、裁判で相手に請求するためには、確実性のある証拠がどうしても必要となります。
このような状況になった会社の多くは、調査そのものを探偵事務所に相談しています。調査のプロという立場からアドバイスを貰うほか、調査そのものを相手に気づかせないようにするためにも大変有効な手段です。
違法なヘッドハンディングの調査を探偵に依頼するメリット
違法なヘッドハンティングを訴えることは、元会社にとって当然の権利です。しかし、正当性を証拠として示さなければ、逆に相手に訴えられる可能性があります。つまり、訴える側もリスクを背負うことになるのです。
訴える側がリスクを回避するためには、次の項目が重要な確認事項となります。
- 違法性の確認
- 訴える相手の確認
- 因果関係の確認
そして、確認をするためには次のような調査をしなければなりません。
- ヘッドハンティングが違法であったことを立証する証拠を集める。
- 疑っている相手が違法なヘッドハンティングを行ったことを立証する証拠を集める。
- 違法なヘッドハンティングが元会社の損害に繋がっていることを示す証拠を集める。
これらの条件がすべて揃った時、ようやく訴える側のリスクを回避することができます。しかし、自力調査でこの条件を揃えるためにはかなりの調査技術や時間が必要なので、見落としや準備不足になる経営者も少なくありません。実際に、準備不足で相手を訴えたために次のようなリスクを背負ったケースもあります。
- 証拠の裏付けが不十分だったために裁判で負けた。
- 訴えた相手を間違っていたため逆に名誉毀損で訴えられた。
- 自分が証拠だと思って集めたものが不十分だったため、弁護士に依頼を断られた。
- 証拠集めをしていることを相手に気づかれてしまい、思うように調査できなかった。
- 調査が難しく時間がかかり、会社の損害が大きくなってしまった。
このようなリスクを回避するために必要なのが、探偵による調査です。違法なヘッドハンティングの調査を探偵に依頼するメリットとしては、次のような項目が挙げられます。
- 証拠がなくても疑っている段階で相談ができる。
- 裁判で有効となる証拠が集まる。
- 調査をしていることを相手に気づかれない。
- 調査を任せられるので日常の業務に影響が出ない。
- 問題解決へ向けた具体的な相談ができる。
違法なヘッドハンティングは水面下で行われることがほとんどなので、ふと違和感に気がついた時にはすでに話が進んでいる可能性があります。もし現段階で次のような点が気になる時には、積極的に探偵事務所に相談してみましょう。
- 退職を申し出た社員の動向がおかしい
- 退職を申し出た社員の部下や同僚の雰囲気がおかしい
- 退職前に元社員やライバル会社との接触回数が増えた
- 近い時期に退職を申し出る社員が増えた
- 取引先から噂を聞いた
- 重要機密が漏れたようだが元社員が犯人か特定できない
- ヘッドハンティング後に会社の利益が急激に落ちた気がする
ヘッドハンティングした元社員・退職者の違法性を追求するまでの流れを具体的に解説
ヘッドハンティングは引き抜き行為自体は、必ずしも違法行為になるわけではありません。しかし、その方法や社員が辞職した後の元会社の状況などによっては、民事的な請求という形で違法性を追求することができます。
では、具体的にはどのように手続きを進めれば良いのでしょうか。ヘッドハンティングした元社員の違法性を追求する方法について、順を追って解説していきます。
違法性を立証するだけの証拠や証言を集める
まず最初にやるべきことは、違法性を追求するだけの証拠や証言を集めることです。具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 元社員の言動や行動に関する音声録音や証言
- 元社員の計画に関わった人からの証言
- 辞職した元社員との話し合いの内容についてまとめたメモや誓約書
- 元社員が明らかに元会社の業務を邪魔したという証拠
- 元社員が辞職する時に嘘の理由を述べたという証拠
元社員の辞職→転職という流れは、さまざまな事情が絡んでくるためどれが決定打となるかはわかりません。しかし、逆にいえばどんな小さな証拠が決定打となるかわからないということです。
社会的に見て悪質と思われる行為は、そのほとんどが総合的に判断されます。元会社側の立場からみて、これはさすがに許されないと思う行為があった時には、それを立証する証拠を集めるようにしましょう。
ここで重要となるのが、調査方法です。先述したように、自力調査では技術も時間も必要となるので、証拠がうまく集まらなかったり訴える側がリスクを背負う可能性もあります。自力調査でも良いのですが、背負うリスクと探偵へ依頼するメリットをよく検討し、早い段階で探偵事務所に相談してみましょう。
多くの探偵事務所では無料相談の窓口を設けており、証拠が揃ってなくても気兼ねなく相談することができます。
優良な探偵事務所は守秘義務をしっかりと守るので、情報が漏洩する心配がありません。誰かに話すことで解決への道が開くこともありますので、一人で抱え込まず積極的に利用してみましょう。
相手に対してどのような請求をするのかを決める
元社員によるヘッドハンティングや引き抜き行為について、違法性を訴えて追求する方法としては、主に次にようなものが挙げられます。
競業の差止請求を行う
元社員が立ち上げた同業種の会社や、元社員が転職した同業他社に対して会社の営業そのものを停止するよう求める請求です。例としては、元社員が辞める前から同僚に声を掛け、計画的に会社を立ち上げて同僚を引き抜き元会社に大きな影響を出した、などのケースで適用されることがあります。
損害賠償請求を行う
ヘッドハンティングや引き抜き行為をした元社員に対し、元会社が受けた損害の賠償請求を行います。例としては、ヘッドハンティングや引き抜き行為で元社員が辞職した際、会社の機密情報や顧客の横取りなどをして売り上げが落ちた、などのケースで適用されることがあります。
退職金の不支給・減額・返還を請求する
嘘の理由で退職し同業他社に入社した元社員に対し、退職金の不支給や減額、返還を請求します。例としては、会社の根幹に関わる情報や技術を持った社員が、嘘の理由で退職して同業他社へ転職し、自身の持つ元会社の情報や技術を仕事で利用した、などのケースで適用されることがあります。
少し難しい内容ですが、簡単に言うと「元社員のヘッドハンティングや引き抜き行為によって受けた損害を相手に請求できるかどうか」が判断基準です。ただし、状況や集まった証拠によっては、どの請求が可能なのか判断がつかないこともあります。
もし自分では判断が難しい場合には、ひとまず集まった情報を元に弁護士に相談をして、実際に請求できるか、もしできるのであればどの訴訟が一番適切か、といった部分のアドバイスを貰うようにしましょう。
弁護士に相談して訴訟の準備をする
証拠と訴訟の方向性が決まったら、弁護士に依頼して訴訟の準備を行います。悪質なヘッドハンティングや引き抜き行為は、さまざまな要因や状況をすべて総合した上で判断されますので、個人の視点や感情だけでは理解をされないケースも多くあります。この時に必要になってくるのが、ヘッドハンティングや引き抜き行為が悪質であったことを立証する証拠や証言です。
最終的には裁判官による判断となりますので、確実な証拠や裏付けのある証言があると請求が認められやすくなります。しかし、自力で集めた証拠や証言が多数あったとしても、弁護士に相談した時に証拠としては弱いと判断されることも少なくありません。
もし自力で集めた証拠に不安がある時には、早い段階から弁護士に相談をして、裁判で有効となる証拠や証言がどのようなものなのか、具体的な例のアドバイスを貰うようにしましょう。
まとめ
元社員によるヘッドハンティングや引き抜き行為の違法性について、追求方法も交えて詳しく解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。最後にもう一度内容を振り返り、まとめていきましょう。
- 元社員によるヘッドハンティングや引き抜き行為が悪質とされるかどうかは、社会的にみて違法性があるかどうかで判断される。
- 社会的な違法性を認めて貰うためには、元社員によるヘッドハンティングや引き抜き行為の悪質性を立証できる証拠が必要となる。
- 違法なヘッドハンティングの訴訟は訴える側にもリスクがあるので、無理な自力調査はせず、積極的に探偵事務所に相談する。
- 元社員によるヘッドハンティングや引き抜き行為を追求する方法としては、競業の差止請求、損害賠償請求、退職金の不支給や減額、返還の請求がある。
- 判断が難しい場合には、ひとまず集めた証拠や証言を持って弁護士に相談し、今後のアドバイスや方向性の指示を貰う。
- 裁判に有効な証拠や証言を集めることが難しい時には、無理をせず早い段階から探偵事務所に相談し、必要なアドバイス貰ったり調査を依頼するなどの対応を行う。
転職は憲法でも定められている国民の権利ではありますが、明らかに悪意を持ったヘッドハンティングや引き抜き行為は、社会的にも認められることではありません。
しかし、計画的な行為であるほど自力で調べることが難しかったり、訴訟という大きな問題に対しどのように対処すれば良いのか悩む人が多いのも事実です。ヘッドハンティングや引き抜き行為に対して違和感や悪質さを感じた時には、弁護士や探偵事務所に相談して、適切な行動が取れるようアドバイスを求めてみましょう。
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