【投稿日】 2022年6月29日 【最終更新日】 2023年7月28日
企業価値の評価方法にはいくつかの種類がありますが、今回はその中から「コストアプローチ」を取り上げて、計算方法やメリット・デメリットについて詳しく解説します。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
コストアプローチとは?
「コストアプローチ」とは、企業価値の評価方法のひとつで、評価対象企業が保有している「純資産」をもとに企業価値を算定する方法です。
具体的には、評価対象企業の貸借対照表の「資産の合計額」から「負債の合計額」を差し引いて「純資産額」を算出し、これを企業価値とします。
「コストアプローチ」の考え方は、 「資産」や「負債」が持っているコストに着目するというもので、評価対象が企業の場合は企業全体の「資産」と「負債」、事業の場合はその事業が持つ「資産」と「負債」だけを対象にして評価します。
なお、冒頭でも触れましたが、企業価値の評価方法にはいくつかの種類があり、この「コストアプローチ」のほかに、評価対象企業の価値を「株価」や「類似企業の株価」を基準に企業価値を評価する「マーケットアプローチ」や、評価対象企業の将来の収益やフリーキャッシュフロー(fcf)を予測して企業価値を評価する「インカムアプローチ」があります。
「コストアプローチ」が他の企業価値の評価手法と違う点は、過去に発生したコストに着目した評価手法であるところであり、算定が容易で非常にわかりやすいというところです。
しかしながら、m&aの中には、m&a実行後のシナジー効果に期待するケースがあるため、このような場合には「コストアプローチ」によって算出した企業価値はあくまで参考値と考えることがあります。
ただし、企業の清算などで今後の収益が見込めない場合においては、過去に発生したコストで企業価値を評価することは合理的だと考えられます。
コストアプローチの種類と特徴、計算方法
「コストアプローチ」には、「簿価純資産法」「時価純資産法」「年買法」「清算価値法」「再調達原価法」などの種類があります。
以下、順にそれぞれの特徴と計算方法について説明します。
簿価純資産法
「簿価純資産法」とは、評価対象企業の貸借対照表における「簿価」である「資産の合計額」から「負債の合計額」を差し引いて「純資産」を算出し、これを企業価値とするという方法です。
この「簿価純資産法」は、帳簿に記載されている数値を用いるため客観性が高く、かつ簡易な方法で企業価値が計算できるというメリットがありますので、中小零細企業などの新株発行や株式売買が頻繁に行われない場合に利用されることが多い評価方法です。
しかし、「簿価」と「時価」に差額がある場合、つまり「含み益」や「含み損」がある場合には、帳簿上の「純資産」と実際の「純資産額」が異なっている可能性があることになります。
「簿価純資産法」の計算方法は、次の通りです。
時価純資産法
「時価純資産法」とは、評価対象企業の貸借対照表における「資産」と「負債」のそれぞれの項目を時価評価して合計して企業価値を算出する方法で、前項の「簿価純資産法」のデメリットを解消する方法だということができます。
つまり、評価対象企業の「資産」や「負債」に「含み益」や「含み損」がある場合には、この「時価純資産法」を用います。
原則的には全ての「資産」と全ての「負債」を時価評価すべきですが、有価証券や土地、建物など、「含み益」や「含み損」の影響が大きく、時価評価しやすい項目のみを評価替えする方法もあり、これを「修正簿価純資産法」ということもあります。
「時価純資産法」の計算方法は、次の通りです。
STEP1.「資産」と「負債」を時価評価する
次に示すような方法で、「資産の項目」と「負債の項目」を時価評価します。
全ての「資産」とすべての「負債」を時価評価することは実務上困難ですので、重要な「含み益」や「含み損」が発生している項目に限定して評価替えすることが多いようです。
資産の項目 | 時価評価の方法 |
---|---|
売掛金 | 回収不能な不良債権を控除する |
有価証券 | 上場株式は時価で評価する |
棚卸資産 | 不動在庫などの長期滞留在庫を控除する |
不動産 | 公示価格・固定資産税評価額・路線価などで評価する |
貸付金 | 回収不能額を控除する |
保険積立金 | 解約払戻金を評価額とする |
負債の項目 | 時価評価の方法 |
---|---|
未払い給与 | 未払い残業代などがあれば負債として計上する |
退職給与引当金 | 退職金の引当不足があれば負債として計上する |
賞与引当金 | 賞与の引当不足があれば負債として計上する |
未払い固定資産税 | 負債として計上する |
偶発債務 | 訴訟や環境汚染などのリスクを考慮して評価する |
STEP2.「時価純資産」を求めて企業価値とする
「時価資産の合計額」から「時価負債の合計額」を差し引いて「時価純資産」を求めて企業価値とします。
年買法(時価純資産+のれん)
「年買法」とは、前項で説明した「時価純資産」に「のれん」を加算して企業価値を算出する方法で、「年倍法」と書くこともあります。
「時価純資産」に「のれん」を加算することによって、評価対象企業の将来における収益力を考慮した企業価値を算定することができます。
この「年賀法」は、中小企業のM&Aにおいて多く採用されています。
ここで、「のれん」とは、評価対象企業が長年培ってきたブランド価値や優秀な社員、消費者の良い口コミなど、帳簿上に記載されていない「資産」、または収益力のことで「営業権」とも言います。
この「のれん」の価値をどのように求めるかがポイントとなりますが、年買法では数年分の「営業利益」であるとして計算します。
「年買法」の計算方法は、次の通りです。
STEP1.「時価純資産」を算出する
まず、「時価純資産法」と同じ計算手順で「時価純資産」を求めます。
「時価」と「簿価」に大きなずれがないことが分かっている場合は、「簿価」をそのまま使用する「簿価純資産法」を使うことも可能です。
STEP2.「のれん」を算出する
先述のように、年買法では数年分の「営業利益」を「のれん」とします。
「営業利益」とは、事業による売上高から費用を差し引いたもので、事業そのものによる利益のことです。
「のれん」の計算式は、次の通りとなります。
「営業利益」に掛ける「年数」については、評価対象会社の業種や事業内容、魅力度などによって変わってきますが、一般的に1年から3年が用いられることが多く、長い場合でも5年までです。
STEP3.「時価純資産」に「のれん」を加算して企業価値を算出する
「時価純資産」による企業価値の計算式は、次の通りとなります。
清算価値法
「清算価値法」は、その名の通り企業を清算(廃業)する際に使われる手法です。
棚卸資産や売掛金、機械などの設備を含む全ての「資産」を売却もしくは処分した合計額で、全ての「負債」を弁済した後の「残余額」をベースに算出する方法です。
この「残余額」のことを「正味売却価額」と言い、企業の清算時に株主が取得する金額の「時価」になります。
清算価値法は、評価対象企業の清算や廃業が前提ですので、株式価値より清算価値が高い場合に利用されます。
「コストアプローチ」そのものが、企業を清算する際によく使われる企業価値の評価方法ですので、企業を清算する会社にとっては利便性が高い方法です。
「清算価値法」の計算方法は、次の通りです。
再調達原価法
「再調達原価法」とは、評価対象会社に帰属する「有形資産」や「無形資産」「負債」を、その時点で再取得しようとする場合に必要となる費用をベースにして企業価値を算出する方法です。
「再調達原価法」によって算出された「時価純資産額」は、評価対象企業と同じ規模の企業を新たに設立するのに必要な金額ということになります。
したがって、買い手側企業にとっては「M&Aを実行すべきか、新しく企業を設立するか」という判断が可能になります。
コストアプローチのメリット・デメリット
「コストアプローチ」の代表的なメリットとデメリットについて説明します。
メリット
「コストアプローチ」には、次のような2つのメリットがあります。
メリット1.容易に企業価値を算定することができる
貸借対照表の「資産」と「負債」の数値をもとに、複雑な計算を必要とせずに容易に算定することができます。
「純資産額」を求めるだけで、簡単に企業価値を算定することができるため、他の方法とは違って専門的な知識が必要ありません。
メリット2.客観的に企業価値を算定することができる
貸借対照表の「資産」と「負債」の数値に基づいて算出するため、客観的に企業価値を算定することができます。
主観的な要素が入らないため、誰が計算しても同じ算定結果が得られます。
公平性が担保されるので信頼性が高く、他社との比較も容易に行うことが可能です。
デメリット
逆に、「コストアプローチ」のデメリットは、将来の収益向上や価格変動が反映されない点です。
「コストアプローチ」は、貸借対照表の数値に基づいて評価をするため、帳簿に表れない将来の収益力や価格変動という要素が反映されません。
従って、将来的な収益を含みませんので、算出される企業価値は低めになる可能性が高く、M&Aの売り手企業にとっては不利になる可能性が高い手法です。
そのため、将来性を重視するM&Aには向いていないということができるでしょう。
企業価値の評価手法には多くの種類がある。目的によって使い分けることが必要!
「コストアプローチ」は、貸借対照表の数値を用いるため算出が容易で、客観性に優れた理解しやすい手法であり、将来の事業予測の立てづらい中小企業の企業価値評価に広く採用されています。
しかし、貸借対照表の現時点での数値に基づいていますので、例えば評価対象企業の将来の収益性について評価することはできません。
このようなことから、将来の収益性を考慮して企業価値を評価しなければならないようなM&Aの場合には、売り手企業や買い手企業にマイナスの影響を与えないためにも、「マーケットアプローチ」や「インカムアプローチ」という方法を併用したり、あるいは「マーケットアプローチ」または「インカムアプローチ」を採用することが必要となります。
企業価値の評価手法だけではなく、実態に基づく企業調査も重要!
一般的に、M&A時のデューデリジェンスというと、企業の決算資料など内部資料や、公開情報に基づく調査がメインになりがちです。
しかし、リスクが高いM&Aの場合には、それだけではなく、社長や役員などの経歴や、過去の犯罪歴、行政処分歴、はたまた反社会的勢力との繋がり、実際の仕事の実態、人間関係の実態など、書面などには出てこない実態に基づく調査を行うことが重要です。
こういった実態に基づく調査は、個人情報保護法の関係で、一般の方がやるには違法リスクの高い調査となりますが、探偵であれば、そういった実態に基づく情報を探偵業法の範囲内で調査することが可能です。
もし、M&Aで、かつ相手側の素性が計り知れないという場合など、リスクが高いと感じる場合には、探偵事務所にそういった調査を依頼することも検討すべきです。
探偵事務所SATでは、実際にリスクの高いM&A時の企業調査や、金額が大きい不動産売買の売主側の調査などを行っています。
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