【投稿日】 2022年3月24日 【最終更新日】 2022年4月4日
M&Aは簡単に言えば、企業間で株式や事業のやり取りをする手法の総称です。
M&Aと言ってもやり方は1つではなく、様々な手法が存在します。
本記事では、そんなM&Aについて、目的や流れ、所要期間、注意点などをどこよりも分かりやすく解説していきます。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
M&Aとは?
そもそもM&Aとは「Merger(合併)」と「Acquisition(買収)」の略称です。
直訳すると「企業の合併と買収」となり、複数の企業が何らかの意図によって合わさることを意味します。
合併の場合は2つ以上の企業が1つの企業として統合されること、買収の場合は、ひとつの企業が経営を支配することを目的として株式や資産、事業などを取得することを意味します。
また、M&Aは買収や合併以外でも、「業務提携」など、「経営面での協力関係」という意味で使われることも多くあります。
つまり、広義で言えば、M&Aは「複数の企業がお互いの事業拡大のために協力すること」とも取れます。
M&Aは「合併」と「買収」の2つに分類される
「M&A」は、大きく「合併」と「買収」という2つの手法に分類され、さらに「合併」「買収」の中にも複数の異なった手法が存在します。
まずは、「合併」「買収」それぞれどのような手法が存在するのかについて、解説していきます。
「合併」とは?
M&Aにおいて「合併」とは、2つ以上の企業が1つの企業として統合することを指します。
合併には、具体的に次の2つの方法があります。
- 新設合併
- 吸収合併
合併に共通したメリットは「お互いの企業が買収資金を必要としない」という点です。
新設合併
「新設合併」とは、複数の会社が統合し、まったく新しい会社となる手法のことです。
例えば、「A社」と「B社」が統合し、新たな「C社」と名前や事業形態を変えて経営を再開するのが新設合併です。
新設合併は、それぞれの会社が引き継ぎの手続きを行う必要があるため、手間がかかってしまうというデメリットはありますが、合併後はお互いの経営者が対等な立場で経営を行えるということから、「合併後の揉め事を減らす」という観点で選ばれる手法です。
また、なにも知らずに合併されてしまった従業員にとっても、不満が残りにくい合併の方法であるのが特徴です。
吸収合併
吸収合併とは、合併する会社のうち1社が他の会社を吸収する形で統合する手法のことです。
吸収合併の場合、吸収された会社は事実上「解散」という形になり、会社の資産や負債、従業員もすべて吸収した側の会社が引き継ぐことになります。
例えば、A社がB社を吸収する場合、これまでB社として働いていた従業員はA社の従業員という形になるのです。
また、B社が抱えている資産や負債も、すてべA社が抱えることになるのが特徴です。
買収とは?
M&Aにおける「買収」とは、ある企業がもうひとつの企業や企業の持ちものである事業、資産などをお金で買い取ることを指します。
買収には、 会社をまるごと買い取る場合と、事業や資産など、その会社の一部だけを買い取る場合があり、大きく分けて、以下の2つの手法が存在します。
- 株式取得・資本参加
- 事業譲渡・資産買収
株式取得・資本参加
「買収」の中でも「株式取得・資本参加」にあたる手法は、以下の3種類に分けられます。
- 株式譲渡
- 株式交換
- 株式移転
株式譲渡
「株式譲渡」とは、簡単に言えば、株式を買い取ることを指し、対象企業の経営権を取得する手法です。
株式を買い取るという形で済むため、手続きが簡潔で、すぐに現金化できることから、売却される側の企業からも好んで利用されます。日本のM&Aで一番多く選択されている手法が、この「株式譲渡」になります。
株式譲渡の特徴は、買収されて経営権が移った後でも、その企業のビジネス形態を変えずに運営できることです。
手間をかけず、買収先の企業の特徴を活かしつつ経営をしたい場合に利用されます。
株式交換
「株式交換」とは、買収先の企業から、株式をすべて買い取って経営権を取得する手法です。
株式譲渡と比較すると、「株式をすべて買い取る」という違いがあります。
株式を100%すべて買い取るため、買収先の企業は完全にひとつになります。
例えば、A社(売り手企業)がB社(買い手企業)に株式交換で買収される場合は、B社がA社の株式を100%買い取ることで、事業や資産、経営権を得ることとなります。
売り手企業のA社側は経営を離れてすぐに利益を得られることから、利用されることが多い買収方法です。
株式移転
「株式移転」は、買収した企業の株式を得て、まったく新しい企業の株式として利用する方法です。
例えば、B社(買い手企業)がA社(売り手企業)の株式を買い取った場合、A社の株式を新たに設立するC社の株式として利用します。
株式移転を行う場合は、株式をすべて買い取る場合が多く、そのままグループ会社として、子会社になるパターンが多いです。
つまり、B社が親会社として新しい子会社のC社を手に入れるというイメージです。
株式移転は、「事業が違うが子会社を増やしたい」というときによく利用される手法です。
事業譲渡・資産買収
M&Aにおいて、「事業譲渡・資産買収」とは、企業の一部の事業や資産を別の企業に分ける方法で、その手法は以下の2つに分類されます。
- 事業譲渡
- 会社分割
売り手側の企業は、自分たちの経営ではうまくいかない「足を引っ張っている事業」を売却して、コストの分散を割けるためによく取られる手法です。
買い手側の企業としても、企業単位ではなく事業だけを獲得できるため、「費用がかからずに小さく試したい」という場合によく利用されます。
事業譲渡
「事業譲渡」は、企業が保有している事業をまるごと譲ることを指します。
事業を譲るということは、売り手側の企業が、その事業で保有している次のような資産や労働力なども含めて譲るということです。
- 財産
- 債務
- 人材
- 特許権
- ノウハウ
- ブランド
売り手側の企業としては、成果を出せずに赤字になりそうな事業を手放すことで、コストを下げられるというメリットがあり、買い手側の企業にとっては、自分の企業でコスト削減やシナジー効果(相乗効果)を見込むことができる、というメリットがあります。
会社分割
「会社分割」とは、ある企業の一部の事業を、他の企業に移すという手法です。
また、会社分割には次のように、「吸収分割」と「新設分割」の2種類が存在します。
- 吸収分割:売り手企業が、別の企業へ事業の一部を渡す方法
- 新設分割:ある企業の中のひとつの事業を、別の会社として分ける方法
「会社分割」は、元となる企業から、特定の事業だけを抽出できるため、効率よく移転できるのが特徴です。
業務提携や資本提携は厳密にはM&Aではない!
M&Aは複数の企業が合わさることや事業の一部を請け負うことを指すため、場合によっては「業務提携」や「資本提携」をM&Aと呼ぶケースもありますが、厳密にいうとM&Aとは異なります。
「業務提携・資本提携」とM&Aには、「いずれかの企業が経営・事業・資産などの支配権を失うか」という違いがあります。
M&A | 買い手の企業へ経営権が移る。または合併して新たな企業となる |
---|---|
業務提携 | 単独では運営が難しい事業を複数の企業が協力して達成を目指す |
資本提携 | 両企業の資本金を同じものとしてそれぞれの事業を継続する |
M&Aは、合併・買収によってどちらかの企業が経営権や事業や資産などの一部を失うのです。
「業務提携」と「資本提携」は、複数の企業が事業や資本金のやり取りをするため勘違いしやすいですが、M&Aとは異なります。
M&Aの目的とは?
M&Aとは、簡単に言えば、他社の事業を取り込むことをいいます。
M&Aを行うと、新規事業の立ち上げや、既存事業の拡大、事業再生といったさまざまな恩恵を受けることができます。
ただし、M&Aの目的や受けられるメリットは、買い手側と売り手側で異なります。
続いて、M&Aを行う買い手側と売り手側それぞれの視点から、M&Aを行う目的を見ていきましょう。
買い手側のM&Aの目的
買い手側にとってM&Aを行う目的は主に「新規事業立ち上げ」「既存事業の拡大(スケールメリット)」「競合他社の買収」「シナジー効果」という4点です。
【1】新規事業立ち上げ
企業が成長を継続するためには、既存の自社資源だけでは限界があります。成長し続けるためにも、新規事業への参入は必要不可欠だといえるでしょう。
しかし、一から新規事業を立ち上げようとしても、先行企業に既に大きな差をつけられていることは明白です。
そこで買い手側は、新規事業の立ち上げにかかるコストやリスクを削減を目的として、すでにノウハウや技術を持った人材がいる会社や事業を買収します。
目まぐるしく産業が成長していく現代では、新規事業への立ち上げから参入までを素早く行う必要があります。
M&Aを行えば、設備への投資や人材の育成期間などを短縮できるので、スムーズに新規事業に参入することが可能となります。
したがって、M&Aで事業を譲り受けたほうが早く新規事業を立ち上げられ、ビジネスチャンスを得られるというわけです。
また、新規事業を立ち上げることで事業を多角化でき、経営悪化のリスクを分散できるというメリットもあります。
【2】既存事業の拡大(スケールメリット)
すでにある程度育った事業を継承することで、すでにある事業やノウハウ、強みを生かし、さらなる利益の向上を目指すことができます。
既存事業の拡大を検討している企業がM&Aを行えば、設備の充実だけでなく、資産や人員の増加といったリソースを一気に手に入れることが可能となります。
今まで自社で持っていた技術では不可能だった事業ができるようになり、既存事業の市場シェア拡大に繋げられるというわけです。
また、今まで未進出・手薄だったエリアへの販路を拡大できるという点においても、買い手側の企業にとって大きなメリットになります。
【3】競合他社の買収
競合他社を買収する目的は、業界再編を行うためです。
成熟期(市場がそれ以上成長できない段階)に入ると、競合他社同士によるシェアの獲得競争が激しくなります。
商品やサービスの質はそのままに、商品の値下げをして顧客の奪い合いまでいくケースに発展していくことがほとんどです。
この状態までいくと、業界全体が徐々に疲弊していきます。
しかし、競合他社の買収を行えば、買い手側の企業は業界内で揺るぎない立ち位置を確保することができます。
M&Aによって競合他社を買収して値下げ競争から抜け出し、業界内の再編を実現できるというわけです。
【4】シナジー効果
シナジー効果とは、複数の企業が統合した後、各社単体で生み出せる価値の合計を上回る効果が得られることです。
自社の弱みを補完し、強みを最大化することを目的としています。
事業の組み合わせによっては、想定以上に利益が何倍も伸びることがあります。
例えば、衣料品の販売を手掛ける企業と、衣料品を原料から仕入れて製造している企業がM&Aを行うとしましょう。
M&Aによって、衣料品の原料の仕入れから製造、そして販売まで一貫して行えるようになります。
仕入れや在庫管理がしやすくなるだけでなく、売り手側企業の販売拠点や顧客情報なども共有できるようになります。
このように路線が一気に拡大し、売上の向上に繋がるというわけです。
したがって、シナジー効果を目的としてM&Aを行う例も多くあります。
売り手側のM&Aの目的
売り手側がM&Aを行う目的は大きく分けて「バイアウト」「事業承継」「利益率向上(選択と集中)」「事業再生」という4点です。
【1】バイアウト
バイアウトとは、会社の経営の悪化や後継者不足の際に、経営者や従業員が企業の株式を買収することです。
M&Aには、株式取得や合併、会社分割など多くの手法がありますが、バイアウトは企業を買収することで営業権を獲得する目的で行われるM&Aの1つです。
売り手側にとって、バイアウトのメリットは従業員に事業承継できる点です。
バイアウトを行えば、外部株主からの圧力から逃れられます。株主の意見に左右されないので、長期的な経営計画を立てて、事業を立て直しやすくなります。
また、経営者のリタイアが決まっているにもかかわらず後継者がいない場合は、従業員がバイアウトを行えば従業員を後継者にすることもできます。
企業を成長させ事業を存続させるためには、経営戦略としてバイアウトが必要であると判断し、バイアウトを行う大企業やベンチャー企業が増えています。
【2】事業承継
事業承継とは、何らかの事情により会社の経営者が後継者に事業を引き継ぐことです。
近年では、M&Aを利用して第三者に事業承継を行うケースが増えています。
なぜなら、自社に後継者がいない場合、M&Aを使って事業承継することで後継者問題を解決できるからです。
これを事業承継型M&Aといいます。
最近では、後継者問題に悩まされている中小企業が急増し、社会問題となっています。
帝国データバンクが全業種26万6,000社に対して行った「全国企業『後継者不在率』動向調査(2021年)[1] 」によると、日本企業の66.1%が後継者不足であるということが分かっています。
今まで企業の経営を支えてきた独自の技術やノウハウ、取引先と繋がりがあるにもかかわらず、後継者がいないために廃業に追い込まれるのは大きな損失になります。
M&Aを行えば、会社を廃業させることなく事業を引き継いでもらえ、会社や事業の存続を図ることができます。
また、廃業にかかるコストを削減できるのも、売り手側にとっては大きなメリットになります。
そして、自社にはなかったノウハウを持つ企業とM&Aできれば、廃業を免れるだけでなく、M&Aを行う以前よりも良い結果をもたらす可能性があります。
事業承継型M&Aは、後継者問題を抱える中小企業にとって、事業を存続するための1つの選択肢となっているのです。
【3】利益率向上(選択と集中)
M&Aは、会社全体を売却するとは限らず、一部の事業のみを受け渡すこともあります。
一部の事業のみ受け渡すことによって事業を整理し、本業に集中することを目的として行われます。
例えば「過去に事業を拡大させたが、伸び悩んで逆に起業全体としての生産性を下げている」という課題を抱えた企業があるとしましょう。
M&Aで不採算事業を売却し自社から切り離すことができれば、譲渡代金を最も価値があると判断した事業に集中して投資することができるようになります。
事業構成を見直して強みの最大化を検討するならば、一部の事業を受け渡すM&Aは、売り手側にとって有効な手法と言えるのです。
【4】事業再生
事業再生とは、企業の経営状態がふるわず、負債の弁済に支障をきたした時、事業の立て直しを図ることを指します。
売り手側の企業が業績悪化や廃業の危機にあるとき、事業再生を目的としてM&Aを行うことも多くあります。
なぜなら、M&Aを行えば、売り手側は買い手側の経営基盤を獲得できるからです。
わかりやすく言うならば、買い手側がスポンサーとして金銭面の支援をしてくれるということです。
経営基盤が強化されれば財務状況に余裕が生まれ、事業再生を進めやすくなります。
資金に余裕ができれば、早い段階で債務の弁済も可能となるというわけです。
上記のように事業再生を目的として行われるM&Aは、事業再生型M&Aと呼ばれています。
M&Aの主なメリット
M&Aには買い手側と売り手側、どちらにとっても大きなメリットがあり、場合によっては、事業存続にも影響してきます。
続いて、M&Aによるメリットを、買い手と売り手の双方の立場から見ていきましょう。
M&Aの買い手側のメリット
M&Aの買い手側にとっては、前述した目的とも被ってきますが、「新規事業立ち上げや既存事業の拡大」と言った企業成長促進、またはコスト削減や競合他社の減少などによる自社利益の拡大が大きなメリットとなります。
【買い手メリット1】事業立ち上げや成長にかかる手間などをお金で買える
買い手側のメリット1つ目は、新規事業への参入を簡単にできることです。
一般的に、新規事業への参入には様々なコストが必要になります。
立ち上げのための経費はもちろん、マーケティング、人脈、販売路線、さらには従業員の教育も必要といえるでしょう。一から始めるには時間も費用も莫大にかかり、元を取るためには年単位の成熟期間を必要とします。
しかし、事業を専門とする企業を買収することで、その成熟期間が短縮できます。
買収した企業には経営の軌道に乗るためのノウハウが既にできているため、そのまま活用することで、すぐにでも新規事業に参入できるのです。
もちろん、事業内容に対する問題点が見つかれば、変更しても良いでしょう。合併することで、新しい見解と発想を取り込むことができます。
他にも、合併先の社員を講師にすることで、効率的に社員教育も実施できます。M&Aを実施することで、新事業立ち上げがすぐにできるだけではなく、その後の成長もしやすくなるわけです。
【買い手メリット2】:技術やノウハウをお金で買える
買い手側のメリット2つ目は、新しい技術やノウハウを簡単に取り入れられることです。
本来なら使用できない他社の技術も、合収してしまえば自社の資産です。
新規に技術開発やマニュアルの作成を必要とせず、そのまま新しい技術やノウハウとして自社の商品や経営戦略に活用できます。
さらに、新規事業に対する技術の獲得になるだけではなく、取り入れた技術を使うことで、自社商品の向上にもつなげられます。
また、技術だけではなく、技術者の確保も重要なポイントです。
優秀な人材は重要な会社の資産であり、今後の企業拡大で大いに活躍してくれます。
中途採用が難しい海外に強い人材も、在籍する企業を狙ってM&Aすることにより、効率的に迎え入れることができます。
【買い手メリット3】:コスト削減につながる
買い手側のメリット3つ目は、業界シェアを広げることで、コスト削減につなげられることです。
知っての通り、商品の販売や事業の展開には様々な企業が介入します。
生産、加工、宣伝、販売といったように、単一企業で成り立っているわけではなく、それぞれの企業を介することにより、それぞれで費用が発生するのです。
それら一連の流れを自社でまかなうことができれば、他社に支払われる費用(中間マージン)を抑えることができます。
仮に、自社でジャムを製造するとした場合、材料代として果物の購入料金が発生しますが、果物も自社で栽培することにより、果物農家に支払う費用を省くことができるわけです。
他にも、事業拡大による新たな拠点設置や設備購入なども必要ありませんので、その分のコストも削減できます。
事業拡大による利益の増加を期待できるだけではなく、長期的なコスト削減が期待できるといえるでしょう。
【買い手メリット4】:新しいエリアへの進出が容易になる
買い手側のメリット4つ目は、新規エリアへの進出がしやすくなることです。
新規事業の拡大と同様に、新規エリアの拡大も決して簡単なことではありません。
マーケティングを組み立てるのはもちろん、仮に商品やサービスの需要があったとしても、既にライバル会社が営業を開始している場合が多く、新しく参入するためには時間と労力がかかります。
さらに、たとえ参入したとしても、ライバル会社と顧客の取り合いになり、思ったよりも利益が上がらないといった事がよく起こります。最悪の場合には自社が負けてしまい、多大な損害を被る可能性もあるでしょう。
しかし、ライバル会社を買収してしまえば、そのような心配はありません。
既にあるライバル企業の店舗を自社の店舗にできますので、店舗や設備だけではなく、顧客情報もそのまま手に入れられます。
ライバル社との顧客競争もする必要はなく、確実に新規エリアで利益を挙げられるのです。シェアを独占することにより、事業の共倒れ防止にもつながります。
M&Aの売り手側のメリット
M&Aの売り手側のメリットは、主に「資金調達」「創業者利益の獲得」「事業再建」という3点です。
【売り手メリット1】:資金調達
売り手側のメリット1つ目は、売却により資金が手に入ることです。
単純に、自社が他社に売却されますので、購入された金額が自社に入ってきます。
仮に、自社が負債を抱えていた場合には、調達した資金を負債の返済に当てることもできるわけです。
また、負債以外にも資金が必要になる場面は多いです。「解雇となる従業員への支払い」「設備の処分費用」「弁護士や税理士などへの支払い」など、廃業を検討している場合には、様々な形で資金が必要になります。
しかし、それらの必要経費は、売却した資金で賄うことができます。
また、「設備はそのまま使わせてもらう」「社員はそのまま従業員として受け入れる」などの申し入れがあれば、処分費用や退職金などの節約にもなります。
自社をそのまま続けられないのは残念ではありますが、M&Aは廃業目前の企業にとって、非常に助かる契約といえるでしょう。
【売り手メリット2】:バイアウトによる創業者利益の獲得
売り手側のメリット2つ目は、売却した資金を創業者(オーナー)の利益にできることです。
基本的に、会社は創業者のものです。創業者とは最初に事業を始めた人ですので、会社は創業者の持ち物として登記されています。株式会社であったとしても、創業者や創立者には多くの株が配布されているでしょう。
M&Aは、自分の会社を他人に売却する取引です。取引によって得た資金は、すべて会社の持ち主である創業者が受け取れます。
もちろん、売却した資金は負債の返済や従業員への支払になどに当てられますが、売却金額が多ければ支払った後でも資金はあまり、残りの資金は創業者の利益として貰うことができるのです。
ただ廃業するだけでは、一円の利益にもなりません。むしろ、登記の変更や設備の処分などによって、費用がかさんでしまいます。廃業しようと考えているのなら、M&Aによって売却し、その資金を次の新しい事業活動などに活かしていく道を選択するのも良いと言えます。
【売り手メリット3】:事業再建
売り手側のメリット3つ目は、他社をスポンサーとすることで事業再建が目指せることです。
自社だけの費用では経営が成り立たない状態でも、自社を売却してスポンサーとなってもらうことで、足りない費用を補ってもらえます。
資金面での余裕ができれば事業縮小などの対策も取れるようになり、事業再建の目途がたつようになります。
また、経営などはスポンサーとなる売却先の企業が行いますので、採算事業に集中ができます。あれやこれやとやらなければならないことが減りますので、再建もよりスムーズに行えるでしょう。
他にも、スポンサー企業から新技術が提供されることもあります。
新技術を取り入れることで新商品の開発、強いては事業の拡大も夢ではありません。
M&Aは企業すべてを譲渡するだけではなく、営業経路だけなど、一部事業だけの部分的な譲渡もできます。倒産から従業員を守るためにも、思い切ってM&Aすることも大切です。
M&Aの主なリスク
M&Aには「事業成長にかかる時間を短縮」「事業同士のシナジー効果を得る」「新規事業の開拓をする」「事業規模を拡大する」といった多くのメリットがありますが、リスクゼロではありません。
続いて、M&Aを行うリスクについて、買い手側と売り手側の双方の視点から見ていきましょう。
M&Aの買い手側のリスク
M&Aを行う前には、デューデリジェンス(事前調査)を実施し、目標の明確化や統合計画、想定できるリスクへの対策などを万全に行うのが一般的ですが、デューデリジェンスを行ったとしても、買い手側のリスクは依然として存在します。
例えば、計画当初に想定していたシナジー効果が得られず、負のシナジー効果であるアナジー効果が発生したり、想定以上の人材流出が起きたり、デューデリジェンス時点では発覚しなかった問題が、買収後に発覚することがリスクとして考えられます。
M&Aにおける買い手側のリスクは主に「経営リスク」「財務リスク」「人材リスク」の3つです。
【買い手側のリスク1】:想定していたシナジー効果や利益が得られない
買い手側と売り手側の企業それぞれの売り上げが100だとすると、単純に両社を合わせた200の利益ではなく、それ以上の利益が発生することがM&Aでは求められます。
M&Aを成功させるためには相手企業から得られるシナジー効果を把握し、経営統合に活用することが必要です。
しかし、最初に想定していたシナジー効果が思うように得られないケースがあります。
2社が統合した結果、シナジー効果を発揮するどころかアナジー効果を発揮するケースです。
アナジー効果とは2社を掛け合わせることで、両社の合計より利益や効果が減少することを指します。
シナジー効果の予測が十分でなかった場合や、上手くPMIが進まない場合、想定していたシナジー効果や利益が得られないリスクが考えられます。
【買い手側のリスク2】:人材流失
人材は「人財」と書くこともあるほど、企業にとって最も重要な要素の1つです。
人材が流出すれば新規人材を雇用するためのコストがかかったり、ノウハウが流出して失われたり、ベテランが抜けることで生産性が低下したりします。
M&Aで企業を買収した後に、思わぬ人材流出が起こることがあります。
M&Aが転職・離職予備軍の背中を押すことや、既存従業員の待遇を温存することで若手が失望して離職するケースなどです。
多くのケースでは統合後、従業員の処遇が決まるまでは静観し、処遇が決まってから離職が発生します。特に、M&A実施から1年後までの人材流出が顕著です。
人材流出の防止策として「トップが早めに方針を指し示す」「重要な人材には組織統合後にポストを与える」「継続するインセンティブや評価基準の提示」といったことが必要となります。
待遇の維持だけでは人材流出を防ぐのは難しく、評価制度の改善や待遇の向上、経営陣からのメッセージなどが重要です。
人材流出が大きい場合、思っていたほどのシナジー効果が得られないリスクが高くなってしまいます。
【買い手側のリスク3】:PMIが上手く行かない
PMIとはPost Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略語で、M&Aで買収したあとの統合プロセスを指す言葉です。
PMIは経営統合、業務統合、意識統合の3段階からなります。
経営統合は経営理念や戦略の統合で、業務統合はインフラや人材、組織の統合です。意識統合は従業員同士の意識や企業風土、文化の統合です。
PMIが上手く行かないと統合後のシナジー効果は生まれず、むしろアナジー効果によって人材流出が発生する恐れがあります。そのため、PMIを上手く運ぶことはM&Aにとって重要です。
「統合計画の作成」「目標やスケジュールの明確化」「PMIを実行する人材の確保」「買収された企業の従業員とのコミュニケーション」「経営陣のリーダーシップ」がPMIの成否を握ります。
PMIの成否はM&A後の企業成長に大きく影響します。事前にしっかりとした統合計画を作成し、目標やスケジュールを明確化することが大切です。
【買い手側のリスク4】:想定していない問題が買収後に見つかる
M&Aを実施する場合、問題がすべて明示されているとは限りません。
買収後に問題が発覚したり、隠されていたりすることもあります。デューデリジェンス時点では問題が発覚しないかもしれません。
たとえば、「粉飾決算」「元社長や役員の犯罪履歴」「反社会的勢力とのつながり」「簿外債務の発覚」「取引先企業の離反」といった問題が考えられます。
粉飾決算は赤字を黒字に見せかけることです。
粉飾決算が買収後に発覚すれば、作成したPMIの計画や想定していたシナジー効果はすべて台無しです。
また、反社会勢力とのつながりも大問題です。企業イメージを大きく損なうだけでなく、ゆすりやたかりによるダメージも受けかねません。
さらには、近年注目されてきているのが、元社長や役員の犯罪歴などです。これらもM&A後に発覚してしまうと、大きく企業イメージを損ない、企業にとって致命的なダメージとなる可能性があるので、こういったリスクもしっかりとデューデリジェンスで調べておく必要があります。
M&Aの売り手側のリスク
M&Aでは買い手側のリスクばかりに焦点が当たりますが、売り手側にもいくつかのリスクがあります。
財務リスクはその代表例です。
たとえば、譲渡前に納品した製品が顧客に損害を与えたケースでは、買い手企業とトラブルになる可能性があります。
ほかにも、時間が経ってから発覚する偶発的な債務について、買い手企業から賠償を請求されるかもしれません。
買収後に従業員の待遇が悪化したり、買収前に人材が退職したりするケースも考えられます。取引先や顧客との関係悪化などは、買い手側と売り手側どちらにとってもリスクです。
【売り手側のリスク1】:買収後の従業員の待遇悪化
売り手側のリスクとして、M&A後の従業員の待遇悪化が挙げられます。
株式譲渡によるM&Aの場合、企業と従業員の雇用契約に変化はありません。
株式譲渡後も給与や退職金はそのままです。もし、変更する場合は従業員からの同意を得て雇用契約を変える必要があります。
しかし、事業譲渡によるM&Aの場合、企業と従業員の間で結ばれた雇用契約は見直しの対象です。
買い手側が雇用契約を新たに定め、従業員の待遇が悪化してしまう可能性もあります。
M&Aが行われると、買収される側の企業の従業員は精神的に不安定になります。
給料が変わらなくても待遇や勤務地、社内文化の変化などによって、不満がたまることも…。また、買収前に変化を恐れて退職する従業員も出てくるかもしれません。
従業員が大きく減少することは、売り手側にとっても買い手側にとっても大きなリスクとなります。
【売り手側のリスク2】:買収前の顧客との関係悪化
いままで付き合いのある取引先や顧客との関係は、売り手側としてはM&A後も維持したいと考えるのが一般的です。しかし、買収後に既存の取引先や顧客との関係が悪化する可能性があります。
一般的なM&Aの場合、買い手側はあまり大きな変化を起こさないように配慮することが多いです。なぜなら、取引先や顧客が離れてしまうと、せっかく買収した企業の価値が下がってしまうからです。利益やシナジー効果の観点からも、大きな変化は望ましくないと考えます。
買収前の取引先や顧客との関係を維持したいなら、M&Aのことを適切なタイミングで告知することが重要です。
くわえて、取引を継続するメリットや経済的合理性も詳しく伝える必要があります。
事前に、重要な取引先については買い手企業に重要性を伝え、取引が継続することを確認しておきましょう。
また、取引先には新旧の経営者が一緒に説明に赴くなど工夫しましょう。
取引先や顧客との関係悪化は売り手側のみならず、買い手側にとってもリスクです。お互いにリスクを軽減するための手続きや工夫が必要です。
M&Aの一般的な流れ
M&Aのおおまかな流れは以下のとおりです。
- STEP1:事前準備
- STEP2:交渉先選定~基本合意締結
- STEP3:デューデリジェンス~最終契約
- STEP4:PMI(経営統合作業)
売り手・買い手双方の視点に立ちつつ、M&A実施時に気をつけるべきポイントについて詳しく見ていきましょう。
STEP1:事前準備
M&Aの事前準備段階でやるべきことは主に次の2つです。
- M&Aの目的を明確化
- 仲介業者の選定・契約
ここで重要なポイントは、M&Aの目的を明確にすることです。
目的がはっきりすると、M&A以外にも最適な選択肢が見つかるかもしれません。
視野を狭めずに、まずは多くの可能性を検討してみましょう。
買い手側の目的には「事業成長の期間短縮」「シナジー効果の創出」「スケールメリットの確保」などがあげられます。
ライバル企業の経営権を「TOB(株式公開買付)」などの手段で奪取することも買い手側がM&Aをおこなう目的のひとつです。
一方、売り手側の目的には「資金回収」「オーナー利益の確定」などがありますが、比較的規模の大きい企業が多いです。
中小企業の場合、オーナーの後継者不足から「事業承継」のためにM&Aを決断する企業が年々増加しています。
STEP2:交渉先選定~基本合意締結
事前準備の次は交渉相手の選定〜基本合意締結を次のような流れで進めていきます。
- 交渉相手の探索・決定
- 秘密保持契約の締結
- 情報の開示及び分析
- M&Aスキームの選定
- トップ面談
- 基本合意締結
ここで重要なポイントは「交渉相手の選定」です。
特に、M&Aの場合は調査を仲介業者に依頼するため、交渉相手に求める条件をきちんと伝えておかなければなりません。
M&Aの仲介をおこなっている専門業者はたくさん存在しているので、交渉相手の選定に入る前に、自社及び交渉相手の業種や企業規模を想定したうえで、事前に数社リストアップしておくことが重要です。
仲介業者を決定したら、希望の条件を伝え、仲介業者に交渉相手の選定を依頼します。
この際に設定する「交渉相手に求める条件」が、スムーズにM&Aを進めるうえで何より大事で、通常であれば1ヶ月程度で交渉相手が見つかるところを、条件を厳しくしてしまうと「数年間経っても交渉先が見つからない…」なんてことにもなりかねません。
「条件を緩和するべき」ということではありませんが、スムーズにM&Aを進めたいのであれば、どうしても妥協できないポイントを除いてなるべく条件を設定しないようにしましょう。
STEP3:デューデリジェンス~最終契約
交渉相手との基本合意を取り付けたら、最終契約に向けて各種調査を次のような流れで進めていきます。
- デューデリジェンス(DD)
- 最終契約
- クロージング
ここで重要なポイントは「デューデリジェンス(DD)」です。
デューデリジェンスとは、M&Aの買い手側が売り手側企業の価値やリスクなどを調査することで、経営面でのリスクを調査する「ビジネス・デューデリジェンス」や財務面でのリスクを調査する「ファイナンス・デューデリジェンス」、法律面でのリスクを調査する「リーガル・デューデリジェンス」などが存在しています。
M&Aは基本的に、売り手側の事業や企業全体をリスクを含めてすべて譲り受けることになるため、ここでの調査をおざなりにしてしまうと、売り手側が借金を隠していたり、買収防衛策を用意していたりとM&A実施後に思いもよらない負債をかかえてしまうおそれがあります。
基本合意の締結前に最低限のリサーチは実施済みではありますが、買い手側は少しでもM&Aのリスクを低減するために専門家にデューデリジェンスを依頼するようにしましょう。
なお、売り手側もデューデリジェンスによって隠していたリスクが発覚し、買い手側の信用を損なう、などが発生しないように、あらかじめ買い手側に不利益にあたる情報は伝えておきましょう。
また、自社では気づかないようなリスクを専門業者に依頼し事前に調査しておく「セルサイド・デューデリジェンス(ベンダーデューデリジェンス)」もおすすめです。
STEP4:PMI(経営統合作業)
交渉相手との最終契約が締結されたら、最後にPMI(経営統合作業)をおこなっていきます。
このPMIは、統合発表後の人材流出のリスクを避け、買い手側・売り手側双方の文化や経営方針、社則を円滑に融合させるためにも重要なステップのひとつです。
全体像として「統合方針」を決定してから、中期目標である「ランディングプラン」や短期目標の「100日プラン」など徐々に具体的な方針を決定していくことで、PMIでやるべきことがより鮮明にわかるようになるでしょう。
PMIの作業を進めるのは、基本的に買い手側の企業です。
M&Aの実施が社員に対して発表されるのは最終契約の締結後であることが多いので、余裕を持って準備するためにも、交渉相手が見つかったタイミングから少しずつ方針を検討しておくと良いでしょう。
ちなみに、PMIに明確な終わりは存在しません。
調査によると、PMIがはじまってからシナジー効果を発揮するまで約1年程度時間がかかるようです。
M&Aにかかる期間
M&Aに要する期間は一般的に半年~1年程度、統合後のPMIを含めると1年~2年程度と言われています。
その中でも特に時間がかかるステップは、交渉相手の選定(平均約1~2ヶ月)とデューデリジェンス(平均約1~2ヶ月)です。
交渉相手が同業種ですでに事業内容を知っていた場合や、お互いのニーズが一致していて交渉がスムーズに進んだ場合はM&Aにかかる期間はそれだけ短くなります。
売り手側の企業(事業)規模が小さい場合も同様です。
一方で、交渉相手が異業種で調査に時間がかかった場合や、売り手側の企業規模が大きく各種手続きに手間がかかった場合は、通常よりもM&Aが長引く可能性が高いと言えます。
なお、M&Aにかける時間は、情報漏洩のリスクや市場の変化についていくことを考慮したら、短いに越したことはありません。
M&Aの実行前に一連の流れをシミュレーションしたり、交渉時に相手企業に求める条件を譲歩したりとできうる限りの対策をとって、少しでも早く事業を成長できるように行動しましょう。
M&Aは買い手側のリスクが大きい!M&Aの買い手側はしっかりとデューデリジェンスを行い、リスク回避を!
M&Aは「事前準備」「交渉先選定~基本合意締結」「デューデリジェンス~最終契約」「PMI(経営統合作業)」の順で進み、一般的に半年~1年程度で完了します。(中小企業など規模が小さければもっと期間は短く済みます)
売り手側・買い手側双方にリスクのあるM&Aですが、より危険が伴うのは統合後に事業拡大をおこなう「買い手側」でしょう。
買い手側のリスクとしては、売り手側企業が多額の負債を隠しているケースや、買収防衛策を用意していたケースなどさまざまです。
そこで、買い手側は最終契約を締結する前に、売り手側企業の調査をおこなう「デューデリジェンス」を専門業者に依頼するなどで、入念に行うことで、これらのリスクを低減することができます。
M&Aが完了するまでは事業拡大は一時的にストップしているので、早く統合を終えたいところですが、統合後の損失を少しでも減らせるように、時間をしっかりとかけて調査を依頼するようにしましょう。
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