【投稿日】 2021年12月5日 【最終更新日】 2022年1月10日
企業がM&Aを実施する際、事前に買収対象企業についての詳細調査を行いますが、この調査活動のことをDD(Due diligence:デューデリジェンス)と言います。
この記事では、この調査活動の一つである「犯罪デューデリジェンス」について解説します。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
そもそも犯罪DD(デューデリジェンス)とは?
犯罪DD(デューデリジェンス)とは、M&Aを実施する際に行う調査活動の一つです。
具体的な調査内容は、対象企業の代表者や役員、企業自体に不法行為や違法行為、前科(逮捕歴)、行政処分歴がないかどうか、あるいは現在紛争や訴訟などを抱えていないか、過去において紛争歴や訴訟歴などがないか、反社とのつながりがないかどうか、および簿外債務・簿外資産の有無などになります。
これらの中で、逮捕歴や訴訟に関する情報は公表されていませんので、正確な調査を行うことは基本的には不可能とされています。
しかし、重大な犯罪や訴訟に関しては警察や裁判所から公表されているケースがありますし、限られた地域内では暗黙の了解的な情報として知られていることもありますので、これらの情報をつきとめることができるような調査力が必要となります。
一般的に行われているDD(デューデリジェンス)の種類と概要については後述しますが、この犯罪DD(デューデリジェンス)は、それらとは調査方法が異なります。
つまり、一般的には、買手側企業が買収対象企業に対して、DD(デューデリジェンス)を実施するために必要な資料の開示請求を行い、開示された資料を精査することによって各分野のリスクを把握します。
しかしながら、この犯罪DD(デューデリジェンス)の調査内容については、売手側企業としては極力隠したい性質のものですので、情報開示請求をしても提示されるとは考えられません。
このようなことから、犯罪DD(デューデリジェンス)に関しては、買手側企業が独自に調査のプロである探偵事務所に依頼して行うことになります。
犯罪DD(デューデリジェンス)の目的
犯罪DD(デューデリジェンス)の目的は、M&Aを実施する際に買収対象企業に犯罪に関連するリスクがないかどうかを調査し確認することです。
犯罪DD(デューデリジェンス)を行った結果、買収対象企業やその関係者に重大な犯罪リスクなどが見つかった場合は、M&Aを中止するという判断がなされることもあります。
犯罪DD(デューデリジェンス)で検討される主な内容
犯罪DD(デューデリジェンス)の際に検討される主なチェック内容としては、次のような事項があります。
- 代表者や役員の不法・違法行為、前科(逮捕歴)など
- 企業としての不法・違法行為、行政処分歴など
- 代表者や役員が現在抱えている紛争・訴訟、過去の紛争・訴訟歴
- 企業が現在抱えている紛争・訴訟、過去の紛争・訴訟歴
- 反社とのつながり・反社チェック
- 簿外債務、簿外資産
代表者や役員の不法・違法行為、前科(逮捕歴)など
対象企業の代表者や役員が不法行為や違法行為を過去に行っていなかったか、現在はどうか、前科や逮捕歴などはないのかを調査しておくことは重要です。
M&A実施後にこれらのことが発覚して公になると、M&Aを実施した企業の責任まで問われることにもなりかねませんし、社内的にもモラルの低下などのデメリットを被る可能性があるからです。
企業としての不法・違法行為、行政処分歴など
前項と同様に、対象企業自体が企業として不法行為や違法行為を過去に行っていたことはなかったか、現在はどうか、事業遂行上の行政処分を受けたことはないのかを調査しておくことも重要です。
もしこのような事実が判明した場合は、企業ぐるみの不法・違法行為ということになりますので、より深刻なダメージを与えることになる可能性があります。
代表者や役員が現在抱えている紛争・訴訟、過去の紛争・訴訟歴
対象企業の代表者や役員が、現在紛争や訴訟問題を抱えていないか、過去に紛争歴や訴訟歴がないのかについても調査しておく必要があります。
調査の結果、何らかの事実が判明した場合には、当該代表者や役員の解任などで回避できるリスクのレベルなのかどうかを見極めて適切に対処する必要があります。
企業が現在抱えている紛争・訴訟、過去の紛争・訴訟歴
対象企業自体が、現在企業として紛争や訴訟を抱えている場合は、内容によっては重大なリスクとなりますので、詳細な調査が必要です。
現在訴訟で係争中の場合は、請求額の見込みや訴訟自体の見込みなどについても確認しておく必要があります。
また、過去に事業に関わる商品やサービスについて訴訟を受けている場合は、今後も同様の訴訟が起こされる可能性がありますので、詳細に調査をして対処方針を決定する必要があります。
反社とのつながり・反社チェック
対象企業やその経営者や役員などの関係者が反社会的勢力とつながりがないかどうかの確認を行います。
この確認作業のことを、一般的には「反社チェック」と言います。
M&Aの対象企業が反社会的勢力と関係を持っていれば、M&A実施後も反社会的勢力との関係が続いてしまうことになります。
このようなリスクを回避するためにも、対象企業に反社会的勢力とのつながりが確認された場合には、そのM&Aは中止することが賢明でしょう。
簿外債務、簿外資産
対象企業の事業において活用している資産や負債があるにもかかわらず、貸借対照表に計上されていない状態のことを簿外取引(オフバランス)と言い、これによって作り出された債務・資産を簿外債務・簿外資産と言います。
DD(デューデリジェンス)を行うことによって、これらの意図的な会計操作が行われていないかどうかをチェックすることが必要です。
なお、退職給付引当金や役員退職慰労引当金、賞与引当金などの簿外債務が発生することは珍しいことではありませんが、簿外債務を悪用して決算書の改ざんや粉飾決算などが行われるケースもありますので、DD(デューデリジェンス)においてきちんとチェックして把握しておくことが重要となります。
犯罪DD(デューデリジェンス)のやり方と主な流れ
ここでは、犯罪DD(デューデリジェンス)のやり方と主な流れについて説明します。
犯罪DD(デューデリジェンス)を行うのは最終合意締結前
犯罪DD(デューデリジェンス)は、他のDD(デューデリジェンス)と同様に、M&Aの交渉過程の中で行われ、一般的にはM&Aの基本合意書の締結が終わって、最終合意締結前のタイミングで行います。
これは、基本合意書の中に「買主側がDD(デューデリジェンス)を行い、売手側がこれに協力する」ように定めているため、基本合意書の締結後に行います。
また、DD(デューデリジェンス)を最終合意前に行うことによって、対象企業のリスクを正確に把握して適正な買収価格を決定することが可能となりますし、リスクが過大な場合にはM&Aを中止するという決断に至ることもあります。
犯罪DD(デューデリジェンス)にかかる期間
犯罪DD(デューデリジェンス)にかかる期間は、一般的に1~2ヶ月程度です。
なお、M&Aの検討開始から取引完了までの全体期間が約6ヶ月~1年程度と言われていますが、規模や業態によって異なってきますので、犯罪DD(デューデリジェンス)もM&Aの全体期間に応じて変わってくることがあります。
犯罪DD(デューデリジェンス)はどこに依頼すべき?
M&Aに際して行われるDD(デューデリジェンス)は、目的や調査内容に応じてそれぞれの分野における専門家に依頼することになります。
犯罪DD(デューデリジェンス)については、表面化していない潜在的なリスクや対象企業や人物の過去から現在までの動向などを調査する必要がありますので、調査のプロである探偵事務所に依頼することが一般的です。
犯罪DD(デューデリジェンス)以外に必要なDDとは?
M&Aの際に、犯罪DD(デューデリジェンス)以外に行う必要のあるDD(デューデリジェンス)としては、次のようなものがあります。
以下に、それぞれのDD(デューデリジェンス)の概要について説明します。
財務DD(デューデリジェンス) | 財務DD(デューデリジェンス)は、対象企業の財務・会計について行う調査で、一般的に他のDD(デューデリジェンス)より先に行われ、過去・現在の財務状況、損益の推移、今後の損益見通しなどを調査します。 基本的には、売手側から提示された財務諸表を確認しますが、この調査には財務に関する専門的な知識が必要となるため、公認会計士や税理士などに委託して行います。 調査結果に基づいて買収価格などが決められますので、最も重要なDD(デューデリジェンス)ということになります。 |
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事業DD(デューデリジェンス) | 事業DD(デューデリジェンス)は、対象企業の市場ポジションや経営実態を把握し、事業の将来性を確認するために行われます。 外部環境調査と内部環境調査に分けられ、外部環境調査では市場における企業価値や競合分析、ビジネスリスクなどを調査します。 内部環境調査では対象企業の事業内容、組織体制などを調査します。 |
税務DD(デューデリジェンス) | 税務DD(デューデリジェンス)は、対象企業の税務状況を調査して税務リスクを把握するために、税理士や税務に関する専門家に委託して行います。 M&A実施後に税務申告漏れや納税書の誤りが発覚すると、買手側に追加納税などが発生する可能性がありますので、申告書類の調査だけではなく取引の内容などについても調査してリスクを把握します。 |
法務DD(デューデリジェンス) | 法務DD(デューデリジェンス)は、対象企業に法的なリスクがないかどうかを調査するもので、法務DD(デューデリジェンス)の経験や知識が豊富な弁護士に依頼することが一般的です。 調査内容としては、対象企業の株式関係、社内組織や関連企業の現状、資産などの他、各種契約の内容、債券・負債、労務関係などに及びます。 また、法令遵守状況や将来訴訟に発展しそうな不安材料はないかなどについても確認します。 |
人事DD(デューデリジェンス) | 人事DD(デューデリジェンス)は、組織や人材に関して調査してリスクを洗い出すもので、「定量的要素」「定性的要素」の2つの視点が必要となります。 一般的に、人員数や報酬水準、人件費の推移などの「定量的要素」の調査に偏りがちですので、人事制度のしくみ・運用実態などの「定性的要素」のリスクも把握することが重要です。 |
IT DD(デューデリジェンス) | IT DD(デューデリジェンス)は、対象企業のIT状況(ITシステム、IT資産、IT戦略など)を調査し、M&A実施後のシステム統合において発生する問題や費用などを予測するために行います。 この調査結果に基づいて、ITシステム改修やITシステム統合の計画が立てられます。 |
環境DD(デューデリジェンス) | 環境DD(デューデリジェンス)は、対象会社が保有する工場や研究開発施設などの土壌汚染や地下水汚染などを調査して、環境にどの程度影響を及ぼしているのかを把握するために行います。 環境デューデリジェンスは土壌汚染や地下水汚染、大気汚染などの環境問題に関する高度な知識を持った専門家に依頼する必要があります。 |
M&Aの際には企業や代表・役員の現在・過去を隅々まで洗うことが重要!
この記事では、M&Aの実施に際して行う犯罪DD(デューデリジェンス)について詳しく解説しました。
M&Aを行う際には、買収後に想定外のリスクが発生することを避けるためにも、対象企業自体やその代表者・役員の現在と過去を洗い出して、不正や違法行為、反社とのつながりなどがないかをしっかりと把握しておくことが非常に重要となります。
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