【投稿日】 2023年1月13日 【最終更新日】 2023年1月19日

同じ取引先に売掛金と買掛金がある場合は、「相殺(そうさい)」を行うことによって同じ金額分だけ帳消しにすることができます。

また、この「相殺」を利用すると、万一取引先に未払いの売掛金が発生したときや取引先が倒産したときに債権を回収することができます。

この記事では、「相殺」とは何か、「相殺」の機能と種類、うまく利用するためのポイントなどについて詳しく解説します。

「相殺(そうさい)」とは?

企業間で取引を継続的に行っている場合は、一般的に「掛取引」になるので、決まった支払い期日までに代金を支払います。

このときに、同じ取引先に売掛金と買掛金が発生している場合は、お互いの債権・債務の「対当額(※「相殺」においては「対等」ではなく「対当」という言葉を用います。)」を消滅させることができ、これを「相殺」と言います。

売掛金と買掛金を「相殺」することによって、実際に現金のやり取りをする必要がなくなるため、支払い処理にかかる手間や振込手数料、印紙代などの節約になるというのがメリットです。

継続的な取引が続いている場合は、「相殺」は非常に便利な処理だということができます。

しかしながら、取引先が支払い期日までに売掛金を支払ってくれない場合は、「未払いの売掛金」が発生して、自社の資金繰りに影響してきます。

万一、取引先が倒産してしまった場合には、回収不能になってしまうことも十分考えられる話です。

このように、「未払いの売掛金」が発生したときに、同じ取引先に売掛金と買掛金がある場合は、自社の一方的な意思表示によって債権債務を「相殺」することができます。

つまり、満足すべき要件はいくつかありますが、「相殺」によって売掛金(債権)を回収することができるということです。

「相殺」の2つの機能

「相殺」には「簡易決済機能」と「担保的機能」という2つの機能があります。

機能1:簡易決済機能

まず「簡易決済機能」とは、お互いの債権・債務の「対当額」を消滅させることによって決済手続きを簡易化するという機能です。

通常の取引が継続的に行われている場合には、非常に便利な機能です。

機能2:担保的機能

「担保的機能」は、債権を回収することができるという点から重要な機能です。

具体的な例として、銀行がカードローンで顧客に貸金をしているケースで考えてみましょう。

一般的に、顧客が銀行カードローンを利用するためには、その銀行に口座を開設していることが必須です。

この場合、銀行は顧客に対して「借金を返してもらう権利(貸金債権)」を持っており、顧客は銀行に対して、口座の「預金を払い戻す権利(預金債権)」を持っています。

この「貸金債権」と「預金債権」は、どちらも同じ「金銭債権」なので「相殺」することができますが、このとき銀行は顧客の口座預金を担保にとって貸金を行っていると、考えることができるのです。

このように「相殺」には、事実上の担保としての機能があり、これを「担保的機能」と言います。

「相殺」の2つの種類

「相殺」には「法定相殺」と「約定相殺」という2つの種類があります。

【1】法定相殺

「法定相殺」とは、法律によってその要件が定められている相殺のことで、法律で定められた条件を満たしている状態でなければ「相殺」を行うことができません。

「法定相殺」を行うことができる要件としては、次の3つがあります。

要件1:当事者間に債権の対立があること 当事者同士がお互いに対する債権を有していなければなりません。
当事者以外の人に対して持っている債権は対象にはならず、第三者が持っている債権を「自働債権」とすることはできません。
要件2:同じ目的の債権であること 当事者同士がお互いに対して持っている債権の目的が同じでなければなりません。
一方の当事者の債権が「金銭債権」である場合は、他方の当事者の債権も「金銭債権」でなければならないということです。
債権の発生原因が違っていてもかまわず、売掛金と貸付金の「相殺」も可能です。
要件3:「自働債権」の弁済期が到来していること 意思表示をする当事者の「自働債権」の弁済期が到来していなければなりません。
「弁済期が到来している」とは「支払期限を過ぎている」という意味です。

この3つの要件を満たす状態にあることを「相殺適状」と言います。

ここで、「相殺」の意思表示をする当事者の持っている債権を「自働債権」と言い、「相殺」される相手側が持っている債権を「受働債権」と言います。

ただし、次に示すような「相殺禁止」に該当する場合は、「相殺適状」の状態にあっても、「法定相殺」を行うことができませんので注意が必要です。

  • 当事者間で「相殺禁止」の特約を交わしている場合
  • 悪意による不法行為によって発生した損害賠償債権が「受働債権」である場合※1
  • 人の生命または身体を侵害したことによる損害賠償債権が「受働債権」である場合※1
  • 差押えを受けた債権が「受働債権」である場合
  • 法律によって差押えが禁止された債権が「受働債権」である場合(給料債権や退職金の一部、賃金請求権、生活保護費、年金、扶養請求権など)
  • 相殺できない債権(抗弁権のある債権)が「自働債権」である場合

※1:民法改正によって限定または追加された要件です。

なお、「相殺禁止」を「相殺適状」の要件の中に含めている場合があり、このときの「相殺適状」の要件は次の4つとなります。

  • 【要件1】当事者間に債権の対立があること
  • 【要件2】同じ目的の債権であること
  • 【要件3】「自働債権」の弁済期が到来していること
  • 【要件4】「相殺禁止」に該当する債権でないこと

「法定相殺」のメリット

「相殺適状」の要件を満たしており「相殺禁止」に該当しない場合は、「一方の当事者からの意思表示」のみによって「法定相殺」を行うことができます。

このようなメリットがありますので、未払いの売掛金が発生した場合や、取引先が倒産した場合の有効な債権回収の方法となるのです。

【2】約定相殺

「約定相殺」とは、当事者同士の事前の合意によって行うものを言います。

事前に合意をする方法としては、売買契約などを結んだ後に相殺契約をする方法が一般的です。

「約定相殺」のメリット

「約定相殺」は、「法定相殺」の要件を満たしていなくてもすることができる点がメリットです。

つまり、同じ目的の債権でなくても、弁済期が到来していなくても、「相殺禁止」の債権でも、「相殺適状」ではない状態でも「相殺」を行うことができます。

例えば、一方の当事者の債権が「金銭請求権」であり、他の当事者の債権が「物の引渡請求権」であっても「相殺」できます。

このように「約定相殺」は、「法定相殺」の要件や効果とは全く違った扱いができるのですが、これは「当事者同士が納得している」から問題ないということによります。

「相殺」をうまく利用するためのポイント

一般的に高額な融資や不動産売買のときには、保証人を立ててもらったり抵当権を設定して債権の回収性を高める方法を取りますが、企業間の日常的な取引などの際には現実的な方法ではありません。

しかし、中小企業にとっては取引先から売掛金(債権)が回収できなくなるということは、自社の資金繰りにも影響しますし、最悪の場合は連鎖倒産のおそれも出てくるような重要な事態です。

そこで、ここでは「相殺」をうまく利用するためのポイントをいくつか紹介します。

ポイント1:取引先に対する債権を作っておく

「相殺」を行うためには、当事者同士が同種の債権を持っている必要があります。

自社が売り主で取引先が買い主である場合は、自社には取引先に対する債権を有していますが、取引先は自社に対する債権を有しないため「相殺」を行うことができません。

このような状態で、取引先が支払不能になったり倒産したりすると、自社が一方的に損害を被ってしまうことになります。

これを避けるために、予め取引先の商品を購入して受働債権を作っておきましょう。

万一取引先の経営が危なくなった場合は、「相殺」によって代金支払いを免れることができ、債権の回収を行えることになります。

この場合、購入した商品を転売等によって現金化しておくことが必要となります。

ポイント2:契約に入れておいた方が良い条項

新規の取引を始めるにあたって、支払いに不安があるというようなケースが考えられますが、そのようなときには次のような条項や特約を契約に入れておくと良いでしょう。

「期限の利益喪失条項」を入れておく

「期限の利益」とは、「一定の期日が到来するまで債務を履行しなくてよい利益」のことです。

企業間のBtoB取引における「掛取引」では支払い期日まで代金を支払わなくても良いことを意味します。

取引契約などの中に「期限の利益喪失条項」を入れておくと、取引先が支払期日までに支払わなかったり倒産するおそれが高くなった場合に、「相殺」による債権回収手続に直ちに着手することができるようになります。

契約に組み込む条文例としては、次のようなものが適切でしょう。

条文例
乙(債務者)が支払不能もしくは支払停止の状態に陥ったとき、または手形もしくは小切手が不渡りになったときは、乙は甲(債権者)に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失し、乙は直ちに債務全額を弁済しなければならない。

「相殺予約条項」を入れておく

取引先が支払い期限までに支払ってくれなかったり、倒産手続きを始めたりした場合は、前項の「期限の利益喪失条項」によって直ちに「相殺」を行うことができるようになります。

しかし、そのような状態になる以前に取引先に何らかの信用不安が生じたら、自社の一存によっていつでも「相殺」ができるようにするのが「相殺予約条項」です。

条文としては、以下のようなものが考えられます。

条文例
甲(債権者)が乙(債務者)に対する債権を有する場合、そのいずれについても当該債権の弁済期到来前であっても、甲はいつでも当該債権を乙に対する債務と対当額で相殺することができる。

「債権譲渡禁止特約」を付けておく

「相殺」を行うためには、お互いに対立する債権を有していなければなりません。

しかし、取引先が自社に対する債権(自社にとっての債務)を第三者に譲渡してしまうと「相殺適状」を満足しなくなるので「相殺」ができなくなってしまいます。

これを防ぐために「債権譲渡禁止特約」を付けておくことが有効となります。

ポイント3:「相殺」の意思表示は内容証明郵便で行う

「一方の当事者からの意思表示」によって「相殺」を行う場合には、相手方にお互いの債権の種類や発生年月日、金額などを記載した書面を内容証明郵便で送付します。

もちろん口頭で行ってもかまいませんが、後々のトラブルを防止するためにも証拠として残る形で行うことが重要です。

ポイント4:弁済日の延長はしない

売掛金の支払い期日までに支払いがされない場合は「弁済期が到来した」ことになり「相殺適状」の要件を満たしますが、支払いを猶予して延長した場合は、延長された弁済期が到来するまでは「相殺適状」とはなりません。

「相殺」による資金回収のためには、弁済日の延長はしない方が良いでしょう。

「相殺」を利用することによって債権の回収ができる!

この記事では、取引先に未払いの売掛金が発生した際に、「相殺」という手続きによって、債権の回収ができることを説明しました。

特に資金力の乏しい中小企業においては、取引先が経営難になったり、倒産したりで、売掛金(債権)が回収できなくなることは絶対に避けなければなりません。

万一の場合に備えて「相殺」を利用した債権回収についても契約の段階から考えておく必要があります。

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