嫌がらせやご近所トラブルを解決するのに最も強力な手段は民事裁判です。大ごとにせず解決したいと思う人がほとんどでしょうが、人間同士の問題であるためにこじれやすく、解決するには第三者を挟んでの法的手続きをとるしかなくなることは、残念ながら少なくありません。

とはいえ裁判なんてどう起こせばいいのか、相手を訴えるために何が必要かなど、わからない人の方が多いことでしょう。

この記事では、嫌がらせの相手を民事裁判で訴える方法と、そのために必要なこと、準備などについて解説します。他の解決法を取る際にも役に立つことも多いので、民事裁判を考えていない人も参考にしてください。

「嫌がらせ被害」の民事裁判とは?刑事裁判との違い

刑事裁判: 犯罪をはたらいた人の有罪・無罪や刑罰を決める裁判
殺人、傷害、窃盗、器物損壊、住居侵入、信用毀損など刑法に触れる事件を扱う
民事裁判: 当事者同士のトラブルの損害賠償や慰謝料を決める裁判
刑法に触れないものも含め、多くの事件やトラブルを扱う

嫌がらせ行為には刑法に触れるものも多いため、刑事裁判で犯人を裁いてもらうことももちろん可能です。しかしそのほとんどは軽犯罪であるため罰金刑で済むことも多く、必ずしも嫌がらせをやめさせる効果があるとはいえません。

嫌がらせで受けた被害を犯人に損害賠償や慰謝料という形で補填させ、かつ嫌がらせを確実にやめさせるためには、示談か民事裁判が効果的です。そして民事裁判で勝訴すれば、強い法的執行力を行使できます。

もし刑事裁判や示談など、他の方法による解決をお考えであれば、ぜひ以下の記事を参考にしてください。

嫌がらせの犯人を民事裁判で訴えるための条件

民事裁判というのは、相手の不法行為を証明してその賠償をさせるためのものです。そのためまずは、相手の不法行為を証明しなくてはなりません。

不法行為(一般不法行為)
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

この文から不法行為を成立させる要点を挙げると、

  • 犯人の故意・または過失による行為に基づくこと
  • 権利または法律上保護される利益を侵害したこと
  • その行為によって予見可能な損害が生じたこと
  • 不法行為を犯した者に責任能力があること

となります。

嫌がらせは故意に行われるものですし、何かを所有したり普通の社会生活を送ったりする権利を侵害します。よって嫌がらせによって生じた損害は、民事裁判でその賠償を請求できるのです。

損害賠償として請求できるもの

民事事件において、不法行為の損害賠償は基本的に賠償金の形で請求されます(参考:e-Gov民法第四百十七条)。精神的な被害に対する賠償金は慰謝料と呼ばれ、これも民事裁判で請求可能です(参考:e-Gov民法第七百十条)

賠償金: 加害者が不法行為により被害者に与えた損害を補償するためのお金
慰謝料: 精神的な損害に対する賠償金
名誉毀損における原状回復: 名誉棄損による不利益を回復すること

おそらく3つ目の「名誉毀損における原状回復」という言葉は、ほとんどの人が聞いたこともないのではないでしょうか。

これは例えば、悪いうわさを流されたために近隣での評判が落ちた場合などに適用されます。こういった場合は賠償金で償えるものではないため、その噂が根も葉もない嘘であることなどを広めて、被害者の名誉を回復する義務が犯人に課せられるのです。(参考:e-Gov民法第七百二十三条)

基本的な損害賠償に必要なこと

相手(犯人)の特定: 賠償責任を負う人物の住所・氏名など
損害に関する内容の特定: いつ、どこで、何をどうされたのかという詳細な被害の情報
犯人と損害を特定する証拠: 犯行現場の写真や言質(録音)、指紋・声紋鑑定など

どれも裁判を起こす場合はもちろん、その他のどんな方法で嫌がらせを解決する場合にも必要なことばかりです。これらを基に訴状を作成し、裁判所に提出します。

しかし、嫌がらせの捜査を警察がしてくれることは稀です。よって犯人の特定も証拠集めも、すべて自分でしなくてはなりませんが、素人が裁判で使える証拠を集めることはまず無理です。

そのため、できるだけ早いうちに証拠集めは探偵に依頼し、訴訟の際には弁護士に依頼してください。

精神的被害の慰謝料を請求する場合

賠償金のうち、精神的苦痛に対して支払われるものが慰謝料です。

苦痛に対する適切な慰謝料を請求するには、上で述べた3点に加え、嫌がらせによる精神的被害を証明する必要があります。嫌がらせに関するものでは、次のようなパターンが考えられます。

  • 嫌がらせよって鬱にかかった
  • 嫌がらせに怯えるあまり幻聴・幻覚が生じた
  • 騒音・悪臭などにより頭痛・吐き気・めまいなどが生じた
  • 嫌がらせの電話で眠れない
  • 脅迫を受けて心身の不安にかられる
  • 嫌がらせによる体調不良などで休職・退職に至った
精神的被害の証明となるもの

医師の診断書: 鬱、頭痛、吐き気、不眠などの健康被害の証明
騒音・臭気などの測定結果: 症状と嫌がらせとの因果関係の証明

物理的被害の証拠があれば、それによる精神的被害もほぼ自動的に認められますが、診断書や測定結果があるかないかでは、慰謝料の金額に大きな差が生じます。苦痛の程度が大きいと裁判で認められるために、その証拠が必要となるのです。

騒音や臭気などを測定するには専門的な機材が必要となるので、探偵や専門業者に相談してください。

「嫌がらせ被害の訴え」民事裁判の手続きと判決までの流れ

さて、どういった場合に民事裁判を起こせるのかはわかっていただけたことと思います。次は、民事裁判の具体的な手続きと流れについて説明します。

参考:裁判所「民事訴訟」

訴状提出

民事裁判は、原告と被告の間に裁判所が立って双方の言い分を聞き、証拠などを調べたうえで判決を下します。

原告: 訴えた側。嫌がらせの被害者がこれにあたる。
被告: 訴えられた側。嫌がらせの加害者(犯人)がこれにあたる。

民事裁判を起こすには、まず原告が裁判所に訴える内容をまとめた訴状を提出します。こうして訴えを起こすことを提訴といいます。

訴状は弁護士に依頼して作成するのが普通です。嫌がらせは案件によって効果的な対応が変わってくるため、一般人が弁護士なしで裁判を戦うことははっきり言って無茶です。

訴状の内容

  • 原告と被告の住所・氏名
  • 請求の趣旨(原告に求める損害賠償の内容)
  • 紛争の原因(嫌がらせの内容など)

裁判所は訴状を受理して審査。不備がなければ10日以内に訴状を送付し、第1回口頭弁論(裁判所で争う最初の日)の期日を決めます。

第1回口頭弁論

第1回口頭弁論で、原告は被告側の提出した答弁書を受け取ります。答弁書とは、原告側の訴状に対する被告側の反論・意見などをまとめたものです。

つまり第1回口頭弁論にて、お互いの言い分がそろい、裁判官がその内容をお互いに確認します。第1回は原告・被告共に本人が出廷することが多いです。

第2回以降の審理・証拠

審理とは、お互いの言い分から事実を調べて明らかにすることです。

第1回口頭弁論でお互いの主張する内容に食い違いがなく、そのまま結審する場合もありますが、そうでなければ続けて審理が行われます。第2回以降は、原告と被告は出席せず、双方の代理人である弁護士に任せることも多いです。

この過程で証拠の提出や証人の取り調べ(尋問)なども行われ、裁判所はそれをもとに判決を下すこととなります。裁判所が判決の材料にするのはあくまで真実です。そのためそれを裏付ける証拠・証人は極めて重要となります。

示談や刑事裁判でももちろんですが、証拠が不十分であれば敗訴する可能性は高いです。勝訴を望むなら、プロの探偵に依頼し、確実な証拠をそろえましょう。

判決

裁判官が事実を調べ尽くしたと判断すれば、最終弁論(最終口頭弁論期日)で双方の弁護士が最後に主張を述べ、結審となります。

その約2週間後に判決が確定。

  • 不法行為と認められる嫌がらせがあったか
  • 損害賠償の金額・内容・支払期日
  • その他、禁止行為についてなど

これらが原告・被告に言い渡され、双方がそれに従うか、判決に不満があれば控訴・上告をして再び裁判で戦うかという選択ができます。

また判決が出る前に和解する場合も多いです。和解は早期解決や関係を悪化させずに済むなどのメリットがあります。また日本人の気質にも合っているため、裁判の途中で和解を選ぶ人は少なくありません。

判決の強制力(強制執行)

嫌がらせに限らずですが、民事裁判でトラブルを解決する最大のメリットは、裁判所による強制執行が行えることです。これによって、賠償金をとりはぐれることがなくなり、かつプロの執行官が取り立てを行ってくれます。

これについては、次の項で詳しく説明します。

裁判で勝訴すれば嫌がらせの賠償を強制できる

嫌がらせの犯人を訴え、勝訴して賠償金の支払い命令が下された場合、相手がその判決に従わなければ強制執行を行うことができます。(参考:e-Gov民事執行法第二十二条)

強制執行とは?

強制執行とは、国が強制力を発動し、債権者の請求を実現することです。債権者というのは嫌がらせ案件で言えば被害者にあたる原告のことで、原告が決まった手続きを踏めば、裁判所は原告に賠償金が判決通りに支払われるように、財産の差し押さえなどをすることができます。

差し押さえできるもの

これらを合法的に差し押さえられること、しかも自分で取り立てなくていいという点が民事裁判で勝訴する最大のメリットです。

強制執行の手続き

強制執行を申し立てるには、必要な書類を裁判所に提出する必要があります。

申立書: こちらよりダウンロード可能
判決正本: 判決後に当事者に送達される書類
送達証明: 判決正本が相手に送達されたことを証明する書類
こちらより申請書はダウンロード可能)
委任状: 弁護士やその他の代理人に依頼する場合
執行場所略図: 強制執行で取り立てる財産の所在地の地図
当事者目録・債務名義の表示 こちらの書類。こちらも参照

何を差し押さえるかによって書類の内容は変わってくるため、書類の作成を含め手続きについては、弁護士に依頼することをお勧めします。

強制執行の問題点

執行官による強制執行が可能なのが民事裁判で決着をつけることの最大のメリットといいましたが、実は強制執行には大きな問題点があります。

まず、相手が賠償額に相当する財産を持っていない場合、たとえプロの執行官でも取り立てようがありません。ないものを差し押さえはできないのです。

相手に全く財産がないというパターンは稀ですが、相手が財産を隠すことは充分にあり得ます。その場合も、強制執行の申し立てはできません。また裁判所などが相手の財産を調べてくれることもありません。相手が差し押さえできるような財産を持っているかどうかは、自分で調べるしかないのです。

ここでもまた、相手の調査が大きな意味をもってきます。

民事裁判で勝訴してもすべてが解決するわけではなく、相手に嫌がらせをやめさせ損害賠償をさせることが、嫌がらせ案件の本当の解決です。

嫌がらせの解決は民事裁判と示談どちらがいい?

民事裁判は民事での解決法のうち最後の手段です。判決内容はいわば裁判所に保証されているため、法の力で強制的に従わせることもできます。

しかしここまで読んで、慰謝料の金額について全く触れられていないことに気づいた人もいるのではないでしょうか。物質的な損害賠償は市場価格から妥当な金額が出せますが、苦痛の大きさで決まる慰謝料は、裁判官がどうとらえるかで大きく変わってきます。

嫌がらせ案件は、期間や被害の程度から算定できる離婚や暴力事件とは違い、慰謝料の相場がはっきりしていません。なぜなら嫌がらせのパターンは無数にあるからです。しかも裁判官のとらえ方で決まるため、弁護士の能力だけでなく相性なども慰謝料の算定に関わってきます。

どれだけの慰謝料がとれるかわからないのであれば、費用も労力も時間もかかる民事裁判は最良の方法といえるでしょうか。

民事での解決法には、示談もあります。示談は主に弁護士を挟んで当事者同士で話し合い、解決する方法です。こちらも相手に罪を認めさせ、嫌がらせをやめさせるだけの証拠などが必要ですが、民事裁判に比べればはるかに楽です。

示談のメリット

  • 費用・労力・時間があまりかからない
  • 示談書を公正証書化すれば法的拘束力を持つ
  • 裁判にしないことを条件に相手に慰謝料などを請求できる
  • 後に裁判に発展した場合にも有利

被害の大きさなどによるため、一概に裁判と示談のどちらがいいとは言えません。しかし民事裁判はあくまで最終手段とし、まずは示談での解決を図る方がベターです。

嫌がらせの法的な解決はまず探偵と弁護士に相談

嫌がらせを解決する方法はいくつかありますが、示談や裁判など法的な手段をとるのであれば、まずは探偵と弁護士に相談してください。

示談や裁判で効果のある証拠を集めるのは、素人にはまず無理です。調査のプロである探偵なら、依頼者の望む解決法に合わせて適切な証拠を集めることはもちろん、どんな対策が相手に効果的かまで調べることができます。

そして弁護士は言わずもがな。交渉と法的手段のスペシャリストです。これほど心強い味方はいないでしょう。