【投稿日】 2022年3月30日 【最終更新日】 2022年4月4日
EBOとはM&Aの手法の一つで、「Employee Buyout(エンプロイー・バイアウト)」の略語です。
この記事では、EBOとはどのようなものか、EBOのメリットとデメリット、EBOの具体的な実施手順、近年の代表的なEBO事例などについて詳しく解説します。
SAT探偵事務所 京都本部の代表取締役社長。
浮気調査や人探しといった個人向けのメジャーな調査はもちろん、他所では受任できない難度の企業向けの調査(信用調査、与信調査、M&A時等におけるDD 等)や経営コンサルティング業務にも従事している。
EBOとは?どのようなものなの?
EBOとは、企業の従業員が既存株主から自社の株式を買い取って経営権を取得したり、自社の事業の一部を買収したりして独立することを指しますが、特に中小企業における事業承継などにおいては、従来からこのEBOが用いられています。
通常のM&Aの場合は買取り側の企業が主体的に動いてM&Aを進めますが、事業承継の場合のEBOでは、買い取られる側の中小企業のオーナーが主体的に動いてEBOを進めることが特徴です。
企業としての戦力を保ちながら世代交代を図ることができ、従業員からの反発を受けにくいという特徴があり、企業の体質改善と事業承継を円滑に行えるというメリットがあります。
なお、従業員だけでは購入資金が不足することがあるため、金融機関や投資ファンドなどの第三者と組んでEBOが行われることもあります。
MBOとの違い
MBOは「Management Buyout(マネジメント・バイアウト)」の略語で、企業の経営陣が既存株主から株式を買い取って経営権を取得するものです。
EBOと同様にM&Aの手法の一つですが、EBOとMBOの違いは株式を買い取る者が従業員か経営陣かという点です。
EBOは前述のように従業員が自社の株式を買い取りますが、MBOの場合は経営陣が買い取ります。
LBOとの違い
LBOは「Leveraged Buyout(レバレッジド・バイアウト)」の略語で、直訳すると「てこを利用した買収」ということになり、これもM&A手法の一つです。
LBOを利用すれば、買収対象企業の資本や収益力などを担保として、少ない資金で大きな資本を持った企業を買収することが可能となります。
EBOとLBOの違いは、株式を買い取る者が自社の従業員か社外の第三者かという点です。
EBOは前項のように従業員が自社の株式を買い取るものですが、LBOの場合は社外の第三者が買い取ります。
EBOのメリット・デメリット
ここでは、EBOのメリットとデメリットについて紹介します。
EBOのメリット
まず、EBOのメリットについて4点紹介します。
メリット1:スムーズに事業承継を行うことができる
EBOのメリットの1つ目は、スムーズに事業承継を行うことができるということです。
中小企業などにおいて、オーナー経営者の親族に後継者がいない場合は廃業せざるを得ないケースが少なくありません。
または、第三者への売却などによって事業を引き継ぐこともありますが、売却価格で折り合いがつかなかったり、第三者による経営に不安を感じた従業員が退職して企業としての戦力が失われたり、既存の取引先との取引が打ち切られたりというリスクも考えられます。
しかしこのEBOを利用すれば、経営能力や性格などがよく分かった従業員を自社の後継者にすることができ、安心して事業を引き継ぐことができます。
EBOによる事業承継であれば、経営権の譲渡だけで済みますので、会社の環境を大きく変えることなくスムーズに事業承継を行うことができるのです。
メリット2:社内環境を維持できる
EBOのメリットの2つ目は、社内環境を維持できることです。
M&Aによって第三者に事業承継を行う場合は、社内環境が大きく変化する可能性があります。
その場合、新しい環境になじめない従業員が退職するなど優秀な人材の流出を招いてしまうことなどが考えられます。
しかし、EBOでは社内事情に詳しい従業員が経営者になるため、社内環境が大きく変わる可能性は低く、従来の社内環境を維持しながら経営を続けることが可能となります。
メリット3:速やかな意思決定ができるようになる
EBOのメリットの3つ目は、速やかな意思決定ができるようになることです。
EBOを行う場合は、従業員への事業承継と同時に株式を非公開にするケースが一般的です。
株式を非公開にすることによって、他社からの買収を防ぐことができますし、会社の運営や意思決定が株主によって制約されることがなくなるため、会社として速やかな意思決定ができるようになります。
例えば、EBOによってこれまでの経営方針を一新するようなことができるようになります。
EBOのデメリット
次に、EBOのデメリットを3点紹介します。
デメリット1:多額の資金調達が必要となる
EBOのデメリットの1つ目は、多額の資金調達が必要となることです。
EBOを行う際に、買い手となる従業員には会社の株式を買い取るために多額の資金が必要となります。
特に会社の規模が大きくなると、発行済株式の数も増えるため自己資金だけでは賄えなくなりますので、金融機関などから融資を受けなければなりません。
しかし、会社の株式を購入するという目的での融資の場合は審査が厳しいと言われていますし、従業員の経営能力や資金の裏付けの有無などが論点となり十分な額の融資を受けられないことになる可能性もあります。
万一必要な資金調達ができなかった場合は、当然ながらEBOを実行することができなくなってしまいます。
デメリット2:会社の体質が変化しづらい
EBOのデメリットの2つ目は、会社の体質が変化しづらくなることです。
EBOによって事業承継をする場合、社内事情に通じた従業員が経営者となるため社内環境が大きく変わらないというメリットがあるのですが、逆に言うと、社内環境や体質が変化しづらくなるということを意味しています。
近年では少子高齢化の進展などの社会の変化に速やかに対応することが求められていますので、これがデメリットとなって会社の成長が阻害されるケースも考えられます。
デメリット3:従業員間で反対が起こることがある
EBOのデメリットの3つ目は、従業員間で反対が起こることがあることです。
ある1人の従業員が新しい経営陣となるため、なぜあの人が経営を引き継ぐのかという不信感から反対が起こる可能性があります。
また、反対する従業員が離職したりする可能性がありますし、離職に至らない場合でも社内に経営陣に対する反発が生まれる可能性もあります。
EBOの具体的な実施手順
ここでは、EBOの具体的な実施手順について説明します。
親族に後継者がいない中小企業オーナーが従業員に事業承継をする場合を例に説明します。
手順1:譲渡する従業員を選定する
EBOで事業承継する際は、まず株式を譲渡する従業員を選定する必要があります。
譲渡する従業員の条件としては、優秀であることや業務における実績があることはもちろんですが、会社経営を任せることができる人物であり、他の多くの従業員から信頼されている人物であることが重要となります。
また、本人に株式の取得の意思があり、会社経営に意欲を持っているかという点も大切です。
いずれにしても、リーダーシップを発揮して会社を継続的に運営して発展させることができるような人物かどうかを見極める必要があります。
手順2:株主構成をリストアップする
次に、自社の株主構成をリストアップします。
一般的に複数の株主で構成されていることが多いため、EBOを行う際には、各株主がどれだけの株式を保有しているかを明確にしておく必要があります。
相続などによって保有者の名義が変わっている場合なども考えられますので、最新の情報をもとに、株主の氏名や住所、保有株数をリストアップして正確に把握しておくことが大切です。
手順3:株式評価を行う
株主構成が把握できたら、株式の譲渡価格を決めるための根拠となる株式評価を行います。
客観的な株式評価が必要ですので、企業価値の評価に関する知識や経験のある公認会計士や税理士などの専門家に依頼して行いましょう。
その後、この株式評価結果をもとに株式の譲渡価格を決めます。
手順4:株式の譲渡交渉を進める
株式評価の結果をもとに株主と譲渡交渉を進めていきますが、それぞれの株主と個別に行うことが基本です。
交渉ごとになりますので、必ずしもスムーズに進むとは限りません。
一番もめる原因として考えられるのが売却価格ですが、公認会計士や税理士などの専門家の格式評価に基づいた売却価格であることを丁寧に説明して納得してもらう必要があります。
株主の中には売却価格に差があり自分が一番条件が悪いのではないかと疑って、交渉が進まないケースが出てきますので、このような場合は、株主全員に集まってもらい売却価格などが同一条件であることなどを明確にして交渉することも考えられます。
いずれにしても、公平性を保った丁寧な交渉を行うことが大切となります。
手順5:株式譲渡の手続きを行う
株主との譲渡交渉が進んで合意が得られると、株式譲渡の手続きを行います。
中小企業などで非上場株式の場合は譲渡制限が設けられていることがありますので、その場合は取締役会での承認が必要となるなど、状況に合わせた対応が必要となります。
また、株券を発行している場合は、合意時に株券が必要になりますが、株券を紛失している場合は再発行の手続きをしなければなりません。
実際に国内外で行われたEBO事例
ここでは、近年国内外で実際に行われたLBOの事例を3件紹介します。
事例1:ラクオリア創薬
「ラクオリア創薬株式会社」は、2008年にEBOによって事業を開始した創薬開発型バイオベンチャーで、その3年後に大阪証券取引所JASDAQ市場に株式上場しました。
元々米国「ファイザー」の日本法人の中央研究所で、疼痛や消化器疾患などの創薬研究を行っていましたが、2007年に研究所の閉鎖が決定したことに対して、当時の所長や従業員がEBOによる独立と創薬事業の継続を提案しました。
米国「ファイザー」本社は、閉鎖に伴う混乱や雇用不安を避けるために中央研究所の独立を認めたという経緯があります。
「ラクオリア創薬」は研究開発に特化しており、創薬研究により革新的な開発化合物(新薬の種)を創出して、それを製薬企業にライセンスアウトすることによって収益を上げるというビジネスモデルの会社です。
事例2:ユニゾホールディングス
2020年4月に、不動産会社「ユニゾホールディングス」は、一部の従業員と米国投資ファンド「ローン・スター」によるEBOが成立したと発表しました。
一部の従業員と「ローン・スター」が出資して設立した「チトセア投資」がTOBによって「ユニゾホールディングス」の株式を取得したもので、上場企業によるEBOの成立は前例がなかったため、大きな注目が集まりました。
2019年7月に大手旅行会社の「エイチ・アイ・エス」が敵対的買収を仕掛けたことから始まり、9か月間で株価は当初の3倍の6,000円まで上昇しました。
エイチ・アイ・エスに経営権を渡したくないと考えた経営陣が、「ソフトバンクグループ」の米国の投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」に支援を求めましたが、その後対立し、米投資会社「ブラックストーン・グループ」の参戦も経て、最終的にはEBOで決着したものです。
事例3:シックス・アパート
「シックス・アパート株式会社」は、003年12月に米国「Six Apart, Ltd.社」の100%子会社として設立され、2011年1月に米国「Six Apart, Ltd.社」からMovable Typeに関するすべての権利とSix Apartブランドの譲渡を受け、2011年2月に「インフォコム株式会社」のグループ企業となっていました。
2016年6月、「シックス・アパート株式会社」の経営陣と従業員によって設立された「シックス・アパート・ホールディングス株式会社」は、EBOにより親会社の「インフォコム株式会社」から全株式を取得し、2016年7月に独立して新体制で再スタートしました。
EBOの目的は「経営・組織のスリム化」と「より迅速な意思決定と製品開発」によって、「ソフトウェア版・クラウド版Movable Type の成長の促進」と「ウェブサービス型CMSのMovableType.net の機能強化や海外展開」を進めていくことでした。
前述のように、もともと米国企業だった「Six Apart」ですが、現在では日本の「シックス・アパート株式会社」によって主力事業が行われています。
EBOを活用すれば後継者がいなくても事業承継をすることが可能!
EBOとは何か、EBOの主なメリットやデメリット、EBOの具体的な実施手順、近年の代表的なEBO事例などについて解説してきました。
M&Aの手法の一つと位置付けられるEBOですが、EBOを活用すれば、従業員が既存株主から株式を譲渡することによって、後継者がいない場合でも自社の存続が可能になります。
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